胃がん抗がん剤治療の基本的な分類
胃がんの抗がん剤治療は、大きく分けて「術後補助療法」と「進行・再発がんに対する化学療法」の2つに分類されます。
それぞれ治療の目的や期間が異なり、患者さんの状態に応じて適切な治療法が選択されます。
術後補助化学療法の最新治療コース
術後補助化学療法は、治癒切除後の微小遺残腫瘍による再発予防を目的として行われる化学療法です。2025年現在、以下の治療選択肢が推奨されています。
S-1単独療法(標準治療)
ACTS-GC試験によりpStageⅡ/Ⅲ胃がんにおいて手術単独と比較したS-1を用いた術後補助化学療法の有効性が報告されており、現在でも標準的な治療として位置づけられています。
- 薬剤:S-1 80mg/m²
- 投与方法:1日2回分割投与
- 投与スケジュール:28日間投与、14日休薬を1コースとして8コース
- 治療期間:約1年間
- 対象:pStageⅡおよびⅢの患者さん
JCOG1104試験によってpStageⅡ胃がんに対して、S-1の1年間投与が標準治療であり、その良好な治療成績(3年無再発生存率93.1%、3年生存率96.1%)が確認されています。
併用療法(pStageⅢ推奨)
pStageⅢの患者さんには、単独療法よりも効果の高い併用療法が推奨されています。
S-1+ドセタキセル併用療法
- S-1:80mg/m² 分2、day1-14
- ドセタキセル:40mg/m² 静注、day1
- 投与スケジュール:21日を1コースとして6コース
CapeOX療法(カペシタビン+オキサリプラチン)
- カペシタビン:1000mg/m² 分2、day1-14
- オキサリプラチン:130mg/m² 静注、day1
- 投与スケジュール:21日を1コースとして8コース
進行・再発胃がんに対する化学療法
切除不能進行・再発胃癌に対する化学療法は、最近の進歩により高い腫瘍縮小効果(奏効率)を実現できるようになったとして、多くの治療選択肢が利用可能になっています。
一次治療(初回治療)
2025年3月の胃癌治療ガイドライン第7版では、HER2陰性の切除不能進行・再発胃がんの一次治療として、化学療法+免疫チェックポイント阻害剤(ニボルマブまたはペムブロリズマブ)併用療法を行うことを強く推奨するとされています。
SOX療法+免疫チェックポイント阻害剤
- S-1:80mg/m² 分2、day1-14
- オキサリプラチン:130mg/m² 静注、day1
- ニボルマブまたはペムブロリズマブ併用
- 投与スケジュール:21日を1コース
従来のSOX療法(単独)
- S-1:80mg/m² 分2、day1-14
- オキサリプラチン:130mg/m² 静注、day1
- 投与スケジュール:21日を1コース
CapeOX療法
- カペシタビン:2000mg/m² 分2、day1-14
- オキサリプラチン:130mg/m² 静注、day1
- 投与スケジュール:21日を1コース
二次治療以降
パクリタキセル療法(weekly)
- パクリタキセル:80mg/m² 静注、day1、8、15
- 投与スケジュール:28日を1コース
ドセタキセル療法
- ドセタキセル:60-75mg/m² 静注、day1
- 投与スケジュール:21日を1コース
イリノテカン療法
- イリノテカン:150mg/m² 静注、day1
- 投与スケジュール:14日を1コース
分子標的薬を用いた治療
胃がんでは、がんの特性に応じて分子標的薬が使用されます。胃がんに対して用いられる代表的な分子標的薬として、トラスツズマブ・ラムシルマブがあります。
HER2陽性胃がんに対するトラスツズマブ併用療法
トラスツズマブは、腫瘍細胞の表面にHER2が過剰に出ているタイプの胃がんで効果が認められています。
HXP療法
- トラスツズマブ:8mg/kg(初回)、その後6mg/kg 静注、day1
- カペシタビン:1000mg/m² 分2、day1-14
- シスプラチン:80mg/m² 静注、day1
- 投与スケジュール:21日を1コースとして6コース
ラムシルマブ併用療法
