
こんにちは。がん治療専門アドバイザー、本村ユウジです。
家族ががんと診断されたとき、多くのご家族が「本人に告知すべきか、しないべきか」という難しい判断に直面します。
本人がショックを受けて立ち直れなくなるのではないか、知らせることで希望を失ってしまうのではないか、という思いやりの気持ちから、告知するかどうかの判断に苦しむ方が多くいらっしゃいます。
この記事では、がん告知の現状、家族としての判断基準、告知後の対応方法について、最新の情報を交えながら詳しく解説します。
がん告知の現状と変化
日本におけるがん告知の状況は、この30年で大きく変化しました。
1980年代半ばまでは、がんと本人に告知することはタブーとされ、家族にのみ病名を告げることが一般的でした。患者さん本人には別の病名を伝えたり、適当な薬を処方してお茶を濁すという対応が主流だったのです。
しかし現在では、患者さん本人に告知することが一般的になっています。この変化の背景には、インフォームドコンセントの考え方が医療現場に浸透したことがあります。
インフォームドコンセントとは、医師が病状や治療法などを十分に説明し、患者さんが理解したうえで治療法を選択することを意味します。患者さん自身の自己決定権や知る権利が重視されるようになり、本人への告知が原則となってきました。
現在の医療では、がんの診断がついた段階で、多くの医師が患者さん本人に診断名、病期、今後の治療方針などの説明を行っています。ただし、家族の同席が推奨されることも多く、一人で告知を受けるよりも、複数人で説明を聞くことが望ましいとされています。
がん告知とは何を意味するのか
「がん告知」という言葉は、何か恐ろしいことを宣告するような印象を与えますが、英語では「truth telling(真実を伝える)」という表現が使われています。
これは単に医学用語を使って正確な病名を伝えたり、「残された期間はあと6ヵ月です」と具体的な期間を知らせることだけを意味するのではありません。
真実が伝わるということは、患者さん本人が自分自身の感じ方で病気や病状について情報を理解できる、ということです。近代ホスピスの創始者として知られるシシリー・ソーンダースは、「告知は、言葉で伝えるというより人間関係そのものである」と述べています。
どのような言葉を使って話すかということより、真実を伝える時の人間関係そのものが大切です。また、その時の家族の表情や態度など、言葉以外のことからも真実は伝わります。
病名告知と予後告知の違い
がん告知には、大きく分けて二つの内容があります。
| 告知の種類 | 内容 | 備考 |
|---|---|---|
| 病名告知 | がんの病名、細胞のタイプ、進行度(ステージ)を伝える | 治療方針を決定するために必要。ステージ情報は大まかな予後の見通しにもつながる |
| 予後告知 | 残された命の長さの見通しを伝える | 「あと3ヵ月です」「月を数える状態です」など表現は様々。予測は確実ではない |
病名告知の際には、がん細胞のタイプを説明したり、病状進行の度合いを表す「第何期(ステージ何)」という情報も伝えられることがあります。これは病期を示す言葉であり、進行した状態であることを示すメッセージにもなります。
患者さん本人は、医師から説明されたその時には理解できなくても、帰りに書店に寄って本を読んだり、インターネットで調べることで、自分の病状の進行程度を知ることがあります。
予後告知については、病名告知ほど広く行われていません。しかし、仕事を整理する必要がある場合、遺産相続などの身辺整理が必要な場合、幼い子供を残してこの世を去らなければならない場合など、予後を知る必要がある時があります。
予後を予測することは容易ではないため、何カ月と具体的に伝えても、それが必ず的中するとは限りません。伝えられたよりも長く生きられる方もいますし、時には短い期間しか生きられない場合もあります。
がん告知に関する意識調査の結果
がん告知に関する人々の気持ちは、各種の調査結果に表れています。ある全国調査では、以下のような結果が示されました。
| 質問内容 | 回答 | 割合 |
|---|---|---|
