
こんにちは。がん専門のアドバイザー、本村ユウジです。
肝臓がんの治療では古くから現在まで中心的な役割を担っている「肝動脈塞栓療法(TACE)」。
この治療法は1980年代に日本で開発され、現在では世界中で肝臓がんの標準治療として広く行われています。肝臓という重要な臓器に影響を与える治療法であるため、事前にその特徴と効果(再発率・生存率)を知っておくことが重要です。
この記事では、2026年時点での最新情報を含めて、肝動脈塞栓療法の仕組み、メリットとデメリット、治療成績、そして近年注目されている免疫療法との併用について詳しく解説します。
肝動脈塞栓療法とは - 基本的な仕組み
肝動脈塞栓療法は、英語表記の「Transcatheter Arterial Embolization」から頭文字をとってTAE(ティーエーイー)と呼ばれます。また、抗がん剤を併用する場合はTACE(テイス:Transcatheter Arterial Chemoembolization、肝動脈化学塞栓療法)と呼ばれます。
肝臓は門脈と肝動脈という2種類の血管から血液が供給されています。正常な肝臓は門脈から約80%、肝動脈から約20%の血液供給を受けています。
一方、肝細胞がんはほぼ100%肝動脈から栄養を受けているという特徴があります。この性質を利用して、がんを栄養する肝動脈だけを選択的に塞いで、がんを壊死させるのが肝動脈塞栓療法の基本的な仕組みです。
治療の手順は以下のようになります。
足のつけ根の大腿動脈(または腕や手首の動脈)から細いカテーテルを挿入します。血管造影で確認しながら、カテーテルを肝動脈まで進めます。がんを栄養している血管を見つけたら、さらに細いマイクロカテーテルをその血管まで進めます。
TACEの場合は、抗がん剤とリピオドール(油性造影剤)を混ぜた液(エマルジョン)を注入した後、ゼラチンスポンジや多孔性ゼラチン粒などの塞栓物質を注入して血管を詰まらせます。TAEの場合は、塞栓物質のみを使用します。
リピオドールは肝細胞がんに特異的に取り込まれる性質があり、抗がん剤を腫瘍内に長く留める役割を果たします。
肝動脈塞栓療法の適応となる患者さん
肝動脈塞栓療法は、主に以下のような状況で選択されます。
手術(肝切除)やラジオ波焼灼療法などの局所療法が適応とならない場合。具体的には、腫瘍の大きさが3cmを超える1~3個のがん、または大きさに関わらず4個以上の多発性肝細胞がんです。
また、肝機能がChild-Pugh分類でAまたはBの患者さんが対象となります。肝機能がある程度保たれている必要があります。
2026年現在、日本肝癌診療ガイドライン2025年版では、手術療法、ラジオ波焼灼療法、薬物療法と並ぶ有効な治療選択肢として位置づけられています。
肝動脈塞栓療法の長所
肝動脈塞栓療法には以下のような利点があります。
体の負担が比較的少ない
肝動脈塞栓療法は侵襲度が比較的小さい治療法です。そのため、必要に応じて繰り返し治療を行うことができます。ただし、繰り返し治療にも限界があることは理解しておく必要があります。
他の治療法との組み合わせが可能
がんの進行度に応じて、肝切除や局所的治療(エタノール注入法、マイクロ波凝固法、ラジオ波焼灼法など)と組み合わせて、治療効果を高めることが可能です。
近年では、免疫チェックポイント阻害薬との併用療法も注目されています。2025年5月に発表されたTALENTACE試験では、TACEとテセントリク・アバスチンの併用により、TACE単独と比較して無増悪生存期間が改善することが示されました。
選択的塞栓療法の進歩
近年、カテーテルやガイドワイヤーシステム、血管造影下CTなどの撮影機器の進歩により、腫瘍を栄養する動脈枝の同定および超選択的なカテーテル挿入が可能となりました。
これにより、塞栓の範囲を腫瘍の周辺のみに限定する選択的塞栓療法が飛躍的に進展しました。この手法では、腫瘍以外の肝臓組織を傷つけることが少なく、肝機能が低下している患者さんでも治療が可能な場合があります。
また、腫瘍を効果的に攻撃できるため、局所再発率が低くなるというメリットもあります。
多発性がんへの対応
選択的塞栓療法は、肝臓がんが多発している場合でも、肝臓を部分ごとに区切り、時間をおいて順次塞栓を行うことで、すべての腫瘍の治療を行うことができます。
肝動脈塞栓療法の問題点
この治療法には主に5つの問題があります。
| 問題点 | 詳細 |
|---|---|
| 再発率が高い | 塞栓療法だけでは腫瘍を完全に壊死させることが難しく、再発しやすい傾向があります |
