
こんにちは。がん専門のアドバイザー、本村ユウジです。
がん患者さんに発熱が起きた場合、「これは良い熱で、がんと戦っている証拠だ」などと言う人がいますが、実際には様々な要因があります。
発熱が起きて良いケースは稀です。何らかの異常やトラブルが起きているケースが多く、放置するよりも適切な対応が必要なことがほとんどです。
がん患者さんの発熱は、その原因を見極めて適切に対処することが重要です。特に化学療法を受けている患者さんでは、発熱が命に関わる緊急事態のサインであることもあります。
この記事では、発熱は何が原因で起こるのか、どのような対処が望ましいかということについて、最新の医学的知見を踏まえて詳しく解説します。
発熱とはどのような状態か
発熱とは、一般に成人の腋窩温(わきの下の温度)で37.0℃以上に体温が上昇した状態を指します。
熱はその温度により次のように分類されます。
| 分類 | 体温範囲 |
|---|---|
| 微熱 | 37.0~37.9℃ |
| 中等度発熱 | 38.0~38.9℃ |
| 高熱 | 39.0℃以上 |
がん患者さんの約70%に発熱が現れるとされており、その中でも感染症による発熱の割合が最も高いと報告されています。
ただし、発熱の定義はガイドラインによって若干異なります。日本臨床腫瘍学会の発熱性好中球減少症診療ガイドラインでは、腋窩温37.5℃以上または口腔内温38℃以上を発熱と定義しています。
がん患者さんの発熱に関する主な原因
がん患者さんに発熱が起こる原因は多岐にわたります。主な原因を以下に示します。
がん自体によるもの(腫瘍熱)
がん自体が原因となって発熱することがあり、これを腫瘍熱と呼びます。腫瘍熱が起こる仕組みには以下のようなものがあります。
・がん細胞が産生する発熱物質(サイトカイン)が視床下部に作用して体温のセットポイントを上昇させる
・死んだがん細胞から放出された物質と反応した免疫細胞(単球、好中球、リンパ球)が分泌する炎症性サイトカインによるもの
・脳腫瘍などによる体温調節中枢の直接的な圧迫
腫瘍熱は、悪性リンパ腫(ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫)、急性白血病、腎細胞がん、肝細胞がん、骨肉腫、副腎がんなどで比較的多く見られます。
担がん患者さんの発熱において、腫瘍熱は原因として41%を占めるという報告があり、特に白血病、リンパ腫、肉腫、腎細胞がん、肝転移で頻度が高いとされています。
患者数が多い乳がん、肺がん、大腸がんでは腫瘍熱はあまり認められません。
感染症によるもの
がん患者さんは免疫力が低下しているため、感染症にかかりやすくなっています。感染症による発熱はがん患者さんの発熱要因で最も多い要素です。
末期がん患者さんでは71~100%が発熱し、そのうち57~77%は感染症が原因とされています。感染症は主要な死因の1つであり、最も多いのは尿路感染症で、次いで肺炎、皮膚感染症が続きます。
がんや治療の副作用に伴って白血球が減少すると、病原体に対する抵抗力が下がり感染しやすくなるため、発熱も起こりやすくなります。
化学療法(抗がん剤治療)によるもの
化学療法で骨髄の造血能がダメージを受けることによって好中球が減少し、病原菌が容易に体内に侵入して感染性の発熱が生じる可能性があります。これを発熱性好中球減少症(FN: Febrile Neutropenia)と呼びます。
また、薬剤の直接的な副作用やアレルギー反応によって発熱することもあります。発熱の症状の発現頻度は、使用する薬剤によって異なります。
発熱は抗がん剤投与開始後、10~14日ほどで発症することが多いとされています。
放射線治療によるもの
放射線治療の副作用として発熱が起こることがあります。代表的なものは放射線肺炎です。
胸部に放射線を照射した場合、肺の組織が炎症を起こして放射線肺炎と呼ばれる症状が現れることがあります。放射線肺炎は放射線照射後すぐには現れず、1~6か月後に現れるケースが多いです。
はじめは無症状ですが、徐々に発熱、長引く咳などの症状が現れ、軽い呼吸困難が起きることもあります。
手術によるもの
手術後の治癒過程で生じる発熱や、手術後の合併症(創感染、縫合不全、カテーテル感染症など)によって発熱が起こることがあります。
その他の原因によるもの
