
マクロビオティックとは何か
こんにちは。がん治療専門アドバイザー、本村ユウジです。
がんと診断された後、「マクロビオティックを実践すれば治るのではないか」と考える患者さんがいらっしゃいます。書店には関連書籍が並び、インターネットでは体験談や改善例が多数紹介されています。
しかし、実際にマクロビオティックはがんに効果があるのでしょうか。
この記事では、マクロビオティックの歴史、理論的背景、科学的検証の現状、そして実践することで起こり得るデメリットについて、最新の医学的知見を踏まえて詳しく解説していきます。
マクロビオティックは元々、日本の伝統的な食事法と欧州の哲学的要素を融合させたものです。
「マクロ(大きな)」「ビオ(生命)」「ティック(術、学)」という3つの言葉から成り、古代ギリシャ語を語源とする「長く健康的に生きるための方法」という意味を持っています。
基本的な考え方は、玄米や全粒穀物を主食とし、豆類、野菜、海藻類などを中心とした食事を摂ることです。肉類、乳製品、卵、精製された砂糖などは制限または禁止されます。
1990年代以降、日本や欧米でマクロビオティックを推奨する活動が活発に行われてきました。がん患者さんに対して、マクロビオティック料理教室や関連商品の販売、指導などが地域の健康食品店や教習施設で展開されています。
現在でも書店で理念と実践に関する書籍を手に入れることができます。特に有名な例として、ある内科医が前立腺がんにかかり、医学的療法の補助としてマクロビオティック食を実践した経験を詳しく述べた「アンソニー・サティラロ氏『がん - ある完全治癒の記録』(日本教文社)」があります。
マクロビオティックの歴史と発展
マクロビオティックの基礎を築いたのは、明治時代の日本人医師、石塚左玄氏(1850〜1910)です。
石塚氏は「食養生」という食事法を提唱しました。この考え方を発展させたのが、桜沢如一氏(本名、1893〜1966)です。桜沢氏は職業は教師でしたが、石塚氏の著書から学びを得ました。
当時の日本では近代的な洗練された食物が流行しつつありましたが、桜沢氏は食生活を玄米、味噌汁、海草など昔ながらの質素な食事に変えることで、自らの重い病気を克服したと伝えられています。
桜沢氏は科学と医学に関する「ホリスティック」な観点から、東洋と西洋の要素を融合させ、マクロビオティックの哲学を創造しました。1959年に初めてアメリカを訪れ、著書と講義の中で禅の哲学の要素をマクロビオティック原理に融合させています。
桜沢氏は質素な食生活が健康の秘訣であると説き、加工していない有機栽培の穀物製品、特にシリアル、野菜、豆類、果物、魚介類からなる野菜を主体とした食生活をすることで幸福と健康を得ることができるという信念を持っていました。
1965年の著書「禅式マクロビオティック療法」で、桜沢氏は食生活の10の段階(マイナス3からプラス7)について概略を紹介しています。100%シリアルのみで構成するプラス7の食事を、がんなどの病気を治療するのに「最高の」食事法であるとしました。
過度に制限された食事による健康被害
しかし、AMA(米国医師会)の「食物と栄養に関する評議会」による1971年の報告書には、桜沢氏のプラス7の食事を長期にわたって続けている人に、深刻な、様々な形の、なかには命に関わるほどの栄養不良が認められたと記されています。
壊血病、貧血症、低蛋白血症(血清中の蛋白質濃度が低い)、低カルシウム血症(血清中のカルシウム濃度が低い)、飢餓による憔悴、水分摂取の制限による腎機能障害などがその例でした。
このことが一般に広がり、1960年代にはマクロビオティック療法を悪いものとする固定観念が生じました。
現代のマクロビオティックへの変化
1970年代、1980年代には、桜沢氏とともに学び、1949年に日本からアメリカに渡った久司道夫氏に率いられ、マクロビオティック療法の内容と焦点は大きく変化しました。
久司氏は桜沢氏の哲学の基本を守りながらも、より広く複雑な要素をマクロビオティックの理念と実践の中に取り込みました。
最も注目すべき変化は、桜沢氏による10段階の食事法を一般的な「標準マクロビオティック食」に変えた点にあります。久司氏は1978年にボストン近郊に久司研究所を設立し、「健康で平和な世界の実現のために必要な教育を施す」ことを目的に活動を展開しました。
