肝動脈塞栓療法のおもな副作用は、痛み、発熱、吐き気や嘔吐、それに肝機能の低下です。これらの副作用は、患者の全身の状態、塞栓の範囲、腫瘍の大きさや位置などによって異なります。塞栓の範囲が狭く、腫瘍が小さければ、副作用はそれだけ軽くなります。
副作用を我慢しようと思わず、つらいときには医師に状態を伝えて、必要な薬を処方してもらうほうがよいです。こうした副作用が続くと食欲や体力が落ち、肝臓の状態が悪化することがあるからです。
副作用は一般に、数日~1週間で消えます。2週間以上続くときや、腫瘍の大きさや塞栓の範囲に比べて副作用がひどいときには、肝膿瘍や胃腸の潰瘍など、より深刻な副作用である疑いがあります。
①痛み
抗がん剤や塞栓物質を注入するときに、、胸や腹部に強い痛みや重圧感を感じることがあります。塞栓の位置によっては、肩や腕、背中など、広い範囲にわたって痛みます。痛みは通常、治療後少なくとも2~3日で消えますが、痛みが強い場合は鎮痛薬を投与されます。
②発熱
ほとんどの患者は、治療後3~5日にわたって、37~38度台の熱が出ます。これは、腫瘍が壊死したことに対する体の正常な反応の1つです。
腫瘍が大きく、体がそれだけ多くの壊死した腫瘍組織を処理して、体外へと排出しなければならないときには、熱もそれだけ長く続き、2週間ほど下がらないときもあります。
抗がん剤のジノスタチンスチマラマーを使った場合には、治療後1~2時間後に高熱を発し、寒気を感じることがあります。
③吐き気・嘔吐
冷療後1~2日は吐き気があり、激しく嘔吐することもあります。これも、腫瘍の壊死に対する体の反応の1つです。加えて、抗がん剤の副作用として吐き気をもよおすこともあります。
脳の嘔吐中枢にはたらきかけて、吐き気を抑える薬(制吐薬)などを投与して、吐き気を抑えます。
④肝機能の低下
塞栓療法の後、患者の多くは、3~5日ほど肝臓の機能が低下していきます。その後、しだいに回復します。これはおもに、腫瘍が壊死することが原因です。しかし、広い範囲を治療対象として血管を塞栓したときや、肝硬変が進んでいるときには、正常な肝臓の組織も損傷している可能性があります。
そこで、肝機能の悪化が疑われる場合は、治療後もできるだけ安静を保ち、水分や栄養を十分補給し、肝臓の保護につとめます。
肝臓がアンモニアなどの毒性物質を処理できなくなり、高アンモニア血症や肝性脳症(意識障害)になったときには、アミノ酸製剤(アンモニアの代謝をうながすとともに、体内のアミノ酸のバランスを整える)や、腸がアンモニアを吸収するのを抑える薬などが投与されます。
⑤肝梗塞
塞栓療法ではさらに、肝臓の腫瘍以外の組織の一部にも血液がまったく流れなくなり(肝梗塞といいます)、組織が壊死しはじめることがあります。
これは、1.肝硬変が進んで門脈の流れがとどこおっている、2.肝動脈以外で、腫瘍によってふさがれている門脈の部分も塞栓の範囲に含めた、3.肝動脈の一部が門脈につながっている(短絡路=シャント)ために塞栓物質が門脈に混入した、などの場合に起こることがあります。この場合の腹痛や発熱は、ふつうよりもひどくなります。
⑥肝膿瘍
塞栓を行った後、腫瘍や肝臓の壊死した組織が化膿し、膿がたまった状態(膿瘍)になることがあります。そこで、治療後には肝膿瘍になっていなくても、あらかじめ予防のために抗生物質を投与します。肝膿瘍が確認されたときには、すみやかに針で膿を吸い出すなどの処置が必要になります。
⑦胆襄炎・胆管炎
肝動脈から枝分かれする胆道動脈に塞栓物質が流れ込むと、胆嚢炎や胆管炎を起こすことがあります。ひどいときには、胆嚢や胆管の組織の一部が壊死します。
ゼラチンスポンジの粉末を使ったときには、その可能性が高くなるとされています(胆道動脈への塞栓物質の流入を避けたときでも、胆嚢炎を起こすことはあります)。まれに、針で胆汁を吸い出す処置(ドレナージ術)が必要になります。
⑧胃や腸の潰瘍
肝動脈から分岐する胃動脈や胃十二指腸動脈に塞栓物質が流れ込むと、胃や十二指腸の粘膜が損なわれ、潰瘍を生じます。これは、塞栓物質が流入しなかったときでも、起こることがあります。
ときには、病気や治療に対する心理的ストレスのために、胃の粘膜が弱って潰瘍を起こすこともあります。そこで、治療後すぐに胃腸に異常が見られなくても、抗潰瘍薬などを投与して、潰瘍を予防することがあります。
⑨脾梗塞・膵炎
塞栓物質が肝動脈から別の臓器に向かう動脈へ流れ込んだときに起こる副作用として、ほかに脾梗塞や膵炎があります。脾梗塞では、脾臓の血管が塞栓物質によって詰まり、脾臓の組織が壊死します。
⑩ジノスタチンスチマラマーの副作用
ジノスタチンスチマラマー(商品名スマンクス)は、抗がん性抗生物質のひとつで、油性の造影剤に混ぜて用います。この薬は、がん細胞のDNAを切断することにより、がん細胞を殺します。
ジノスタチンスチマラマーの重大な副作用として、これまでにアレルギー性のショック、肝不全、問質性肺炎、急性腎不全、肝膿瘍などが報告されています。これらはいずれもすみやかな治療を必要とし、治療が遅れると死に至るおそれもあります。
そのため、この薬を使用するかどうかは、患者の肝臓や腎臓の状態、造影剤およびこの薬に対してアレルギーがあるかなどのテストを行って、慎重に決定します。また、治療後は患者に異変がないかよく観察します。
⑪肺動脈塞栓症
これは、治療の直接の副作用ではありません。治療後、止血の際にきつく圧迫すると、静脈に血栓(血の固まり)ができる可能性があります。
安静が解かれたとき、血栓ができたまま起床すると、ときに血の固まりが肺まで運ばれ、肺動脈を詰まらせてしまいます。重症の場合は呼吸困難や心不全に陥り、死に至るおそれもあります。とりわけ肝臓の機能が良好で、血液凝固作用が正常なときには注意が必要です。
以上、肝臓がんの塞栓療法についての解説でした。