転移性肝臓がんは、他の臓器から肝臓に転移したがんです。近年の医療技術の進歩により、検査方法や治療選択肢が改善され、患者さんの予後も向上してきました。2025年現在の最新情報を含めて、転移性肝臓がんの検査から治療まで詳しく解説します。
転移性肝臓がんとは
転移性肝臓がんとは、肝臓以外の臓器にできたがん(原発巣)が血液の流れに乗って肝臓に転移し、そこで新たながんの塊を形成したものです。肝臓から直接発生する原発性肝がんとは性質が大きく異なります。
転移性肝臓がんの多くは消化器系のがんが原因となっており、特に大腸がん、胃がん、膵臓がんからの転移が最も多くみられます。その他にも乳がん、肺がん、卵巣がん、腎がんなど、ほぼすべてのがんが肝臓に転移する可能性があります。
国立がん研究センターの統計によると、大腸がん患者さんの約10%が診断時にすでに肝転移を認め、さらに大腸がん手術後の5~30%の患者さんに肝転移が発症するとされています。このように転移性肝臓がんは決して珍しい病気ではありません。
転移性肝臓がんの検査と診断方法
腫瘍マーカー検査の重要性
転移性肝臓がんの診断において、血液検査による腫瘍マーカーは重要な検査の一つです。腫瘍マーカーとは、がん細胞やがん細胞に反応した細胞によって作られるタンパク質などの物質で、血液や尿から検出されます。
転移性肝臓がんに特有の腫瘍マーカーは存在しませんが、元となった原発がんに応じた腫瘍マーカーが使用されます。消化器がんからの転移では、CEA(がん胎児性抗原)やCA19-9という腺がんに対する腫瘍マーカーがよく使われます。
ただし、腫瘍マーカーには限界があります。がんがなくても高い値を示すことがあり、逆にがんがあっても正常値を示すことがあるため、画像診断と組み合わせた総合的な判断が必要です。
画像診断技術の進歩
2025年現在、転移性肝臓がんの診断における画像診断技術は大幅に進歩しています。主な検査方法は以下の通りです。
超音波検査(エコー検査)
非侵襲的で繰り返し行える検査として、経過観察に適しています。リアルタイムで肝臓の状態を観察でき、造影剤を使用した造影超音波検査により、より詳細な診断が可能になっています。
CT検査
造影剤を使用したCT検査により、転移性肝臓がんの個数、大きさ、位置を正確に把握できます。最新の多列CT装置により、血管造影と同時に行うCTでは、従来よりも小さな病巣の検出が可能になっています。
MRI検査
特殊な造影剤を使用したMRI検査は、CT検査よりも高い感度で転移性肝臓がんを検出できる場合があります。放射線被ばくがないため、経過観察にも適しています。
PET-CT検査
近年急速に普及しているPET-CT検査は、肝臓に限らず全身の転移を同時に検出できる優れた検査法です。治療方針の決定において重要な情報を提供します。
検査方法 | 特徴 | 適用場面 |
---|---|---|
超音波検査 | 非侵襲的、リアルタイム観察 | スクリーニング、経過観察 |
造影CT | 高い空間分解能、迅速 | 病期診断、治療計画 |
造影MRI | 高い感度、被ばくなし | 詳細診断、経過観察 |
PET-CT | 全身検索、機能評価 | 転移検索、治療効果判定 |
転移性肝臓がんの病期分類
転移性肝臓がんは、さまざまな場所に発生したがん(原発がん)の遠隔転移に当たるため、原発がんの病期分類ではステージ4(最終ステージ)に相当します。転移性肝臓がん自体には独立した病期分類は存在しません。
しかし、肝転移の個数、大きさ、分布は治療方針の決定において重要な因子となります。特に大腸がん肝転移では、これらの因子により治療法が大きく異なってくるため、詳細な評価が必要です。
転移性肝臓がんの最新治療法
転移性肝臓がんの治療は、原発がんの種類、肝転移の状況、患者さんの全身状態を総合的に評価して決定されます。2025年現在、以下のような治療選択肢があります。
全身化学療法(薬物療法)
転移性肝臓がんは遠隔転移に当たるため、基本的には全身に効果の及ぶ治療法が選択されます。原発がんに応じた抗がん剤による全身化学療法が標準的な治療となります。
