
こんにちは。がん専門のアドバイザー、本村ユウジです。
がん闘病中に自宅などで吐血があったとき、ご本人やご家族は大きな不安を抱えます。
病院で診察を受けるのが第一ですが、ここでは予備知識として「吐血が起きる理由と対策」について、2026年の最新医療情報をもとに解説しています。
吐血とは何か|基本的な知識
吐血とは、口を通じて観察される消化管からの出血のことを指します。
出血量が多いときは下血も併発することがあります。吐血の状態は、胃酸にさらされる時間(出血部位や出血量が関連)が長いほど、鮮血から黒褐色、コーヒー色へと変化していきます。
一方、喀血は気管支から出た血を咳とともに吐き出すことを指し、吐血とは出血部位が異なります。そのため、出血部位が特定されるまでは飲食を控える必要があります。
がん患者さんに吐血が起きる原因
がん患者さんの吐血には、複数の原因が考えられます。原因によって対策や治療方法が異なるため、正確な診断が重要です。
がん(腫瘍)そのものによる吐血
がん細胞の増大や浸潤により、以下のようなメカニズムで吐血が起こります。
| 原因 | 詳細 |
|---|---|
| 大血管への浸潤 | 頭頸部がん、食道がん、胃がんなどで、がんが大血管に浸潤することによる出血や穿孔 |
| 血管新生による出血 | がん細胞が栄養を得るために作る新しい血管は壁が弱く、出血しやすい |
| 骨髄浸潤やDIC | がんの骨髄浸潤や血液がんによる播種性血管内凝固症候群(DIC)、血小板減少 |
| 消化管病変 | がんの増大・転移に伴う食道や胃などの消化管病変からの出血 |
国立がん研究センターによると、白血病や悪性リンパ腫などの血液がんでは、がんが骨髄に浸潤することで血小板が減少し、出血しやすい状態になります。
また、一部の固形がんでは播種性血管内凝固症候群(DIC)を起こすことがあり、血小板を大量に消費するため出血リスクが高まります。
手術による吐血
術後の合併症として、縫合不全や消化管穿孔が原因で吐血が起こることがあります。手術後の経過観察中に吐血の症状が現れた場合は、速やかに医療機関に連絡することが必要です。
化学療法(抗がん剤治療)による吐血
抗がん剤治療では、以下の理由で吐血が起こる可能性があります。
骨髄抑制による血小板減少は、多くの抗がん剤で起こりうる副作用です。血小板の正常値は15万から35万/mm3ですが、5万/mm3以下になると出血しやすくなります。
治療開始から1週間目ごろに血小板の減少がみられ、2から3週間目で最も低い値になる傾向があります。薬物療法を繰り返し行っている場合は、早い時期から血小板が減少し、回復にも時間がかかります。
| 副作用の種類 | 代表的な薬剤 | 特徴 |
|---|---|---|
| 血小板減少 | オキサリプラチン、カルボプラチン | ほとんどの抗がん剤で起こりうる。投与後7日目ごろに低下し、14から21日目が最低値 |
| 粘膜障害 | フルオロウラシル、メトトレキサート、イリノテカン | 消化管粘膜が障害され、出血しやすくなる |
| 血管新生阻害薬の副作用 | ベバシズマブ、ラムシルマブ | 正常血管の内皮細胞が障害され、出血リスクが上昇 |
血管新生阻害薬については、特に注意が必要です。
ベバシズマブやラムシルマブは、血管内皮増殖因子(VEGF)と結合することで、がん細胞への栄養供給を絶つ働きをします。しかし、正常血管にも作用してしまい、血管内腔を覆う内皮細胞が障害されて出血しやすくなります。
食道がんや胃がんの場合、治療効果によりがんが縮小する過程で、穿孔や出血が起こることもあります。ベバシズマブによる吐血の出現時期には一定の傾向がなく、投与開始時から投与終了後しばらくまで注意が必要です。
また、抗がん剤の副作用軽減目的で用いる副腎皮質ステロイド薬(胃潰瘍のリスク)や抗凝固薬(血小板凝集抑制)の副作用としても吐血が起こることがあります。
放射線治療による吐血
放射線治療では、照射時期によって急性期と晩期に分けて副作用が現れます。
| 時期 | 出現タイミング | 症状 |
|---|---|---|
