
こんにちは。がん専門のアドバイザー、本村ユウジです。
卵巣がんの手術では、がんの進行度や状況によって両側の卵巣を摘出することがあります。卵巣は女性ホルモンを分泌する重要な臓器であるため、摘出後には体にさまざまな変化が起こります。
この記事では、卵巣摘出後に女性ホルモンがどうなるのか、どのような症状が現れるのか、そして具体的な対処方法について、2026年の最新医療情報をもとに詳しく説明します。
卵巣摘出後の女性ホルモンへの影響
卵巣は、女性ホルモンであるエストロゲン(卵胞ホルモン)とプロゲステロン(黄体ホルモン)を分泌する重要な臓器です。卵巣がんの手術で両側の卵巣を摘出した場合、これらのホルモンの分泌が急激に減少し、外科的閉経の状態となります。
また、卵巣を残せた場合でも、化学療法(抗がん剤治療)や放射線療法の影響で卵巣機能が低下し、女性ホルモンの分泌が減少することがあります。抗がん剤治療後に一時的に無月経となり、その後月経が再開する場合もありますが、閉経状態が持続するケースも少なくありません。
卵巣が機能しなくなると、女性ホルモンの分泌量が減り、更年期障害と同様の症状が起こることがあります。これを「卵巣欠落症状」といいます。
卵巣欠落症状とは何か
卵巣欠落症状は、両側の卵巣摘出や治療の影響で卵巣機能が低下・喪失することで起こる合併症です。自然な閉経の場合、女性ホルモンは徐々に減少していきますが、手術による摘出では急激にホルモンが失われるため、自然閉経よりも症状が強く出やすいことが知られています。
とくに若年(50歳未満)で卵巣機能を失った場合、症状が強く現れやすく、また低エストロゲン状態で過ごす時間が長くなるため、長期的な健康リスクが高まることが指摘されています。
卵巣欠落症状で起こる主な症状
卵巣欠落症状の現れ方には個人差があり、症状の種類や程度もさまざまです。代表的な症状を以下にまとめます。
1. 血管運動神経系の症状(早期に現れる症状)
女性ホルモンの減少により、自律神経のバランスが乱れることで起こる症状です。
- ホットフラッシュ(顔のほてり、のぼせ)
- 発汗(寒い時期でも大量に汗をかく)
- 動悸
- 頭痛
- 冷え
2. 精神神経系の症状
エストロゲンは脳の機能にも影響を与えているため、ホルモン減少によりさまざまな精神症状が現れることがあります。
- イライラ感
- 憂うつ感、気分の落ち込み
- 不眠
- 倦怠感、疲れやすさ
- 物忘れ(認知機能への影響)
- 不安感
3. 泌尿生殖器系の症状
エストロゲンは膣の分泌物を増やし、膣内を酸性に保つ働きがあります。ホルモンが低下することで、以下のような症状が起こります。
- 萎縮性膣炎(膣の乾燥、炎症)
- 性交痛
- 膣内の細菌感染(カンジダ膣炎、細菌性膣炎など)
- 尿失禁
- 頻尿
4. 長期的な健康リスク
エストロゲンは骨や血管の健康を保つ働きがあるため、長期間にわたってホルモンが不足すると、以下のような健康問題のリスクが高まります。
| 健康リスク | 発症時期の目安 | 主な影響 |
|---|---|---|
| 脂質異常症(高脂血症) | 数年以内 | コレステロール値の上昇、血管への負担増加 |
| 骨粗鬆症 | 閉経後10年程度(60代) | 骨密度の低下、骨折リスクの増加 |
| 動脈硬化 | 閉経後20年程度(70代) | 心筋梗塞、脳梗塞のリスク増加 |
| 心血管疾患 | 長期的 | 冠動脈疾患、高血圧症 |
50歳前後で自然閉経を迎えた人と比べて、若年で卵巣機能を失った場合は、これらの病気が前倒しで発症する可能性があります。45歳未満で両側卵巣を摘出した場合、冠動脈疾患の発症リスクが増加し、50歳未満では心血管系疾患の発症リスクが高まることが報告されています。
症状が出やすい人の特徴
