
こんにちは。がん専門のアドバイザー、本村ユウジです。
しゃっくりは誰もが経験する身近な症状ですが、がん闘病中に長時間続くと日常生活に大きな影響を与えます。
短時間で自然に止まるしゃっくりは問題ありませんが、長時間持続する場合には速やかに主治医に相談することが大切です。
特に栄養障害や電解質異常、心室性不整脈を伴うしゃっくりは緊急的な対応が必要になります。この記事では、がん闘病中にしゃっくりが続く場合、何が原因でどのような対処法があるのかについて、2026年時点の最新情報を整理しています。
しゃっくり(吃逆)とは何か
しゃっくりは医学用語で「吃逆(きつぎゃく)」と呼ばれます。横隔膜と呼気肋間筋のけいれん性収縮によって引き起こされる、急激な吸気とその直後に声門が突然閉鎖する現象です。この時に特徴的な「ヒック」という音が生じます。
一般的なしゃっくりは数秒から数分、長くても数時間で自然に治まります。しかし、48時間以上続くものを「持続性しゃっくり」、1か月以上続くものを「難治性吃逆」と呼び、医学的な対応が必要になります。
がん患者さんの場合、終末期の約4%にしゃっくりが起こるという報告があります。また、女性よりも男性で生じる割合が高いとされています。持続するしゃっくりは患者さんに多大な苦痛をもたらし、息苦しさ、会話の困難、集中力の低下、食事の妨げなど、日常生活に悪影響を及ぼします。
さらに倦怠感、不眠、疼痛などの症状を悪化させ、全身の衰弱を促進し、精神状態の悪化につながることもあります。そのため、早期の適切な対応が重要です。
がん患者さんにしゃっくりが起きる主な原因
がん患者さんにしゃっくりが起きる原因は多岐にわたります。大きく分けて、腫瘍そのものによるもの、治療(手術や化学療法)によるもの、その他の要因によるものがあります。
腫瘍による直接的な刺激
がんの進行に伴い、腫瘍が以下のような部位に影響を与えることでしゃっくりが起こります。
脳腫瘍または脳転移による中枢神経刺激では、延髄や脳幹への直接刺激がしゃっくりの原因となります。頸部腫瘍による反回神経や横隔神経への刺激も原因の一つです。
肺がんや胸膜播種による横隔神経、迷走神経、交感神経への刺激は比較的多く見られます。消化管拡張による迷走神経刺激、特に幽門部の胃がんによる胃の拡張がこれに該当します。
横隔膜への直接刺激としては、横隔膜膿瘍、肝臓腫瘍の増大、腸閉塞に伴う腸管ガス貯留、腹水貯留などがあります。がん患者さんの終末期に起こるしゃっくりの原因として最も多いのは胃の膨満です。膨満した胃が迷走神経を刺激することで起こります。次に多いのが腫瘍による横隔神経の刺激です。
化学療法(抗がん剤治療)による副作用
抗がん剤治療中のしゃっくりは、薬剤そのものの副作用として起こることが知られています。特に以下の抗がん薬で起こりやすいとされています。
白金製剤であるシスプラチン、カルボプラチン、その他の抗がん薬ではシクロホスファミド、エトポシド、ゲムシタビン、イリノテカン、パクリタキセルなどで報告されています。
シスプラチンやカルボプラチンなどのプラチナ製剤と、制吐薬として使用するデキサメタゾン、5-HT3受容体拮抗薬が相乗的に働くことでしゃっくりが起きることがあります。
シスプラチンは腸クロム親和性細胞を刺激してセロトニン分泌を促進し、腹部迷走神経を活性化します。そして、延髄にある吃逆中枢を刺激してしゃっくりを誘発します。
デキサメタゾンは高用量では脳内に移行し、視床下部のステロイド受容体を活性化することでしゃっくりを誘発します。5-HT3受容体拮抗薬により5-HT3受容体がブロックされるために増加したセロトニンは、他のセロトニン受容体を刺激します。これにより腸管の運動亢進が引き起こされ、急激に起こった腸管刺激が腹部迷走神経を介して延髄の神経を刺激し、しゃっくりが起こります。
