
前立腺がん治療後の食事で知っておくべき基本
こんにちは。がん治療専門アドバイザー、本村ユウジです。
前立腺がんの治療を受けた患者さんから「治療後の食事はどうすればよいですか」「何を食べたらいいですか」という質問を多くいただきます。
前立腺がん治療後の食事で最も重要なのは、選択した治療法によって起こりやすい合併症や副作用を軽減させる食事を意識することです。手術、放射線療法、ホルモン療法のどの治療を選択したかによって、食事の工夫の仕方も変わってきます。
また、治療後の食事では単に「がんによい食品」を探すのではなく、患者さん一人ひとりの治療内容と体の状態に合わせた食事を考えることが大切です。
手術後(前立腺全摘除術後)の食事で気をつけること
前立腺全摘除術を受けた患者さんの代表的な合併症は尿失禁です。手術後、約90~95%の患者さんは1年程度で尿失禁が改善しますが、回復期間中の食事の工夫が症状の軽減に役立ちます。
体重管理が尿失禁の改善に影響する理由
くしゃみをしたときや重いものを持ったときなど、腹部に圧力がかかると尿失禁が起こりやすくなります。腹部に余分な脂肪がつくと腹圧が膀胱にかかりやすくなり、尿失禁が増える傾向があることが分かっています。
国立がん研究センターの調査では、欧米型の食事パターン(肉類、加工肉、パン、果物ジュース、マヨネーズ、ソース、乳製品などを多く摂る食事)を続けている患者さんは前立腺がんのリスクが22%高くなることが示されています。
手術後の食事の実践ポイント
| 食事の目標 | 具体的な実践方法 |
|---|---|
| 高脂肪食を避ける | 揚げ物や脂身の多い肉類を控える。調理法は蒸す、煮る、焼くを中心に |
| 適正体重の維持 | 食事量を調整し、間食を控えめに。BMI25以下を目安とする |
| 水分摂取 | 1日1.5~2リットル程度の水分を摂取し、尿路感染症や便秘を予防 |
| 規則正しい食事 | 1日3食を決まった時間に摂り、体調管理を行う |
また、手術後の患者さんは飲酒について担当医と相談することが推奨されています。最初の外来受診までは飲酒を控え、その後の飲酒再開についても医師の指導を受けることが大切です。
放射線療法後の食事で気をつけること
放射線療法を受けた患者さんの場合、照射範囲に直腸が含まれるため、直腸の粘膜に刺激が加わることがあります。これにより直腸の伸展性が低下し、便秘や下痢を起こすことがあります。
放射線療法後に起こりやすい症状
放射線治療開始後3~4週間ころから、排尿時痛、頻尿、血尿などの膀胱症状や、下痢、排便回数の増加、直腸出血などの消化器症状が出現することがあります。多くの症状は治療終了後に回復しますが、半年~2年後に直腸出血が起こる場合もあります。
便通の状態に合わせた食事の工夫
| 症状 | 食事の工夫 | 具体的な食品例 |
|---|---|---|
| 便秘のとき | 食物繊維を多く含む食材を積極的に摂る | さつまいも、じゃがいも、ごぼう、海藻類、きのこ類、大豆製品 |
| 下痢のとき | 消化がよく刺激の少ない食事を選ぶ | 野菜スープ、味噌汁、おかゆ、うどん、白身魚、豆腐 |
| 直腸出血があるとき | 腸を刺激する食材を避ける | 香辛料、アルコール、カフェイン飲料(コーヒー、紅茶、緑茶)を控える |
便秘や下痢によって直腸出血が起こることもあるため、便通を整えることが重要です。下痢が続くときは、のどごしのよいものを多めに摂り、辛いものなど腸を刺激する食材は避けるようにします。
また、陰部を清潔に保ち、尿意をがまんしないこと、水分を十分に摂取すること(コップ6~8杯程度)も症状の軽減に役立ちます。
ホルモン療法後の食事で気をつけること
ホルモン療法(アンドロゲン除去療法)を受けている患者さんには、特有の副作用が現れます。男性ホルモンの分泌が抑えられることで、骨密度の低下や筋肉量の減少が起こるためです。
骨密度低下への対策
ホルモン療法を受けると骨密度が低下し、骨粗しょう症になりやすくなります。順天堂大学医学部附属順天堂医院の報告によると、ホルモン療法を開始した患者さんに対して早期から骨密度の評価を行い、骨粗しょう症対策を実施することが推奨されています。
骨折や腰痛などの症状が起きると生活の質が低下するため、カルシウムとビタミンDを適切に摂取することが必要です。
カルシウムとビタミンDの摂取目標
| 栄養素 | 1日の推奨量 | 主な食品例 |
|---|---|---|
| カルシウム | 700~800mg(骨粗しょう症予防) | 低脂肪牛乳、低脂肪ヨーグルト、小魚(煮干し、しらす)、小松菜、豆腐 |
