近年、「患者さん本人」に対して、がんの告知をするのが一般的になってきました。
しかしなかには、最初から本人に対して告知するのではなく、まずは家族に対して知らせるというケースもあります。
自分の家族ががんであることを突然知らされたら、ほとんどの人は大きなショックを受けるでしょう。
しかし、ここから患者さんと家族の、がんとの闘いが始まります。
すでに本人への病名告知がなされている場合は、今後どうするかについて本人と家族が一緒に医師の説明を聞き、治療法を選択することができます。
しかし、本人への告知がない場合は問題です。
家族だけが病名を知っている状態では、本人に対して秘密をもつことになってしまいます。
それによって態度がいつもと違ったり、関係がギクシャクしたりしては困ります。
とはいえ、告知をどうするかはむずかしい問題です。
患者さんの性格や病状にもよりますが、いずれ告知する方向でいくのか、絶対に告知せず、本人には病名を隠しとおすのか。
まずはどちらかに方針を定め、医師とよく打ち合わせておく必要があります。
がんになった家族との接し方
告知を受けているかどうかに関わらず、病気のせいで体調が思わしくない患者さんの精神状態はとても不安定です。
そのためにイライラしたり、苦痛を訴えたり、そばで見ていてハラハラするようなことがよく起こります。
だからといって、まわりにいる家族が患者さんに対して腫れ物にでもさわるかのように接するのは問題です。
かえって患者さんは神経をとがらせて、家族に不信の念を抱くかもしれません。
また、会話のなかでうっかり病名をもらしたり、患者さんを傷つける発言をしてしまうのを恐れるあまり、患者さんとの会話を避けるのもよくありません。
話さないのも、話しかけすぎるのも不自然です。
安易に励ますより受け止めること
親しい人に弱音を吐かれると、つい「そんなこといわないで、がんばって! 」などと声をかけてしまう人も多いのではないでしょうか。
一般的には心強く思われる明るい励ましの声ですが、病気と闘っている患者さんの胸には、少し違って響くことがあるようです。
ときには、「もうすでにがんばっているのに、これ以上どうすればいいの!」と、患者さんを追い詰めてしまうこともあります。
安易な励ましは、かえって無神経に聞こえることがあるので注意しましょう。
家族に求められる闘病中の役割とは
告知や治療方針が決定したら、家族は次のような役割を意識して接するようにします。
・患者さんの苦痛を受け止め、ときには共感し、一緒に泣く役割
・治療方針や治療費などについて客観的な相談相手としての役割
・不安に襲われたり混乱したりしたとき、心の整理や、考え方の修正(一方向に片寄った考えを修正する)を手伝う役割
・職場や知人などへの必要な連絡を代行し、周囲の好奇心やせんさくから患者さんを守る役割
・家族のなかでは誰か1人がキーパーソンとなって役割分担するのがよいでしょう。同じことを別の人が何度も言ってしまうことを防げます。
家族内のがん患者を支えるために必要なこと
家族ががんだと知らされたとき、一般的にどんな心理状態になるのでしょうか。
たとえば、告知を受けたばかりのころは、まず動揺し、気持ちの変動が激しく、絶望したり、無力感にさいなまれたりすることが多いです。
心の動揺が態度にあらわれて家族関係がギクシャクすることもあります。
あるいは、こうした変化の一方で、がんに関する知識や情報の収集に奔走し、最新治療から民間療法まで、少しでもがんによいといわれる情報を集めようとします。
家族を救いたい一心からであることはわかります。
しかし、それが高じると主治医の治療方針に意見をさしはさむなどして、主治医との関係をこじらせてしまうケースもあります。
告知されたことでショックを受けたとはいえ、家族関係や主治医との関係が悪くなるようでは困るので、できるだけすみやかに動揺した心の状態を立て直す必要があります。
心の状態を立て直していくことができれば理想的です。
心の状態を立て直すのは、1人ではむずかしいかもしれません。このようなときは、誰か第三者の助けを借りるのもよいでしょう。
今起きている現実を人に話すだけでも、心が落ち着いて冷静さを取り戻せることがあります。
