
こんにちは。がん専門のアドバイザー、本村ユウジです。
卵巣がんは、婦人科がんの中でも早期発見が難しく、発見された時点でステージが進行していることが多い病気です。
しかし、ステージ1や2の段階で発見された場合は、適切な治療を受けることで高い治療成績が期待できます。
この記事では、卵巣がんのステージ1とステージ2の詳しい分類基準と、それぞれに対して行われる治療法について、2026年時点の最新情報を交えて詳しく解説します。
卵巣がんのステージ1とステージ2の分類基準
卵巣がんの進行度は、国際産婦人科連合(FIGO)の分類に基づいて判定されます。ステージ1とステージ2は、がんが卵巣周辺にとどまっている早期の段階を示します。
ステージ1とステージ2は、さらに細かくa、b、cの3段階に分類されています。それぞれの分類基準を表で整理すると、以下のようになります。
| ステージ | がんの広がり |
|---|---|
| ステージ1a | 腫瘍が片側の卵巣のみに限局している状態。卵巣の表面にがん細胞は見られず、卵巣を包む被膜も破れていない。腹水や腹腔洗浄液にがん細胞は認められない。 |
| ステージ1b | 腫瘍が両側の卵巣に限局している状態。卵巣の表面にがん細胞は見られず、卵巣を包む被膜も破れていない。腹水や腹腔洗浄液にがん細胞は認められない。 |
| ステージ1c | 腫瘍が片側または両側の卵巣に限局しているが、次のいずれかの条件を満たす状態。(1)手術操作により被膜が破れた、(2)手術前に被膜が破れていた、または卵巣表面に腫瘍がある、(3)腹水または腹腔洗浄液にがん細胞が認められる。 |
| ステージ2a | 腫瘍が卵巣を越えて、子宮や卵管に広がっている状態。ただし骨盤内にとどまっている。 |
| ステージ2b | 腫瘍が卵巣を越えて、直腸、膀胱、S状結腸などの骨盤内臓器に広がっている状態。 |
| ステージ2c | ステージ2aまたは2bの状態に加えて、次のいずれかの条件を満たす状態。(1)手術操作により被膜が破れた、(2)手術前に被膜が破れていた、または卵巣表面に腫瘍がある、(3)腹水または腹腔洗浄液にがん細胞が認められる。 |
卵巣がんステージ1の特徴と発見の難しさ
卵巣がんは「沈黙の殺人者」とも呼ばれ、初期段階では自覚症状がほとんどありません。
卵巣は骨盤の奥深くに位置しており、小さな腫瘍では周囲の臓器を圧迫することもないため、がんが発生しても気づきにくいのです。そのため、発見された時点ですでにステージ3以上に進行しているケースが全体の約半数を占めています。
逆に言えば、ステージ1の段階で卵巣がんが発見されることは稀であり、特にステージ1aで見つかるケースは限られています。
ステージ1で発見される主なきっかけとしては、以下のようなものがあります。
・他の病気の検査や手術の際に偶然発見される
・定期的な婦人科検診で卵巣の腫れを指摘される
・下腹部の違和感や膨満感を感じて受診する
・不正出血などの症状で検査を受ける
ステージ1の段階で発見できれば、適切な治療により高い確率で根治が期待できます。日本の統計では、ステージ1の5年生存率は約90%以上とされています。
卵巣がんステージ2の特徴
ステージ2は、がんが卵巣を越えて骨盤内の他の臓器に広がっているものの、まだ腹腔内全体には広がっていない段階です。
ステージ2になると、下腹部の張りや痛み、不正出血、頻尿などの症状が現れることがあります。ただし、これらの症状は他の婦人科疾患でも見られるため、卵巣がん特有の症状とは言えません。
ステージ2の5年生存率は約70~80%程度とされており、ステージ1と比較するとやや低下しますが、依然として治療効果が期待できる段階です。
診断のプロセスと確定診断
卵巣がんの診断は、複数の検査を組み合わせて総合的に判断します。
まず、内診で卵巣の腫れや硬さを確認し、経膣超音波検査やCT検査、MRI検査などの画像診断で腫瘍の大きさや性状を詳しく調べます。また、血液検査で腫瘍マーカー(CA125、CA19-9など)の値を測定します。
ただし、卵巣は腹部の奥深くにあるため、子宮頸がんのように外から直接組織を採取することができません。そのため、これらの検査結果から卵巣がんの可能性が高いと判断された場合、手術を行い、摘出した腫瘍の病理検査を実施して最終的な診断を確定します。