国立がん研究センター東病院の情報によると、シスプラチンの副作用として吐き気や腎障害などが知られていますが、しゃっくりも副作用として起こることがあるとされています。抗がん剤の副作用として起こるしゃっくりは時にしつこいこともあり、そういう時には薬を使って止めることがあります。
手術による影響
全身麻酔に伴う気管挿管(声門刺激)や、胸部や腹部の手術後にしゃっくりが起こることがあります。手術後のしゃっくりは比較的短期間で改善することが多いですが、持続する場合には適切な対応が必要です。
その他の原因
電解質異常もしゃっくりの原因となります。低ナトリウム血症、低カリウム血症、低カルシウム血症などが該当します。これらの電解質異常はがん患者さんでは比較的起こりやすく、定期的な血液検査でのモニタリングが重要です。
また、胃食道逆流症(GERD)も原因の一つとされています。胃酸が食道へ逆流し、食道や迷走神経を刺激することでしゃっくりが誘発されます。
しゃっくりが起きた場合の対処法・治療法
しゃっくりに対してはまだ決定的な対処法が確立されていないため、患者さんの様子を見ながら複数の手段が試されます。2025年時点でも、質の高い臨床研究で難治性吃逆に対する治療効果が検討されたものは少なく、多くは薬理学的な作用機序から経験的に使用されている状況です。
薬物による治療
しゃっくりの治療に使用される主な薬剤を以下の表にまとめます。
| 薬剤分類 | 代表的な薬剤名 | 作用機序 | 備考 |
|---|---|---|---|
| 抗けいれん薬 | ガバペンチン、クロナゼパム | 中枢神経性のしゃっくりに対して効果 | ガバペンチンは中枢神経性吃逆の場合に選択 |
| 筋弛緩薬 | バクロフェン | 筋弛緩作用ならびに吃逆中枢の抑制 | 小規模の無作為化比較試験で効果が確認されている |
| 向精神薬 | クロルプロマジン、ハロペリドール | 吃逆中枢の抑制 | クロルプロマジンは唯一しゃっくりに対して保険適用された薬剤 |
| ドーパミン拮抗薬 | メトクロプラミド | 吃逆中枢の抑制 | 胃拡張が原因の場合に特に有効 |
各薬剤には副作用のリスクや想定される吃逆の発生機序を加味しつつ、個々の症例で治療を選択します。多くの場合は試行錯誤を繰り返しながら、患者さんに合った治療法を見つけていくことになります。
クロルプロマジンは吃逆中枢の抑制が期待でき、唯一しゃっくりに対して保険適用された薬剤です。バクロフェンは筋弛緩作用ならびに吃逆中枢の抑制が期待され、小規模の無作為化比較試験で効果が確認されています。
メトクロプラミドは胃膨満が原因の場合に選択され、ガバペンチンは中枢神経性吃逆の場合に使用されます。重度の症状に対しては、クロルプロマジンの筋肉内または静脈内投与が可能です。
漢方薬による治療
漢方薬もしゃっくりの治療に広く使用されており、西洋薬と併用されることもあります。主な漢方薬とその特徴を以下の表にまとめます。
| 漢方薬名 | 主な適応 | 特徴 |
|---|---|---|
| 芍薬甘草湯 | 筋肉のけいれんを伴うしゃっくり | 最も多用される。即効性があり、頓服で使用可能。難治性吃逆に多用される |
| 柿蒂湯 | 一般的なしゃっくり | 柿のヘタを含む。約60%の有効率が報告されている。抗がん剤治療中のしゃっくりにも有効との報告あり |
| 呉茱萸湯 | 冷えを伴うしゃっくり | 心窩部つかえ感、吐き気、頭痛、手足の冷えを伴う場合に適応 |
| 半夏瀉心湯 | 消化器症状を伴うしゃっくり | 心窩部つかえ、げっぷ、吐き気、食欲不振を伴う場合に有効 |
芍薬甘草湯は筋肉のけいれんや収縮に伴う痛みに対して用いられ、しゃっくりにも有用です。症状が出た時に頓服すると良いとされています。即効性があり、飲み始めてすぐにしゃっくりが止まったという報告もあります。
柿蒂湯は柿のヘタ(柿蔕)を含む処方で、しゃっくりに約60%の有効率が報告されています。また、抗がん剤治療中のしゃっくりに有効という報告もあります。市販薬としても入手可能です。
