永久気管孔とは何か
こんにちは。がん専門のアドバイザー、本村ユウジです。
永久気管孔とは、喉頭がんなどの治療で喉頭全摘出術を受けた際に、前頸部(首の前面)に造設される呼吸のための孔(穴)のことです。この孔から気管を経て肺に空気が入り、呼吸が行われます。
永久気管孔が造設されると、気道と食道が完全に分離された状態になります。このため、患者さんは口や鼻から呼吸することができず、生涯にわたって首に開けられた孔から呼吸することになります。
全国には現在、永久気管孔を持つ患者さんが約3万人いると言われています。日常生活において特殊なケアが必要になりますが、適切な管理方法を身につけることで、安全で健康的な生活を送ることができます。
気管切開との違い
永久気管孔と気管切開は、しばしば混同されますが、まったく別のものです。
気管切開は、重度の呼吸困難を改善するために前頸部で気管を切開して気道を確保する処置です。この場合、気管は喉頭部から咽頭部へつながっているため、気管切開部を閉鎖すれば通常の機能を取り戻すことができます。
一方、永久気管孔は、気道と食道を完全に分離した状態であり、一度造設すると閉鎖できません。この違いを正しく理解することは、適切なケアを行う上で大切です。
永久気管孔の基本的なケア
永久気管孔のケアは、保清(清潔に保つ)、保湿(乾燥を防ぐ)、保護(異物の侵入を防ぐ)の3つが基本になります。
保清:清潔に保つ
毎日、ぬれたタオルで気管孔とその周囲を優しく拭きます。気管孔周囲の皮膚は敏感になりやすいため、刺激の少ない方法で清潔を保つことが大切です。
痰や分泌物がこびりついている場合は、無理に取ろうとせず、ぬるま湯で湿らせてから優しく取り除きます。固まった痰を無理に剥がそうとすると、出血の原因になることがあります。
保湿:乾燥を防ぐ
通常、鼻から呼吸する際には、鼻が加湿器の役割を果たして空気に湿気を与えています。しかし、永久気管孔からの呼吸では、この加湿機能が失われるため、気道が乾燥しやすくなります。
乾燥を防ぐために、以下のような対策が有効です。
| 対策方法 | 具体的な内容 |
|---|---|
| ガーゼの使用 | 湿らせたガーゼを気管孔にかぶせることで、吸気に湿気を与えます |
| 人工鼻(HME)の使用 | 吐いた息の湿度を吸収し、吸う際にその湿度を空気に与える医療器具です |
| 加湿器の使用 | 室内の湿度を適切に保つことで、気道の乾燥を防ぎます |
| 吸入器の使用 | 特に湿度が30%以下になったときに使用すると効果的です |
保護:異物の侵入を防ぐ
永久気管孔は、鼻や口と異なり、異物をフィルタリングする機能がありません。そのため、ほこり、虫、水などの異物が直接肺に入る可能性があります。
日常的にガーゼエプロンや人工鼻を装着することで、異物の侵入を防ぐことができます。外出時や作業時には、特に注意が必要です。
入浴時の注意点とケア
永久気管孔を持つ患者さんにとって、入浴は特に注意が必要な場面です。気管孔に水が入ると、直接肺に水が入ることになり、溺水や窒息の危険があります。
入浴の基本ルール
入浴時には、以下のような基本ルールを守ることが大切です。
- 湯船のお湯は胸の高さまでとし、肩までつからない
- 肩が冷える場合は、タオルをかけて保温する
- 洗髪時は前かがみになり、気管孔が真下を向くようにする
- シャワーは気管孔にかからないようゆっくりとかける
- 気管孔を完全にふさがないようにする(呼吸困難になります)
入浴を安全にする道具
| 道具 | 使い方と効果 |
|---|---|
| 小さなタオル | 気管孔の上に小さくたたんだタオルを当てたままシャワーを使うと、水しぶきが入りにくくなります |
| シャンプーハット | 洗髪時に水が気管孔に流れ込むのを防ぎます |
| ガーゼエプロン | 湿らせたガーゼエプロンを使用すると、多少の水しぶきは吸い取られ、気管に水が入ることを防げます |
| シャワーカバー | 入浴時専用の防水カバーで、気管孔を保護します |
入浴時のトラブル対応
万が一、少量の水が気管孔に入った場合、咳の反射が働いて排出されることがほとんどです。痰を出す要領で咳をすることで、水を吐き出すことができます。
ただし、大量の水が入ると溺水の危険がありますので、上記の基本ルールを守ることが大切です。初めて入浴する際は、不安を感じることも多いですが、慣れるに従い、自分に合った簡略化した方法が見つかります。
よくあるトラブルと対処法
永久気管孔を持つ患者さんが日常生活で経験しやすいトラブルと、その対処法について説明します。
痰の問題
永久気管孔を持つ患者さんにとって、痰は永久に続く症状です。ただし、痰は気管の汚物を排出してくれる重要な機能を持っており、決して悪いものではありません。時間と共に量は減っていきます。
| 痰の状態 | 意味と対処 |
|---|---|
| 透明~白っぽい痰 | 正常な状態です。特別な処置は必要ありません |
