放射線治療は現在、がんの三大治療法の一つとして確立された治療方法です。2025年現在、技術的な進歩により、従来よりも正確で副作用の少ない治療が可能になっています。この記事では、放射線治療の効果が期待できるがんの部位と、効果が限定的ながんの種類について、最新の情報をもとに詳しく解説します。
放射線治療の基本的なメカニズム
放射線治療は、高エネルギーの放射線をがん細胞に照射することで、がん細胞の遺伝子(DNA)を損傷させ、細胞分裂を阻止したり細胞を死滅させたりする治療法です。放射線はがん細胞だけでなく正常細胞にも影響を与えますが、がん細胞は正常細胞よりも放射線に対して脆弱で、修復能力も劣るため、この差を利用して治療効果を得ます。
2025年現在、CT画像やMRIを用いた三次元原体照射(3D-CRT)や強度変調放射線治療(IMRT)などの高精度技術により、がん病巣に集中的に放射線を照射し、正常組織への影響を最小限に抑えることが可能になっています。
放射線治療の効果が高いがんの部位
頭頸部がん
頭頸部は眼、鼻、耳、のどなど重要な臓器が複雑に組み合わされた部位ですが、放射線治療が特に効果的な領域です。形態や機能(発声、咀嚼)の温存が可能で、早期がんについては手術療法と比べてもほぼ同じ治癒率が期待できます。
がんの種類 | 効果の程度 | 特徴 |
---|---|---|
舌がん | 高い | 機能温存が可能 |
咽頭がん | 高い | 嚥下機能の保持 |
喉頭がん | 高い | 音声機能の温存 |
鼻・副鼻腔がん | 中〜高 | 粒子線治療も選択肢 |
肺がん
肺がんにおける放射線治療は、病期やがんの種類によって適応が決まります。2025年現在、以下のような治療が行われています。
早期の非小細胞肺がん(I期・II期)では、手術が困難な患者さんに対して定位放射線治療(SBRT)が広く普及しています。この治療法では、がんに多方向から高線量を集中させることで、手術と同等の治療効果が期待できます。2024年6月からは、特定のがん種に対して粒子線治療も保険診療として受けられるようになりました。
局所進行非小細胞肺がん(III期)では、手術で完全に取り除くことが困難な場合、化学放射線療法が標準治療として行われます。この治療では、放射線治療と化学療法を同時に行うことで、治療効果の向上が期待されます。化学放射線療法完遂後には、免疫チェックポイント阻害薬であるデュルバルマブを最大1年間投与することで、根治の可能性がさらに向上します。
乳がん
乳がんの放射線治療は、主に手術後の再発予防を目的として行われます。乳房部分切除術後には、原則として残った乳房組織に対して照射を行います。これにより、残された乳房内での再発の可能性を大幅に減少させることができます。
標準的な治療では、1日1回、週5回、約4〜6週間かけて照射を行います。近年では、治療期間の短縮を目的とした寡分割照射法も普及しており、50歳以上で特定の条件を満たす患者さんでは、従来の方法と同等の効果と副作用で治療を受けることができます。
前立腺がん
前立腺がんは放射線治療が非常に効果的ながんの一つです。根治的放射線治療の効果は手術と同等と考えられており、尿失禁や性機能障害などの副作用の割合は手術と比べて低いとされています。
治療方法には外部照射療法と組織内照射療法があり、それぞれに特徴があります。悪性度が比較的高い中間リスクや高リスクのがんでは、放射線治療と同時またはその前後に内分泌療法(ホルモン療法)を組み合わせることで、より高い治療効果が期待できます。
2018年4月から重粒子線治療も保険診療となり、5年後のPSA非再発率は低リスク群・中間リスク群で90〜95%、高リスク群で85〜90%程度と良好な成績が報告されています。
食道がん
食道がんでは、放射線治療単独または化学療法との併用(化学放射線療法)が行われます。化学放射線療法では、臓器の働きや形を保ちながら治療できる利点があります。
2025年2月の最新の研究では、切除不能な局所進行食道扁平上皮がんに対して、標準治療である放射線化学療法に免疫チェックポイント阻害薬アテゾリズマブを併用することで、42.1%の完全奏効が認められ、従来の15-20%よりも大幅に改善することが報告されています。
放射線治療の効果が限定的ながんの種類
胃がん
胃がんは、一般的に放射線治療の効果が限定的とされるがんです。胃は蠕動運動により常に動いており、正確な照射が困難であることが主な理由です。また、胃の周囲には放射線に敏感な小腸や腎臓などの臓器があるため、十分な線量を照射することが困難です。
そのため、胃がんの標準治療は手術と化学療法が中心となり、放射線治療は症状緩和目的で限定的に使用されることがあります。
肝臓がん
