密封小線源療法(ブラキセラピー)とは
前立腺がんで行われる放射線療法には2つあり、1つは外部からの放射線照射、もう1つが組織内照射療法=内部からの照射です。これは前立腺がん独特の治療法で放射性同位元素(ヨード-125)を密封した線源を前立腺内に埋め込みます。これを密封小線源療法(みっぷうしょうせんげんりょうほう)とも呼ばれます。
治療は全身麻酔のうえ、直腸に挿入した超音波探子(プローブ)で内部を確認しながら、線源(直径1mm弱の細い針)を会陰部から刺し入れて、前立腺内に配置します。治療後はCTで線源の配置を確認します。開腹したり、穴をあけたりするわけではないので2時間ほどですみます。
密封小線源療法の対象となるのは、低リスクの前立腺がんです。低リスクのがんの場合は、手術で全摘出したときと同程度の治療効果、外照射療法と比べても同じくらいの治療効果が得られるとされています。
ただし、中リスク・高リスクのがんになると、手術や外照射療法よりも治療効果が劣ります。一般的に密封小線源療法が勧められるのはグリソン・スコア6以下の患者さんで、PSA値は10ng/ml未満、TNM分類はT2以下、できれば触診でほとんどわからない程度のT1です。
密封小線源療法はリスクの程度によって、期待される治療効果がはっきり違ってくることが重要なポイントです。リスク分類と治療効果の関係を把握したうえでこの治療法を選ぶ多くの理由は、外科的な手術や放射線の外照射療法よりも、前立腺以外への影響が軽減されることです。
男性機能(勃起能力)にかかわる神経への障害を抑えることができ、ほかの治療法に比べて男性機能の維持が期待できる治療法といえます。とはいえ、男性機能が維持されるのも40~80%であり、100%ではありません。
すでに記載したとおり密封小線源療法にもっとも適しているのは、低リスクのがんですが、それ以上のがんにまったく行わないわけではありません。さらに進行した、たとえば中リスクのがんであっても、患者がQOL(生活の質)を考慮して密封小線源療法を希望した場合は、行われることもあります。
その場合には、線源を配置し終わったあとで、放射線の外照射を加えます。ただし、治療効果に関しては、明確な結論は出ていません。
前立腺全体に放射線がいき渡るように埋め込む
密封小線源療法で針を埋め込む場合、針の周囲3mmが放射線の当たる範囲となります。刺す本数によって、前立腺全体に放射線が照射されるように設定します。通常は100本ほどで全体をカバーできます。
ただし、前立腺肥大がある場合は、刺す針も増えることになります。そこで、ホルモン療法と同じ薬を用いて、前立腺肥大を抑える治療を先に行います。これによって治療が円滑に進み、無駄な費用を節約できます。あまりに肥大が進んでいる場合には、密封小線源療法は不可能と判断されることもあります。
そのほか、前立腺のなかに結石(石灰化した物質)が多い場合や、前立腺肥大症の治療のために、過去に手術を受けたことがある場合も、密封小線源療法ができないことがあります。
副作用としては、線源を埋め込んだあと、およそ半年にわたり強い排尿障害が見られます。このような副作用としての排尿障害は、とくに治療を受けなくても、治療後1年ほどで治ります。それを待つのが辛い場合は、辛さを軽減する治療を行うことがあります。
また、密封小線源療法であっても、膀胱や直腸といった近くの臓器への影響がまったくないとはいえません。治療後何カ月も経ってから、出血や直腸炎がおこることもあります。そのような兆候が見られたら、必ず医師に伝えるようにしましょう。
放射線を出す物質が体内に存在するのに危険はないのか?
この治療で用いられる放射性物質のエネルギーはたいへん小さく、放射線の影響は針の周囲3mmに限られています。それ以上の範囲に放射線が届くことはなく、患者自身や体外への影響はありません。
ただし安全のために、この治療を受けた日は、患者さんの部屋への立ち入りは禁止になります。なお線源から発せられる放射線量は徐々に弱まり、約1年でほぼゼ口になります。
退院後は、周囲の人にもまず影響はないのですが、赤ちゃんや妊婦さんとの長時間の接触は避けたほうがよいなど、身近な人との接し方には注意が必要な場合もあります。
退院の際に、担当の医師から説明があるはずなのでよく確認するようにしましょう。また、性交渉は約4週間後から可能になりますが、1年間はコンドームを使用することが推奨されます。
ごくまれに、尿とともに線源が排出されることがあります。その場合、線源には直接手で触れないようにして、箸などを使って回収するようにしましょう。退院時に梱包容器が渡されることもありますが、特別な容器でなくても、空ビンなどに密封して入れ病院に連絡しましょう。
以上、前立腺がんの密封小線源療法に関する解説でした。