ラムシルマブは、血管増殖にかかわるタンパク質をターゲットとした分子標的薬として、二次治療以降で使用されています。
免疫チェックポイント阻害剤による治療
胃がんでは、ニボルマブ・ペムブロリズマブという免疫チェックポイント阻害剤の有効性が示され、すでに使用されています。胃がんに対しては、ニボルマブが三次治療以降の選択肢として承認されています。
ニボルマブ(オプジーボ)単独療法
- 薬剤:ニボルマブ 240mg
- 投与方法:2週間に1回静脈内点滴
- 適応:手術による治療が困難な患者さん、または再発をきたした患者さんで、薬物療法を受けたことがある方
ペムブロリズマブ(キイトルーダ)
- 薬剤:ペムブロリズマブ 200mg
- 投与方法:3週間に1回静脈内点滴
- 適応:MSI-H(マイクロサテライト不安定性陽性)の場合
2025年の最新治療動向
2024年3月に胃がん治療薬ビロイ(ゾルベツキシマブ)など抗がん剤3製品が新たに承認されるなど、治療選択肢は拡大を続けています。
バイオマーカーに基づく治療選択
切除不能進行・再発胃がん患者に対し、バイオマーカーに基づいて一次治療を選択することを強く推奨するとされており、以下のバイオマーカーが重要です:
- HER2発現
- PD-L1発現(CPS:Combined Positive Score)
- MSI/MMR状態
- CLDN18発現
高齢患者さんへの治療アプローチ
胃がん術後の補助化学療法は75歳超高齢者にも有効であることが示されていますが、75歳超では、腎機能障害、手術前に症状のある患者、胃全摘術の実施が術後合併症を併発する危険因子として注意が必要です。
治療期間と効果判定
胃がんの抗がん剤治療における一般的な効果判定は以下の通りです:
治療段階 | 効果判定タイミング | 継続期間の目安 |
---|---|---|
術後補助療法 | 2-4週間ごと | 6ヶ月-1年間 |
進行・再発がん一次治療 | 6-8週間ごと | 病勢進行まで |
二次治療以降 | 6-8週間ごと | 病勢進行または忍容性まで |
治療中の注意点と副作用管理
抗がん剤治療中は定期的な検査により副作用をモニタリングします。主な副作用として以下が挙げられます:
化学療法の主な副作用
- 骨髄抑制(白血球減少、血小板減少)
- 消化器症状(悪心、嘔吐、下痢)
- 末梢神経障害(オキサリプラチン使用時)
- 手足症候群(カペシタビン、S-1使用時)
免疫チェックポイント阻害剤の副作用
- 免疫関連副作用(間質性肺炎、大腸炎、肝炎)
- 内分泌障害(甲状腺機能異常、1型糖尿病)
- 皮膚障害(発疹、皮膚炎)
治療選択の個別化
胃がんの抗がん剤治療は、患者さんの年齢、全身状態、併存疾患、がんの特性などを総合的に判断して選択されます。特に以下の点が重要です:
- Performance Status(PS:日常生活動作能力)
- 臓器機能(腎機能、肝機能、心機能)
- 患者さんの治療希望
- QOL(生活の質)の維持
今後の展望
胃がんの抗がん剤治療は急速に進歩しており、新しい分子標的薬や免疫療法薬の開発が続いています。免疫チェックポイント阻害薬と分子標的薬の併用も注目されている状況で、患者さんにとってより良い治療選択肢が提供されることが期待されます。
参考文献・出典情報
- 胃がん治療薬ビロイなど抗がん剤3製品が新たに承認へ - がんプラス
- 「胃癌治療ガイドライン」改訂のポイント~外科治療編~ - ケアネット
- 「胃癌治療ガイドライン」改訂のポイント~薬物療法編~ - ケアネット
- ガイドライン - 一般社団法人日本胃癌学会
- 胃がん 治療 - 国立がん研究センター がん情報サービス
- 胃がんの化学療法について - 国立国際医療研究センター病院
- 免疫療法 もっと詳しく - 国立がん研究センター がん情報サービス
- 胃がん術後の補助化学療法は75歳超高齢者にも有効 - 大阪大学
- 半世紀ぶりに大きく変わる胃がんの1次治療 - 日経メディカル
- D 補助化学療法 - 胃癌治療ガイドライン 第6版 - 日本胃癌学会