がん治療では「セカンドオピニオンを受けましょう」とよく言われますが、いつ、どのタイミングで受けて、どんな質問をすればよいのか?は悩ましい問題だといえます。
がんに関するセカンドオピニオンはそもそもどの病院に行けばよいか分かりません。せっかくお金を払って(基本的に保険適応外で有料です)行くからには、有益な時間にしたいものです。
私もセカンドオピニオンについてはよく質問を受けます。最も難しいのが「どの病院で受けるべきか」ですが、これについては個別の対応になるのでこの記事では触れません。
この記事では、上手なセカンドオピニオンを受けるコツや準備、受けるタイミングや質問例について解説します。
主治医は患者に十分な説明をしなければならない
がんの検査から治療に入る段階において、主治医となる医師は患者に十分な説明をしなければなりません。これをインフォームド・コンセントといいます。
インフォームド・コンセントとは、医師が患者に診療目的や内容などを十分に説明し、患者が理解・納得した上で、患者の承諾を得てから治療にあたることをいいます。
「十分な説明に基づく同意」とか「説明と同意」などと訳されますが、この用語には医学的、倫理的、社会的など多くの面が含まれており、一言ですべてを表す適当な日本語がないことからインフォームド・コンセントという原語そのままを用いられることが多いのです。
かつての米国では、インフォームド・コンセントは、患者が権利を主張し、医療従事者は訴訟に備え責任を回避するという対立的な面があったと言われます。
現在の日本でも医療従事者側はインフォームド・コンセントの承諾書にサインを貰えば法律上責任を問われることはない、患者側からはインフォームド・コンセントは医師が患者に十分に説明することであり、説明外のことが生じたら告知義務違反で責任を問うことができる、と本来のインフォームド・コンセントの目的から外れた理解がされていないとは言えません。
インフォームド・コンセントの概念と目的は、医療従事者と患者が同等の立場に立ち、協力し合って疾病を治す目的のために行うものであり、患者の生命・身体に関する判断は患者自身が行うべきという、患者を中心とした発想です。
そこで医療従事者からは、診断に基づいた患者の病状、治療内容・方法、検査の目的・意味、治療の問題点・危険性、治療の効果や治癒する確率、その治療以外の選択肢と予想される結果、経費などが説明されます。
これらの説明が足りていないときや分からない場合は、患者はそれを伝えて医師は回答しなければなりません。
患者は自分で納得できるまで繰り返して説明を聞き、自分の意志と責任で、最終的に自分の受けたい治療を選ぶことが重要です。
がん治療におけるセカンドオピニオンの位置付け
まずは主治医からきちんと説明を受けることが第一で、分からないことがあれば主治医に確認するのが基本です。
しかし、インフォームド・コンセントで治療法の特徴を理解できても、いざどの治療法にするかを選べといわれて悩んでしまうこともあります。さらに「主治医が説明した治療法が全てなのか確認したい」という気持ちも生まれるでしょう。
そんなとき、第三者の意見を聞く行為をセカンドオピニオン(第二の意見)といいます。
病気の理解を深めるために現在の主治医以外の専門医の診断、治療方針などの意見を聞いて情報を収集することが目的です。
セカンドオピニオンが主治医の診断や治療方針と一致すれば、「どの病院でも同じ対応になるのだ」と納得することができたり、セカンドオピニオンによって、主治医に提示された以外の治療法を教えられたりすることもあります。
セカンドオピニオンを受ける準備
・現在の担当医の説明をよく聞き、自分の症状や提案された治療法について、よく理解する。
・そのうえで、「なぜ別の医師の意見を聞きたいのか」を考え、その理由をあげてみる。
・セカンドオピニオンを受けたい理由と、他の医師に質問したい事柄を箇条書きにしてメモにまとめる。
・質問したい内容に適した病院を選ぶ。
・申し込み方法(予約の取り方)、費用などを問い合わせる。
・現在の担当医師に申し出て、資料(紹介状、検査結果など)を用意してもらう。
・セカンドオピニオン先に訪問する。
・セカンドオピニオンを受けたら、その内容を主治医に報告すると同時に、今後どのようなアクションを取るのか、どのような治療を受けたいのか主治医に話す。
セカンドオピニオンには紹介状と検査資料が必要
セカンドオピニオンを受け持つ医師はその時に初めて患者と対面するのですから、セカンドオピニオンの受診時には検査結果や治療経過の詳細を記した紹介状と参考となるレントゲン写真やCT検査などの資料を持っていくことが必要です。
これらなしではよいセカンドオピニオンは得られません。手ぶらで突然行く、ということは避けましょう。
ですのでセカンドオピニオンを受けたいときは、主治医に紹介状を書いてもらうことと資料を貸し出してもらうことが必要になるので、はっきりと「セカンドオピニオンを受けたい」と申し出ることになります。
セカンドオピニオンを受けるタイミング
セカンドオピニオンを受けるタイミングは「いつでもよい」です。特にこの時期やタイミングでないとダメ、ということはありません。
とはいえ、いくつか適切なタイミングはあります。それは
1.検査結果が出たときに診断について他の医師に意見を聞く
2.治療方針が示されたときに他の医師に意見を聞く
