がんになれば、誰でも不安を感じるものです。
不安が強くなると、痛みが増幅したり、眠れなくなったり、嘔吐などの症状が現れたりします。
また、医療者の説明が理解できないなど治療に支障をきたすこともあるので、早めの対応が必要です。
具体的に生じる不安障害としては、
・適応障害(重度の神経質や心配、いらだちなど)
・パニック障害(動悸、めまい、震え、発汗などの発作が発生)
・強迫性障害(特定の行為を何度も繰り返したり、特定の思考やイメージにとらわれる)
・PTSD<心的外傷後ストレス障害]>(命にかかわる出来事を経験したことがあり、その卜ラウマが再び現れる)
・恐怖症(特定の状況や対象に対し恐怖感や回避行動が持続して現れる)
などがあります。
これらの症状が、腫瘍や薬剤の副作用、痛みなどによって起こる場合にはその原因を治療します。
また、心理療法や家族療法、自助グループへの参加などによって、不安を軽減できる可能性もあります。
増えるがん患者さんのうつ病。うつ病の症状とは?
がん患者さんのうち、15~25%はうつ病を発症するといわれます。
うつ病は患者から気力を奪い、治療を持続させるのが難しくなる場合もあるため、予防や早期の発見が大切です。
うつ病は、インフォームド・コンセント(医師による病状や治療手段の説明)が不適切であったとか、医療者との関係が良くない、がんや治療へのマイナスイメージ、機能障害による日常生活の支障、治療による副作用など、様々なことが原因で発症します。
また、うつ病の既往歴や薬物乱用の病歴、家族の支援の欠如などもリスクを高めます。
うつ病の診断基準は次の通りですが、たとえこの基準をすべて満たさなくても、当てはまる項目がいくつかある場合は早めに精神科の医師に相談しましょう。
発症した場合には、医療行為としては抗うつ剤などの薬物療法と、心理療法を組み合わせた治療が行われます。
うつ病の診断基準
- ほぼ毎日、憂うつな気分が続く。
- 何をしても喜びや興味の気持ちがわかない。
- 食欲がなくなる。
- 眠れなくなる、あるいは寝てばかりいるなど、睡眠に変化が生じる。
- イライラして落ち着かなくなる、あるいは逆に動作が緩慢になる。
- 疲労感を覚える。
- 集中力が低下する。
- 自分はダメな人間だと思い詰める。
- たえず死について考えてしまう。
(参考:アメリカ精神医学会による「うつ病の診断基準」)
1、2を必須症状とし、これらを含めて5項目以上が2週間以上続くとうつ病と診断されます。
がんの再発が不安でうつ状態などが強いときは
再発の不安を解消できず、うつ状態や不眠など心の病気が疑われるような症状が強まった場合には、精神神経科で治療を受けるのが医療的には第一歩となります。
心理療法としては、カウンセリングやグループ療法がよく用いられます。
カウンセリングでは、医師や臨床心理士などが、患者さんの不安や複雑な心境を聞きながら、精神的にサポートします。
また、グループ療法では、医師や臨床心理士のもとで同じ悩みをもつ人たちが話し合うことで、不安の解消、心の充実を図ります。
とくに治療を受けなくても、がん患者の会に参加したり、入院中に交流のあった人と会って近況などを語り合ったりするだけでも、同様の精神的効果が得られます。
がん患者さんのうつを治療する方法
がん患者さんは、たとえ家族や医療側の支援があっても、うつ状態におちいることがあります。
問題は、がん患者さんがうつにおちいっているかどうかを見分けることがときにはたいへん難しいことです。
うつの症状には、疲労感や倦怠感、食欲がない、よく眠れないなどの症状があります。
しかしがん患者さんはよく、がん治療の副作用としてこれらの症状を示すことがあります。
患者さんの体力が減退したり、体内のホルモンバランスがくずれるためにうつに似た症状を示すこともあるのです。
周囲がこうした症状を、がんなんだから当然だろうと見るようになると、患者さんがうつになっていても気づきません。
がん患者さんがうつなどの精神的問題を抱えたときには、専門家の支援が必要です。
患者さんや家族は、精神科医や臨床心理士に相談することを恥じたりためらう必要はありませんし、主治医に精神科医を紹介してもらうこともできます。
またがん拠点病院には相談支援センターがあるので、心の問題について誰に相談すればよいかアドバイスを得ることができるはずです。
(相談支援センターで相談するには、その病院の患者さんである必要はありません)
精神科医が患者を診察するときには、うつの症状ががんそのものによるものか、治療の副作用が原因か、あるいは患者の心理的ストレスによるものかを慎重に診察します。
がん治療に使用されるステロイド系の薬物やインターフェロンなどは、ときとしてうつ症状の原因となるからです。
このようなときには、がん治療をさまたげない範囲で薬の種類を変えたり投与量を減らすことも検討されます。
なお、主な医療行為としては、がん患者さんのうつに対しても、一般的なうつ病と同じく、抗うつ薬が効果を発揮します。
しかし、抗うつ薬に患者さんが反応するまでには3~6週間と時間がかかることが多いため、長い目で見守ることが重要になります。
なお古いタイプの抗うつ薬(モノアミン酸化酵素阻害薬)は食品を制限する必要があり、他の薬物との相互作用もあるので、がん患者さんにはほとんど使われません。
抗うつ薬だけでなく、睡眠導入効果のある抗不安薬(ベンゾジアゼピン系の薬)も併用されることがあります。
これはかなり短時間で効果が現れます。
うつから回復したときには、患者さんは自己判断で抗うつ薬の服用をやめず、必ず医師の指示に従って段階的に減らしていく必要があります。
脳や体はそれまで薬が体内に存在することに慣れているため、薬を突然やめると逆に症状が悪化するためです(離脱症状)。
がん患者さんはうつになりやすく、うつは助けが必要な病気であるということを、患者さん自身も家族も知ることが大切です。
がん患者さんの抑うつ症状を知るための質問
- 自分のがんにどの程度対処できていますか(うまく対処できているか、できていないか)
- 診断後や治療中の気分はどうですか(落ち込んでいるか、憂うつか)
- ときどき泣きますか/どのくらいの頻度で泣きますか/ひとりで泣きますか
- いまでも楽しんでできることがありますか、がんになる前には楽しんでいたことが楽しめなくなりましたか
- 未来がどのように見えますか(明るいか、暗いか)
- 治療に自分の意見が反映されていると感じますか、それとも治療は完全に他人の支配下にありますか
- がん治療期間中に家族または友人の重荷になっていると心配しますか
- あなたがいないほうが他の人はうまくやっていくと思いますか
- 抑えられていない痛みがありますか
- どのくらいの時間をベッドで過ごしますか
- 弱っていると感じますか/すぐに疲れますか/眠った後回復しますか/あなたの感じ方と、治療法の変化やそれ以外の何らかの身体的な感覚の間に何か関係がありますか
- 眠れますか/寝つきにくいですか/朝早く目が覚めますか/それらは頻繁ですか
- 食欲はどうですか/食事はおいしいですか/体重は増えていますか、減っていますか
- セックスに対する関心はどうですか/性的活動(性行為)の程度はどれくらいですか
- 考えたり動いたりするのが普段より遅くなっていますか