がん専門のアドバイザー、本村です。
食事の大部分を加熱した野菜と無精白の穀類でとる「マクロビオティック療法」は、がん患者さんにも広く利用されている民間療法の1つです。
1990年代以降、本や雑誌、マクロビオティック料理教室、その他マクロビオティック関連商品の販売やサービスが地域の健康食品店やマクロビオティックの教習施設などでがん患者さんに対してマクロビオティックを薦める活動が行われてきました。
現在でも書店などで理念と実践に関する本を手に入れることが可能です。
マクロビオティックの指導者や、がんの診断を受けてマクロビオティックを始めた患者さんが書いた数ある書籍のうち、何冊かは書店にも並んでいます。
代表的な例としては、ある内科医が前立腺がんにかかり、医学的療法の補助としてマクロビオティック食を実践した経験を詳しく述べた本「アンソニーサティラロ氏「がん - ある「完全治癒」の記録(日本教文社)」です。
マクロビオティックの歴史
マクロビオティックは元々、日本文化と欧州の哲学の要素から生まれたものです。
この食事療法は何度も少しずつ修正が加えられてきていますが、歴史を振り返るとマクロビオティックの普及を先頭に立って推進してきた人物の1人は久司道夫という人です。
彼は「我々に共通の目標である健康で平和な世界の実現のために必要な教育を施す」ことを目的に、1978年、ボストン近郊に久司研究所を設立しました。
マクロビオティック教育の全体的目標には、人々が自分の健康管理に責任を待ち、病気の回復に不可欠な自然でバランスのとれた生活様式を確立するよう指導することが含まれます。
研究所では、体および心の健康と幸福、環境問題、精神的な発展、世界平和など、様々な実践的・理論的問題を扱った講義が久司氏をはじめとする研究所職員によって行われていました。
米国におけるマクロビオティック運動の指導者として有名なもう1人の人物は、カリフォルニアに本拠を置くジョージ・オオサワ・マクロビオティック財団のヘルマン・アイハラ会長です。
この財団の目的はマクロビオティックの教えと日々の生活の中での実践方法を広めるというもので、マクロビオティックの理念と食事に関する書籍や月刊誌の出版を行い、また、マクロビオティックの料理指導も行う、というものです。
マクロビオティックの定義は「できる限り広く、長い目で見た生き方」とされています。
久司氏はマクロビオティックの実践、すなわち「毎日の食材の選択、調理、食べ方、意識の持ち方」を通して、「宇宙、自然、命の秩序」を毎日の生活の中に取り入れることができると考えています。
久司氏によると、マクロビオティックは「処置でも治療でもなく、常識的な日常生活」であり、健康維持のための総合的アプローチ、ということです。
マクロビオティックの理念の中心は食事です。
久司氏自身の著書をはじめ、マクロビオティック関連の書物の多くは、一般的な健康と幸福を得る目的に加えて、がんやエイズなど病気をいやす手段としてのマクロビオティック食の実践に焦点をあてています。
これらの書物によって、米国では多くのがん患者さんが診断を受けた後、直接的な健康上の効果を期待して、マクロビオティックによる療法を始めるようになりました。
改善した患者さんにはそれがマクロビオティックによる結果であると信じている人もたくさんいます。
マクロビオティックは元々がん治療のために開発されたものではないですが、実際はがんの治療法としても広く宣伝され、多くの信奉者がいることは事実です。
ここではマクロビオティックのがん治療への適用に焦点をあてて検証したいと思います。
マクロビオティックの背景と哲学
マクロビオティックを米国に紹介したのはジョージ・オーサワ氏(本名は桜沢如一)(1893~1966)です。
職業は教師でしたが日本人の医師、石塚左玄氏(1850~1910)の著書から学びを得たそうです。
当時日本では近代的な洗練された食物が流行しつつありましたが、彼は食生活を、玄米、味噌汁、海草など昔ながらの質素な食事に変えることで自らの重い病気を克服したと伝えられています。
科学と医学に関する「ホリスティック」な観点から、東洋と西洋の要素を融合させ、マクロビオティックの哲学を創造したと伝えられています。
オーサワ氏が初めてアメリカを訪れたのは1959年のことでした。
オーサワ氏は著書と講義の中で、禅の哲学の要素をマクロビオティック原理に融合させています。
彼は現在のマクロビオティック療法などの基となった「禅式マクロビオティック療法」を提唱することで自らの考えを世に知らしめていきます。
オーサワ氏は質素な食生活が健康の秘訣であると説き、加工していない有機栽培の穀物製品、特にシリアル(これを「主食」と呼んだ)、野菜、豆類、果物、魚介類からなる野菜を主体とした食生活をすることで幸福と健康を得ることができるという信念を持っていました。
