
がん治療における漢方薬の位置づけと活用法
こんにちは。がん治療専門アドバイザー、本村ユウジです。
がん患者さんやそのご家族から「漢方薬は本当にがんに効くのか」「どのように活用すればよいのか」というご質問を多くいただきます。
2026年現在、がん治療における漢方薬の役割は、以前と比べて科学的な検証が進み、明確になってきています。ただし、漢方薬が直接がん細胞を攻撃して消滅させるという意味での「抗がん作用」については、ほとんどの医療用漢方製剤でエビデンスが確立されていません。
むしろ漢方薬の真価は、手術・抗がん剤・放射線治療といった西洋医学的な標準治療を受ける際に、その治療効果を支え、副作用を軽減し、患者さんの生活の質を維持向上させる「補完医療」としての役割にあります。
実際に、日本東洋医学会が2025年に発表したEKAT2025(Evidence Reports of Kampo Treatment)では、594件のランダム化比較試験やメタアナリシスが報告されており、そのうちがんに関する研究は105抄録、126論文にのぼっています。
このような科学的検証の積み重ねにより、現在では多くの診療ガイドラインに漢方薬が記載されるようになり、がん専門病院においても漢方外来が設置されるケースが増えています。
医療用漢方エキス製剤と品質管理
まず理解しておきたいのは、医療機関で処方される医療用漢方エキス製剤と、民間の漢方薬では、品質管理の水準が大きく異なるという点です。
医療用漢方エキス製剤は医薬品として製造されており、原材料の栽培・採取から製造工程に至るまで厳密な管理が行われています。製品の安全性や品質は製造販売企業によって保証されており、2026年現在、148種類の医療用漢方エキス製剤が保険適用されています。
これに対して、医薬品として承認されていない漢方薬では、製品の安全性の検証や品質管理はまちまちで、製品によって品質に大きな差があることを知っておく必要があります。
また、海外では漢方薬はハーブ・食品として補完代替医療に分類されています。ただし、米国などでは漢方薬の有効性を科学的に証明するため、日本の医療用漢方エキス製剤を用いた臨床試験が行われてきた歴史があります。
がん患者さんが漢方薬を利用する際の基本的な考え方
がん患者さんが漢方薬を利用する際には、いくつか押さえておくべき重要なポイントがあります。
第一に、何らかの自覚症状がある場合、その原因が西洋医学的に明確で、かつ有効な治療手段があるなら、まずそれを優先すべきです。手術が可能なら手術を、効果が証明された抗がん剤治療があればそれを、放射線治療が有効ならそれを、まず検討することが基本となります。
しかし、西洋医学で根本的な治療方法がない場合、または治療の副作用や後遺症に対しては、対症療法・支持療法として漢方薬が効力を発揮する場合が多くあります。
西洋医学と漢方医学(東洋医学)のどちらが優れているということではなく、それぞれに考え方や特徴があり、それぞれの良いところを患者さんの状況に合わせて利用するという姿勢が必要です。
西洋医学と漢方医学の考え方の違い
西洋医学は科学的で理論重視、局所的な医学といえます。診療ガイドラインに沿った治療法を確立させることで、ある程度個々の身体の状態を考慮はしますが、比較的画一的な治療法を用いる傾向にあります。
一方、漢方医学は哲学的であり経験重視、全人的で全身の構造や特徴を重視しています。個人の体質・体調を重視し、しかも心と身体は一体であるとする「心身一如」を前提に、一つの器官・臓器のみを重視せず、身体全体の調和を図る全人的医療を目指しています。
したがって漢方医学では、脈、舌、腹証など多くの身体所見と患者さんの訴え(主訴)を参考に治療法を選択するため、同じ腹痛の訴えであっても、身体所見や体質の違いなどにより、異なる漢方方剤が処方される場合があります。これを「同病異治」といいます。
また、西洋医学的には異なる疾患と判断される症状であっても、漢方的診断で同じと判断されれば、同じ漢方方剤が処方される場合もあります。これを「異病同治」といいます。
