臓器にがん組織ができると、正常細胞が作らない物質や、微量しか作らない物質を大量に産生することがあります。また、体内にがんが発生することで正常細胞がそれに反応して、ある種の物質を大量に作り出すこともあります。
それを検査することでがんの存在や種類、量などを判定できるものを腫瘍マーカーと呼びます。
腫瘍マーカーとして用いられる物質には次のものがあります
1.がん遺伝子が作り出すもの
2.突然変異によってできるもの
3.正常な細胞が胎生期に作るものと同じような物質
4.ホルモンなどの成長因子にかかわるもの
5.ウイルスに関与するもの など
腫瘍マーカーは血液のほか、尿や、胸水・腹水などの体液の中に見られますが、主に用いられるのは血清腫瘍マーカーです。
腫瘍マーカーの値はどのように使われるのか
腫瘍マーカーとなる物質はおもにたんぱく質ですが、現在では、ホルモン、酵素、アミン、核酸、がん遺伝子なども、そのリストに加えられています。
血液や尿に含まれるこれらの物質を調べると、がんの進行状態や治療成績を見るうえで役に立ちます。
正常な細胞もこれらの物質のいくつかをわずかに放出しますが、がん細胞はずっと大量に放出します。
そこで、たとえば「ある腫瘍マーカーの値がある水準より高ければ、がんが進行している可能性が高い」というふうに判断されます。
また、この現象を利用すれば、腫瘍マーカーを手がかりにしてがんの診断もできることになります。
腫瘍マーカーのもっとも有効な利用法は、次のような場合です。
1.がんが発生した臓器やがん細胞のタイプを調べる。
2.治療法の選択や治療スケジュール決定の手がかりにする。
3.治療の結果、がんが縮小したか再発したかなどを知る指標にする、などです。
診断手段としての確実性はあまり高くない
腫瘍マーカーは、診断手段としての確実性はあまり高くありません。
しかし、たとえば前立腺特異抗原(PSA)のように、がんが比較的初期でも大部分の患者が
陽性を示す腫瘍マーカーもあります。
PSAの問題は、他の前立腺の病気でも高値を示すことですが、他の検査と組み合わせれば、かなり高い確率で初期のがんを発見できます。
そのため、日本でも一部の自治体は、血液中のPSAの測定を前立腺がんのスクリーニング検査(がんの疑いのある人をふるい分ける検査)のひとつとして利用しています。
他方、膵臓がんや卵巣がんのように進行してから発見されることの多いがんでは、スクリーニング検査に利用できる腫瘍マーカーが切実に求められています。
しかし、がんが進行するまで症状があまりないうえに一般的な検診では発見が難しいのです。
膵臓がんにはDUPAN2やCA19-9、卵巣がんにはCA125などの腫瘍マーカーがあるものの、初期に陽性になることは比較的少ないといえます。
そこで、こうしたがんに対して、初期でも陽性値を示す腫瘍マーカーを探す努力が続けられています。
いまその候補として注目されているもののひとつが、血液中に微量に存在するDNAです(遊離DNA)。がん患者の体内を流れる血液には、健康な人に比べて、相当量のDNAが存在していることがわかっています。
これは、おそらくがん細胞が自殺(アポトーシス)し、その結果、がん細胞のDNAが血液中に放出されるためと見られています。
そこで、血液中のDNAを取り出し、その中から腫瘍マーカーとなり得る特徴的な遺伝子を見つける研究が進められています。すでに、いくつかのがんで、がんの早期に高い確率で存在する特徴的な遺伝子が見つかっています。
とはいえ、まだ多くの場合、検査には高度な技術が必要となり、費用も高くつきます。
将来、これらの面が改善されれば、一般のがん検診にもスクリーニング検査として、遺伝子の腫瘍マーカーが導入されることが期待できます。