1965年の著書「禅式マクロビオティック療法(Zen Macrobiotica)」で、オーサワ氏は、食生活の10の段階(マイナス3からプラス7)について概略を紹介しています。
マイナス3の食事の構成は、シリアルが10%、野菜が30%、スープが10%、動物性食品を30%、サラダと果物が15%、デザートが5%、飲み物は「最少限」となっています。
各段階において、各項目の割合を増減したり、項目そのものを削除したりしました。
例えばプラス3の食事では、60%がシリアル、30%が野菜、10%がスープとなります。
100%シリアルのみで構成するプラス7の食事を、がんなどの病気を治療するのに「最高の」食事法であるとし、また、質素な食事の短期的な訓練にもなるとしています。
ところがAMA(米国医師会)の「食物と栄養に関する評議会」による1971年の報告書には、オーサワ氏のプラス7の食事を長期にわたって続けている者に、深刻な、様々な形の、なかには命に関わるほどの栄養不良が認められたと記されています。
壊血病、貧血症、低蛋白血症(血清中の蛋白質濃度が低い)、低カルシウム血症(血清中のカルシウム濃度が低い)、飢餓による憔悴、水分摂取の制限による腎機能障害などがその例でした。
このことが一般に広がり、60年代にはマクロビオティック療法を悪いものとする固定観念が生じました。
米国がん学会の「未だ証明されていないがん治療法に関する委員会」は、1972年にマクロビオティックの食事療法に関する見解を発表しています。
70年代、80年代には、オーサワ氏とともに学び、49年に日本から米国に渡った久司道夫氏に率いられ、マクロビオティック療法の内容と焦点は大きく変化しました。
久司氏はヘルマン・アイハラ氏など他のマクロビオティック運動のリーダーと同様、オーサワ氏の哲学の基本を守りながらもより広く、複雑な要素をマクロビオティックの理念と実践の中に取り込みました。
最も注目すべき変化は、オーサワ氏による10段階の食事法を一般的な「標準マクロビオティック食」に変えた点にあります。
久司氏はこれについて83年の自著「がんを予防する食事」の中で詳しく説明しています。
アイハラ氏はがん患者に向けた独自のマクロビオティック食を自著「基礎マクロビオティックスと酸性とアルカリ性」の中で紹介しています。
これらの本と冒頭で紹介した1982年のアンソニー・サティラロ氏による「がん - ある「完全治癒」の記録」において、現在のマクロビオティック食とがんの緩解の基本的な関係が主張されたことにより、マクロビオティックの実践における新たな局面が強調されることとなったといえます。
マクロビオティックの理論的根拠は?
久司氏をはじめとするマクロビオティックのリーダーたちは、療法の根底をなす考え方、及び、それをがんの治療に使う理論的根拠の普及につとめました。
久司氏の見解は「がんは食事や環境、社会的・個人的要素が原因で発生する」「既存のがんも同じ要素の影響を受ける」というものです。
久司氏はがんの発生と基本的に関連があると考えられるいくつかの特定要素を挙げています。
患者の血液の全体的な質、栄養のとりすぎ、毒性の物質にさらされること、心の状態、生き方などがその例で、より一般的な要素としては例えば食品業界における好ましくない傾向、人間の生活がますます自然な状態から遠ざかり、座っていることの多い生活となっていることなども挙げています。
彼はがんの発生にその人の行いが関わることを強調し、「がんは抑えの効かない未知の要素が原因で生じるのではなく、ものの考え方、ライフスタイル、毎日の食事など、我々の日々の行いの産物である」と記しています。
久司氏は、がんとは長期にわたり、多くの段階を踏んで形成されるもので、実際に腫瘍となって現れるずっと以前にその過程は始まっていると考えており、次のように記しています。
「がんは長いプロセスにおける最終段階であるに過ぎない。長年にわたり自然でない現代食を食べ、人工的な環境の中で暮らすうちに摂取され蓄積された毒素を体から分離しようとする体による健康的な試みが形になって現れたものが、がんである」。
久司氏は毒素の蓄積が牛乳、チーズ、玉子、その他脂肪や油の多い食品、また、アイスクリーム、ソフトドリンク、オレンジジュースなど冷蔵・冷凍した食品の過剰摂取の結果として起こると考えていました。
これらの毒素は最初、体の中の蓄積する部位によって、アレルギー、耳痛、咳、胸部のうっ血、腹部の張り、足が周期的に膨張したり弱ったりすること、皮膚の乾燥、乳房が堅くなること、前立腺の異常、膣からの出血、卵巣膿腫といった形で現れるという持論を持っていました。