・疾患に併発するもの(肺がんによる閉塞性肺炎、胆管がんによる胆管炎など)
・輸血によるもの
・中枢神経への転移(脳などの中枢神経にがんが転移することで高熱が生じる。意識障害や自律神経障害といった症状もみられます)
・薬剤熱(使用中の薬剤が原因で発熱する。原因となる薬を中止または変更することで改善がみられます)
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がん専門アドバイザー 本村ユウジ
腫瘍熱の特徴と対処法
腫瘍熱とは、がん自体から産生される発熱物質によって起こる発熱です。その詳しい仕組みは十分には明らかになっていませんが、がん細胞や免疫細胞が産生する炎症物質(サイトカイン)が関与していることが知られています。
腫瘍熱の特徴
腫瘍熱には以下のような特徴があります。
・発熱期の間に平熱に下がる時期があり、再び発熱を繰り返す「間欠熱」という発熱の形態を示すことが多い
・朝や夕方など毎日ほぼ同じ時刻に発熱することが多い
・感染症による発熱と違い、寒気・ふるえ、脈が速くなりドキドキするといった症状を伴わないことが多い
・一般的に感染症による発熱よりも症状が軽いとされる
・非ステロイド性抗炎症薬の服用で速やかに平熱に戻り、服用中は平熱が保たれる
2019年に報告された文献レビューでは、ナプロキセンテストにおいて腫瘍熱に対してナプロキセンは94%で効果があったと報告されています。
腫瘍熱の対処法
発熱初期から腫瘍熱だと判断することは難しいため、継続的な診察を受けることが重要です。
腫瘍熱と診断された場合、基本的には解熱剤(非ステロイド性抗炎症薬)を使います。解熱剤が使えない場合や血液・リンパのがんに対しては、ステロイドを用いることもあります。
また、がんに対する治療によって熱が下がることもあります。
発熱性好中球減少症(FN)について
発熱性好中球減少症は、化学療法中のがん患者さんにとって最も注意すべき発熱の原因の1つです。
発熱性好中球減少症とは
発熱性好中球減少症(FN)は、化学療法や造血幹細胞移植後の患者さんにおいて、好中球数が500/μL未満、あるいは1,000/μL未満で48時間以内に500/μL未満に減少すると予測される状態で、腋窩温37.5℃以上(または口腔内温38℃以上)の発熱を生じた場合と定義されます。
好中球は、ウイルスや細菌などの病原体と戦い、外敵から体を守る役割があります。抗がん剤の投与によって好中球が減少すると、体の抵抗力が弱くなり、感染症にかかるリスクが高まります。
固形がんの化学療法で10~50%、血液悪性腫瘍の化学療法で80%以上の患者さんにFNが発症するとされています。
なぜ化学療法で好中球が減少するのか
抗がん剤には、がん細胞の増殖を抑える機能がありますが、同時に正常な細胞の増殖も抑えてしまいます。
白血球を作り出す骨髄の造血機能は、特に抗がん剤の影響を受けやすいため、副作用の1つとして白血球数が減少してしまうのです。
発熱性好中球減少症の危険性
FNは内科的緊急症であり、対応が遅れると致死的な状況に陥ることもあります。
好中球が減った状態では実に約半分が実際になんらかの感染を起こしていると言われています。しかも、抗生剤が効かない菌や普段は問題にならないカビなどが原因となることもあります。
好中球の減少がすすみ、その期間が長いほど重症になる危険性(敗血症性ショックなど)があります。
発熱性好中球減少症の診断
FNが疑われる場合、以下のような検査が行われます。
・血液検査で好中球数を調べる
・血液培養(2セット以上)を行い、原因菌を特定する
・胸部レントゲンやCT検査で感染巣がないか全身を調べる
好中球減少は自覚症状がほとんどなく、血液データによってわかることが多いです。
発熱性好中球減少症の治療
FNと診断された場合、感染の事実が確認される前でも、速やかに広域の抗菌薬の投与を行うことが推奨されます。来院後2時間以内に治療を開始することが重要です。
日本臨床腫瘍学会の「発熱性好中球減少症診療ガイドライン改訂第3版」(2025年発刊)に基づいて治療が行われます。
基本的には、セフェピムまたはピペラシリン・タゾバクタムなどの抗緑膿菌活性のある抗菌薬を単剤で使用します。緑膿菌感染による死亡率が高いため、抗緑膿菌活性のある抗菌薬が推奨されます。
重症化リスクが高い場合や全身状態が不安定な場合には、複数の抗菌薬を組み合わせたり、抗真菌薬を追加したりすることもあります。