3.治療中に他の医師に意見を聞く
です。
タイミング1.検査結果が出たとき
「がん」と診断されるときは、ほとんどのがんの部位で「細胞診」を行い、病理検査(採取した細胞を調べてがんかどうか判断する)を実施します。
この検査を担当するのが病理医です。
病理医の数は不足しており、なおかつ病理医すべてが全身どの臓器にも精通しているというわけにもいきません。
よって病理診断には、どうしてもある程度の幅が生じます。
がんの臨床試験の調査では、中央病理診断といって、数人の病理医が臨床試験に登録された摘出標本を見直して診断を確認します。
ここで診断名が変わることや病理医の中で意見が分かれるのも珍しくないといわれています。
がんか前がん病変か、浸潤があるかないか、その程度は浅いか深いかの診断によって
手術の切除範囲が異なります。
標本に特徴的な所見があれば診断は容易ですが、特徴にとぼしい症例などでは診断も難しくなり、迷いが出てきます。
こうした診断の難しい症例は、より詳しい病理医によって確認が行われます。
治療のセカンドオピニオンも重要ですが、病理診断のセカンドオピニオンのニーズも高まってきています。
タイミング2.治療方針が示されたとき
もっとも多いのがこのタイミングです。「手術になる」場合でも、手術の範囲はどこからどこまでなのか、どんな術式で手術をするのか、などの詳細があります。
基本的な手段はガイドラインで定められていますが、どこの病院でも全く同じ、というわけではありません。
主治医が外科医なら基本的に手術が前提ですが、放射線治療も可能な場合があります。また、手術の前に化学療法をやるのかなど前後の手段も異なる場合があるので、「結果は同じだとしてもセカンドオピニオンは受けておきたい」というニーズが生まれます。
タイミング3.入院中や治療中
セカンドオピニオンは、治療前だけではなく、入院中や治療中であっても利用できるもので、疑問があって、ほかの意見を求めたいのであれば、ほかの病院を訪ねることができます。
たとえば、
「進行がんで、抗がん剤治療を行っているが、別の治療法はないのだろうか?」
「手術前の入院が決まったが放射線治療の可能性はないのだろうか?」
「積極的な治療はせずに、痛みの治療だけをするにはどうしたらよいだろうか?」
このような場合です。
セカンドオピニオンを求める際には、「何が疑問なのか」「何が納得できないのか」を事前に整理して、相談の場に臨むことが大事です。
主治医の紹介状やこれまでの治療に関する情報は必要なので、必ず主治医に相談しましょう。
治療進行中であっても「今の治療方法も良いと思いますが、いろいろ納得したいので、ほかの病院の意見も聞いておきたいのです。紹介状を書いてくださいますか?」と医師の立場を尊重したうえで依頼すればほとんどの医師は対応してくれます。
セカンドオピニオンでは質問の準備を
セカンドオピニオンを効率的に受けるためには、何が疑問点か、何を知りたいか、明確にしておくことが重要です。
セカンドオピニオンを求められる医師は、言ってみれば、ぶっつけ本番で医師としての意見を求められるのです。
担当医として最初からつきあってきた患者さんであれば、短い期間ではあっても、何回か接する間に「あなたの場合にはこの治療法が向いていて、こちらの方法は向いていないかもしれない」などというアドバイスができますが、その場限りの患者さんにはそこまで踏み込んだアドバイスはできません。
その違いをわかったうえで、当日に臨みましょう。
セカンドオピニオンでの質問例
聞きたい、と思っていることを聞いてみるのがセカンドオピニオンです。
例えば、「がんという診断がありましたが、希少なタイプのがんなので、別の専門医にも病理の結果を見てもらいと思いました」
「A病院では、このように診断されました。いまの状態では、このような可能性と危険性があります。切除しない場合は、このような予後になるといわれましたが、どう思いますか」などです。
なお、治療法を患者が考えるうえで必要な情報は以下のとおりです。
1.現時点での病名
2.現時点でのがんの病期判定
3.治療の目的
4.治療のリスク
5.治療成績(成功率、合併症発生率など)
6.予測される治療期間
7.治療を実施した場合の予後(その後の経過)
8.治療後の定期的な検査とケア。二次的な治療の有無
9.予測される医療費
10.他の治療・検査の可能性
11.提案した治療を実施しなかった場合の予後
基本的には主治医に説明を求めれば分かるものが多いですが、セカンドオピニオンで聞くことが多いのが「10.他の治療・検査の可能性」です。
他の治療法の話がでれば、その治療に関して「目的、リスク、治療成績、治療期間、予後」などを確認していく、というのが上手な質問の仕方だといえます。
セカンドオピニオン受けた後の行動
セカンドオピニオンを受けた場合には、セカンドオピニオンを担当した医師から主治医にその内容を記した回答書が送られますので、その結果を基に主治医と今後の治療方針を相談して決めることになります。
もしセカンドオピニオンと主治医の方針とが違った場合には、さらに第3の専門医の意見を聞く、あるいは主治医とよく相談して自分が納得できる方法を選ぶことになります。
場合によっては主治医に紹介してもらって病院を変わることもあります。
セカンドオピニオンが必ずしも正しいとは限らないので、それを判断するだけの知識も必要になります。