久司氏はこれらの症状が将来がんになる可能性を示唆する症状であると考え、次のように述べています。
「不適切な栄養素を取り込む限り、体は特定の部位において過剰な異常物や毒素を分離し続ける。その結果ががんの増殖だ。その特定の部位が余剰の毒素を吸収しきれなくなると、体はそれらを受け入れてくれる別の部位を探さなければならなくなり、がんが広がっていくのだ。この過程はがんが体全体に広がるまで続き、最後には患者は死に至る」。
久司氏は、自然な状態からかけ離れたバランスの悪い体をつくり、がんを発現させてしまうことに直接つながる我々の行動上の誤りの中心は、過度に膨張性の食物と過度に収縮性の食物を摂取していることにあるといいます。
彼は東洋に伝統的な、陰(拡張)と陽(収縮)の概念を用いて、地球上のすべての現象について、調和を保つために敵対する力と相補する力があるという考え方で表現しました。
この考え方を利用してそれぞれの「がん種類に対応する食事療法の説明と食事療法を調整するための枠組み」を作成していきました。
癌(がん)に対するマクロビオティック
がん治療に関して、マクロビオティックではまず、患者を病気によって「陰優性型」、「陽優性型」、「複合型」に分類する原発性の腫瘍が体のどこに発現したか、臓器のどの部分に発現したかが分類の基準の1つとなります。
一般に末端部や上半身にできた腫瘍や窪んだ部分、大きな臓器にできた腫瘍は陰とみなされます。
例としてはリンパ腫、白血病、ホジキン病や、口腔内(舌は除く)・食道・胃上部・胸・皮膚・脳の外側の腫瘍などがあります。
体の下の部分や深部、または小さい臓器に発現したがんは陽とみなされます。
大腸・直腸・卵巣・骨・膵臓・脳の奥深い部位などの腫瘍がその例です。
陰と陽両方の力による結果と考えられるがんには黒色腫や、肺・胆嚢・腎臓・胃下部・子宮・脾臓・肝臓・舌のがんなどがあります。
マクロビオティックの食事療法は、端的に表現すると「陰・陽、または両方が過度に影響を与えていると思われる部分を修正しよう」というものです。
マクロビオティックのでは陽優性のがん患者さんに対しては少し陰の食物に重点をおいた標準マクロビオティック食(後述)を。
陰優性の患者さんには陽をやや重視した標準食をとるよう指導しています。
複合型に分類された患者さんには標準マクロビオティック食の規定通り「中心的な食べ方」をすることを奨めています。
調理法も分類された型によって異なった方法を指示しています。
マクロビオティックでは食事以外にも、力を入れていることがあります。
運動を習慣にすること、電磁波・合成繊維・化学物質の煙を避けること、心理状態を良好に保つことなどがその例です。
久司氏は次のように述べています。
「がん患者は、がんが発生した直接的な原因は、毎日の食事、ものの考え方、生活の仕方など、自分自身にあることを理解しなければならない。したがって患者は深く思考をめぐらし、がんをはじめ、様々な不幸の原因となっている現代的なものの見方を考え直す必要がある。
熟考するなかで、多くの文化によって何千年もの間受け継がれてきた数多くの先人の知恵を見直すこと、体の驚くべき自己防御と治癒のメカニズムを含め、自然界が持つ無限の不思議を賞賛すること、これらの現象を創り出す宇宙の秩序を尊敬することも必要である」。
食事や運動の習慣、態度、家族との関わり方を変えることの全体的な目標は、患者の生活のすべての局面に調和をもたらすことだとされてます。
マクロビオティックの哲学では、患者は病気を含む自分の命のすべてに感謝し、責任を持たなければならないと教えています。
そうすることによって、自分には病気を創る力があったのだから病気を治す力もある、という考え方です。
著書で久司氏はがん患者さんに対し、普通の食事ができない場合や消化器系に閉塞がある場合など、すぐにも命に関わる状態でない限り、マクロビオティックと一般的な医学的治療法との併用は奨めていません。
マクロビオティックを行っていることを主治医に伝え、定期的に診察を受けるようにとはいっていますが、健康状態が良くなるにしたがって徐々に一般的治療法の医師への依存度を減らすべきだと記しています。
医学的療法と併用した場合は、マクロビオティックのみの場合より回復が遅いというのがその理由です。
したがって最初の1カ月から4カ月間併用した後は、「他の治療法を減らす」よう助言しています。
しかし現在のマクロビオティックの指導では医学的な治療法の併用に反対してはおらず、以前から行っている医学的治療も継続するよう奨めるように変化しています。
癌(がん)に対するマクロビオティック食の進め方とは?
