50.症状と対処法

【2026年更新】がん患者さんの動悸と心臓の鼓動はなぜ起きる?原因と対処法を分かりやすく解説

がん患者さんの動悸

こんにちは。がん治療専門アドバイザー、本村ユウジです。

がん治療を受けている患者さんの中には、動悸を経験される方が少なくありません。心臓がドキドキする、脈が速くなる、胸が苦しいといった症状は、患者さんにとって不安なものです。動悸は様々な原因によって起こりますが、その背景を理解することで適切な対処につながります。

この記事では、がん患者さんに動悸が生じる主な原因と、一般的にとられる対策について解説します。医師ではない立場からお伝えできる情報をまとめましたので、ご自身の症状を整理する際の参考にしていただければと思います。


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動悸とはどのような症状か

動悸とは、心臓の拍動や鼓動、あるいはその乱れを自分で感じる主観的な症状です。通常は意識しない心臓の動きを強く感じたり、リズムの乱れを自覚したりする状態を指します。

具体的には、胸がドキドキする、心臓がバクバクする、脈が速い、脈が飛ぶ、胸が苦しいといった感覚として表れます。安静時でも感じることがありますし、階段を上ったり少し動いたりした時に強く感じることもあります。

動悸の程度は人によって異なり、軽く感じる程度のものから日常生活に支障をきたすほど強いものまで様々です。明らかに強い動悸を感じる場合や、動悸とともに胸の痛みや息苦しさ、めまいなどを伴う場合は、すぐに主治医の診察を受けることが重要です。

がん患者さんに動悸が起きる主な原因

がん治療中に動悸が生じる原因は複数あります。ここでは主な原因を分類して説明します。

がん(腫瘍)そのものが原因となる動悸

がん自体が動悸を引き起こす主な要因として、二次性貧血があります。貧血とは血液中のヘモグロビン濃度が低下した状態で、体内に十分な酸素を運ぶことができなくなります。

がんによる貧血は、次のような仕組みで起こります。

消化管や尿路、女性生殖器などにできたがんからの出血により、継続的に血液が失われることがあります。また、白血病や悪性リンパ腫、固形がんの骨髄への浸潤によって、骨髄での造血機能が抑制されることもあります。さらに、がん細胞が血液凝固系を活性化させることで播種性血管内凝固症候群が生じ、出血リスクが高まるケースも見られます。

食欲低下による栄養不良も貧血の一因となります。鉄分やタンパク質、ビタミンCなどの摂取不足により、鉄欠乏性貧血が起こることがあります。

赤血球はヘモグロビンを豊富に含んでおり、酸素と結合したヘモグロビンを全身の組織細胞に運ぶ役割を担っています。赤血球が減少すると末梢組織が酸素不足に陥り、それを補うために心臓は心拍数を上げて対応しようとします。この結果、動悸として自覚されるのです。

化学療法(抗がん剤治療)による動悸

抗がん剤による動悸は、主に以下の3つのメカニズムで起こります。

1. 薬剤による心毒性

特定の抗がん剤は心臓に直接的な影響を及ぼすことがあります。代表的なものがアントラサイクリン系薬剤です。

アントラサイクリン系薬剤には、ドキソルビシン(アドリアシン)、エピルビシン(ファモルビシン)、ダウノルビシン、イダルビシン、ピラルビシン、アムルビシンなどがあります。これらは乳がん、胃がん、悪性リンパ腫、急性白血病など多くのがん種の治療に広く使用されている重要な薬剤です。

アントラサイクリン系薬剤による心毒性は、用量依存性であることが知られています。総投与量が増えるほど心筋障害のリスクが高まります。最近の研究では、これらの薬剤がミトコンドリアに集積し、酸化ストレスや鉄依存性の細胞死を引き起こすことで心筋細胞にダメージを与えることが明らかになっています。

心毒性による心不全が生じると、心臓から送り出される血液の量(心拍出量)が低下し、血圧が下がります。体はこれを補おうとして心拍数を増やすため、動悸として感じられます。

