
こんにちは。がん専門のアドバイザー、本村ユウジです。
がん治療を受けている患者さんから「急な下痢で外出が不安」「便が何日も出ない」といった相談を数多く受けます。
これらの消化器症状は、がん治療中によく経験される副作用の一つであり、日常生活に大きな影響を与えます。
下痢や便秘は、単に不快なだけでなく、脱水や栄養障害を引き起こし、治療の継続にも影響を与える可能性があります。しかし、適切な食事の工夫と生活習慣の見直しによって、症状を和らげることは十分に可能です。
この記事では、がん治療中に下痢や便秘が起こる理由、それぞれの症状に合わせた食事の工夫、そして日常生活で実践できる対処法について、最新の医療情報を踏まえて詳しく解説します。
がん治療中に下痢・便秘が起こる理由
がん治療中の下痢や便秘は、単一の原因ではなく、さまざまな要因が重なって起こることがほとんどです。まず、それぞれの主な原因を理解することが、適切な対処への第一歩となります。
抗がん剤による影響
抗がん剤による下痢には、大きく分けて2つのタイプがあります。投与中または投与直後から24時間以内に起こる「早発性下痢」は、消化管の運動を調節する副交感神経が影響を受けることで、腸のぜん動運動が活発になって起こります。
一方、投与開始後数日から10日ほど経ってから起こる「遅発性下痢」は、消化管粘膜が障害を受けたり、白血球減少時に腸管感染が起きたりすることが原因です。治療から数日が経過してから症状が現れることもあるため、体調の変化には注意が必要です。
便秘については、抗がん剤の作用で腸の動きが低下することが主な原因です。また、抗がん剤とともに使用される制吐剤や鎮痛薬(特にオピオイド系)の副作用として便秘が現れることもあります。
放射線治療の影響
腹部や骨盤への放射線治療は、腸の粘膜に炎症を起こし、下痢の原因となります。治療が終了すると徐々に落ち着いていくことが多いですが、治療終了後、数カ月以上たってから難治性の下痢が起こることもあります。
その他の要因
| 要因 | 下痢への影響 | 便秘への影響 |
|---|---|---|
| 食事の変化 | 食物繊維の過剰摂取、刺激物の摂取 | 食事量の減少、食物繊維不足 |
| 水分摂取 | 脱水状態の悪化 | 水分不足による便の硬化 |
| 活動量 | - | 運動不足による腸の動きの低下 |
| 精神的要因 | ストレスによる腸の過敏性 | 気分の落ち込みによる腸機能低下 |
| がん自体 | 腸管の圧迫、狭窄 | 腸管の圧迫、閉塞 |
これらの原因を理解した上で、症状に合わせた適切な対処を行うことが大切です。
下痢・便秘を和らげる食事の基本的な考え方
消化器症状がある時の食事は、症状に合わせた工夫が必要です。ここでは、下痢と便秘、それぞれの状態に応じた食事の基本原則を説明します。
食物繊維との付き合い方
食物繊維には「水溶性」と「不溶性」の2種類があり、下痢と便秘では適した種類が異なります。
下痢の時は、不溶性食物繊維(穀物、根菜、豆類、きのこ類など)を過剰に摂取すると、便のかさが増えて腸を刺激し、症状を悪化させる可能性があります。一時的に控えめにすることが推奨されます。一方、水溶性食物繊維(海藻類、果物、こんにゃくなど)は少量から試してみることができます。
便秘の時は、水溶性と不溶性、両方の食物繊維をバランスよく摂ることが重要です。厚生労働省が定めた日本人の食事摂取基準(2025年版)では、成人男性で1日20〜22g以上、成人女性で17〜18g以上の食物繊維摂取が推奨されています。
ただし、急に多量を摂るとお腹が張ることがあるため、少量ずつ増やしていくことが大切です。
水分補給の重要性
下痢でも便秘でも、十分な水分補給は極めて重要です。
下痢の場合、体から水分と電解質(カリウム、ナトリウムなど)が失われやすいため、経口補水液やスポーツドリンクなどでこまめに補給します。冷たすぎないもの(常温や体温に近い温度)が胃腸に負担をかけにくいです。