| 効果が低いタイプのがんがある | 高分化型の肝細胞がんでは治療効果が十分に得られない場合があります |
| 高度な技術を必要とする | 特に選択的塞栓療法では、医師の専門的知識と技術が不可欠です |
| 肝臓への傷害 | 正常な肝臓組織も影響を受け、肝機能が悪化する可能性があります |
| 繰り返し治療の限界 | 治療を繰り返すと血管が損傷し、治療が困難になる場合があります |
①再発率が高い
肝細胞がんは、腫瘍の被膜やその外側にもがん細胞が浸潤することが多いがんです。被膜の内側は効果的に壊死させることができても、被膜やその外側のがん細胞が残ってしまう場合があります。
これは、被膜の外側には抗がん剤やリピオドールが浸透しにくいこと、さらに被膜の外側のがん細胞は門脈からも血液を受け取っていることが多く、その部分の塞栓効果が小さいことが原因です。
ただし最近では、選択的塞栓療法によって、被膜の外側を含めてがんを効果的に壊死させることができるようになりました。被膜の外側にもリピオドールが十分に浸透すれば、その部分から再発することは少なくなります。
②治療効果が低いタイプのがんがある
高分化型の肝細胞がんでは、治療効果が十分に得られない場合があります。このようながんでは、腫瘍が多発していて肝動脈塞栓療法が適しているように思えても、他の治療法を選択しなくてはならない場合があります。
ただし、高分化型のがんは初期の肝細胞がんに多く、他の治療法を選択できることも少なくありません。多発例では他の局所的治療法(エタノール注入療法など)と組み合わせることもあります。
患者さんは、自分の腫瘍が本当に塞栓療法に向いているのかどうか、医師に説明を求めることが大切です。
③技術的熟練を必要とする
肝動脈塞栓療法は、動脈内部にカテーテルを入れる治療法であるという点で、医師の専門的知識と技術が不可欠です。
特に選択的塞栓療法では、カテーテルの内部からさらにマイクロカテーテルを繰り出し、目的の細い血管まで到達させる必要があります。近年ではカテーテルなどの器具が進歩したため、失敗例は少なくなったとされていますが、熟練した医師以外の治療には失敗の可能性がついてまわります。
患者さんは、その病院でどのくらい塞栓療法の経験があるか、選択的治療法を行う場合にはその実施回数なども確認すべきでしょう。
④肝臓に傷害を与える
塞栓を行うと、正常な肝臓組織も多少は傷つき、また使用する抗がん剤も肝機能を悪化させることがあります。がんが進行していると、塞栓を行っても再発を繰り返すことになり、治療のたびに肝臓に傷害を与えることになります。
進行した肝細胞がんの患者さんは、がんが直接の原因となって死亡するよりも、肝臓の機能が失われ、肝不全で死亡することが少なくありません。
近年、選択的塞栓療法によって、この問題は改善されました。抗がん剤を適切に選べば、肝臓に損傷を与えることは少なくなります。
⑤繰り返し治療に限界がある
塞栓療法では、治療を何度も繰り返すと、カテーテルを通す動脈の傷がひどくなっていき、それ以上の治療が困難になります。
腫瘍に栄養を与えている肝動脈が、カテーテルの刺激に反応して完全にふさがってしまい、治療が困難になることもあります。その場合、腫瘍は肝動脈ではなく、近くを通る別の臓器の血管などから栄養を受けるようになります。
肝動脈塞栓療法の再発率と生存率
肝動脈塞栓療法は広く普及した治療法であり、他の治療と併用した場合も含めて、肝臓がんの患者さん全体の半数近くがこの治療を受けています。
従来の治療成績
この治療法では根治は期待できません。また、再発しやすい状態の患者さんが治療の対象になることもあり、生存率は手術と比較すると高くありません。
日本肝癌研究会の調査報告によると、1998年から2013年に診断された患者さんにおいて、この治療を受けた全患者さんの3年生存率は約43%、5年生存率は約24%でした。
2002年に発表されたスペインでの臨床試験では、2年生存率が63%でした。また、日韓共同で行った臨床試験(2012年発表)では、2年生存率が75%という結果が報告されています。
選択的塞栓療法による改善
この治療法は近年、技術的に進歩しており、特に選択的塞栓療法は局所再発率がかなり低いとされています。
病院によっては、早期の患者さんに対する選択的塞栓療法を行っており、この場合、5年生存率が50~60%に達するという報告もあります。これは、肝臓の切除やラジオ波焼灼療法とほぼ同じ治療成績です。