| ビタミンD | 8.5μg(成人男性) | サケ、サバ、イワシ、サンマ、きくらげ、干ししいたけ |
| ビタミンK | 250~300μg(骨粗しょう症予防) | 納豆、ほうれん草、ブロッコリー、モロヘイヤ、海藻類 |
| マグネシウム | カルシウムの2分の1の量 | ナッツ類、大豆製品、海藻類、ごま |
ただし、カルシウムの過剰摂取は前立腺がんのリスクを高める可能性も指摘されています。国立がん研究センターの多目的コホート研究では、カルシウムや飽和脂肪酸の摂取量が増えると前立腺がんのリスクがやや上がることが示されています。
そのため、ホルモン療法を受けている患者さんは「骨折リスクを減らすために適切な量のカルシウムを摂取する」というバランスが重要になります。乳製品を摂る場合は低脂肪タイプを選び、飽和脂肪酸を避けながら必要な栄養を補給するとよいでしょう。
筋肉量の低下とカロリーコントロール
男性ホルモンの分泌が低下すると筋肉量が落ち、基礎代謝量が減少します。そのため、治療前と同じ量を食べていると太りやすくなります。
肥満は前立腺がんの進行や死亡率に影響することが複数の研究で報告されています。たとえば、BMIが30以上の患者さんは普通体重の患者さんより2倍も前立腺がん死のリスクが上がるというデータもあります。
適正体重を維持するために、カロリーコントロールと適度な運動を組み合わせることが推奨されます。レジスタンス運動(筋力運動)を週3回、12週間にわたって実施すると、患者さんの生活の質が向上し、倦怠感が軽減され、筋力が維持される効果があることが報告されています。
治療中・治療後に意識すべき食品
前立腺がんの治療を受けている患者さんや治療後の患者さんには、特定の食品が再発予防や進行抑制に役立つ可能性が研究で示されています。
積極的に摂りたい食品
| 食品 | 期待される効果 | 具体的な食材 |
|---|---|---|
| 大豆製品 | イソフラボンが前立腺がん細胞の増殖を抑制する可能性 | 豆腐、納豆、味噌、油揚げ、豆乳 |
| トマト | リコピンの抗酸化作用ががんの増殖や転移を抑制する可能性 | トマト、トマトジュース、スイカ |
| アブラナ科の野菜 | グルコシノレートが抗がん物質に変化する | ブロッコリー、カリフラワー、小松菜、キャベツ |
| 脂の多い魚 | オメガ3脂肪酸が前立腺がんの死亡率を低下させる可能性 | サケ、イワシ、サバ、ニシン |
| 緑茶 | カテキンががん細胞の増殖を抑える可能性 | 緑茶(ただし放射線療法後は控える) |
国立がん研究センターの調査では、大豆製品を多く食べることで限局性前立腺がんのリスクが低下することが分かっています。61歳以上で、みそ汁や豆腐などの摂取量が最も多いグループ(1日107g以上)は、最も少ないグループ(1日47g以下)の約半分のリスクでした。
また、トマトに含まれるリコピンは抗酸化作用が強く、前立腺がんの増殖や転移を抑制する可能性を示唆する報告があります。アブラナ科の野菜に含まれるグルコシノレートという成分は、体内で分解されてインドールやイソチオシアン酸などの抗がん作用を持つ物質になると考えられています。
避けるべき食品・控えめにすべき食品
前立腺がんの患者さんには、摂取を控えめにしたほうがよい食品もあります。
注意が必要な食品
| 食品分類 | 理由 | 具体例 |
|---|---|---|
| 高脂肪の乳製品 | 飽和脂肪酸が前立腺がんのリスクを上げる可能性 | 全脂肪の牛乳、クリーム、高脂肪チーズ |
| 加工肉 | 前立腺がんの発症リスク増加の可能性 | ソーセージ、ベーコン、サラミ、ハム |
| 赤身肉の過剰摂取 | 動物性脂肪が進行性前立腺がんのリスクを上げる可能性 | 牛肉、豚肉の脂身部分 |
| 卵の過剰摂取 | コリンが前立腺がんの悪化に関連する可能性 | 1日2個以上の卵 |
| アルコール | 過度の摂取が前立腺がんのリスクを高める可能性 | 日本酒、ビール、焼酎、ワイン |
乳製品については、前立腺がんのリスクになる反面、骨粗しょう症や高血圧、大腸がんなどを予防するため、一概に避けるべきとは言い切れません。乳製品を摂る場合は低脂肪タイプの製品を選び、低脂肪乳や低脂肪ヨーグルト、カッテージチーズやパルミジャーノなどを選択するとよいでしょう。
また、肉類も筋肉や臓器を健康に保つタンパク質が豊富なため、単純に食べなければよいというものではありません。食品の選び方や調理方法に注意することで、前立腺がんのリスク上昇を避けられる可能性があります。脂肪分の摂取は植物性のオリーブオイルやナッツ類から摂るように工夫するとよいでしょう。