アントラサイクリン系薬剤の心毒性には、投与時期によって異なる型があります。

種類 出現時期 特徴
急性毒性 投与中~数日以内 一過性の左室機能低下。発生率約1%。投与量に依存しない。
亜急性毒性 投与後数か月以内 心筋炎などが出現。
慢性毒性 投与数か月~数年以上 心不全や左室機能障害。死亡率が高い。用量依存的に出現。

ドキソルビシンの場合、総投与量が500mg/m²を超えると心毒性のリスクが高まるとされており、投与量は厳密に管理されています。しかし、制限された投与量内でも約10%の患者さんに心毒性が生じることがあります。

分子標的治療薬にも心毒性を示すものがあります。トラスツズマブ(ハーセプチン)、ラパチニブ(タイケルブ)、イマチニブ(グリベック)、ベバシズマブ(アバスチン)、スニチニブ(スーテント)、ソラフェニブ(ネクサバール)などです。

トラスツズマブはHER2陽性の乳がんや胃がんに使用される薬剤で、数週間から数か月以内に心機能障害を起こす可能性があります。ただし、アントラサイクリン系薬剤と異なり、トラスツズマブによる心毒性は一般的に可逆性で、ACE阻害薬やβ遮断薬などの心不全治療薬によく反応するとされています。

2. 不整脈の発生

一部の抗がん剤は不整脈を引き起こすことがあります。頻脈(脈が速くなる)、徐脈(脈が遅くなる)、さらには致死的不整脈につながる可能性があるQT延長などが報告されています。不整脈による心臓のリズムの乱れは、動悸として自覚されます。

3. 貧血の発生

抗がん剤治療による貧血には、いくつかのパターンがあります。

骨髄抑制による貧血は、抗がん薬の細胞分裂阻害作用により、骨髄での血球産生能力が低下することで起こります。正常な骨髄の幹細胞の分裂や分化が阻害され、赤血球の産生が減少します。骨髄抑制は薬剤投与後1~2週間程度で現れることが多く、治療を繰り返すことで貧血が持続することがあります。

腎機能障害に伴う貧血もあります。白金製剤(シスプラチン、カルボプラチンなど)の使用により腎機能が低下すると、腎臓から分泌されるエリスロポエチン(赤血球産生を促すホルモン)が減少し、赤血球産生能力が低下します。

巨赤芽球性貧血は、DNA合成障害により核の成熟障害をきたし、異常な巨赤芽球が産生される状態です。核酸代謝阻害薬(フルオロウラシル系薬剤、メトトレキサートなど)の使用により起こることがあります。

赤血球の寿命は約120日と長いため、抗がん剤を使用してもすぐに貧血症状が出るわけではありません。貧血症状は抗がん剤の使用後1~2週間経過してから徐々に現れ始めることが一般的です。

放射線治療による動悸

放射線治療も心臓に影響を与えることがあります。心臓近くの部位、特に縦隔(胸の中央部)、乳房、食道などへの照射では心毒性のリスクが高まります。

放射線による心毒性には、刺激伝導障害(房室ブロック、洞性徐脈、心室性頻拍など)や心筋障害があります。心筋障害により心不全が生じると、心拍出量の低下に伴い血圧が下がり、それを補うために心拍数が増加して動悸が起きます。

放射線による心毒性のリスク要因としては、総線量が30~35Gy以上、1回線量が2Gy以上、ホジキン病、乳がん、食道がんなど心臓近隣のがんへの照射、若年者、心毒性のある化学療法との併用などが挙げられます。

放射線療法による心筋障害は不可逆的な場合が多く、継続的な心機能評価による予防と早期発見が重要になります。

その他の原因による動悸

制吐薬や抗精神病薬も動悸を引き起こす可能性があります。

制吐薬の中でドパミン受容体拮抗薬であるメトクロプラミド(プリンペランなど)は、悪性症候群の前駆症状として動悸を引き起こすことがあります。抗精神病薬のハロペリドール、クロルプロマジン、リスペリドンなども、制吐、鎮静、せん妄治療目的で使用されますが、動悸が生じることがあります。