米国におけるマクロビオティック運動の指導者として有名なもう1人の人物は、カリフォルニアに本拠を置くジョージ・オオサワ・マクロビオティック財団のヘルマン・アイハラ会長です。
マクロビオティックの定義は「できる限り広く、長い目で見た生き方」とされています。久司氏はマクロビオティックの実践、すなわち「毎日の食材の選択、調理、食べ方、意識の持ち方」を通して、「宇宙、自然、命の秩序」を毎日の生活の中に取り入れることができると考えています。
マクロビオティックの理論的根拠
久司氏をはじめとするマクロビオティックのリーダーたちは、療法の根底をなす考え方、及び、それをがんの治療に使う理論的根拠の普及につとめました。
久司氏の見解は「がんは食事や環境、社会的・個人的要素が原因で発生する」「既存のがんも同じ要素の影響を受ける」というものです。
久司氏はがんの発生と関連があると考えられるいくつかの特定要素を挙げています。患者の血液の全体的な質、栄養のとりすぎ、毒性の物質にさらされること、心の状態、生き方などがその例です。
彼はがんの発生にその人の行いが関わることを強調し、「がんは抑えの効かない未知の要素が原因で生じるのではなく、ものの考え方、ライフスタイル、毎日の食事など、私たちの日々の行いの産物である」と記しています。
久司氏は、がんとは長期にわたり、多くの段階を踏んで形成されるもので、実際に腫瘍となって現れるずっと以前にその過程は始まっていると考えています。
陰陽理論に基づく食事法
久司氏は、自然な状態からかけ離れたバランスの悪い体をつくり、がんを発現させてしまうことに直接つながる行動上の誤りの中心は、過度に膨張性の食物と過度に収縮性の食物を摂取していることにあるといいます。
彼は東洋に伝統的な、陰(拡張)と陽(収縮)の概念を用いて、地球上のすべての現象について、調和を保つために敵対する力と相補する力があるという考え方で表現しました。
がん治療に関して、マクロビオティックではまず、患者を病気によって「陰優性型」、「陽優性型」、「複合型」に分類します。原発性の腫瘍が体のどこに発現したか、臓器のどの部分に発現したかが分類の基準の1つとなります。
一般に末端部や上半身にできた腫瘍や窪んだ部分、大きな臓器にできた腫瘍は陰とみなされます。例としてはリンパ腫、白血病、ホジキン病や、口腔内・食道・胃上部・胸・皮膚・脳の外側の腫瘍などがあります。
体の下の部分や深部、または小さい臓器に発現したがんは陽とみなされます。大腸・直腸・卵巣・骨・膵臓・脳の奥深い部位などの腫瘍がその例です。
標準マクロビオティック食の内容
標準マクロビオティック食では、患者の年齢、性別、運動量、個人的ニーズ、生まれながらの環境に応じて患者1人ひとりの食事方針が決定されます。
標準食では規則的にあるいは毎日とる食品、時折とる食品、あまりとってはならない食品、避けるべき食品を次のように定めています。
| 食品カテゴリー | 推奨割合・内容 |
|---|---|
| 穀物類 | 全体量の50〜60%。有機栽培で全粒の穀物(玄米、大麦、雑穀、エンバク、トウモロコシ、ライ麦、小麦、そば粉など) |
| 汁物 | 5〜10%。野菜、海草、穀物、豆類の入った味噌汁か醤油味の吸い物(1日に1から2杯) |
| 野菜 | 25〜30%。地元で有機栽培された野菜。生野菜やピクルスは少量 |
| 豆類・海草 | 5〜10%。あずき、ヒヨコマメ、豆腐、納豆、ワカメ、ひじき、昆布、海苔など |
| 時折とってもよい食品 | 白身魚(週1〜3回)、乾燥または加熱調理した果物、種子類、ナッツ |
| 避けるべき食品 | 肉類、動物性脂肪、卵、乳製品、精製した砂糖、トロピカルフルーツ、コーヒー、アルコールなど |
標準マクロビオティック食では、砂糖だけよりも多種類の炭水化物を、繊維の少ない食物よりも繊維の多い食物を、飽和脂肪酸より不飽和脂肪酸を、精製塩より海塩を、化学肥料で栽培した食物より有機栽培の食物を、加工食品よりも未精製食品を、動物性蛋白質より植物性蛋白質をとることを重要視しています。
がんに対するマクロビオティックの科学的検証
2026年時点での医学的見解
2026年1月現在、医学的に信ぴょう性の高い論文、調査研究において「マクロビオティックががん治療に効果が示された」というものは存在しません。
2007年の世界がん研究基金の報告では、以前にマクロビオティックや菜食ががんの発症を少なくさせるという報告もあるが、現時点では食事法とがんのリスクの関係には確かな結論を下すことはできないとしています。