呉茱萸湯は心窩部つかえ感、吐き気、頭痛、手足の冷えを伴うしゃっくりに用いられます。医療用呉茱萸湯製剤の効能又は効果には吃逆が記載されています。
半夏瀉心湯は心窩部つかえ、げっぷ、吐き気、食欲不振を伴う胃食道逆流症状に用いられ、しゃっくりにも効果があります。芍薬甘草湯と併用されることもあります。
非薬物療法
薬物以外の対策も試されます。これらは副作用のリスクが少ないため、まず試してみる価値があります。
鼻咽頭刺激による吃逆反射弓の求心路抑制として、舌の牽引、スプーン1~数杯のグラニュー糖をなめる、経鼻胃管挿入、冷水をすする、レモンをかじる、コップの反対側から水を飲む、軟口蓋をスプーンや綿棒でこするなどがあります。
迷走神経刺激としては、バルサルバ法による耳抜き、氷水に顔をつけるなどの方法があります。横隔神経への介入として、うつぶせで下肢を屈曲して腹部に抱え込み横隔膜を押し上げる、経鼻胃管挿入による胃内容物の除去などが試されます。
呼吸への介入としては、くしゃみや咳の誘発、びっくりさせて息止めをさせる、深呼吸をしてから息こらえを頑張るなどの方法があります。
また、舌をつかんで30秒ほど強く引っ張ると、のどの奥への刺激によってしゃっくりを止める効果があるとされています。
難治例については、横隔神経を少量のプロカイン溶液で遮断することがあり、呼吸抑制および気胸を起こさないよう注意が必要です。ただし、両側の横隔神経切断術を行っても、全ての患者さんが治癒するわけではありません。
医療機関への受診が必要な場合
48時間以上続く持続性しゃっくり、1ヶ月以上続く難治性しゃっくりの場合は、重大な疾患が背景に隠れている可能性があります。特に脳梗塞や腫瘍、胃食道逆流症、がんの転移などが原因となることがあり、適切な検査と治療が重要です。
「しゃっくりが止まらない」「何日も続く」といった症状がある場合は、自己判断せずに早めに医療機関を受診してください。48時間以上持続する場合は持続性吃逆として精査を行い、1ヶ月以上の場合は難治性吃逆として精査を強化します。
長期のしゃっくりを呈し、明らかな原因が認められない患者さんには、血清電解質、血尿素窒素、クレアチニン、胸部X線、心電図などの検査を行います。上部消化管内視鏡検査および食道pHモニタリングを考慮する場合もあります。これらの検査で著明な所見が認められない場合は、脳MRIおよび胸部CTを行うこともあります。
まとめ
がん患者さんのしゃっくりは、腫瘍による直接的な刺激、化学療法や手術などの治療の影響、電解質異常など、様々な原因で起こります。短時間で自然に止まるしゃっくりは問題ありませんが、48時間以上続く場合には医学的な対応が必要です。
治療法としては、クロルプロマジン、バクロフェン、メトクロプラミド、ガバペンチンなどの西洋薬、芍薬甘草湯、柿蒂湯、呉茱萸湯などの漢方薬、そして様々な非薬物療法があります。
しかし、2026年時点でも決定的な治療法は確立されておらず、個々の患者さんの状況に応じて試行錯誤しながら最適な方法を見つけていく必要があります。長時間続くしゃっくりは生活の質を大きく低下させるため、早めに主治医に相談し、適切な対応を受けましょう。
参考文献・出典情報:
日本医事新報社「難治性吃逆(しゃっくり)への対応は?」
MSDマニュアル プロフェッショナル版「吃逆」
国立がん研究センター東病院「シスプラチンについて」
友愛記念病院「しゃっくり外来」
きだ内科クリニック「しゃっくり(吃逆)の原因・検査・治療法を徹底解説」
きぐすり.com「しゃっくりの漢方」
加納渡辺病院「しゃっくりに悩むあなたへ。漢方や鍼灸で効果的に治療する方法とは?」
静岡県薬剤師会「しゃくりが停まらない 柿のへた含む漢方薬有効」
QLife漢方「芍薬甘草湯」
よしはら内科・内視鏡クリニック「しゃっくりが止まらない…」