卵巣欠落症状は、ストレスとも関係しています。ストレスを強く感じやすいタイプの人は、とくに症状が強く出やすい傾向があります。また、手術時の年齢が若いほど症状が強く現れやすいことも知られています。
ただし、更年期症状が出ないからといって、骨粗鬆症や脂質異常症になりにくいわけではありません。症状の有無にかかわらず、50歳より早い段階で卵巣機能が失われた場合は、定期的な検査が必要です。
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卵巣欠落症状への対処方法
卵巣欠落症状に対しては、いくつかの治療法や対処法があります。2025年には「ホルモン補充療法ガイドライン2025年度版」が8年ぶりに改訂され、最新のエビデンスに基づいた治療方針が示されました。
1. ホルモン補充療法(HRT)
卵巣欠落症状に最も効果的な治療法は、不足したエストロゲンを補うホルモン補充療法(HRT: Hormone Replacement Therapy)です。
ホルモン補充療法の基本
HRTでは、子宮の有無によって使用するホルモン剤が異なります。
| 子宮の状態 | 使用するホルモン | 理由 |
|---|---|---|
| 子宮を摘出している | エストロゲン単独療法(ET) | 子宮内膜がんのリスクがないため |
| 子宮を温存している | エストロゲン+プロゲステロン併用療法(EPT) | 子宮内膜増殖症・子宮体がんのリスクを防ぐため |
エストロゲンとプロゲステロンを併用すれば、子宮体がん(子宮内膜がん)のリスクは非使用者と同等になることが確認されています。
ホルモン補充療法の投与方法
HRTの投与方法には、内服薬、貼り薬(パッチ剤)、ジェル剤などがあります。
貼り薬は皮膚から吸収されるため肝臓を通らず、体への負担が少ないという利点があります。また、懸念されている乳がんのリスクも低いとされています。患者さんの症状や生活スタイルに合わせて、医師が最適な方法を選択します。
卵巣がん術後のホルモン補充療法について
「卵巣がん治療後にホルモン補充療法を行っても大丈夫なのか」という疑問を持たれる方も多いと思います。
2025年版の卵巣がん治療ガイドラインおよび複数の研究によると、子宮体がんⅠ期・Ⅱ期、卵巣がん、子宮頸がんの治療後にホルモン補充療法を行っても、再発リスクを上昇させる証拠はないとされています。むしろ、卵巣欠落症状による生活の質の低下や、骨粗鬆症などの長期的な健康リスクを考慮すると、HRTを検討することが推奨されています。
ただし、ホルモン補充療法には注意すべき点もあります。エストロゲンとプロゲステロンの併用療法では、長期投与により乳がんのリスクがわずかに増加する可能性が指摘されています。そのため、HRTを行う場合は、婦人科医でも乳がんの知識を持ち合わせた医師に相談し、定期的な乳がん検診を受けることが重要です。
ホルモン補充療法の開始時期と継続期間
ホルモン補充療法は、症状が出てから始めるものではなく、症状が出ないように予防するために始めるものとされています。がん治療が落ち着いて、HRTができる段階であれば、症状の有無にかかわらず開始を検討できます。
治療期間については、51歳頃(平均閉経年齢)まで継続することが推奨されていますが、個々の状況に応じて医師と相談して決定します。
ホルモン補充療法の費用
卵巣欠落症状に対するホルモン補充療法は、保険適用となります。月々の費用はおおよそ2,000円程度です。
2. その他の薬物療法
精神症状への対応
イライラや憂うつ感が強い場合は、抗うつ薬や抗不安薬が処方されることがあります。これらの薬は、精神症状の改善に役立ちます。
漢方薬
効果が出るまで数か月かかりますが、漢方薬が有効なケースもあります。体質に合わせて処方される漢方薬には、卵巣機能を高めたり、更年期症状を軽減させたりする作用があるとされています。
3. 生活習慣の改善