2016年にイタリアの腫瘍内科学会は、がんにおけるマクロビオティックや完全菜食は栄養状態を悪化させる可能性があるため推奨できないという見解を発表しました。
最新の臨床研究結果
2023年にイタリアで行われた大規模な無作為化比較試験(DIANA-5試験)では、マクロ地中海食(地中海食にマクロビオティックの要素を取り入れた食事)による乳がん再発抑制効果が検討されました。
この試験の対象は、再発リスクの高い乳がん患者さん1,542名で、食事介入群と対照群に分けて5年間の追跡が行われました。
結果として、5年の追跡期間中に食事介入群95名、対照群98名で乳がんが再発し、統計的な差はみられませんでした。つまり、マクロビオティック的な食事介入によって再発を抑制する効果は示されなかったのです。
ただし、推奨された食事への順守度が高かった患者さん(上位3分位)では、順守度が低かった患者さん(下位3分位)に対して再発リスクが0.59倍になったという結果も得られています。
主要医療機関の見解
| 機関名 | 見解 |
|---|---|
| アメリカがん協会 | がん患者さんにマクロビオティックは推奨していない。子供は栄養失調になりやすい可能性がある |
| 英国Cancer Research UK | がん患者さんにマクロビオティックは推奨していない |
| MSDマニュアル(医療専門書) | マクロビオティックのがん治療についての効力を支持するエビデンスはない |
久司氏は著書で、マクロビオティック食があらゆる種類の腫瘍を持つ患者さんに対して「回復への助け」となってきたと述べていますが、これらの主張の根拠となる臨床データは示されていません。
指導者側からは「実証した結果、生存期間が延長した」などの報告がありますが、これらは科学的に適切にデザインされた研究ではなく、医学的なエビデンスとしては認められていません。
マクロビオティック食のデメリット
ビタミンB12欠乏のリスク
マクロビオティック療法に副作用や健康上の弊害の可能性があるという問題は、医学界およびマクロビオティックに関与する人々の間で長い間論争の的になってきました。
過度に制限の多いマクロビオティック食を実践した場合、起こし得る好ましくない作用の1つは、動物性の食物から主に得られる必須栄養素の1つであるビタミンB12の不足です。
ビタミンB12は、赤血球の形成と成熟、細胞の遺伝物質であるDNA(デオキシリボ核酸)の合成、正常な神経機能に必要な栄養素です。
ビタミンB12は主に肉(特に牛肉、豚肉、レバーなどの内臓肉)、卵、栄養強化シリアル、牛乳、アサリ、カキ、サケ科の魚、ツナなどに豊富に含まれています。成人の1日推奨量は2.4μgです。
| ビタミンB12欠乏による症状 | 詳細 |
|---|---|
| 貧血(巨赤芽球性貧血) | 蒼白、筋力低下、疲労、息切れ、めまい |
| 神経障害 | 手足のしびれや感覚消失、筋力低下、歩行困難 |
| 認知機能障害 | 記憶喪失、混乱、認知症の症状 |
| 消化器症状 | 舌痛、悪心、食欲不振、便通異常 |
久司氏は、特定の種類の魚を少量食事に加えるよう指示していることで、この危険性は減るか全くなくなると主張しています。しかし特定の種類の腫瘍(動物性食品の過剰摂取が原因と考えられるもの)には、少なくとも最初の時期は魚を禁じている場合があります。
ビタミンB12は海草やある種の発酵食品など、マクロビオティック食を構成する他の食品で補うことができると久司氏は考えていましたが、これらの食品中のビタミンB12を体が使うことのできる形でとることができるかどうかは疑問視されてきました。
高齢者の10〜24%にビタミンB12欠乏症が認められるという報告もあり、高齢のがん患者さんがマクロビオティックを実践する場合、特に注意が必要です。
ビタミンDとカルシウムの欠乏
また、成長と発育に必要なビタミンDの欠乏もマクロビオティック食に懸念される点でした。
マクロビオティックではビタミンDの主な供給源である乳製品をとらないため、小さな子供などにはビタミンDの不足が起こり得ることを久司氏は認めています。
マクロビオティック食を行っているオランダの子供を対象とした研究によると、それらの子供の成長の度合いは生後5カ月で一般のオランダの子供より低く、その後も幼年時代を通して追いつきませんでした。
