乳がんの再発予防と運動の関係は医学的にもデータがあり、「定期的に運動している人は、ほとんど運動しない人に比べて、乳がんの発症率が約23に低下する」という結果が出ています(日本乳癌学会編「患者さんのための乳癌診療ガイドライン」より)。
適度な運動は心と体の健康につながる
乳がんの手術や治療のあとは、体を動かすことに不安や抵抗があると思います。とくにリンパ節を切除した患者さんは、腕や肩を十分に動かすことができないこともあります。
しかし、体力の回復に歩調を合わせて、徐々にでも体を動かし始めるほうが回復しやすく、過度な安静を続けるよりむしろそのほうが、日常生活への復帰も早くなります。
運動は、精神面にも好影響をあたえます。実際、うつなどの気分の落ち込み改善に効果があることは、医学的にも証明されています。
ただ治療前に積極的にスポーツを楽しんでいた人は少し注意が必要です。治療前のイメージで、逆に体を動かしすぎてしまいがちです。手術や薬物療法などで、体力は低下しています。はやる気持ちを抑えて、散歩、ウォーキングなどから少しずつ始めるのがよいです。
また、運動習慣のなかった人はこの機会に軽い運動を始めてみるのがよいです。運動が外出のきっかけにもなり、気分転換の効果も得られます。
運動を始める前には必ず主治医に相談して、始めるタイミングや運動強度を確認することが大切です。
運動は体力の回復に役立つだけでなく、乳がんの再発を防ぐ
乳がんの発症には、女性ホルモンのエストロゲンが密接に関与していることがわかっています。
閉経した女性では、卵巣から分泌されるエストロゲンは著しく低下します。そのかわりに、副腎で分泌されるアンドロゲンというホルモンが、脂肪細胞でエストロゲンにつくり変えられます。
そのため、脂肪細胞の多い肥満の女性ほどエストロゲンが多く生成されることになり、乳がん発生のリスクが高まります。
また、閉経後の女性の場合、日ごろあまり運動していない人よりも、定期的な運動習慣のある人のほうが、乳がんの発症リスクが低いこともわかっています。
こうした理由から、とくに閉経後の乳がんの患者さんは、肥満を解消するよう、また肥満にならないよう、体重をコントロールすることが大切なのです。
なお、閉経前の女性については肥満と乳がんの発症リスクの関連性は、閉経後の女性ほど強くはありません。
特に「糖尿病」を意識して予防することは、乳がん予防にもなります。
肥満は、糖尿病や動脈硬化症など、さまざまな生活習慣病の原因となります。糖尿病の人と、糖尿病ではない人とを比較すると、糖尿病の人のほうが乳がんの発症リスクが高いことがわかっています。
糖尿病は、インスリンがうまく働かなくなり、血糖値が高い状態が続く病気です。肥満があると、体内でのインスリンの需要と供給のバランスが崩れて効きが悪くなり、糖尿病を発症しやすくなります。
それにより高血糖の状態が続くことで、乳がんをはじめとするさまざまながんの増殖を促すと考えられています。
激しい運動より楽しい運動を
運動で体重をコントロールする場合、激しい運動や本格的なスポーツが必要なわけではありません。
ウォーキング、軽いジョギングなどの負荷の軽い運動も十分に効果があります。
また、スポーツだけが運動ではありません。積極的に家事をする、エスカレーターをやめて階段を使う、目的地のひと駅手前で下車して歩くなど、日常生活の中で体を動かすことも有効な運動です。
なお、体重コントロールをする際に、急激な減量をめざすとリバウンドしがちです。少しずつ減らしていきましょう。そのためには、運動を楽しむこと、そして長く続けていくことが大切です。