近年の薬物療法の進歩は著しく、従来は1年未満とされていた生存期間が、多剤併用療法や分子標的薬の導入により大幅に延長されています。大腸がん肝転移の場合、最新の治療法により生存期間中央値が2年以上に達することも報告されています。
免疫チェックポイント阻害薬
2025年現在、免疫療法として免疫チェックポイント阻害薬の適用が拡大しています。がんの種類によっては、MSI-High(マイクロサテライト不安定性高頻度)やTMB-High(腫瘍変異負荷高値)の場合に免疫チェックポイント阻害薬が効果的とされています。
外科的切除
転移性肝臓がんの中でも、特に大腸がん肝転移では外科的切除が最も有効な治療法とされています。肝細胞がんとは異なり、転移性肝臓がんでは肝硬変や慢性肝炎の合併が少ないため、肝臓の大部分を安全に切除することが可能です。
理論的には、正常な肝臓の30~40%が残存すれば安全に手術を行えるとされており、多発性の転移であっても配置によっては切除可能な場合があります。近年では、腹腔鏡下肝切除も普及し、患者さんへの負担軽減が図られています。
Conversion Surgery(コンバージョン手術)
当初は切除不可能と判断された転移性肝臓がんでも、化学療法により腫瘍が縮小して切除可能になる場合があります。この治療戦略をConversion Surgeryと呼び、2025年現在では標準的な治療選択肢の一つとなっています。
肝動注療法
肝動注療法は、肝臓に血液を供給する肝動脈を通して直接抗がん剤を投与する治療法です。全身への副作用を抑えながら、肝臓の病巣に高濃度の抗がん剤を届けることができます。
専用のカテーテルやポート(薬剤注入器具)を体内に埋め込む必要があり、特有の合併症もありますが、全身化学療法よりも高い治療効果が期待できる場合があります。
局所療法
転移巣の数が少ない場合には、以下のような局所療法も選択肢となります。
ラジオ波焼灼療法・マイクロ波凝固療法
皮膚から針を刺して電極を病巣に挿入し、熱でがん細胞を死滅させる治療法です。手術よりも体への負担が小さく、高齢者や全身状態の良くない患者さんにも適用可能です。
エタノール注入療法
腫瘍内に直接エタノール(エチルアルコール)を注入してがん細胞を死滅させる治療法です。小さな転移巣に対して効果的です。
最新の治療法
光免疫療法
2025年現在、注目されている新しい治療法として光免疫療法があります。がん細胞にのみ結合する特殊な薬剤を投与した後、近赤外線を照射することでがん細胞を選択的に破壊します。現在は頭頸部がんで保険適用となっていますが、今後他のがん種への適用拡大が期待されています。
遺伝子解析に基づく個別化治療
がんゲノム医療の進歩により、転移性肝臓がんの原発巣の遺伝子変異を詳細に解析し、最適な治療薬を選択する個別化治療が実現しています。
治療の選択基準と予後
転移性肝臓がんの治療選択は、以下の因子を総合的に評価して決定されます。
- 原発がんの種類と進行度
- 肝転移の個数、大きさ、分布
- 肝臓以外への転移の有無
- 患者さんの年齢と全身状態
- 肝機能の状態
予後については原発がんの種類により大きく異なります。大腸がん肝転移で完全切除が可能であった場合、5年生存率は30~40%程度、一部の症例では治癒も期待できます。化学療法のみの場合でも、最新の治療により生存期間の大幅な延長が報告されています。
転移性肝臓がんの予防と早期発見
転移性肝臓がんの予防には、原発がんの早期発見・早期治療が最も重要です。定期的ながん検診の受診、生活習慣の改善(禁煙、節酒、適度な運動、バランスの取れた食事)が効果的です。
また、がんの治療歴がある患者さんは、定期的な画像検査により肝転移の早期発見に努めることが重要です。3~6か月ごとの腹部CT検査や腫瘍マーカー検査により、転移の早期発見が可能になります。
まとめ
転移性肝臓がんは以前は予後不良とされていましたが、2025年現在では検査技術の向上、新しい薬剤の開発、外科技術の進歩により、患者さんの予後は改善しています。特に大腸がん肝転移では、適切な治療により長期生存を期待できるようになっています。