| もし、あなたががんにかかったとしたら、がんであることを知らせて欲しいと思いますか | 知らせて欲しい | 77% |
| そうは思わない | 18% | |
| その他・答えない | 5% | |
| 知らせて欲しいと答えた77%の人に質問:そのがんが治る見込みがない場合は、知らせて欲しいと思いますか | 知らせて欲しい | 69% |
| 知らせて欲しくない | 7% | |
| その他・答えない | 1% | |
| もし、あなたの家族が、がんにかかったとしたら、あなたは、がんであることを本人に知らせると思いますか | 知らせると思う | 39% |
| そうは思わない | 43% | |
| その他・答えない | 18% | |
| 医者は、患者本人にがんであることを知らせる方がよいと思いますか | 知らせる方がよい | 56% |
| そうは思わない | 24% | |
| その他・答えない | 20% |
この調査結果から、興味深い傾向が読み取れます。
「がんであることを知らせてほしい」と答えた方が77%、さらにその69%の方が「がんが治る見込みがない場合でも告知してほしい」と答えています。自分自身のことであれば大半の方が病名告知はもとより、予後告知もしてほしいと考えているのです。
ところが、家族ががんになった場合に告知するかどうかという質問に対しては、わずか39%の方が知らせると答え、それ以上の割合で43%の方が告知しようとは思わないと答えています。
自分自身のことについての考え方と家族の場合の考え方が大きく異なることが、この調査結果に示されています。多くの方が「自分なら知りたい」と思いながらも、「家族には知らせたくない」と考える傾向があるのです。
告知後の患者さんの心の回復プロセス
告知したほうがよいとは思うものの、患者さん本人が強い衝撃から立ち直れないのではないかと家族は心配します。
人それぞれに心の反応は異なりますが、がん診断に対する通常の心理的反応には一定のプロセスがあることが知られています。精神科医のホランドは1990年に、以下のような3段階のプロセスを示しました。
| 段階 | 期間 | 主な反応 |
|---|---|---|
| 第一相:初期反応 | 1週間まで | ショック(頭が真っ白になった)、否認(がんになるはずがない)、絶望(治療しても無駄だ) |
| 第二相:気分の変調 | 1~2週間程度 | 不安、抑うつ的気分、食欲不振、不眠、集中力の低下 |
| 第三相:適応 | 2週間で始まる | 新しい情報への適応、現実的問題への直面、楽観的見方ができるようになる、活動の再開・開始 |
がんという病名を告知されると、最初の2~3日の間は「まさか自分ががんのはずがない」「何かの間違いに決まっている」などと、認めたくない気持ちが強くなります。これは、大きな衝撃から心を守ろうとするごく自然な反応です。
多くの患者さんは、この時期を振り返って「目の前が真っ暗になった」「頭の中が真っ白になった」「病院からどうやって帰ったのか覚えていない」といった感想を述べています。
告知後、心の動揺が1~2週間は続きます。不安になったり、落ち込んだりを繰り返す不安定な時期です。「なぜ自分だけがこんな目に遭わなければならないのか」という怒りを感じることもあります。眠れなかったり、食欲がなくなったり、集中力が低下する人も少なくありません。
しかし、やがて人間が本来持っている、困難を乗り越え適応しようとする力が働き出します。不安定段階の動揺も2週間ほど経過すると徐々に落ち着いてきて、がんと戦っていこうという気持ちや、共存しようという気持ちが芽生えてきます。
この適応段階に達すると、がんの情報を集めたり、同じ体験をした人に話を聞いてみようと動き始めることができるようになります。仕事を整理したり、家庭での役割を変更したりといった現実的な対処も始めます。
第一相の段階で患者さん本人の気持ちがとても落ち込んでいる様子を見ると、家族は告知しなければよかったと後悔で胸がいっぱいになるかもしれません。そのような時には、このプロセスを思い出してみることが大切です。
家族としていつ告知すればよいのか
がん告知について重要なことは、「告知のタイミング」です。