信頼のおける友人に打ち明けることができればよいのですが、そうした友人がいない場合は、患者さんが入院または通院している病院の心理カウンセラーや相談窓口などに相談するのも方法です。
「家族ががんになったが、どう受け止めたらいいか」「自分には何ができるだろうか」などという質問と一緒に、患者さんに対する具体的な接し方などのアドバイスを受けるのもよいでしょう。
がん患者さんの家族としての医師・看護師との関わり方
医療を提供してくれる医師や看護師をはじめとする医療スタッフは、闘病中の患者さんや家族にとって大きな存在です。
信頼できる医療スタッフに、安心してケアをまかせたいと考えるのは当然といえます。
そのためには、医療スタッフとの意思の疎通をスムーズにして、良好な人間関係を保てるように配慮しなければなりません。
ちょっとした会話の行き違いで気まずくなったりしないよう、医師や看護師に何かを尋ねる場合は、次のような点に注意しましょう。
1つめは、前もって話をする時間をつくってもらうこと。
忙しい時間に割り込んで話しかけても納得のいく回答は得られません。
2つめは、話の導入部で相手への感謝と信頼を伝えること。
「医療スタッフの方にはいつもよくやっていただき、感謝しています。そのうえでこんな疑問や不安があるのですが・・・」といった切り出し方で、ていねいな話し方を心がけます。
こかまいことですが、会話は口調1つで印象が変わります。
そして3つめは、伝えたいことを要領よく話すことです。
事前に伝えたいことを整理し、メモにまとめておくとよいでしょう。
治療に関することは率直に相談
現代医療はインフォームド・コンセント(説明と同意)が基本なので、治療の段階ごとに、尋ねなくてもある程度の説明が行なわれるはずです。
それでもなお疑問があるのなら、率直に尋ねてかまいません。疑問を残したままでいるほうが、かえってわだかまりが残ります。
病院内での生活や介護に関することや、日常的な医療処置の説明程度なら看護師に、病状や治療方針などの詳しい医学的な話が聞きたいときは医師に尋ねるとよいでしょう。
医師が多忙でどうしても直接聞けない場合には、看護師に相談してもかまいません。
退院はいつごろか、病気が進行したのではないか、痛みや不快な症状でつらそうなのを見ていられないがどうすればいいか、民間療法を試してみてもいいだろうか・・・。こうした疑問点も、医師や看護師に率直に話してみましょう。
とくに民間療法の種類によっては、医師の許可なく始めると、治療の妨げとなったり、心証を害する可能性があります。
がん患者さんの家族にとって看護師は身近な存在
看護師は、闘病中の患者さんの日常生活全般についてケアしてくれるので、医師よりも身近で話しやすい存在でしょう。
入院中のわからないことを聞いたり、介護のしかたをアドバイスしてもらったりして、家族も看護師とうまくコミュニケーションがとれているのが理想です。
看護師は、患者さんの具体的な看護についてだけでなく、家族が悩んでいるさまざまな問題についても、耳を傾けてくれます。
患者さんと家族を1つの単位とした精神的ケアも、がん医療に含まれる大きな要素だからです。
患者さんと家族の関係がうまくいかないときや、告知の問題で悩んだときなど、困ったことがあれば、ひとまず看護師に相談してみてみましょう。
看護婦との付き合い方
看護師の数は医師よりもずっと多く、1人の患者さんを複数の看護師が担当します。
看護師の勤務は2交代または3交代制なので、家族が面会に行ったとき、いつでも同じ看護師に会えるとは限りません。
そのため、ある看護師に伝えたことがほかの看護師にも伝わっているかどうか、家族は心配になるかもしれません。
しかし、ふつうは看護チームごとに看護記録をつけているので、そのような心配は無用です。
ときどき、「一般の看護師では話にならない。看護師長か主任を呼んでほしい」などという患者さんや家族もみられますが、通常、看護の責任者を呼ぶのは、退院や転院、病室やベッドの変更、病状や治療の説明などで重要な話をするときです。
日常的な世話に関することや症状への対処など、当日に処理できる問題なら当日の担当看護師に話すのがベストです。