便秘の場合、便を軟らかくしてスムーズな排便を促すため、1日にコップ7〜8杯程度の水分摂取を心がけます。起床時の冷たい水や牛乳は、腸を刺激して排便を促す効果が期待できます。
脂質と刺激物の調整
下痢の時は、脂質の多い食品(揚げ物、脂身の多い肉、生クリームなど)は腸の動きを活発にし、症状を悪化させる可能性があるため控えめにします。また、カフェイン、アルコール、香辛料などの刺激物も避けることが推奨されます。
便秘の時は、適度な脂質(オリーブオイル、亜麻仁油など)は便を滑らかにする効果がありますが、過剰摂取は胃腸の負担になるため、バランスを意識します。
少量頻回食の実践
一度に多量を食べようとせず、1日5〜6回に分けて少量ずつ食べる「少量頻回食」は、胃腸への負担を減らし、消化吸収を助けます。食事を抜くと便通のリズムが乱れやすくなるため、少量でも決まった時間に口にする習慣が大切です。
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がん専門アドバイザー 本村ユウジ
下痢がある時の食事の具体的なポイント
下痢の時は、消化しやすく胃腸に負担をかけない食事が基本です。ここでは、食品群ごとに推奨される食品と避けるべき食品を紹介します。
推奨される食品
| 食品群 | 推奨される食品 | 調理のポイント |
|---|---|---|
| 炭水化物 | お粥、軟飯、よく煮込んだうどん、食パン(耳なし)、クラッカー | 水分を多めにして柔らかく調理 |
| タンパク質 | 白身魚(タラ、カレイ)、卵、豆腐、きな粉 | 煮る、蒸す、茹でるなど油を使わない調理 |
| 野菜 | 大根、カブ、ニンジン、じゃがいも | 柔らかく煮込む、すりおろす |
| 果物 | バナナ、りんごのすりおろし | 生のまま、または加熱して |
| その他 | だしを効かせた味噌汁、シンプルなスープ | 具材は少なめ、薄味に |
避けるべき食品
脂っこいもの、牛乳や乳製品(乳糖不耐症の場合)、生の野菜、食物繊維が多すぎるもの、カフェイン飲料、アルコール、炭酸飲料、香辛料は控えます。
水分・電解質補給の工夫
下痢による脱水を防ぐため、経口補水液やスポーツドリンクを常備し、喉が渇く前に少量ずつこまめに飲む習慣をつけます。カリウムを含むバナナやじゃがいもなども、症状が落ち着いてきたら取り入れることができます。
便秘がある時の食事の具体的なポイント
便秘の時は、食物繊維と水分を積極的に摂り、腸の動きを促すことが重要です。
推奨される食品
| 食品群 | 推奨される食品 | 期待される効果 |
|---|---|---|
| 炭水化物 | 玄米、雑穀米、全粒粉パン、オートミール | 不溶性食物繊維で便のかさを増やす |
| タンパク質 | 納豆、豆腐、枝豆 | 食物繊維とタンパク質の補給 |
| 野菜 | ごぼう、きのこ類、海藻類、ブロッコリー | 腸を刺激し排便を促す |
| 果物 | プルーン、イチジク、キウイ、りんご | 水溶性・不溶性食物繊維の補給 |
| 発酵食品 | ヨーグルト、味噌、漬物 | 腸内環境を整える |
| 油脂 | オリーブオイル、亜麻仁油 | 便を滑らかにする |
食物繊維の効果的な摂り方
豆類、イモ類、きのこ類、ごぼう、たけのこ、海藻、こんにゃく、果物などを1日の食事の中でバランスよく取り入れます。1種類の食品や1回の食事で大量に摂るのではなく、色々な種類を組み合わせることが大切です。
急に食物繊維を増やすとお腹が張ったりガスが出やすくなることがあるため、少量ずつ増やしていくことが賢明です。
腸内環境を整える工夫
乳酸菌や生きたビフィズス菌を含むヨーグルトなどの食品は、腸内環境を整え便秘を和らげる効果が期待できます。また、発酵食品(納豆、味噌、漬物など)も積極的に取り入れましょう。
食事以外の生活習慣の工夫
食事の工夫に加えて、日々の生活習慣を整えることも、下痢や便秘の症状を和らげる上で重要です。