つまり、手術前に良性か悪性かの推測はできても、確定診断は手術後の病理検査によって初めて明らかになります。同様に、正確なステージの判定も手術によって摘出した組織を詳しく調べて初めて確定します。
卵巣がんステージ1、2の標準治療の基本方針
卵巣がんのステージ1、2における標準治療の基本は、手術によって腫瘍を完全に摘出することです。
手術には、診断を確定させる目的と、がんを取り除く治療の目的という2つの重要な役割があります。早期のステージであっても、正確な進行度を把握するために、広範囲の組織やリンパ節を調べる必要があり、手術は大がかりなものになります。
手術で腫瘍を完全に摘出できるのは、一般的にステージ1の場合のみと考えられています。ステージ2以上では、目に見える範囲ではがんを取り切れたように見えても、微小ながん細胞が残存している可能性があるためです。
そのため、ステージ1cやステージ2の患者さん、またはステージ1aやステージ1bであっても再発リスクが高い条件がある場合には、手術後に抗がん剤による補助化学療法が行われます。
標準的な補助化学療法は、パクリタキセル(タキソール)とカルボプラチンを組み合わせたTC療法です。この治療は3週間を1コースとして、通常6コース(約18週間)実施されます。副作用が軽い場合は、外来通院で治療を受けることも可能です。
卵巣がんステージ1aの治療方法
ステージ1aは、がんが片側の卵巣のみに限局している最も早期の段階です。前述の通り、この段階で発見されることは稀ですが、発見された場合は適切な治療によって高い確率で根治が期待できます。
標準的な手術の内容
ステージ1aの標準的な手術は、以下の内容を含みます。
・両側付属器切除術(両側の卵巣と卵管の摘出)
・単純子宮全摘出術
・大網切除
・骨盤リンパ節郭清または生検
・傍大動脈リンパ節郭清または生検
大網は、胃から垂れ下がって腹部の臓器を覆っている脂肪組織の膜で、卵巣がんが転移しやすい部位の1つです。大網を切除して病理検査を行い、転移が確認されれば、腫瘍が片側の卵巣に限られていてもステージ3以上の進行がんと診断されます。
リンパ節郭清は、骨盤内から腎静脈の高さまでの範囲で行われます。これは、がんの広がりを正確に把握し、適切な術後治療を決定するために重要な手術操作です。
妊孕性温存手術の可能性
卵巣がんのステージ1aで、まだ妊娠を希望している若年の患者さんの場合、条件を満たせば妊孕性(妊娠する能力)を温存する手術が選択できることがあります。
妊孕性温存手術の適応条件は、一般的に以下のようなものです。
・年齢が35~40歳未満
・手術中の観察で、がんが片側の卵巣のみに限局していることが確認できる
・組織型が明細胞がんや粘液性がんではない
・分化度が高分化型または中分化型である
妊孕性温存手術では、がんのある側の卵巣と卵管、大網を切除し、反対側の健康な卵巣と卵管、子宮を残します。これにより、治療後に妊娠・出産の可能性を残すことができます。
ただし、摘出した卵巣の病理検査の結果、がんの分化度が低い(未分化がん)と判明した場合や、予想よりも進行していることが分かった場合には、追加で反対側の卵巣や子宮を摘出する標準的な手術を行う必要が生じることもあります。
妊孕性温存手術を選択する場合は、再発のリスクや術後の経過観察の重要性について、担当医から十分な説明を受け、理解したうえで決定することが大切です。
卵巣がんステージ1b~2cの治療方法
ステージ1b~2cの段階では、手術によって目に見える範囲の腫瘍を完全に摘出することを目指します。
手術の内容
標準的な手術の内容は、以下の通りです。
・単純子宮全摘出術
・両側付属器切除術(両側の卵巣と卵管の摘出)
・大網切除
・骨盤リンパ節郭清または生検
・傍大動脈リンパ節郭清または生検
ステージ2では、がんが骨盤内の他の臓器に広がっているため、必要に応じて周囲の組織も合わせて切除することがあります。
手術の方法は、開腹手術が標準ですが、患者さんの状態や施設の体制によっては、腹腔鏡手術やロボット支援手術が選択されることもあります。
術後補助化学療法
ステージ1b以降の患者さんや、ステージ1cの患者さんには、術後に抗がん剤による補助化学療法が推奨されます。