漢方薬と西洋医薬品の本質的な違い
このような違いが生じる理由の一つは、漢方薬と西洋医薬品の成り立ちが根本的に異なることにあります。
漢方薬は植物、動物、鉱物などの生薬を組み合わせた天然由来の生理活性物質であり、一方で西洋医薬品は化学構造式が決められた単一の化学物質です。
つまり、漢方薬は一つの製剤で複数の作用を発揮するのに対して、西洋医薬品は原則的には一つの製剤で一つの作用を発揮します。このような理由から、漢方医学には「同病異治」「異病同治」という概念が存在することになります。
そのため、漢方薬を西洋医学的な手法による効果の証明、特に画一的な治療法の確立を目指して実施される「人間を対象とした臨床試験」では、漢方薬の効果を適切に判定するのは難しいという意見もあります。
また、基本的に漢方薬は投与方法が経口(口から飲む)のみであるため、漢方薬を利用できる人は経口投与が可能であることが前提条件になります。
さらに、多くの漢方薬は腸内細菌によって修飾されることで効果が出現することがあるため、消化器(胃や腸)の手術の既往や抗生剤の投与などによって、漢方薬による反応に個人差が出てくる可能性がある点が、西洋医薬品とは大きく異なります。
がん治療における漢方薬の科学的検証
2000年以降、人間に対する臨床試験が積極的に行われ、医療用漢方エキス製剤(民間のものではなく医薬品として承認されているもの)の効果を科学的に検証する動きが加速しました。
日本東洋医学会では、国内外の文献を集め、漢方薬の科学的根拠の系統的な検証を継続的に行っています。2025年12月時点で発表されたEKAT2025では、ランダム化比較試験577件、メタアナリシス17件の合計594件のエビデンスが報告されています。
また、2024年時点で161の診療ガイドラインに漢方製剤の記載があり、そのうち120件(75%)で具体的な処方名が記載されています。医療用漢方製剤148処方のうち、約77%にあたる114処方が診療ガイドラインに掲載されているという状況です。
このように、漢方薬の科学的エビデンスは着実に蓄積されており、標準医療の中での位置づけが明確になってきています。
がん治療における漢方薬の具体的な役割
がん治療における漢方薬の役割は、主に以下の3つに整理できます。
1. 化学療法・放射線治療の副作用軽減
2. 生活の質(QOL)の改善
3. 再発・転移の抑制や予後の改善
日本東洋医学会の報告や「EBM漢方」などの文献を参考に、人間に対する臨床試験によって一定の効果が証明されている医療用漢方エキス製剤とその対象となる疾患や症状をまとめると、以下のようになります。
| 症状・合併症 | 用いられる漢方薬 | エビデンスの内容 |
|---|---|---|
| 術後腸閉塞(癒着性)、術後腸管運動麻痺 | 大建中湯(だいけんちゅうとう) | 術後の腸管運動機能改善、腸閉塞症状の軽減 |
| 化学療法・放射線治療による白血球減少、貧血 | 十全大補湯(じゅうぜんだいほとう)、補中益気湯(ほちゅうえっきとう)、人参養栄湯(にんじんようえいとう) | 骨髄機能のサポート、造血機能の改善 |
| 化学療法による食欲不振、吐き気、倦怠感 | 十全大補湯、補中益気湯、六君子湯(りっくんしとう) | グレリン分泌促進による食欲改善、QOL向上 |
| 抗がん剤(イリノテカン)による下痢 | 半夏瀉心湯(はんげしゃしんとう) | グレード3以上の重症下痢の発生率低下 |
| 化学療法による口内炎 | 半夏瀉心湯 | 口内炎の重症化予防、持続期間の短縮 |
| タキサン系抗がん剤による末梢神経障害 | 牛車腎気丸(ごしゃじんきがん) | パクリタキセル、ドセタキセルによる神経障害の予防・軽減 |
| 進行乳がん患者さんの生存期間 | 十全大補湯 | 生存期間の延長効果が報告されている |
特に注目すべき漢方薬のエビデンス