最初に診断名が伝えられるのは多くの場合、主治医が外来で検査結果を伝え、今後の治療方針を説明する時でしょう。その前に主治医と家族の話し合いが行われて告知しない方針が選択されると、その後は告知のタイミングを見つけることになります。
しかし、本人が真実を告げられることを望んでいるのか、いないのか、どうやって本心を知ることができるのでしょうか。
患者さん本人が家族に問いただしてきた時
患者さん本人が「悪いものだったらそう言ってほしい」とはっきり家族に問いただしてくることがあります。
その時には言を左右にしてごまかしたり、まったく関係のないことに話題をそらせたりしないことが大切です。患者さんの質問に対して、答えをそらしたり、黙っていると、「この問題は触れてはいけないタブーなのだ」という印象を与えてしまいます。
「どうして知りたいと思っているのか」「何を知りたいのか」、患者さんの気持ちを慎重に確認しながら話し合うことが大切です。
「がんなのでは…」と問いただされた時に、「それは思い込みすぎよ」とか「主治医の先生はそう言っていないでしょう」という返事は適切ではありません。
「どうしてそうだと思うの」と聞き返すことから話を進め、患者さんが知りたいと思っていることの中身を感じ取りながら会話を続けていくことが適切です。
会話を続けるうちに、もし返答に詰まってしまったら、黙っているよりしかたがないかもしれません。しかし「答えに詰まって黙っている」という返事のしかたは、結果として患者さんが疑問に思っていることを肯定したのと同じになる可能性があります。
患者さんのほうが、家族を苦しめてはいけないと感じて、それ以上問いたださないこともあるのです。告げなければ必ず秘密がばれないということにはなりません。
患者さんが家族に問いただしてきた時が、本心を知るためのチャンスであることを、心に留めておきましょう。その時は突然訪れる場合が多いので、びっくりするかもしれません。すぐ言葉が出てこなくても慌てないで、一呼吸入れてから、「どうして知りたいと思ったの」と聞くとよいでしょう。
本人が知りたいと思っていることを見極める
知りたいと思っていることが、家族が想像している内容と異なる場合があります。本人が「どんなことを」知りたいと思っているのか、「どう知りたいのか」、家族は注意深く見極める必要があります。
たとえば「悪いほうに向かっているのだろうか」「わたしは病院から見捨てられたのか」と患者さんが尋ねる時は、「病気が悪化しているのでは」と病状に懸念を抱いている気持ちや、「もう治療の方法がなくなったのだろうか」ということが疑問になっているのです。
このような問いは、必ずしも「あなたの病気はがんなのよ」とか「もう病気は治らないらしい」などと、はっきりした返事を求めているわけではありません。
本人が知りたいことを、患者さんが耐えられる言葉を選んで答えないと、思わぬ失敗をしてしまうことがあります。
「悪い病気になったようだ」「畳の上で逝きたい」などの間接的な表現で患者さんが問いかけてきた場合は、できるだけ本人が話した言葉をそのまま使って答えるとよいでしょう。
「残念だけど、たちがよくないものだって、先生から話された…」とか「今度はお迎えが来るかもしれないと言われているの」と本人と同じ言葉で答えるほうが、患者さんの気持ちにぴったりします。
家族がオロオロしてしまい、患者さんの言葉が耳に入らず、医師から話されている病名や余命そのものを伝えようと思うかもしれません。しかしそれは、問いに対する適切な答えではないのです。
一人一人に、本人が受け入れられる言葉の許容範囲があります。自分が受け入れたくない言葉、使ってほしくない言葉が何かは、本人が使う言葉に示されています。難しいことですが、本人が使いたい言葉、安心していられる表現を使って会話を続けるように心がけることが大切です。
告知が必要なケース
早期発見で、すぐ治療すれば完全に治すことができるのに、告知していないために治療を拒否する、入院しない、などの態度を患者さん本人がとることがあります。
最近では、主治医がきちんと病名や病状を説明し、いくつかの治療方法を示して、患者さん本人と話し合うことが必要だと言われています。そのうえで本人自身が納得して治療法を選択するように、厚生労働省が医療機関に指針を示しています。
