乳がんと診断されたあと、次の段階は治療方法の選択になります。自分で納得する治療方法を選ぶために、医師に必ず聞いておきたいポイントがいくつかあります。
次に挙げるのはどれも、治療を選ぶ手がかりとなるものです。
自分のがんは、どんながんなのか?
「乳がん」とひとくちに言っても、その状態は人によって違います。医師はよく「ステージⅡです」とか「早期がんです」といった説明の仕方をしますが、それだけでは、詳しいことはわかりません。このような時には、次の質問を投げかけてみましょう。
【診断を聞く時の質問】
・がん(しこり)は乳房のどの部分にできているのか
・どのくらいの大きさか
・リンパ節や他の臓器への転移の可能性はあるか
・悪性度は高いのか低いのか(進行の早いタイプか、ゆるやかなタイプか)
また、その診断はどんな検査のどんな結果に基づくのか、診断の根拠を確認することも重要です.正確なことは術後、切除した組織を調べる病理検査でわかるので、手術の前と後、それぞれの段階で説明を受けるようにしましょう。
目の前の方法だけでなく、治療の全体のプロセスを知る
診断の方法やがんのタイプなどがわかったら、今後の治療法について聞くことになります。
まず乳がんの治療法はほぼ「標準治療」が提案されます。標準的な治療法とは、自分と同じようなケースにおいて、例えば「○%の人でしこりが小さくなった」というふうに、科学的なデータによりある程度の効果があると証明されていて、現在、最もよく行われている方法のことです。
基本的に医師は標準治療を薦めてきますし、これがスタンダードだといえるものなので、まずはこれを頭に入れておくことが大切です。
次に、主治医の勧める治療方針を聞きます。特に標準的な治療法とは別の治療方針が出された場合は、その内容と根拠を詳しく説明してもらいましょう。
治療を始める前に大切なのが、全体のプロセスを示してもらうことです。「手術です」といわれると目の前の手術のことで頭がいっぱいになるものですが、乳がんの治療では、さまざまな術前・術後の治療が行われます。
治療の内容は、手術後の病理検査の結果により決まりますが、だいたいの見通しは最初についていることが多いのです。手術と術前・術後療法をどう組み合わせるかも重要な要素なので、全体の治療予定を把握しておきましょう.
【治療法について聞く時の質問】
・今、提示された治療法は標準的なものなのか
・主治医はどんな治療方針を勧めたいと思っているのか
・この治療法を選んだ場合、どのくらいの期間、どこで、どんな治療を受けることになるのか
・日常生活にどのくらいの支障が出るのか
・費用はどの程度かかるのか
複数の選択肢を確認する
乳がんの治療では、選択肢が一つしかないことはまれです。いくつかの治療法の中から選ぶことが可能な場合も多いので、必ずほかの選択肢を聞いておくべきでしょう。
その際は、例えば「標準的な治療より副作用は少ないが、再発の可能性が高くなる」というように、標準的な治療法(あるいは主治医が勧める治療法)と比較しながら説明してもらうと、それぞれのメリット、デメリットがより明確になります。
複数の治療法について比較検討することが、選択の手がかりになることもあります。ひとつの治療法だけを見つめていても、どうすればいいか判断しにくいので、比べることで、何が大切なのか見えてくることもあります。
【治療法の選択肢を聞くときの質問】
・第2、第3の治療法を選んだ場合のメリット、デメリットは?
・どの治療が良いと思われるのか、またその根拠は?
考える時間はどれくらいあるか
乳がんの場合、一刻を争うような状態であることは、それほど多くありません。「すぐに手術しなければ、がんが広がってしまう」と思い込み、焦ってすべてを決めてしまう前に、じっくり考える時間があるのかどうか、主治医に尋ねてみましょう。
「早く手術の日を決めてください」などと決断を急がされるのは、病院側の都合である可能性もあります。病院の都合を言い出す医師も多いのは問題ですが、最も重要なのは自分自身の考えと都合です。
自分の症状が原因で急がねばならないのか、本当にそうなのか、冷静に見極めるためにはある程度の知識とがんに関する情報が必要です。また、決断をつけるためにセカンド・オピニオンをとりたいという場合は、この時に主治医に申し出ておきましょう。
【決断する時に注意すること】
・返事はいつまでに決めればよいのか
・セカンド・オピニオンをとってもよいかどうか
長期的な見通しを確認する
例えば再発率や長期生存率、延命期間再発・進行した場合にどんな治療法があるのかといったことも、治療選択の材料になります。
進行して見つかった場合は、命のリスクに直結することもあります。どうしても気になる場合は延命の可能性など、聞くのがつらいことでも確認しておきましょう。
また、長期的な視野を持つとき、大きなポイントは治療によって「体がどう変化するか」「生活がどう変化するか」の2点です。
手術による乳房の変化や後遺症、抗がん剤による副作用など、これから自分の身に起こるであろうことを、ハッキリと予測しておきましょう。
特に乳房の変化に関しては、医師にきちんと確認し、できれば図や写真で示して説明してもらうことが大切です。「乳房温存術」とひとくちに言っても、切除の範囲はさまざまで、思っていたより変形が大きくショックを受けることも、決してめずらしくありません。
乳房切除術プラス乳房再建術という選択肢もあるので、「温存」という言葉だけに納得せず、図や写真を目で見て確認するようにしてください。また、切除によってリンパ浮腫の可能性や、運動等に制限が出る可能性についても確認しておきましょう。
どんな治療も、リスクやデメリットを伴います。効果があるとか、副作用が少ないとかメリットだけに注目してしまいがちですが、マイナスの面も覚悟しておかなければ、こんなはずではなかったと後悔することになります。
治療の目的や期待できる効果についても、正確に知るべき知識です。そうしなければ、「○○の治療で治ると思ったのに、延命するためだった」「必ず効果があると思ったのに効かなかった」というようにショックを受けることになりかねません。
どんな治療を選ぶにしても、メリットとデメリットをしっかりと把握しておくことが何よりも大切です。「○○の効果が期待できるなら、××の副作用があっても耐えられる」と双方を納得したうえで、治療を始めることが大切です。
以上、乳がんの診断時に確認すべき内容についての解説でした。