| 緑色っぽい痰 | 気管支炎や肺炎の可能性があります。早めに主治医に相談してください |
| 赤い痰、血が混じる痰 | 出血している可能性があります。すぐに主治医に連絡し、気管支鏡検査やCT検査を受けてください |
| 固い痰がこびりつく | 気道の乾燥が原因です。加湿器や吸入器を使用して、気管孔周囲に医師が処方する軟膏を塗ることが有効です |
気道の乾燥
気道の乾燥は、永久気管孔を持つ患者さんの共通の悩みです。乾燥すると、痰が固まってこびりつき、呼吸困難になることがあります。
対処法としては以下があります。
- 室内の温湿度を適切に管理する(湿度は40~60%が目安)
- 湿らせたガーゼエプロンを使用する
- 吸入器を定期的に使用する(特に湿度が30%以下のとき)
- 主治医に相談して、痰を柔らかくする薬や粘度を良くする薬を処方してもらう
気管孔周囲の皮膚トラブル
気管孔周囲の皮膚は、分泌物や湿気によってただれやすくなります。
予防と対処法:
- 毎日、清潔なぬれたタオルで優しく拭く
- 皮膚が湿ったままにならないよう、適度に乾燥させる
- 刺激の少ないガーゼを使用する
- 皮膚のただれがひどい場合は、主治医に相談して適切な軟膏を処方してもらう
気管孔からの出血
気管孔から出血しやすくなる原因には、以下のようなものがあります。
- 固まった痰を無理に剥がそうとした
- 気管孔周囲の皮膚が炎症を起こしている
- 乾燥により粘膜が傷ついている
少量の出血であれば、清潔なガーゼで優しく押さえることで止まることが多いです。ただし、出血が止まらない場合や、繰り返し出血する場合は、必ず主治医に相談してください。
窒息のリスク
固まった痰がかさぶたのように気管孔を塞いでしまうと、呼吸困難や窒息のリスクがあります。これを防ぐためには、日頃からの乾燥対策が重要です。
また、鏡を使って定期的に気管孔を観察し、痰がこびりついていないか確認する習慣をつけましょう。
日常生活での工夫
外出時の注意点
外出時には、以下のような点に注意が必要です。
- 人工鼻やガーゼエプロンを必ず装着する
- 予備のガーゼや人工鼻を持ち歩く
- 粉じんや排気ガスが多い場所では、特に保護に気をつける
- 寒い時期は、マフラーなどで気管孔を保温する(ただし塞がないように注意)
運動と活動の制限
永久気管孔があることで、いくつかの活動には制限が生じます。
| 制限される活動 | 理由 |
|---|---|
| 水泳 | 気管孔に水が入る危険があります |
| 全力疾走 | 呼吸が追いつかなくなる可能性があります |
| 重い物を持つ | 息を止めて力を入れることができないため、重量物の持ち上げが困難です |
| 排便時のいきみ | 息を止めていきむことができず、便秘になりやすいです |
ただし、散歩や軽いジョギング、体操などの適度な運動は、体調の維持や回復に役立ちます。主治医と相談しながら、無理のない範囲で運動を続けることが大切です。
食事に関する注意点
永久気管孔自体は食事に直接影響しませんが、以下のような点に注意が必要です。
- 熱い食べ物を息で冷ますことができない
- 麺類や汁物をすすることができない
- においを感じにくくなることがある
- 便秘になりやすいため、水分摂取や食物繊維の摂取に気をつける
サポート体制の活用
医療的サポート
退院後も、定期的な外来受診が必要です。受診時には、以下のような点を確認してもらいましょう。
- 気管孔の状態(狭窄や炎症がないか)
- 痰の状態
- 皮膚トラブルの有無
- 人工鼻などの医療器具の使用状況
特に術後3年未満の患者さんは、入浴時の溺水への不安や、痰による窒息などのトラブルが多いため、外来受診時に医療スタッフに相談することが大切です。
社会的サポート
喉頭全摘出術を受けた患者さんは、身体障害者3級に該当します。認定を受けることで、以下のような援助を受けられます。
- 電気式人工喉頭の給付または貸与
- ファクシミリの給付
- 吸入吸痰器の給付または貸与
- 交通機関の運賃割引
- 税金の軽減や控除
申請から認定まで2~4カ月程度かかりますが、手術当日から申請手続きができます。入院前に市区町村の窓口で書類を取り寄せておくとよいでしょう。
患者会の活用
患者会に参加することで、同じ経験を持つ先輩患者さんから、実践的なアドバイスや生活の工夫を学ぶことができます。
全国各地に喉頭摘出者の患者会があり、発声訓練や生活相談などのサポートを受けられます。患者会の情報は、病院のがん相談支援センターで問い合わせることができます。
まとめ
永久気管孔のケアは、最初は戸惑うことも多いですが、基本的な保清・保湿・保護の3つのポイントを押さえ、日々実践していくことで、徐々に慣れていきます。
特に重要なのは、気管孔を乾燥させないこと、入浴時に水が入らないよう注意すること、そして定期的に気管孔の状態を観察することです。
困ったことや不安なことがあれば、遠慮せずに主治医や看護師、がん相談支援センターに相談しましょう。