病状がかなり進み、終末期の段階になっている場合、もうこれ以上治療を受けたくないという選択を、本人がする場合もあります。話し合いを重ねた結果、患者さん本人も、家族も、主治医も、合意のうえでの選択ならそれは適切な選択だと考えられます。
しかし、現在でも主治医が家族に「抗がん剤の治療をするかしないか選択するように」と言う場合があります。たとえば、胃がんなのに胃潰瘍と病名を知らされているため、入院して検査や治療をするように勧めても、忙しい時期だから通院して治療したいと患者さんが主張することがあります。
すぐ手術したほうがよいのに、その時期をはずすと病状が進んでしまい、せっかく早期発見したのにチャンスを逃してしまうこともあるのです。このような場合には、適切な告知が必要となります。
告知後の家族の接し方
今まで病名や病状を隠すことに気を遣っていた場合は、告知後はほっとするかもしれません。あるいは、本人が思い詰めてしまわないか神経をとがらせ、家族は緊張した気持ちで過ごすかもしれません。
本人の不安定な心身の状態にきめ細かく対応している間に、家族のほうが参ってしまい、先に倒れてしまいそうだという悲鳴も時々耳にします。どのようなことに配慮する必要があるのでしょうか。
軽率な励ましの言葉をかけない
患者さんが気落ちして、自分の気持ちの中に閉じこもっているように見えると、何とか気持ちを引き立てたいと思うのは、ごく自然なことです。励まそうとして明るく話しかけたいと思うでしょう。
しかし、患者さんの気持ちを無視して明るく話しかけることで、話題をそらすことになると考えものです。励ましてばかりだと、患者さんを窮地に追い込むことがあります。
そっとしておくほうがよい場合もあります。告知をした後は気持ちが動揺し、今まで家族が黙って隠し事をしていたことを責め、怒りをぶつけるかもしれません。本人の苛立ちに家族はどう対処したらよいかわからず、おろおろしてしまいます。
そんな時に「がんばりましょうね」と声をかけると「これ以上どうやってがんばればいいのか」と怒りが爆発するかもしれません。「がんばれと言ってほしくない」という言葉はよく聞きます。
患者さんは言葉に出さなくても、自分なりにがんばって過ごしているので、見守っているようにしましょう。
会話や関わりを避けない
本人が苛立ち、どう対応してよいかわからなくなると、家族は側にいるのが耐えられなくなります。とても心配しているけれど、苛立ちを見ているのが辛く、接触する時間を短くしようとすることがあります。
「側にいること」や「話したいと思っていることを聞く」ことを避けないように努力しましょう。患者さんが一緒に泣いてほしいと思っているときには、一緒に泣いても構いません。ただし、冷静な視点で患者さんの言動を見守る姿勢を保つように心がけてください。
この時期の患者さんは元気になったかと思うとその夜は泣いてしまったり、前向きの発言があったかと思うと翌日にはネガティブになってしまうものです。それを見守る冷静な視点を保つことが大切です。
まとめ:家族としての判断と対応
がん告知について家族として判断するうえで大切なことは、「何のために告知が必要なのか」という根本的な問題を考えることです。
告知したほうがよいかどうかは、患者さん本人のさまざまな状況に配慮しなければならないことで、画一的に「告知すべきだ」とも「告知しないほうがよい」とも線を引くことはできません。
しかし、告知したほうが「患者さん本人と家族が隠し事なく心を通わせることができる」ことは確かです。また「人生最大の難問にどう立ち向かうか話し合い、力を合わせて一緒に立ち向かう」ことも可能になります。
2026年現在、医療現場ではインフォームドコンセントの考え方が定着し、患者さん本人への告知が原則となっています。ただし、個々の患者さんの意思と状況を考慮し、告知について前向きに取り組むことが求められています。
家族としては、患者さん本人が発するサインを見逃さないこと、本人が知りたいと思っていることを注意深く見極めること、告知後の心理プロセスを理解して適切に対応することが大切です。