症状の軽減や長期的な健康維持のために、生活習慣の改善も重要です。
- 規則正しい生活リズムを保つ
- 適度な運動を継続する(骨粗鬆症予防、心血管疾患予防)
- バランスの取れた食事(カルシウム、ビタミンDの摂取)
- ストレス管理
- 十分な睡眠
4. 性生活への対応
卵巣摘出後は、女性ホルモンの減少により膣の伸展性が低下したり、分泌物が減少したりすることがあります。性交痛が起こる場合は、潤滑ゼリーを使用することで対応できます。
手術後の性生活の再開時期については、両側卵巣・卵管を摘出した場合は約3か月程度、子宮も同時に摘出した場合は約6か月程度の経過を目安とし、それぞれの手術の傷が癒えた頃に可能になります。
定期的な検査の重要性
がん治療後の人生は長く続きます。通常の閉経時期よりも早く女性ホルモンを失うことは、長期的にさまざまな健康問題を引き起こす可能性があります。
卵巣欠落症状、骨粗鬆症、脂質異常症、動脈硬化など、長期的なフォローアップが必要です。ホルモン補充療法を行う場合も行わない場合も、以下の検査を定期的に受けることが推奨されます。
- 骨密度検査(骨粗鬆症の早期発見)
- 血液検査(脂質異常症のチェック)
- 血圧測定
- 乳がん検診(HRT施行時は特に重要)
- 子宮体がん検診(子宮を温存している場合)
症状が出ていなくても、検査上で異常値がある場合は、早めに対策を取ることが大切です。
医師との相談が重要
卵巣機能低下に対してどのような治療を行うかは、個人によって異なります。がんの種類や組織の性質、もともとの合併症によっても違うため、どのように診てどのような治療を行うかは、主治医との十分な相談が必要です。
手術前に卵巣欠落症状について理解するとともに、少しでも症状を緩和できるよう対応策を医師から提供してもらうことが大切です。術後に気になる症状や悩みがあれば、遠慮せずに医師や看護師、薬剤師に相談しましょう。
また、婦人科医の中でも女性ヘルスケアに精通した専門医や、乳がんの知識も持ち合わせた医師に相談することで、より適切な治療を受けることができます。
まとめ
卵巣がん手術で両側の卵巣を摘出した場合、女性ホルモンの分泌が急激に減少し、卵巣欠落症状が起こります。症状は多岐にわたり、ホットフラッシュや精神症状などの早期症状から、骨粗鬆症や動脈硬化などの長期的な健康リスクまであります。
最も効果的な対処法はホルモン補充療法(HRT)です。2025年にガイドラインが改訂され、卵巣がん術後でも再発リスクを上昇させないことが確認されています。HRTには貼り薬やジェル剤など複数の投与方法があり、症状や生活スタイルに合わせて選択できます。
若年で卵巣機能を失った場合、長期的な健康リスクが高まるため、症状の有無にかかわらず定期的な検査が重要です。骨密度検査や血液検査を定期的に受け、異常があれば早めに対策を取ることで、健康を維持することができます。
治療方針は個人によって異なるため、主治医との十分な相談が必要です。遠慮せずに症状や悩みを伝えましょう。
参考文献・出典情報
- 国立がん研究センター がん情報サービス「卵巣がん・卵管がん 治療」
- 東京大学医学部附属病院 女性外科「がんサバイバー診療」
- 東北大学病院 産婦人科「卵巣欠落症状のおはなし」
- 日本産科婦人科学会・日本女性医学学会「ホルモン補充療法ガイドライン 2025年度版」
- 遺伝性乳がん卵巣がん総合診療制度機構「卵巣癌CQ6 ホルモン補充療法は推奨されるか」
- 日本乳癌学会「乳癌診療ガイドライン2022年版 CQ2 閉経後女性ホルモン補充療法」
- 日本婦人科腫瘍学会「卵巣がん・卵管癌・腹膜癌治療ガイドライン2020年版」
- ミネルバクリニック「卵巣を摘出するデメリットとは?術後の治療と日常生活」
- 兵庫県医師会「卵巣摘出後『うつ』に」
- 国立がん研究センター中央病院「子宮体がん 治療方針」