がんの診断を受けた際に、医師から「生存率」について説明されることがあります。この数値は治療方針を決定する上で重要な指標となりますが、その正確な意味や見方を理解することで、より適切な治療選択や今後の人生設計に役立てることができます。本記事では、2025年の最新データを踏まえ、がんの生存率について分かりやすく解説します。
がんの生存率とは何か
がんの生存率とは、一般的に、がんの診断を受けた人が治療期間も含めて、その後の一定期間を生存できる確率のことです。この指標は、がん治療の効果を測る重要な基準として世界中で使用されています。
最も広く用いられているのが「5年生存率」で、これは診断から5年後に生きている確率を表します。この他にも、1年生存率、3年生存率、10年生存率など、さまざまな期間の生存率が使われることもあります。
がんの種類によって適用される期間は異なります。進行が非常に速いがんについては1年や2年という短期間の生存率が使用され、進行の遅いがんについては10年や15年という長期間の生存率が用いられることもあります。
5年生存率が重要な理由
なぜ5年という期間が基準として選ばれているのでしょうか。これには医学的な根拠があります。多くのがんにおいて、術後5年を超えて再発する確率は大幅に低下することが分かっています。
例えば、大腸がんの場合、術後5年を超えて出現する再発例は全体の1%を切るとされています。このため、5年生存率は治療により完治した率に近い指標として扱われています。ただし、乳がんなど一部のがんでは術後5年から10年を経過して再発することもあるため、がんの種類によって異なる評価が必要です。
生存率の種類と計算方法
がんの生存率には複数の種類があり、それぞれ異なる目的で使用されます。主なものを以下に説明します。
実測生存率
実測生存率は、死因に関係なく、すべての死亡を計算に含めた生存率です。「100人の患者が○年後に○人生存している」という考え方の数値で、がん以外の死因による死亡も含まれます。
相対生存率
相対生存率は、がん以外の死因による死亡の影響を取り除くために開発された指標です。患者集団の実測生存率を、患者集団と同じ性・年齢構成の一般集団における期待生存率で割ることによって算出されます。この方法により、がんそのものが生存に与える影響をより正確に評価することができます。
純生存率(ネット・サバイバル)
近年、相対生存率の課題を解決するために「純生存率」が用いられるようになっています。これは「がんのみが死因となる場合の生存率」を推計する方法で、国際的にも広く採用されています。2023年以降の国立がん研究センターの報告では、相対生存率に代わってこの純生存率が使用されています。
2025年現在の最新生存率データ
国立がん研究センターが2025年に公表した最新データによると、がん全体の5年相対生存率は約68%となっています。これは過去数十年にわたって改善傾向にあり、医療技術の進歩を反映しています。
部位別に見ると、前立腺がんや乳がんでは比較的高い生存率を示している一方で、膵臓がんや小細胞肺がんなど難治性がんでは依然として厳しい数値となっています。また、同じがん種であっても、発見時のステージによって大きく異なることが明らかになっています。
がん種 | ステージI | ステージII | ステージIII | ステージIV |
---|---|---|---|---|
胃がん | 約99% | 約85% | 約50% | 約6% |
大腸がん | 約99% | 約90% | 約70% | 約23% |
乳がん(女性) | 100% | 約96% | 約80% | 約40% |
前立腺がん | 100% | 100% | 100% | 約60% |
サバイバー生存率という新しい指標
最近注目されているのが「サバイバー生存率」という概念です。これは、診断から一定年数後に生存している人(サバイバー)の、その後の生存率を示すものです。例えば、1年サバイバーの5年生存率は、診断から1年後に生存している人に限って算出した、その後の5年生存率を意味します。
この指標の特徴は、相対生存率とは逆に、診断されてからの年数が経過するにつれて上昇していく傾向があることです。これは、初期の困難な治療期間を乗り越えた患者の予後が改善することを示しており、患者や家族にとって希望となる情報として注目されています。
