がん専門のアドバイザー、本村です。
当記事では抗がん剤治療中に注意すべき日常生活について解説しています。
抗がん剤治療中は副作用により様々な症状が出ます。病院では制吐剤などが使われますが、日常生活ではどんな点に注意をすればよいのでしょうか。
感染予防対策:うがいや手洗いでセルフケア
抗がん剤の副作用で最も頻度が高いのは、白血球減少による感染です。手洗いやうがい、歯磨き、入浴などをこまめにすることで、感染症を予防することができます。
・手洗い
外出先から戻ったとき、食事の前やトイレの前後には、とくに念入りに手を洗いましょう。
・うがい
帰宅時、起床時や寝る前、食事の前後には、うがいをします。殺菌・消毒作用のあるうがい薬でも水道水でもよいので、うがいの回数を多くすることが大切です。
・風邪予防
外出時にはマスクを着用し、帰宅したら必ず手洗いとうがいをします。家族が風邪を引いたときは、患者さんにうつさないよう注意が必要です。
薬物療法中でもインフルエンザの予防接種は可能ですが、発熱などがあった場合、予防接種によるものか、治療薬の副作用か分からなくなることがあるので注意が必要です。接種していいかどうか、あるいはその時期については主治医とよく相談してましょう。
・体を清潔に
薬物療法中は粘膜が傷つきやすくなっています。傷口から細菌が入らないように、できるだけ体を清潔にしておきましょう。皮膚が乾燥すると傷がつきやすいので、保湿クリームなどで肌を守ります。皮膚の保湿は手足症候群の予防にも役立ちます。
爪を短く切る、ひげそりは電気カミソリを使うなど、肌を傷つけないようにすることも大事です。トイレはできればシャワートイレを利用し、陰部や肛門をきれいに洗浄しておきます。
・口内炎の予防
口の中は抗がん剤の影響を受けやすいところです。抗がん剤の副作用や歯磨きなどによる傷から口内炎になりがちです。歯磨きは小さめの柔らかい歯ブラシや刺激の弱い歯磨き粉を使い、歯茎を傷つけないようにします。
口内乾燥も口内炎の原因になるので、口が乾燥しないように注意しましょう。また、治療前に歯科を受診し、虫歯や歯周病などがあれば治療をすませておくことも必要です。
吐き気・おう吐対策:好きな物を少量ずつ
抗がん剤の副作用では、吐き気・おう吐もよく見られます。吐き気・おう吐があるときは無理をせず、食べられるものを少量ずつ、時間をかけて、ゆっくり食べるとよいでしょう。
料理を冷ますとにおいが気にならなくなることもあります。味付けは普段よりも少し濃いめのほうが食べやすいようです。少量で高カロリーのアイスクリームやプリン、消化がよいおかゆや野菜スープ、煮込みうどんなどもおすすめです。
おう吐したときは、ミネラル飲料やスポーツドリンクで失われた水分とミネラルを補ってください。
下痢・便秘対策:自然のお通じに近づける
抗がん剤で腸の粘膜が傷ついて下痢が起こる一方、腸の動きが弱くなり、便秘になることもあります。できるだけ自然なお通じに近づけるような工夫をしましょう。
・下痢のとき
消化のよいものを少量ずつ何回かに分けて食べます。脱水しないように、十分に水分補給をしましょう。ひどい下痢のときはスポーツドリンクなどでミネラルを補給します。
・便秘のとき
イモ類、根菜類、海藻など食物繊維の多い食事を心がけます。起床時に冷たい水や牛乳を1杯飲んだり、おなかを時計回りに円を描くようにマッサージしたりするのも効果的です。体を動かさなくなることでも便秘は起こるので、可能な範囲で体を動かしましょう。
味覚変化の対策:亜鉛の多い食品をとる
味覚の変化は、抗がん剤治療中の患者さんの6割に起こるとされます。味蕾の細胞は分裂が速く、抗がん剤の影響を受けやすいのです。
味覚の変化は個人差が大きいのですが、味が薄く感じる、苦みを感じる、味が分からないなどが多いようです。
抗がん剤による味覚の変化は、治療が終了すれば3~4週間で自然に回復します。その間は、例えば味が薄いなどの場合は少し濃いめの味付けにするなど、味覚の変化に応じた食事を工夫しましょう。
また、味蕾の再生に役立つ成分である亜鉛を補給することも大事です。亜鉛は動物性食品に加え、玄米やそば粉、海苔、ひじきなどの海藻類に多く含まれます。
嗜好品の注意点:お酒は控えめ、タバコは厳禁
・カフェイン