| 急性期有害事象 | 治療後2から3週ごろ(総線量20から30Gy) | 照射部位の消化管粘膜が障害され、粘膜炎が起こる |
| 晩期有害事象 | 治療後6か月以上経過 | 食道炎、胃炎、潰瘍形成による吐血。まれに穿孔も発生 |
| 骨髄抑制 | 骨への照射時 | 血小板が低下し出血しやすくなる。照射野の大きさや線量により程度が異なる |
縦隔や食道、胃への放射線照射では、照射部位にある消化管粘膜が障害されて吐血が起こりえます。
化学療法を併用している場合は、より症状が強く出ることがあります。特に消化管穿孔のリスクがある薬剤を使用している場合は注意が必要です。
食道がんや胃がん、大血管を巻き込むがんの場合は、治療効果によりがんが縮小する過程で出血や穿孔が起こる可能性があります。
その他の要因による吐血
がん治療以外にも、以下のような要因で吐血が起こることがあります。
副腎皮質ステロイド薬は胃潰瘍のリスクを高めます。消炎鎮痛薬や抗凝固薬は血小板の凝集を抑制するため、出血しやすくなります。
また、精神的な刺激や緊張、不安なども吐血の原因となることがあります。胃はストレスの影響を受けやすい臓器です。
食道や胃の静脈瘤、胃や十二指腸潰瘍、マロリーワイス症候群、急性胃粘膜病変なども吐血の原因となります。
吐血が起きたときの対応と治療
緊急時の対応
吐血が確認された場合、まずは冷静に以下の対応を心がけてください。
安静にすることが重要です。急激な動作は避け、できるだけ横になり安静を保ちます。
出血部位が特定されるまで、飲食は控えましょう。喀血の可能性もあるため、医療機関での診察が必要です。
吐き気が落ち着いたら、少量ずつ冷たい水や経口補水液を摂取し、脱水を防ぎます。
みぞおちに氷嚢を当てることで、血管を収縮させ止血効果が期待できます。ただし、冷やしすぎないよう注意してください。
肺出血や消化管出血は致命的となる可能性があるため、吐血時は速やかに病院へ連絡することが必要です。
医療機関での診断と治療
診断を受けると、まず出血の部位、量、持続時間、貧血状態などが確認されます。
その後、出血の原因や重症度に応じた治療が行われます。
| 治療法 | 内容 |
|---|---|
| がんそのものに対する治療 | 手術による切除、放射線治療など |
| 輸血 | 大量出血時に実施 |
| 薬物療法 | 副腎皮質ステロイド、凝固因子補充療法、止血薬投与など |
| 血小板輸血 | 血小板が1万/mm3以下の場合など |
| 運動制限 | 出血リスクが高い場合、安静指示 |
出血部分は感染を受けやすいため、口腔ケアや陰部、肛門部のケアなど、身体の清潔を保つことが重要です。
治療の種類別|詳しい対策とケア
がん(腫瘍)による吐血への対策
出血リスクが高い場合、運動制限が必要となります。医師から安静を指示されたら、運動は控えてください。
大血管を巻き込んだ食道がんや肺がん(肺がんからの出血は喀血)では、症状として吐血が起こります。これらは致命的となる可能性があるため、速やかな対応が必要です。
がん治療が行われていないとき(診断時)や、がん治療無効時にも出血が生じる可能性があることを理解しておきましょう。
化学療法による吐血への対策
出血傾向が強い際に口腔ケアを行う場合、かたい歯ブラシの使用は避けます。必要に応じて綿棒やマウスウォッシュなどの使用を検討してください。
外来で治療が可能な抗がん剤の場合、自宅で重篤な症状が出現する場合があります。予測される症状を理解したうえで、症状出現時はすみやかに医療機関へ連絡、通院してください。
喀血、肺出血、消化管出血は致命的となる場合もあるため、症状が出現した場合は速やかに病院へ報告し、出血原因を特定することが第一です。
血小板減少による出血を防ぐため、以下の点に注意しましょう。
転倒や打撲を避ける工夫をします。ふらつきを感じたらすぐにしゃがんで休み、落ち着いたらゆっくりと動きます。手すり側を歩いたり、安全のために歩道の奥側を歩いたりするよう心がけてください。
服装による締め付けや、長時間同じ姿勢でいることなどによる圧迫を避けます。