悪性症候群の原因は完全には解明されていませんが、ドパミン受容体遮断作用によって視床下部付近の自律神経系のバランスが崩れ、頻脈や発汗などの自律神経症状が起こると考えられています。

また、精神的・心理的な要因も動悸の原因となります。パニック発作、不安障害、うつ病などの精神疾患により、心電図異常を伴わない心因性の動悸が起こることもあります。がんの告知や治療への不安、将来への心配など、精神的ストレスが動悸として現れる場合があります。


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動悸が起きやすい状況とリスク要因

動悸のリスクを高める要因を理解しておくことは、予防や早期発見につながります。

心毒性のリスク要因

65歳以上の高齢者、心疾患の既往歴(虚血性心疾患、心不全、不整脈)がある方、高血圧、糖尿病、高脂血症、肥満、喫煙歴がある方は心毒性のリスクが高くなります。また、過去に放射線療法(特に縦隔照射)を受けた方や、心毒性のある化学療法の治療歴がある方も注意が必要です。

骨髄抑制のリスク要因

殺細胞性抗がん薬の長期使用、高用量投与、多剤併用、短期間での繰り返し投与は骨髄抑制を起こしやすくします。また、高齢者、血液疾患がある方、免疫不全状態の方は造血機能が低下しているため、貧血が起こりやすくなります。

動悸への対処法

動悸の対処法は、その原因によって異なります。

心毒性に対する対処

心不全の症状が薬剤中止で改善しない場合には、利尿薬、ジギタリス、ACE阻害薬、β遮断薬などによる心不全治療が行われることが多くあります。アントラサイクリン系薬剤による慢性心毒性は重篤ですが、適切な治療により症状の改善が期待できる場合もあります。

2022年の研究では、アントラサイクリン系薬剤による心毒性を抑制する可能性のある物質として5-アミノレブリン酸が注目されています。心毒性抑制薬の開発により、将来的にはより安全に抗がん剤治療を継続できるようになることが期待されています。

貧血に対する対処

貧血への対処は、原因と程度に応じて行われます。

輸血は、日常生活に支障をきたす症状(労作時の動悸や息切れ、浮腫など)がある場合に検討されます。一般的に、慢性貧血ではヘモグロビン値7g/dL、全身状態が良好な場合は6g/dL以下が輸血実施の目安とされることがあります。ただし、貧血の進行度、日常生活への影響、循環器系の臨床症状も考慮して、個々の患者さんに適した判断が行われます。

鉄剤の投与は、消化管出血などによる鉄欠乏性貧血がみられる場合に行われます。栄養不足がみられる場合は、赤血球産生に必要なエネルギー、タンパク質、鉄、ビタミンCの十分な摂取が推奨されます。

抗がん剤による骨髄抑制で貧血が生じている場合、ヘモグロビン量が8.0g/dL未満では輸血が検討されます。症状が出現している時は十分な休息を確保することが大切です。

制吐薬や抗精神病薬による動悸への対処

楽な姿勢をとるなど、症状に伴う苦痛が軽減できるようにします。悪性症候群が疑われる時は、原因と思われる薬剤を中止します。医師の判断のもと、適切な対応が取られます。


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医師に伝えるべき情報

動悸を感じた時は、主治医や看護師に以下の情報を伝えることが重要です。

いつ頃から動悸を感じるようになったか、どのような時に動悸が起きるか(動いた時、階段の上り下りの時、眠っている時、疲れた時など)、どのような症状があるか(胸がドキドキする、脈が速くなる、脈が乱れる、胸が痛いなど)、どのくらい症状が続くか(しばらくじっとしていると落ち着く、1時間くらい続く、ずっと続いているなど)といった情報です。