標準的な化学療法レジメンは、TC療法(パクリタキセル+カルボプラチン)です。
| 薬剤名 | 投与方法 | 主な副作用 |
|---|---|---|
| パクリタキセル(タキソール) | 3週間ごとに点滴投与、1回あたり約3時間 | 脱毛、末梢神経障害、関節痛、筋肉痛、アレルギー反応 |
| カルボプラチン | 3週間ごとに点滴投与、パクリタキセルと同日 | 骨髄抑制(白血球減少、血小板減少、貧血)、吐き気、腎機能障害 |
この治療を3週間を1コースとして、通常6コース(約18週間、4~5か月)継続します。
副作用の程度は個人差がありますが、比較的軽い場合は、入院せずに外来通院で治療を受けることができます。ただし、白血球が減少して感染症のリスクが高まる期間があるため、体調管理には十分な注意が必要です。
脱毛は多くの患者さんに見られる副作用ですが、治療が終了すれば再び髪は生えてきます。末梢神経障害による手足のしびれや痛みは、治療中から出現することがあり、治療終了後も長期間続くことがあります。
治療後の経過観察
手術と術後補助化学療法を終えた後は、定期的な経過観察が重要です。
経過観察の主な目的は、再発の早期発見と、治療による後遺症や合併症の管理です。
一般的な経過観察のスケジュールは以下の通りです。
・治療終了後1~2年目:2~3か月ごと
・3~5年目:3~6か月ごと
・6年目以降:6~12か月ごと
経過観察では、内診、経膣超音波検査、腫瘍マーカー(CA125など)の測定を行います。必要に応じて、CT検査やMRI検査などの画像診断も実施します。
再発の約80%は治療後2年以内に起こるとされていますが、5年以上経過してから再発することもあるため、長期的な経過観察が推奨されています。
治療費と医療費助成制度
卵巣がんの治療には、手術費用、入院費用、化学療法の薬剤費などがかかります。
手術と入院にかかる費用は、治療内容や入院期間によって異なりますが、一般的に総額で100万円から200万円程度になることがあります。術後の補助化学療法を含めると、さらに費用が増加します。
ただし、日本では公的医療保険制度があり、実際の自己負担額は医療費の1~3割です。さらに、高額療養費制度を利用することで、1か月あたりの医療費の自己負担額に上限が設けられます。
高額療養費制度の自己負担限度額は、年齢や所得に応じて異なります。一般的な所得区分(年収約370万円~約770万円)の場合、1か月あたりの自己負担限度額は約8万円~9万円程度です。
また、がん患者さんが利用できる支援制度として、以下のようなものがあります。
・傷病手当金:治療のために仕事を休んだ場合の所得補償
・障害年金:治療による障害が残った場合の年金給付
・医療費控除:確定申告による税金の還付
これらの制度について詳しく知りたい場合は、病院の医療相談室(医療ソーシャルワーカー)に相談することをお勧めします。
治療を選択する際の重要なポイント
卵巣がんの治療を選択する際には、以下のようなポイントを考慮することが大切です。
治療実績のある施設を選ぶ
卵巣がんの手術は、がんの広がりを正確に評価し、必要な範囲を適切に切除する技術が求められます。婦人科腫瘍を専門とする医師がいる、治療実績の豊富な施設で治療を受けることが望ましいです。
日本婦人科腫瘍学会のホームページでは、専門医が在籍する施設を検索することができます。
セカンドオピニオンの活用
治療方針に不安や疑問がある場合、他の医師の意見を聞くセカンドオピニオンを受けることも選択肢の1つです。
特に妊孕性温存を希望する場合や、標準治療以外の選択肢について知りたい場合には、複数の専門医の意見を参考にすることが役立ちます。
治療後の生活の質を考える
治療の選択では、根治を目指すことが最優先ですが、同時に治療後の生活の質(QOL)についても考慮することが大切です。
手術による卵巣の摘出は、若年の患者さんでは更年期障害のような症状が現れることがあります。化学療法の副作用も、日常生活に影響を与えることがあります。
これらの問題について、担当医や看護師、薬剤師などの医療チームと十分に相談し、対処法を事前に知っておくことが、治療を乗り切るために重要です。
