がんの民間療法(補完代替医療)とは何か
がんの治療を受ける患者さんの中で、手術、放射線治療、薬物療法といった標準治療以外に「民間療法」「代替療法」と呼ばれる治療法に関心を持つ方は少なくありません。実際の調査データによると、がん患者さんの約半数(53%)が、がんと診断されてからなんらかの補完代替療法を取り入れたという結果が出ています。
民間療法は明確な定義はありませんが、「補完代替療法」や「統合医療」の一部として扱われることがあります。
補完代替療法とは、一般的に従来の通常医療とみなされていない、さまざまな医療、施術、生成物を用いた療法とされています。また、統合医療とは、近代西洋医学を前提として、これに相補(補完)・代替療法や伝統医学等を組み合わせ、さらにQOLを向上させる多種多様な療法と定義されています。
代替医療(CAM)の最新分類【2025年版】
米国の国立補完統合衛生センター(NCCIH)では、2021-2025年の戦略計画において、統合的健康の定義を個人、家族、コミュニティ、人口集団が生物学的、行動的、社会的、環境的な複数の相互関連する領域で健康を改善できる全人的健康へと拡大しています。
現在、補完代替医療は主に以下の2つのカテゴリーに分類されています:
天然産物(Natural Products)
ハーブ、ビタミン、ミネラル、プロバイオティクス、サプリメント、健康食品などが含まれます。日本では漢方薬も保険診療として認められているものもありますが、米国では補完代替医療として扱われています。
心身療法・身体技法(Mind and Body Practices)
以下のような治療法が含まれます:
- 瞑想、ヨガ、深呼吸訓練、催眠療法、イメージ療法
- 鍼灸、マッサージ療法、カイロプラクティック
- 気功、太極拳、音楽療法、アロマセラピー
- レイキ、ヒーリングタッチなどのエネルギー療法
- バイオフィードバック、リラクセーション
がん患者さんの民間療法利用状況【2025年データ】
近年の調査によると、がん患者さんの民間療法利用状況は以下のような状況です:
項目 | 割合・内容 |
---|---|
補完代替医療を利用した患者さん | 約44.6%(日本)、約53%(最新調査) |
最も多い民間療法 | サプリメント、健康食品 |
その他の利用内容 | 運動、マッサージ、温泉・温熱療法、食事療法、マインドフルネス |
利用目的 | 進行抑制、苦痛の緩和、免疫力向上、精神的支え |
2024年の米国での補完代替医療市場規模は344億ドルと推定され、2025年から2030年にかけて年平均成長率23.9%で成長すると予測されており、世界的に関心が高まっています。
がんの民間療法の具体的な種類
がんに関連して利用される民間療法には、以下のような多様な種類があります:
栄養・食事関連療法
- 高濃度ビタミンC療法
- アガリクス、メシマコブ、プロポリス
- サメ軟骨
- 糖質制限食事療法
- 野菜ジュース療法
- 断食療法
物理的療法
- 温熱療法(ハイパーサーミア)
- 酸素療法
- 電磁波療法
- 光線療法
免疫療法(自費診療)
- 樹状細胞療法
- NK細胞療法
- LAK療法
- CTL療法
心身療法
- 心理療法・カウンセリング
- サポートグループ活動
- 芸術療法
- ペット療法
がんの民間療法・代替療法の効果について
がんの民間療法について最も重要なことは、民間療法は、がんそのものへの効果は証明されていません。例えば乳がんの進行を抑えたり、再発を予防したりすることが証明された補完代替医療はありませんと、日本乳癌学会のガイドラインでも明確に述べられています。
症状緩和への効果
一方で、がんやがんの治療による心や体のつらさを和らげる効果が期待できる可能性があるものもあります。具体的には:
- 吐き気に対する鍼治療
- 痛みや不安に対するマッサージ療法
- ホットフラッシュに対する鍼治療
- 適度な運動による体力維持
- 心理療法やリラクセーションによる精神的支援
民間療法を検討する際の注意点
安全性に関する懸念
がんの治療中の民間療法によって、受けているがんの治療の効果が弱くなることや、予期せぬ副作用が出ることもあります。特に以下の点に注意が必要です:
- 健康食品に医薬品成分が違法に添加されている場合がある
- 過剰摂取や極端な制限による健康被害
- がん治療薬との相互作用による治療効果への悪影響
- 栄養状態の悪化による治療継続困難
経済的負担
多くの民間療法は保険適用外のため、高額な費用がかかることがあります。効果が証明されていない治療に多額の費用をかけることは、患者さんやご家族の経済的負担となる可能性があります。
情報の見極め方と信頼できる情報源
民間療法に関する情報を評価する際は、以下の点を確認することが重要です:
- いつの情報か(最新性)
- 誰が発信しているか(信頼性)
- 何を根拠にしているか(科学的根拠)
- 利害関係はないか(中立性)
信頼できる情報源
- 国立がん研究センター がん情報サービス
- 厚生労働省「統合医療」情報発信サイト
- 日本癌学会などの専門学会
- がん診療連携拠点病院
- 米国国立がん研究所(NCI)
世界の補完代替医療研究動向【2025年】
米国NCCIHでは2021-2025年戦略計画において、全人的健康の概念を導入し、生物学的、行動的、社会的、環境的な複数の領域での健康改善を目指しています。
研究の重点分野として以下が挙げられています:
- 複雑な補完的アプローチの基本的メカニズム解明
- 全人的アプローチと従来治療の統合研究
- 健康増進、回復力、疾病予防、症状管理の研究
- 補完統合健康研究者の育成
まとめ:がんの民間療法との適切な向き合い方
がんの民間療法・代替療法は多くの患者さんが関心を持つ分野ですが、現時点では以下の点を理解することが重要です:
- がんそのものを治す効果は証明されていない
- 症状緩和や心の支えとしての効果が期待できるものもある
- 安全性や治療への影響について医師との相談が必須
- 信頼できる情報源からの正確な情報収集が大切
参考文献・出典情報
- 国立がん研究センター がん情報サービス「がんと民間療法(健康食品・サプリメント・食事療法を中心に)」https://ganjoho.jp/public/dia_tre/cam/health_food_products.html
- 神奈川県ホームページ「防がんMAP⑦保険診療外の治療(民間療法・補完代替療法)」https://www.pref.kanagawa.jp/docs/nf5/ganntaisaku/bouganmap7.html
- 四国がんセンター「補完代替医療ってなに?」https://shikoku-cc.hosp.go.jp/cam/camwhat/index.html
- 肺がんとともに生きる「民間療法(補完代替医療)を信じる?信じない?」https://www.haigan-tomoni.jp/useful/health_literacy/literacy04.html
- 一般社団法人日本がん難病サポート協会「統合医療とは?」https://www.cancer-support.net/integrated-medicine/
- 病気と治療の検索サイト「がんと補完代替療法 民間療法などは具体的な資料を持って担当医に相談しましょう」https://medical-b.jp/b01-02-028/book028-62/
- 同仁クリニック「がん治療における民間療法とは?」https://dojin.clinic/column/3483/
- 小野薬品 がん情報「再発と補完代替療法〜皆さまへ〜」https://p.ono-oncology.jp/support/feeling/recurrence/cam_all/01.html
- 患者さんのための乳癌診療ガイドライン2019年版「Q60.免疫療法,高濃度ビタミンC療法,アガリクスやメシマコブなどの補完代替医療は乳がんに対して効果が期待できますか」https://jbcs.xsrv.jp/guidline/p2019/guidline/g8/q60/
- NCCIH Strategic Plan FY 2021–2025https://www.nccih.nih.gov/about/nccih-strategic-plan-2021-2025