適度な運動と身体活動
散歩や軽いストレッチなど、無理のない範囲で体を動かすことは、腸の動きを刺激し便通を整える助けになります。特に腹筋を鍛えると腸の動きがよくなるため、ベッドの上でもできる簡単なストレッチを看護師や理学療法士から教えてもらうことをお勧めします。
ベッドからイスに移る運動だけでも効果があるとされています。主治医や看護師に相談し、今の体力に合った運動を取り入れましょう。
排便習慣の確立(便秘の場合)
毎朝食後など、決まった時間にトイレに行く習慣をつけることで、排便反射を促しやすくなります。便意がなくても、毎日決まった時間にトイレに行き排便を試みることが推奨されます。
また、前かがみになるなど、排便しやすい姿勢を意識することも効果的です。
ストレス管理と休息
ストレスは腸の働きに大きく影響します。好きな音楽を聴く、アロマテラピーを楽しむ、瞑想するなど、自分に合ったリラックス法を見つけ実践しましょう。また、規則正しい睡眠は体のリズムを整え、腸の働きにも良い影響を与えます。
肛門周囲のスキンケア(下痢の場合)
下痢が続くと、肛門周囲の皮膚がただれてヒリヒリとした痛みを伴うことがあります。排便後はトイレットペーパーで強くこすらず、シャワートイレを弱い水圧で使うか、ぬるま湯で優しく洗い流します。洗浄後は柔らかいタオルで、ポンポンと優しく押さえるようにして水分を拭き取ります。
医療者への相談が必要な時
下痢や便秘の症状が続く場合や悪化する場合は、我慢せずに必ず主治医や看護師、管理栄養士に相談することが大切です。
すぐに医療者に連絡すべき症状
| 症状 | 理由 |
|---|---|
| 便が泥状または完全に水のようになっている | 重度の下痢、脱水のリスク |
| 便に粘液や血液が混じっている | 腸管粘膜の重度の障害、感染症の可能性 |
| 38度以上の発熱を伴う | 感染症の可能性 |
| 激しい腹痛や腹部の張りを伴う | 腸閉塞などの重篤な状態の可能性 |
| 下痢止めや便秘薬を使用しても改善しない | 薬の調整や別の対処が必要 |
| 便やおならが出ず、激しい嘔吐がある | 腸閉塞の可能性 |
医療者ができるサポート
症状に応じて、下痢止めや便秘薬(緩下剤)が処方されることがあります。自己判断で市販薬を使用する前に、必ず医師や薬剤師に相談しましょう。がん治療中は複数の薬を服用していることが多く、薬の組み合わせによる影響も考慮する必要があります。
管理栄養士は、下痢や便秘の症状に合わせた具体的な食事プランや、栄養補助食品の活用についてアドバイスしてくれます。また、便の回数、量、形、色などを記録しておくと、医療者が症状を正確に把握しやすくなります。
がん相談支援センターの活用
多くのがん診療連携拠点病院には「がん相談支援センター」が設置されており、がん患者さんやご家族からの様々な相談に対応しています。食事や栄養に関する悩みについても、無料で相談することができます。
がん治療中の消化器症状と上手に付き合うために
がん治療中の下痢や便秘は、多くの患者さんが経験する副作用であり、決して珍しいことではありません。これらの症状は、治療が終わると徐々に回復していくことがほとんどです。
大切なのは、症状に合わせた適切な食事の工夫を行い、十分な水分を摂り、無理のない範囲で体を動かすこと、そして何より、一人で悩まずに医療者に相談することです。「完璧に食べなくても大丈夫」という気持ちで、今のあなたに合った無理のない方法を探してみてください。
2025年2月には、日本栄養治療学会から「がん患者さんのための栄養治療ガイドライン 2025年版」が刊行され、がん治療における栄養治療の重要性がますます注目されています。
栄養は、患者さんの体力を支え、治療効果を高めるだけでなく、生活の質を向上させる重要な要素です。
適切な食事と栄養管理により、がん治療を少しでも楽に、そして効果的に進めることができます。