六君子湯については、進行胃がんに対するシスプラチン+S-1療法による食欲不振に対して、クロスオーバーランダム化比較試験で有意な改善効果が証明されています。作用機序として、食欲増進ホルモンであるグレリンの胃壁細胞からの分泌を促進したり、視床下部でのグレリン受容体発現を回復させたりすることが解明されています。
牛車腎気丸は、子宮がん・卵巣がんのカルボプラチン・パクリタキセル療法、および乳がんのドセタキセルを含む化学療法において、末梢神経障害の予防的投与で有意な効果が認められています。ただし、オキサリプラチンによる末梢神経障害に対しては、有効性のエビデンスに乏しく、日本がんサポーティブケア学会のガイドラインでは推奨されていない点に注意が必要です。
漢方薬使用時の重要な注意点
漢方薬は天然由来の生理活性物質ということもあり、副作用がないと思われがちですが、医療用漢方エキス製剤も医薬品である以上、副作用やその他の薬との相互作用には注意が必要です。
医療用漢方エキス製剤を用いる場合の代表的な注意点をいくつか挙げます。
小柴胡湯(しょうさいことう)の禁忌
インターフェロン製剤を投与中の患者さん、肝硬変・肝がんの患者さん、慢性肝炎で血小板が10万/mm³以下の患者さんでは服用してはいけません。
また、甘草含有製剤、グリチルリチン酸およびその塩類を含有する製剤とループ利尿剤(フロセミド・エタクリン酸)、サイアザイド利尿剤(トリクロルメチアジド)との併用には注意が必要です。
間質性肺炎の副作用
大柴胡湯(だいさいことう)、小柴胡湯、柴苓湯(さいれいとう)では、間質性肺炎の副作用報告があります。
甘草(かんぞう)含有製剤の注意
甘草を含む漢方薬は多く、電解質代謝異常(偽アルドステロン症、ミオパシー)に注意が必要です。むくみ、血圧上昇、低カリウム血症などの症状が出現することがあります。
医療用以外の漢方薬について
医療用漢方エキス製剤以外の漢方薬(個人輸入やインターネットなどで入手したものも含む)の場合、利用しても安全かどうかの確認は、基本的に購入者自身が行わなければなりません。その利用にあたっては製造元に確認をとるなどの慎重な対応が必要です。
漢方薬の効果と限界の正しい理解
がん患者さんにとって、漢方薬は以下のような効果が期待できます。
種々のがん患者さんにおいて、十全大補湯、補中益気湯を服用することによって、食欲の改善、倦怠感の改善などQOL(生活の質)を改善する可能性があります。
また、十全大補湯、補中益気湯、人参養栄湯、半夏瀉心湯を服用することによって、抗がん剤や放射線治療の副作用(白血球の減少、貧血、下痢、口内炎など)を軽減できる可能性があります。
消化管手術後の患者さんや腸閉塞の患者さんにおいて、大建中湯を服用することによって腸閉塞の症状を改善する可能性があります。
乳がん患者さんにおいて、十全大補湯を服用すると生存期間を延長する可能性が示されています。
ただし、これらの効果はあくまで「可能性」であり、すべての患者さんに必ず効果があるわけではありません。また、漢方薬単独でがんを治癒させることは現時点では証明されていません。
補完医療としての漢方薬の適切な活用法
2026年現在、がん治療における漢方薬は「補完医療」として位置づけられています。これは、西洋医学による標準治療(手術、抗がん剤、放射線治療)に代わるものではなく、標準治療を補完し、患者さんのQOLを向上させるものという意味です。
米国では先進的ながん専門病院に補完代替医療の診療部門があるのは珍しくなく、西洋医学による治療と並行して、患者さんの苦痛緩和やQOL向上のための治療が提供されています。
日本でも、がん研究会有明病院をはじめとする大規模ながん専門病院で漢方外来が開設され、西洋医学的な最先端のがん治療と並行して漢方治療を受けられる体制が整ってきています。
こうした漢方外来では、西洋医学による積極的治療期や経過観察期に患者さんに適した漢方薬を処方し、苦痛を軽減してQOLを高め、がんと共存しながら、できるだけ普段と同じ暮らしができることを目指しています。