標準マクロビオティック食が基本となり、患者の年齢、性別、運動量、個人的ニーズ、生まれながらの環境に応じて患者1人ひとりの食事方針が決定されます。
がんの種類ごとに食事のとり方を規定していることに加えて、がんの予防と治療のための一般的な食事プランも指導しています。
標準マクロビオティック食では砂糖だけよりも多種類の炭水化物を、繊維の少ない食物よりも繊維の多い食物を、飽和脂肪酸より不飽和脂肪酸を、精製塩より海塩を、ビタミンやミネラルの補助食品よりも食物に含まれる自然のビタミンやミネラルを、化学肥料で栽培した食物より有機栽培の食物を、加工食品よりも未精製食品を、動物性蛋白質より植物性蛋白質を、電子レンジや電熱器で調理した食物よりガスコンロや木を燃やしたオーブンで調理した食物をとることを重要視しています。
この標準食は地理や季節、個人的状況に応じて、ケースバイケースで調整されます。標準食では規則的にあるいは毎日とる食品、時折とる食品、あまりとってはならない食品、避けるべき食品を次のように定めています。
【マクロビオティック食のルール】
・毎日の食事の全体量のうち、50~60%を様々な方法で加熱調理した、有機栽培で全粒の穀物(玄米、大麦、雑穀、ブルグア、エンバク、トウモココシ、ライ麦、小麦、そば粉、および無精白小麦でできた少量のパスタ、イーストを使っていない無精白小麦のパン、一部加工した無精白のシリアルなど)からとる。
・5~10%は野菜、海草、穀物、豆類の入った味噌汁か醤油味の吸い物(1日に1から2杯)をとる。
・25~30%は地元で有機栽培された野菜をとる。生野菜やピクルスも少量なら食べてよい。
野菜は頻繁にとるべき野菜(キャベツ、ブロッコリー、カリフラワー、コラード(キャベツの一種)、かぼちゃ、クレソン、白菜、たんぽぽ、アブラナの葉、大根葉、青ネギ、タマネギ、大根、カブラ、エイコーン・スクウォッシュ(かぼちゃの一種)、バターカップ・スクウォッ シュ(同)、ごぼう、人参など)
時折とってもよい野菜(セロリ、きゅうり、アイスバーグレタス、マッシュルーム、サヤエンドウなど)、避けなければならない野菜(じゃがいも、トマト、ナス、トウガラシ、アスパラガス、ほうれん草、ビーツ、ズッキーニ、アボガドなど)に分類される。
・5~10%をあらゆる種類の豆類(あずき、ヒヨコマメ、ヒラマメなど)、豆製品(豆腐、テンペ、納豆など)と海草(ワカメ、ひじき、昆布、海苔、あらめ、寒天、トチャカなど)からとる。
・時折とってもよい食品、つまり、「必要であったり食べたければ」週に1~3回食べてもよい食品には、少量の白身魚(カレイ、ヒラメ、タラ、ニシン、タラの稚魚、フエダイ、シタガレイ、ニシマダラ、コイ、オヒョウ、マスなど)、乾燥あるいは加熱調理した地元で有機栽培された果物(温帯地方の住民は熱帯・亜熱帯の果物は食べない方がよい)、種子類、ナッツ、穀物甘味料、食用酢がある。
・飲み物は番茶、茎茶、ほうじ茶など非芳香性で非刺激性の茶、または穀物コーヒー、冷やしていない水を飲むこと。
・マクロビオティック食で避けるべきとされている食品は、肉とトリ肉、動物性脂肪、卵、乳製品、精製した砂糖、チョコレート、糖蜜、蜂蜜、トロピカルフルーツ、ソーダ、人工的なドリンク、芳香性または刺激性の茶やコーヒー、着色料・保存料を使用したりスプレー散布や化学的処理をしたすべての食品、精製したり研いだりしたすべての穀物や穀粉、缶詰、冷凍食品、放射線照射をした食品、香辛料、アルコールなどである。
なお、久司氏のよるとがん患者さんや「重度の前がん状態」にある人は「活力が戻るまで」の最初の期間、特に重点的にとらなければならない種類の食品があるとしています。
一般に、食物は最も陰の食品(アルコール、トロピカルフルーツ、乳製品)から中間(穀物、豆類、野菜、ナッツ)を通って最も陽の食品(魚、チーズ、トリ肉、卵)を結ぶ線上のどこかの段階に区分されます。