| 生存期間 | 生存率 |
|---|---|
| 2年生存率 | 63~75%(臨床試験データ) |
| 3年生存率 | 約43%(日本肝癌研究会調査) |
| 5年生存率 | 24~50%(患者背景により変動) |
| 5年生存率(選択的塞栓療法・早期症例) | 50~60% |
治療後の経過と副作用
治療が終わって病室に戻った後、カテーテルを挿入した足は3~4時間曲げることができません。
治療後の経過は個人差がありますが、多くの患者さんで3日から約1週間、上腹部の違和感や痛み、発熱がみられます。これは塞栓後症候群と呼ばれる反応で、塞栓範囲と相関します。
肝臓の血管の一部を閉塞するため、一時的な肝機能の悪化も認めることがあります。嘔吐や食欲不振などの症状が出ることもあり、症状に応じて点滴や薬剤の投与を行います。
入院期間は通常1~2週間です。治療1~3か月後に外来で検査を行い、治療効果を確認します。その後も定期的に画像検査や血液検査を行って、早期に治療後の再発や新たな腫瘍を発見します。
2026年の最新トピック - 免疫療法との併用
2026年現在、肝動脈塞栓療法の分野で最も注目されているのが、免疫チェックポイント阻害薬との併用療法です。
TALENTACE試験の成果
2025年5月、中外製薬は肝動脈化学塞栓療法とテセントリク(アテゾリズマブ)・アバスチン(ベバシズマブ)の併用療法に関する第III相TALENTACE試験で良好な結果が得られたことを発表しました。
この試験は、未治療の切除不能肝細胞がんを対象に、TACE適応患者さんにおいて、TACEとテセントリク・アバスチンの併用療法の有効性と安全性を評価したものです。
主要評価項目であるTACE無増悪生存期間において、統計学的に有意かつ臨床的に意義のある改善が示されました。この結果は、TACEとがん免疫療法・分子標的薬の併用により有効性を示したアジア初の第III相臨床試験として注目されています。
ABCコンバージョン治療
近畿大学を中心とした研究チームは、切除不能な中期進行肝がん患者さんを治癒に導く新規治療法を世界で初めて開発しました。
これは、テセントリクとアバスチンによる免疫療法を先行して行い、腫瘍が縮小した場合は切除等で根治させ、縮小しなかった場合もTACEを複合免疫療法と併用することで治癒を目指すという治療法です(ABCコンバージョン治療)。
この研究成果は、将来的に中期進行肝がん患者さんに対する世界的な標準治療法になることが期待されています。
治療を受ける際の確認事項
肝動脈塞栓療法を受ける際には、以下の点を医師に確認することが重要です。
自分の腫瘍が本当に塞栓療法に適しているか。腫瘍の性質(分化度)、大きさ、個数、位置などを踏まえた適応について説明を受けましょう。
その病院での塞栓療法の実施経験。特に選択的塞栓療法を行う場合は、実施回数や成績について確認することをお勧めします。
予想される治療効果と副作用。個々の患者さんの状態に応じた見込みについて、具体的な説明を求めましょう。
免疫療法との併用の可能性。2026年現在、TACEと免疫療法の併用は新しい選択肢として注目されています。自分の状態で適応となるか確認してみましょう。
治療後のフォローアップ計画。再発の早期発見のための検査スケジュールについて確認しておきましょう。
肝動脈塞栓療法を考える際のポイント
肝動脈塞栓療法は、1980年代に日本で開発され、現在では世界中で肝細胞がんの標準治療として確立されています。
技術の進歩により、特に選択的塞栓療法では治療成績が向上しており、早期症例では手術やラジオ波焼灼療法に匹敵する生存率が報告されています。
一方で、この治療法には限界もあります。完全な根治は難しく、再発率が高いこと、肝機能への影響、繰り返し治療の限界などを理解しておく必要があります。
2026年現在、免疫チェックポイント阻害薬との併用療法など、新しい治療アプローチが開発されており、治療選択肢は広がっています。
肝動脈塞栓療法を含む肝臓がん治療は、個々の患者さんの腫瘍の性質、肝機能、全身状態などを総合的に評価して選択されます。担当医とよく相談し、自分に最適な治療法を選択しましょう。
参考文献・出典情報
1. 日本肝臓学会 肝癌診療ガイドライン 第6章 肝動脈(化学)塞栓療法
2. 国立がん研究センター がん情報サービス 肝臓がん(肝細胞がん)治療
3. 中外製薬 TALENTACE試験の結果発表(2025年5月)
5. 順天堂大学医学部附属順天堂医院 選択的肝動脈化学塞栓術
