手術などの外科的治療を行なった場合は、まず、手術した部位(傷)や体力が回復するのを待ちます。
それと併行して、手術で切除したがん病巣を顕微鏡で見る病理組織検査の結果が検討されます。
結果が出るまで通常2~3週間かかりますが、この間に手術部位も体力も、徐々に回復してくるはずです。
手術でがんが疑われる病巣を完全に除去でき、病理組織検査の結果、進行がんや転移の疑いがなく、良性腫瘍や初期がんだったとわかれば、とりあえず外科的治療は一段落ついたことになります。
その後、手術部位の傷の治り具合や体力の回復が確認され、医師が大丈夫と判断すれば、ほぼ退院可能な状態となります。
また、ごく初期のがんとあらかじめ診断されて手術に臨んだ場合は、手術部位の回復と体力の回復だけを確認し、手術後の病理組織検査の結果が出るのを待たずに退院できるケースもあります。
このような場合には、退院後の外来通院で検査結果を聞くことになります。
がん患者さんは日常生活に戻る準備を経て退院へ
退院可能な状態となっても、手術内容によっては、すぐに退院許可がおりるとは限りません。
手術によって失なわれたからだの機能を補う訓練や、衰えた筋力を取り戻すためのリハビリテーションを行ない、日常生活に支障なく行動できるようになってから、退院が許可されます。
また、退院後のセルフケアのしかたなどをしっかり習得したうえでなければ、退院が許可されないケースもあります。
とくにお年寄りの場合は、手術後寝たまま過ごすことが多いとからだの各部の機能が衰えてしまう廃用症候群が起こり、運動機能が衰えたり、認知症が誘発されやすくなったりします。
その予防策として、少しずつ通常の生活に戻れるようにリハビリテーションが行なわれるため、お年寄りの場合には退院許可のおりるのが若い人に比べて遅れるのがふつうです。
がん患者さんの退院許可に必要な条件
・手術部位の回復と全身的な体力の回復
・リハビリテーションを行なっていて日常生活に支障がない
・術後のセルフケアの指導を受けて習得
・切除部位の病理検査で異常がない
・必要な継続治療が外来通院でも可能
・精神的に落ち着いている(不安感が強すぎない)
退院に不安があれば外出などで様子をみることも
がんの大きな手術のあとは、患者さんの肉体的ダメージも精神的ダメージも大きいので、回復に時間がかかることがあります。
手術以外の治療法でも、病状によっては急激な回復を期待できないこともあります。
このような場合には、なかなか退院の許可がおりないこともありますが、あせらずにまずは今日の状態より明日の状態がよくなっていることをめざして治療を続けることが大切です。
一方、身体的にはいつ退院しても問題なく、医師からも退院許可が出ているのに退院に踏み切れない患者さんもいます。
「このまま退院して本当にふつうの生活に戻れるだろうか」といった患者さんの不安が強いためですが、そのような場合は、患者さんに外出や外泊を何回か経験してもらうことがあります。
病院外の生活に少しずつ慣れることによって、社会復帰への自信がつき退院に対する不安が解消されます。
退院するにあたって準備しておくべきこと
まずは、退院後の外来通院が問題なくできそうかチェックしておきましょう。
病院が遠く、通院にあまりにも時間がかかるようなら、近くの病院に紹介状を書いてもらい、そこへ通院できるようにしてもらいます。
遠いけれど現在入院中の病院に通院したいという場合でも、いざというときに備えて、近くにいつでも診てもらえる医師がいれば安心です。
・退院後の生活指導
食事や運動など、退院後のこまごました生活上の注意、必要な医療処置、薬のことなど、気になることがあれば、医師や看護師に相談して指導を受けておきましょう。
・その他
退院後、ホームヘルパーや訪問看護といった医療福祉サービスを受けたい場合は、保健所や福祉事務所などに問い合わせ、確認しておきます。
近親者の助けがない一人暮らしの場合は、退院後しばらくはホームヘルパーに家事の援助を頼むなど、地域の福祉サービスを活用する方法もあります。
病院の相談窓口で対処法のアドバイスを受けておくとよいでしょう。
在宅療養の環境づくり
退院は、ある程度の体力回復やリハビリテーションの効果が認められてはじめて許可されます。
とはいえ、退院直後は、健康なときと比較すれば体力も体調も万全とはいえません。
しばらくは自宅で療養し、体力・体調の回復に努め、からだを徐々にふつうの生活に慣らしていく必要があります。
そのためにも、心身ともにゆっくり休めるような環境づくりが大切です。
ただし、極端に静かすぎる環境でもいけません。
患者さんがリビングルームから離れた寝室で1日中過ごし、家族から孤立した状態では、かえって孤独感と苦痛を感じさせてしまいます。
この時期には静かな環境とともに孤立しないための配慮が大切です。
家族の人は、患者さんの部屋を訪れたり、患者さんをリビングルームに移動させたりして、時間を決めて患者さんと一緒に過ごすように配慮することがよいといわれています。
介護はベッドまわりに使いやすい工夫を
入院中はベッドとその周囲が生活の中心でした。
その反動で患者さんは、いろいろなことをしてみたいという意欲が強いものですが、退院直後はほとんどの場合、やはりベッドなどの寝床が中心の生活となります。
ベッドがない家庭では畳に布団を敷いた寝具などでかまいませんが、介護が必要な患者さんにとってはベッドのほうが便利です。
ベッドの縁に腰かければ立ち座りがしやすく、介護する人もしゃがまずにすみ、肉体的な負担も軽減されます。
家がせまく、療養のために一室確保できない場合でも部屋の片隅にベッドを置くことで、その周辺を療養の専用スペースとすることもできます。
最近は、背もたれの角度を調節したり高さを変えたりできる便利な介護用ベッドもあるので、よりよい療養環境づくりの一環として、取り入れるのもよいでしょう。
介護用ベッドは、期間を決めてレンタルを利用することもできます。