陰優性の腫瘍とされた患者は果物などを避けるように言われるが、時には陽の中位の食物である白身魚を少量食べるよう奨められます。
陽のがんの患者は少なくとも最初の段階では魚を全面的に避けるよう指導されるが、陰の中位の食物であるドライブルーツや火を通した果物は少し食べるよう指導されます。
マクロビオティック療法では最も陰(砂糖など)および最も陽(赤肉など)に属する食品は、どのタイプのがん患者にも奨めることができないとされています。
がん患者さんがマクロビオティック食をすることによる弊害
マクロビオティック療法に副作用や健康上の弊害の可能性があるという問題は、医学界およびマクロビオティックに関与する人々の間で長い間論争の的になってきました。
過度に制限の多いマクロビオティック食を実践した場合、起こし得る好ましくない作用の1つは、動物性の食物から主に得られる必須栄養素の1つであるビタミンB12の不足です。
久司氏は、特定の種類の魚を少量食事に加えるよう指示していることで、この危険性は大幅に減るか全くなくなると主張しています。
しかし特定の種類の腫瘍(動物性食品の過剰摂取が原因と考えられるもの)には、少なくとも最初の時期は魚を禁じている場合があります。
ビタミンB12は海草やある種の発酵食品など、マクロビオティック食を構成する他の食品で補うことができると久司氏は考えていましたが、これらの食品中のビタミンB12を体が使うことのできる形でとることができるかどうかは疑問視されてきました。
また、成長と発育に必要なビタミンDの欠乏もマクロビオティック食に懸念される点でした。
マクロビオティックではビタミンDの主な供給源である乳製品をとらないため、小さな子供などにはビタミンDの不足が起こり得ることを久司氏は認めています。
マクロビオティック食を行っているオランダの子供を対象とした最近の研究によると、それらの子供の成長の度合いは生後5カ月で一般のオランダの子供より低く、その後も幼年時代を通して追いつきませんでした。
久司氏は子供には魚の肝油などビタミンB12とDを含む食品を食事に加え、太陽の光にあたるよう勧めています。
青年や成人の場合は欠乏症が認められない限り、ビタミンDを補足することなく、十分に日光を浴びることを勧めています。
これらの方法を実行した場合に、マクロビオティック食の実行者がビタミンDの欠乏を解消できるのかどうかは、分かっていません。
また、ビタミンB12とDに関する不安はあるものの、全体としてのエネルギーや蛋白質摂取に関しては問題がないとする別の検証報告もあり、がん患者さんがマクロビオティック療法を行う場合は栄養不足が起こらないよう配慮することが重要とされています。
癌とマクロビオティック。有効性に関する報告
久司氏は著書「がんを予防する食事」の中で、マクロビオティック食があらゆる種類の腫瘍を持つ患者に対して「回復への助け」となってきたが、「特に効果的」なのは乳がん、頸部がん、および大腸・膵臓・肝臓・骨・皮膚のがんに対してである、と述べています。
逆にマクロビオティック療法は肺・卵巣・精巣のがんに対してはあまり効き目がなかったとしていますが、これらの根拠となる臨床データは示されていません。
同氏は、ある特定の条件と患者自身の態度が伴う場合にのみマクロビオティック療法で病気が治るとし、自らの主張する療法の効果に制限を加えています。
例を挙げると、過去の食習慣・生活習慣における誤りを正す機会を病気が与えてくれたと自覚し、病気に感謝する態度を持つこと、マクロビオティックの食事指針と料理法についてよく知り、正しく理解すること、病気を克服するという意志と決意、家族や友人の支え、患者自身の「自然治癒力」の維持などがあります。
しかし、今なお医学的に信ぴょう性の高い論文、調査研究において「がん治療に効果が示された」というものは現時点ではありません。(指導者側の「実証した結果、生存期間が延長した」などの報告はあります)