健康型の食事パターンを目指す
前立腺がんの患者さんにとって、特定の食品だけに注目するのではなく、食事全体のパターンを改善することが重要です。
国立がん研究センターの多目的コホート研究では、健康型食事パターン(野菜、果物、いも類、大豆食品、きのこ類、海藻類、緑茶、脂の多い魚などを中心とした食事)を続けている人は、前立腺がんのリスクが約30%低下することが示されています。
理想的な食事バランス
前立腺がん治療後の患者さんに推奨される食事の基本は以下のとおりです。
野菜や果物が豊富で、飽和脂肪酸の少ない食事を心がけ、適度な運動を含めた活動的な生活習慣をとることです。このような食事パターンは、前立腺がんの再発予防だけでなく、心臓疾患、脳卒中、二次がんなどの併発を減らす効果も期待されます。
栄養バランスを崩すほどの偏った食事は避け、1日3食を規則正しく摂ることが大切です。特定の食品をたくさん食べたからといって前立腺がんが治るわけではありません。バランスのよい食生活を基本として、治療法に応じた食事の工夫を加えることが推奨されます。
体重管理と運動の重要性
前立腺がん治療後の患者さんにとって、適正体重の維持と適度な運動は食事と同じくらい重要です。
肥満が前立腺がんに及ぼす影響
肥満は前立腺がんの進行や死亡率に影響することが複数の研究で明らかになっています。BMIが5ポイント上昇すると、前立腺がんで死亡するリスクや再発のリスクが約20%上昇するという報告があります。
肥満が前立腺がんの悪化に影響する理由は完全には解明されていませんが、脂肪細胞から作られる生理活性物質が性ホルモンに影響を与える可能性や、がんを増殖させる引き金になる可能性が考えられています。
推奨される運動
適度な運動は前立腺がんの再発リスクを下げることが報告されています。適度な運動とは「うっすら汗をかいて心拍数と呼吸数が上昇する程度」で、ジョギング、水泳、自転車、ウォーキングなどが推奨されます。
週3回の家庭での歩行運動を4週間実施することで、放射線治療中の身体機能の維持に効果があることも報告されています。また、手術後の患者さんには骨盤底筋体操が尿失禁の改善に効果的とされています。
禁煙の重要性
前立腺がんの患者さんが禁煙をすることは極めて重要です。喫煙は前立腺がんの進行や死亡率を上昇させることが報告されています。
前立腺がん患者さん5366人の22年間に及ぶ経過観察で、喫煙は60%以上の死亡率と再発率の上昇に関係していたという報告があります。すでに喫煙している患者さんは、治療を機に禁煙することが強く推奨されます。
治療後の定期的な経過観察
前立腺がん治療後は、定期的に通院して検査を受けることが重要です。経過観察は病状にもよりますが、治療後2年間は3カ月ごと、それ以降2年間は6カ月ごと、その後は年1回程度の受診が目安とされています。
再発や転移の早期発見、治療後の合併症や後遺症の早期発見と治療のため、必要に応じて診察、PSA検査、画像検査を行います。気になる症状がある場合には、早めに受診して担当医に相談することが大切です。
食事や運動に関する疑問がある場合も、遠慮せずに医師や看護師、管理栄養士に相談し、自分の治療状況に合った生活習慣を確立していくことが推奨されます。
まとめ:治療法に合わせた食事の工夫を
前立腺がん治療後の食事は、選択した治療法によって注意すべきポイントが異なります。
手術後は体重管理と高脂肪食を避けること、放射線療法後は便通の管理と刺激物を控えること、ホルモン療法中は骨密度を維持するためのカルシウムとビタミンDの適切な摂取が重要です。
また、すべての治療に共通して、健康型の食事パターン(野菜、果物、大豆製品、脂の多い魚を中心とした食事)を目指し、適正体重を維持し、適度な運動を続けることが推奨されます。
絶対にいい食べ物や絶対に食べてはいけない食べ物があるわけではありません。あまり神経質になりすぎず、バランスのよい食生活を心がけながら、ご自身の治療内容に応じた食事の工夫を取り入れていくことが大切です。
参考文献・出典情報
国立がん研究センター 多目的コホート研究「食事パターンと前立腺がん罹患との関連について」
国立がん研究センター 多目的コホート研究「乳製品、飽和脂肪酸、カルシウム摂取量と前立腺がんとの関連について」
前立腺がん地域医療連携 CaPMnet「前立腺がんサバイバーと食事」
再発転移がん治療情報「がんになっても食事を楽しみたい~前立腺がん編~」
南里泌尿器科医院「前立腺がんと診断されたあとの食生活上の注意点は?」