ビタミンDやカルシウムが欠乏すると骨粗鬆症になる可能性があります。特にがん患者さんは治療の影響で骨が弱くなりやすい状態にあることが多く、さらなるリスクとなります。
久司氏は子供には魚の肝油などビタミンB12とDを含む食品を食事に加え、太陽の光にあたるよう勧めています。青年や成人の場合は欠乏症が認められない限り、ビタミンDを補足することなく、十分に日光を浴びることを勧めています。
しかし、これらの方法を実行した場合に、マクロビオティック食の実行者がビタミンDの欠乏を解消できるのかどうかは、分かっていません。
がん患者さんが実践する際の注意点
久司氏は著書でがん患者さんに対し、普通の食事ができない場合や消化器系に閉塞がある場合など、すぐにも命に関わる状態でない限り、マクロビオティックと一般的な医学的治療法との併用は奨めていませんでした。
医学的療法と併用した場合は、マクロビオティックのみの場合より回復が遅いというのがその理由です。
しかし現在のマクロビオティックの指導では医学的な治療法の併用に反対してはおらず、以前から行っている医学的治療も継続するよう奨めるように変化しています。
がん患者さんがマクロビオティック療法を行う場合は栄養不足が起こらないよう配慮することが重要とされています。全体としてのエネルギーや蛋白質摂取に関しては問題がないとする検証報告もありますが、ビタミンB12とDに関する不安は解消されていません。
バランスの良い食事の重要性
2026年現在の医学的見解では、がんと診断された後に食生活を変えて、がんが治るという科学的根拠はありません。
しかし、食事・栄養は生命の源であり、がんに罹患することで、より健康的な食生活を取り入れていく必要があります。
体力を維持するために、野菜や果物、豆類、米、肉類などをバランスよく摂る食事の習慣を毎日続けることが推奨されています。
特にがんの治療中には体力や気力も落ちていますし、抗がん剤などによる吐き気で食欲が落ちていることも予想されます。これらを維持するためにも、自分の食欲がわくようなものを積極的に食べることが大切です。
がん治療後の食事については、2016年に合計21万人のがん治療後の患者さん(がんサバイバー)を含んだ117個の観察研究を統合したメタアナリシスが発表されています。
この研究では、健康的な食事が死亡や再発を防ぐという意味で推奨されるとされています。ここで言う健康的な食事とは、野菜や果物、全粒穀物や玄米などの精製されていない炭水化物、豆類、ナッツなどを豊富に含む一方で、バターなどの動物性の油や赤い肉および加工肉を控え目にした食事のことを指します。
マクロビオティックに関する総合的な評価
マクロビオティックは「長く健康的に生きるための方法」という思想であり、食事だけでなく暮らしの中のあらゆる場面に活用することができる考え方です。
有機栽培の野菜や全粒穀物を中心とした食事は、食物繊維やビタミン、ミネラルが豊富であり、一般的な健康維持という観点からは評価できる部分もあります。
実際、2019年のシステマティックレビューでは、マクロビオティックでは血糖制御を改善するという証拠があり、糖尿病管理において効果がある可能性が示されています。
しかし、がん治療に関しては、現時点で科学的に効果が証明されていないというのが事実です。
マクロビオティックを実践する際には、以下の点を理解しておく必要があります。
1. がん治療効果は科学的に証明されていない
2. ビタミンB12、ビタミンD、カルシウムの欠乏リスクがある
3. 栄養不足による健康被害の可能性がある
4. 標準的な医学的治療を優先すべきである
5. 実践する場合は医師や栄養士に相談すること
特に、標準的ながん治療(手術、化学療法、放射線療法など)を中止してマクロビオティックのみに頼ることは、医学的に推奨されません。科学的根拠のない治療法を信じたばかりに、病院での治療を受けなくなり、気づいたときには手遅れになる患者さんもおられることを忘れてはいけません。
がん患者さんの食事については、主治医や栄養士に相談しながら、バランスの良い食事を心がけることが最も重要です。
参考文献・出典情報
がんに効く?! その食事のウソ、ホント | 小野薬品 がん情報
食事でがんを治すことはできるのか?(その3)| カリフォルニア大学ロサンゼルス校 津川友介

