甲状腺がんの場合、それがどんな種類のものでも(悪性リンパ腫を除き)、手術で病変部分を切りとるのが、現在では最もよい治療法とされています。
甲状腺がんは、他の臓器のがんと異なり、発育も遅く、他の部位への転移も少ない、比較的おとなしい性質を持っています。
しかしその反面、抗がん剤や放射線照射治療は、甲状腺がんにはあまり効きません。したがって、甲状腺がんを治すには、手術が第一優先となります。
甲状腺がん手術の合併症
甲状腺がんが早期に発見された場合は、手術で切除する範囲も少なく、合併症が起こることはほとんどありません。
いっぽう、がんが進行して広範囲の手術をした場合、起こりやすいのは、声帯のマヒや、副甲状腺機能低下症です。
甲状腺の右葉と左葉は声帯につながり、声帯の働きをつかさどっている反回神経(甲状腺の後ろを走っている)とも接しています。そのため反回神経まで、がんにおかされるケースが稀に見られます。その場合は、反回神経まで手術で切除せざるをえません。
片方の反回神経を切除すると、声がかすれ、しゃがれ声になります。反回神経を両方ともとると、声が出なくなり、呼吸が苦しくなります。そのような際は、気管切開をしなければなりません。
また、甲状腺を全摘する場合は、甲状腺の背部にある副甲状腺が切除されてしまうことがあります。
副甲状腺は、血中のカルシウムの代謝を調節するホルモンを分泌していますので、それが切除されると血中カルシウムが低下して、テタニー症状(手指や口の周囲のしびれ)が起こることがあります。テタニー症状は、カルシウム製剤やビタミンD3製剤を内服すれば改善されます。
手術後の甲状腺がんの再発
甲状腺がんの再発は、他の部位のがん(胃がんや乳がんなど)とくらべると、ずっと少ないといえます。
再発する場合、大部分はリンパ節に起こります。再発した場合でも、やはり他のがんと違って、もう1度手術をすることができます。
しかし甲状腺がんも再発することがあります。乳頭がんの場合は、ほとんどが局所(甲状腺)での再発で、肺や脳への転移はめったにありません。再発するにしても遠隔再発ではなく、片方の甲状腺がんを切除したあと、もう一方の甲状腺に転移・再発する、というケースがほとんどです。
しかし、再発したからといって心配することはありません。再手術で腫瘍をきちんととり切れば、治療は成功といえます。再発していない患者さんと、ほぼ同じ生存率が確保されます。
なお、術後は1年から1年半に1回のペースで、超音波(エコー)検査と細胞診による定期検査を必ず受けるようにすることが大切です。
以上、甲状腺がんの治療についての解説でした。