これらの情報により、医師は動悸の原因を特定しやすくなり、適切な検査や治療につなげることができます。

日常生活での注意点

動悸がある時は、無理をせず休息を取ることが大切です。めまいや立ちくらみを感じた時は、転倒しないようにすぐにその場にしゃがむか、安全な場所に座りましょう。

貧血が原因の動悸では、バランスの取れた食事を心がけることが重要です。ヘモグロビンの材料となるタンパク質や鉄分を豊富に含む食品を摂取しましょう。

タンパク質は魚介類、肉、卵、チーズ、牛乳、大豆製品など、鉄分は肉(レバー)、貝類、卵黄、緑黄色野菜、ひじきなどに多く含まれます。鉄の吸収を高めるビタミンC(果物、野菜、イモ類など)や、赤血球を作るのに必要なビタミンB12(肉類、魚介類、卵、乳製品など)、葉酸(肉、豆類、緑黄色野菜など)を含む食品を一緒に取ると効果的です。

ただし、定期的に輸血を受けている場合は鉄が過剰になっている可能性があるため、食事やサプリメントの摂取については必ず主治医に相談してください。

動悸は、がん治療中に起こりうる症状の一つです。その原因は多岐にわたりますが、適切な対処により症状の改善が期待できます。些細なことでも医師や看護師に相談し、安心して治療を続けられるようにしていきましょう。

参考文献・出典情報

1. 国立がん研究センター がん情報サービス「貧血」
https://ganjoho.jp/public/support/condition/anemia/index.html

2. 国立がん研究センター がん体験者の悩みQ&A「副作用と思われるが、心臓発作や痛み、不整脈で動悸が乱れて、不安が日常生活を脅かしている」
https://www.scchr.jp/cancerqa/jyogen_4100302.html

3. 国立がん研究センター中央病院「ティーエスワンによる治療」
https://www.ncc.go.jp/jp/ncch/division/pharmacy/010/pamph/bile_duct_cancer/020/index.html

4. 九州大学研究成果「アントラサイクリン系抗がん剤による心毒性の仕組みを解明・治療法を開発」
https://www.kyushu-u.ac.jp/ja/researches/view/833/

5. 日本薬学会雑誌「アントラサイクリン系抗がん薬による心毒性と心筋保護薬の探索」(2025年2月)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/yakushi/145/2/145_24-00185/_html/-char/ja

6. 日本心エコー図学会「抗がん剤治療関連心筋障害の診療における心エコー図検査の手引」
http://www.jse.gr.jp/guideline_onco2020-2.pdf

7. 日本薬理学会雑誌「Clinical pharmacology of cardio-oncology: a novel interdisciplinary platform for basic and translational research」
https://www.jstage.jst.go.jp/article/fpj/155/3/155_19137/_pdf

8. 公益社団法人日本麻酔科学会「貧血をお持ちの方」
https://anesth.or.jp/users/common/preoperative_complications/19

9. 小野薬品工業「がんに伴うめまい(貧血)への対策」
https://p.ono-oncology.jp/care/symptom/06_dizziness/01.html

10. SURVIVORSHIP.JP「がん薬物療法の副作用について」
https://survivorship.jp/cancer-pharmacotherapy/sideeffect/01/01/

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本村ユウジ
がん治療専門のアドバイザー・本村です。

私の仕事は【がん患者さんに正しい選択を伝えること】です。

「本村さん、おかげで元気になりました」

そんな報告が届くのが嬉しくて、患者さんをサポートしています。

→200通以上の感謝の声(これまでいただいた実際のメールを掲載しています)

しかし毎日届く相談メールは、

「医師に提案された抗がん剤が怖くて、手の震えが止まらない」

「腰がすこし痛むだけで、再発か?転移か?と不安で一睡もできなくなる」

「職場の人も家族さえも、ちゃんと理解してくれない。しょせんは他人事なのかと孤独を感じる」

こんな苦しみに溢れています。

年齢を重ねると、たとえ健康であっても、つらいことはたくさんありますよね。

それに加えて「がん」は私たちから、家族との時間や、積み重ねたキャリア、将来の夢や希望を奪おうとするのです。

なんと理不尽で、容赦のないことでしょうか。

しかしあなたは、がんに勝たねばなりません。

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