肝臓がんも放射線治療の効果が限定的ながんの一つです。肝臓は放射線に対して比較的敏感な臓器であり、正常な肝組織への影響を考慮すると、十分な治療線量を照射することが困難です。
ただし、近年では定位放射線治療や粒子線治療の技術向上により、限定的ながら肝臓がんに対する放射線治療の適応も拡大してきています。特に手術や他の治療法が困難な症例では、選択肢として検討される場合があります。
大腸がん
大腸がんにおいても、放射線治療の効果は限定的です。直腸がんでは術前または術後の補助療法として放射線治療が使用されることがありますが、結腸がんでは一般的に放射線治療は行われません。
これは、腸管が放射線に敏感であることと、周囲の小腸への影響を避けることが困難であることが理由です。
放射線治療の種類と最新技術
外部照射療法
体の外から放射線を照射する最も一般的な方法です。2025年現在、以下のような高精度技術が使用されています。
- 三次元原体照射(3D-CRT):がんの形状に合わせて正確に照射
- 強度変調放射線治療(IMRT):照射強度を調整し、正常組織への影響を最小化
- 画像誘導放射線治療(IGRT):治療位置を正確に補正
- 定位放射線治療(SBRT):高線量を集中的に照射
内部照射療法
放射性物質を体内に挿入する小線源治療や、放射性医薬品を投与する核医学治療があります。前立腺がんや子宮頸がんなどで効果的に使用されています。
粒子線治療
陽子線や重粒子線を用いた治療で、従来のX線よりも正確にがん病巣に線量を集中させることができます。2025年現在、保険適用の範囲も拡大しており、特定のがん種に対してより多くの患者さんが治療を受けられるようになっています。
放射線治療の副作用と対策
急性期副作用
治療中または終了直後に起こる副作用で、主に以下のようなものがあります。
- 放射線皮膚炎:照射部位の皮膚の赤みや乾燥
- 疲労感:治療期間中の全身倦怠感
- 局所的な症状:照射部位に応じた特有の症状
これらの症状は適切なスキンケアや対症療法により管理可能です。
晩期副作用
治療終了後半年から数年経過してから現れる副作用です。現在の高精度技術により、発生頻度は大幅に減少していますが、以下のようなリスクがあります。
- 放射線誘発がん:極めて低い確率
- 臓器機能障害:照射部位に応じた機能低下
- 組織の線維化:照射部位の組織が硬くなる
治療選択時の重要なポイント
がんの特性と病期
放射線治療の適応は、がんの種類、病期、患者さんの全身状態により決定されます。特に、がん細胞の放射線感受性は、がんの組織型により大きく異なります。
患者さんの状態
年齢、合併症の有無、期待される生存期間、患者さんの希望など、総合的な判断が必要です。特に、治療による生活の質(QOL)への影響を十分に検討する必要があります。
他の治療法との比較
手術、化学療法、免疫療法など、他の治療選択肢との比較検討が重要です。多くの場合、これらの治療法を組み合わせた集学的治療が行われます。
2025年の放射線治療の展望
2025年現在、放射線治療分野では以下のような進歩が見られています。
- AI技術の導入による治療計画の最適化
- 免疫療法との併用による治療効果の向上
- 新たな放射線増感剤の開発
- リアルタイム画像ガイド下治療の普及
- 個別化医療に基づく治療選択
これらの技術革新により、より多くのがん種で放射線治療の効果が期待されるようになってきています。
放射線治療を検討される患者さんへ
放射線治療は、比較的早期のがんで特に高い治療効果を発揮する治療法です。「放射線療法は、治癒できない進行がん患者さんが対象」という誤解もありますが、実際には早期がんこそ放射線治療の得意分野といえます。
まとめ
放射線治療は、がんの種類や部位により効果に差があります。頭頸部がん、肺がん、乳がん、前立腺がん、食道がんなどでは高い効果が期待できる一方、胃がん、肝臓がん、大腸がんでは効果が限定的です。
2025年現在、技術的な進歩により治療精度が向上し、副作用も軽減されています。特に、粒子線治療の保険適用拡大や免疫療法との併用など、新たな治療選択肢も増えています。
参考文献・出典情報
- 国立がん研究センター がん情報サービス|放射線治療
- 日本放射線腫瘍学会|放射線治療Q&A
- 国立がん研究センター|放射線治療の種類と方法
- 国立がん研究センター|食道がんに対する免疫チェックポイント阻害薬併用治療研究
- 国立がん研究センター|肺がん(非小細胞肺がん)の治療
- 国立がん研究センター|乳がんの治療
- 国立がん研究センター|前立腺がんの治療
- 神奈川県立がんセンター|前立腺がんに対する重粒子線治療
- 日本肺癌学会|肺癌診療ガイドライン2024年版
- オンコロ|がん治療における放射線療法の意義を考えよう