鼻を強くかむと鼻血が出やすくなるため、優しく鼻をかむようにします。
排便時のいきみも出血の原因となるため、便秘にならないよう食生活や水分摂取に気をつけてください。
放射線治療による吐血への対策
放射線治療では、治療終了後しばらくしてから症状が出現する可能性があることを知っておくことが大切です。
晩期有害事象として、治療後6か月以上経過しても食道炎、胃炎、潰瘍形成による吐血が起こりうるため、長期的な経過観察が必要です。
出血の原因や重症度に応じた治療が行われる点は、がんによる吐血の場合と同じです。
日常生活で気をつけるポイント
がん治療中は、血小板減少により出血しやすい状態になることがあります。以下の点に注意して、日常生活を送りましょう。
定期的な血液検査を受け、自分の血小板の値を把握しておくことが重要です。血小板が5万/mm3以下になると出血しやすくなり、1万/mm3以下になると脳内出血などのリスクも高まります。
手洗いとうがい、マスクの着用によりウイルスや細菌から身を守ります。入浴により体に付着した汚れや細菌を洗い流して清潔にします。
排便後の肛門周囲の清潔を心がけてください。強く拭きすぎないよう注意し、ぬるめのお湯で洗うのも効果的です。
止血する際は、タオルなどで患部を圧迫し、氷などで冷やします(冷やしすぎないよう注意)。出血が止まらない場合はすぐに医療スタッフに相談しましょう。
家族や介護者ができること
がん患者さんの吐血に直面したとき、ご家族や介護者の方ができることがあります。
まず、冷静に対応することが重要です。慌てず、患者さんを安心させるような声かけをしてください。
吐血の状態(色、量、時間)を可能な範囲で観察し、医療機関に正確に伝えられるようメモをとっておくと診断の助けになります。
患者さんを横向きに寝かせ、吐いたものが気道に入らないよう注意します。
すぐに医療機関に連絡し、指示を仰いでください。夜間や休日でも、緊急時の連絡先を事前に確認しておくと安心です。
日頃から、出血傾向がある場合の対処方法や、緊急連絡先を家族で共有しておくことが大切です。
参考文献・出典情報
本記事は以下の信頼できる医療機関や学会の情報を参考に作成しています。
- 国立がん研究センター がん情報サービス「出血しやすい・血小板減少」
https://ganjoho.jp/public/support/condition/thrombocytopenia/index.html - 小野薬品工業株式会社「がんに伴う出血(喀血、吐血、下血、血尿、体表からの出血)への対策」
https://p.ono-oncology.jp/care/symptom/14_hemorrhage/01.html - 新潟県立がんセンター新潟病院「がん・疾患情報サービス 治療に関した副作用:出血」
https://www.niigata-cc.jp/disease/fukusayosyukketu.html - ファイザー株式会社「がんとつきあう 骨髄抑制の対処法」
https://www.ganclass.jp/confront/associate/marrow03 - 日本臨床外科学会「一般知識 吐血・下血」
https://www.ringe.jp/civic/20190603/ - 日本緩和医療学会編「専門家をめざす人のための緩和医療学 改訂第3版」南江堂、2024年
- 佐久医療センター「緩和的放射線治療」
https://sakuhp.or.jp/center/cancer/treatment/palliative_radiotherapy.html - 日本放射線腫瘍学会「患者さんと家族のための放射線治療Q&A 2025年版」金原出版
- 医薬品医療機器総合機構「重篤副作用疾患別対応マニュアル 血小板減少症」令和4年2月改訂
https://www.pmda.go.jp/files/000245258.pdf - オンコロジー「血管新生阻害薬(VEGF阻害剤)」
https://oncolo.jp/news/ramucirumabandbevacizumab