漢方医、漢方外来の活用
漢方薬を適切に活用するためには、漢方医学に精通した医師による診察を受けることが理想的です。
日本東洋医学会が認定する漢方専門医は全国で約2,000名程度存在します。漢方外来を設置している病院やクリニックでは、こうした専門医による診察を受けることができます。
漢方専門医は、時間をかけて問診を行い、脈診、舌診、腹診などを通じて患者さんの「証」を見極め、最適な漢方薬を選択します。
ただし、漢方外来のない一般の病院でも、希望すれば漢方薬を処方してもらえることがあります。通常の西洋医学的な診断を受けた後、保険適用されている医療用漢方薬の中から処方してもらうことになります。
受診しようと考えている医療機関で漢方薬を処方してもらえるかどうか、事前に確認することをお勧めします。
がん治療と漢方薬に関する最新の考え方
2026年現在、がん治療における漢方薬の役割は、以下のように整理できます。
第一に、漢方薬は標準治療に代わるものではなく、標準治療を補完するものです。手術、抗がん剤、放射線治療といったエビデンスのある治療をまず検討し、その上で漢方薬を併用することで、治療の副作用を軽減し、QOLを向上させることができます。
第二に、医療用漢方エキス製剤の場合、まれですが副作用やその他の医薬品との相互作用が報告されているため、医師の指示に従って服用することが重要です。
第三に、医療用漢方エキス製剤以外の漢方薬の場合、製品の安全性や品質管理に問題がある場合もあるため、主治医やがんセンターの漢方外来などに相談するなど、十分な情報収集と慎重な対応が必要です。
第四に、漢方薬を使用する場合は、必ず主治医に相談し、使用している漢方薬の情報を共有することが大切です。「西洋医学の医師に漢方のことを話すと怒られるのではないか」と心配される方もいますが、適切な治療を行うためには、すべての治療情報を共有することが不可欠です。
このように、がん治療における漢方薬は、西洋医学と東洋医学の長所を組み合わせた「統合医療」の一環として、患者さんのQOL向上と治療のサポート役割を果たしています。
参考文献・出典情報
1. 日本東洋医学会「Evidence Reports of Kampo Treatment 2025 (EKAT2025)」
http://www.jsom.or.jp/medical/ebm/er/index.html
2. 日本東洋医学会「漢方製剤の記載を含む診療ガイドライン 2025」
http://www.jsom.or.jp/medical/ebm/cpg/index.html
3. 日本漢方生薬製剤協会「漢方製剤の記載を含む診療ガイドライン」
https://www.nikkankyo.org/serv/serv2.htm
4. 日本産科婦人科学会「がん薬物療法と医療用漢方製剤」
https://www.jaog.or.jp/note/
5. 日本終末期ケア協会「漢方と緩和ケア」
https://jtca2020.or.jp/news/cat3/kampo/
6. 日本緩和医療学会「がん補完代替医療ガイドライン」
https://www.jspm.ne.jp/files/guideline/cam_pdf/cam01.pdf
7. 再発転移がん治療情報「がん治療と漢方薬」
https://www.akiramenai-gan.com/column/70123/
8. がん情報サービス「補完代替療法について」
https://ganjoho.jp/public/qa_links/book/public/pdf/37_175-177.pdf
9. オンコロ「人はなぜ、補完代替療法を求めるのか」
https://oncolo.jp/feature/20210219tm01
10. 厚生労働省「統合医療情報発信サイト」
https://www.ejim.ncgg.go.jp/public/index.html