例えば、膵臓がんのような予後が厳しいとされるがんでも、診断から5年経過したサバイバーの5年相対生存率は80%近くまで上昇することが報告されています。
生存率データの正しい見方と注意点
生存率は重要な指標ですが、その解釈には注意が必要です。以下の点を理解しておくことが大切です。
統計的な意味と限界
生存率は大規模な患者集団から導かれる統計的な数値であり、個々の患者にそのまま当てはまるものではありません。患者それぞれの年齢、体質、がんの状態、診断時期、治療方法などが異なるため、誰にでも当てはまる平均値ではないのです。
調査対象数の重要性
生存率の信頼性は、調査対象となった患者数に大きく依存します。少数の患者を対象とした調査では、偶然の要因が結果に大きく影響する可能性があります。一般的に、対象患者数が多くなるほど、導かれる生存率の信頼性は高まります。
年齢と併存疾患の影響
特に高齢患者の場合、がん以外の病気で死亡する可能性も高くなります。これは10年生存率などの長期データにおいて、実測生存率と純生存率に大きな差が生じる理由でもあります。このため、年齢階級別の分析が重要になります。
生存率における「生存」の定義
重要な点として、生存率における「生存」は単に生きていることを意味し、生活の質(QOL)や活動能力は考慮されていません。たとえ植物状態であっても「生存者」として計算されます。
このため、患者や家族が治療方針を検討する際は、生存率だけでなく、治療後の生活の質についても医師と十分に話し合うことが重要です。
最新の治療技術と生存率の改善
近年の医療技術の進歩により、多くのがんで生存率が向上しています。免疫療法、分子標的治療、精密医療などの新しい治療法の導入により、従来では治療困難とされていたがんでも生存期間の延長や完治が期待できるようになってきました。
2025年現在、がんは「不治の病」から「慢性疾患」として捉えられるようになり、がんと共に生きる「がんサバイバーシップ」という概念も広まっています。全国で約341万人の5年生存がんサバイバーが生活しており、この数は今後も増加が予想されています。
早期発見の重要性
生存率データから明らかなのは、早期発見・早期治療の重要性です。ほとんどのがんにおいて、ステージIでの発見時の5年生存率は90%を超えており、中にはほぼ100%に近い数値を示すものもあります。
一方で、進行してから発見された場合の生存率は大幅に低下します。このため、定期的ながん検診の受診が推奨されています。がんの多くは初期段階では自覚症状がほとんどないため、症状が現れる前からの検診が重要です。
がんサバイバーへの支援体制
生存率の向上とともに、がんサバイバーへの支援も重要な課題となっています。治療後の長期フォローアップ、就労支援、心理的サポート、再発予防など、包括的なケアが求められています。
2025年現在、医療機関、行政、企業が連携して、がんサバイバーが安心して治療を受け、社会復帰できる環境整備が進められています。
まとめ
がんの生存率は、治療効果を評価し、今後の見通しを立てる上で重要な指標です。しかし、これらの数値は統計的な平均値であり、個々の患者の状況によって大きく異なることを理解しておくことが大切です。
参考文献・出典情報
- 国立がん研究センター がん情報サービス「最新がん統計」
- 国立がん研究センター「がんの統計 2025」
- 国立がん研究センター「院内がん登録2012年10年生存率集計 公表 サバイバー5年生存率を初集計」
- 国立がん研究センター がん統計「相対生存率」
- 国立がん研究センター がん統計「サバイバー生存率」
- オリンパス おなかの健康ドットコム「日本で増えているがんと5年生存率」
- がんサポート「経過年数が長くなるにつれて生存率がアップする⁈「サバイバー生存率」をライフプランに活かす」
- Science Portal「進行がん、診断早期を乗り切るとその後の生存率上昇 初の「サバイバー5年生存率」」
- アフラック「今、知っておくべき「がん」基本用語」
- NPO法人 ピンクリボンのわ「がんサバイバーをめぐる国や社会の情勢」