コーヒーや紅茶などは常識的な範囲なら飲んでもかまいません。ただし、下痢をしているときは症状がひどくなることがあるので、避けましょう。
・アルコール
投与されている薬の種類にもよりますが、アルコールは血液を固まりにくくする作用があるので、薬物療法中は避けたほうがよいでしょう。もちろん、病気や薬の影響で肝臓の機能が低下しているときなどは、お酒は飲めません。
治療が終わっても飲まないほうがよいといえますし、飲むにしても適度な飲酒量を守ることが、再発予防につながります。
・タバコ
がんだけでなく、心筋梗塞などさまざまな病気の危険因子となります。禁煙が原則です。
脱毛対策:医療用カツラはレンタルも
しばらくすると生えてくるとはいえ、精神的なダメージが大きいのが脱毛です。仕事に影響するからと脱毛を危倶する男性も増え、最近では女性用ばかりでなく、男性用の医療用カツラの種類も豊富になっています。上手に利用しましょう。カツラを選ぶときは、次のようなことをチェックします。
①頭皮を刺激せず、発毛を妨げない
医療用カツラがおしゃれ用カツラと違う点は、脱毛した頭皮に直接触れるところ。地肌にあたるネット部分が頭皮を刺激しないような素材を選びましょう。通気性などが悪いと、発毛の妨げになることがあります。
②違和感がない
実際にかぶってみて、着け心地などを確認しましょう。
③美容的に優れ、自然
脱毛前の髪型にできるだけ近いものを選ぶとよいでしょう。知人や近所の人などにカツラと分かり、結局病気のことまで説明しなければならなくなり、煩わしかったという患者さんも少なくないようです。
④カウンセリングとアフターケアがしっかりしている
脱毛が進むとカツラがゆるんでくるので、購入時のカウンセリングだけでなく、アフターケアがしっかりしているところを選びましょう。
・購入する場合
オーダー品は30万円から、既製品は3万円からと値段に幅があります。その中間のセミオーダー品(10万円~)もあります。購入する場合はよく説明を聞いて、自分に合ったものを選ぶようにします。
注意したいのは、医療用カツラは「医療費控除」の対象にならないことです。大手メーカーなどではがん患者支援の一環として、抗がん剤治療を受けている人に対して割引制度を設けているところもあります。
カツラはインターネットや通販でも簡単に購入できますが、やはり事前にカウンセリングを受けてから購入したほうが安心です。
・レンタルの場合
がん患者支援団体「キャンサーネットジャパン(CNJ)」では、女性向けの「医療カツラデイリース」を行っています。利用料金は、初期費用として1万5000円(税抜き)を払えば、1日250円(同)×利用日数でレンタルできます。
体を動かすときの注意点:適度な運動はよい影響も
薬物療法中は、抗がん剤の副作用で貧血になることもあり、だるさや倦怠感、めまい、息切れを感じることもあります。思わぬ転倒などでケガをしないために、次のようなことに注意しましょう。
・動作時
転倒による外傷や打撲を予防するため、体はゆっくりと動かします。起床時も急に起き上がったりせず、上半身から起こし、一息ついてから立ち上がりましょう。
・歩行時
息切れや動悸がしない範囲でゆっくりと。疲れやすいときはまめに休みをとり、杖を使うことも大事です。転倒を防ぐために、スニーカーなど足元が安定し歩きやすい履物にします。
・運動
体調が悪いからと家で横になっているばかりだと、薬の効きが悪くなることが分かっています。また、動かないでいると余計にだるさを助長することも分かっています。
体が動かせるようなら、ウォーキングやヨガ、ストレッチなど無理のない範囲の軽い運動を心がけましょう。入院中や自宅療養中に低下した筋力の強化になって転倒予防にも役立ちますし、ストレス解消にもなります。
ただし、腎障害を起こしやすい薬を使っている場合は、汗をかく運動は注意が必要です。前もって主治医に相談しましょう。また、がんが骨に転移している場合や、多発性骨髄腫の場合は、骨折の危険性があるので運動は控えます。
・運転
外来で薬物療法を受ける場合、気分が悪くなるなど体調が変化しやすいので、治療当日は運転はやめたほうがよいでしょう。タキサン系の薬はアルコールが入っているので、運転はできません。
以上、抗がん剤治療中の日常生活についての解説でした。