発熱性好中球減少症の予防
治療開始時から感染予防ケアを行うことが重要です。
患者さん自身ができる予防策としては、以下のようなものがあります。
・手洗い、うがいの励行
・毎日の入浴(もしくはシャワー)
・排泄後の肛門周囲の洗浄
・よく加熱調理した食事を摂取する
・部屋に植物、生花、ドライフラワーは置かない
・ペットと同じ部屋での生活はできるだけ避ける
好中球が減少している時期は、特にこれらの予防策を徹底することが大切です。
また、G-CSF(顆粒球コロニー刺激因子)という薬剤を使用して、FN発症を予防する方法もあります。G-CSFには一次予防投与、二次予防投与、治療投与があり、がん薬物療法の種類やリスクに応じて使用が検討されます。
感染症による発熱への対処法
感染症による発熱の場合、抗菌薬や抗真菌薬などを使って感染症に対する治療を行い、自然な解熱を待ちます。
発熱が続いて体力を消耗する場合などは、解熱剤を使うこともあります。解熱剤を使ってよいタイミングや回数を医師に確認しておきましょう。
重症化するリスクが高い感染症の場合は、入院での抗菌薬点滴治療が必要になることもあります。
放射線治療による発熱への対処法
放射線肺炎による発熱の場合、症状の程度に応じて治療が行われます。
軽症であれば自然治癒することもありますが、症状によっては抗炎症薬(ステロイド剤など)の投与が必要になります。
重症化すると命に関わることもあるため、高熱やひどい息切れなどがある場合は、速やかに医療機関を受診することが重要です。
薬剤熱への対処法
抗がん剤、輸血、抗菌薬などによる治療中に発熱した場合、いったんすぐに治療を中止します。
アレルギーなど治療の副作用の場合には、症状に応じた対応が行われます。がんの治療薬や抗菌薬などを継続して使うかどうかは、状態に応じて医師が検討します。
発熱時の自己管理と対処法
がん患者さんに発熱が起きた場合、以下のような自己管理が重要です。
体温の記録
できるだけ同じ時間帯に体温を計り、記録しておきましょう。体温とその時々の症状をメモしておくと、診療の手がかりになります。
毎日の体温測定を行い、体調を把握することが重要です。
水分補給
発熱が続くと脱水症状を引き起こしやすくなるため、こまめな水分補給が大切です。
スポーツドリンクや経口補水液などを飲んで、水分と電解質を補給しましょう。
栄養摂取
食事は無理をせず食べられる量だけを摂取し、できれば高タンパク、高エネルギーのもの(おかゆ、うどん、スープ、アイスクリームなど)を選びましょう。
食欲がない場合は無理をせず、水分補給を優先してください。
寒気がある場合
寒気がある時には、部屋を暖かくして、衣類や毛布、湯たんぽなどで体を温めましょう。
医療機関を受診すべきタイミング
以下のような場合は、速やかに医療機関に連絡し、受診することが重要です。
・38度以上の発熱が続いている
・意識がもうろうとしている
・尿の量が極端に少なくなっている
・普段より血圧が低い
・呼吸が速く浅くなる、息切れがある
・寒気やふるえがある
・痰が出る
・化学療法中または化学療法終了後2週間以内で発熱がある
特に、化学療法中の患者さんが発熱した場合は、夜間・休日でも速やかに受診することが重要です。重篤な感染症の可能性があり、早期の対応が命を救うことにつながります。
医療機関に連絡する際の情報
医療機関に連絡する際には、以下の情報を伝えるとスムーズです。
・いつから発熱しているか、最高体温は何度か
・発熱以外の症状はないか(咳や痰、皮膚の赤み・湿疹、吐き気、下痢、腹痛、排尿時の違和感や痛みなど)
・現在受けているがん治療の内容
・最近の血液検査の結果(特に白血球数、好中球数)
・使用している薬剤
発熱の原因が不明な場合
検査をしても原因がはっきりしない発熱もあります。この場合も、それぞれの状況に応じて対応を検討します。
不明熱の場合、がん細胞や免疫細胞が産生する炎症物質による腫瘍熱が最も頻度が高いとされています。
分からないことや心配なことは医師や看護師などの医療者に確認しましょう。
発熱への適切な対応のために
がんの種類、行っている治療、持病があるかなどによって発熱への適切な対応は異なります。
通院中は発熱時の対応やどういったときに医療機関への連絡が必要かを医師に確認しておきましょう。
市販の解熱剤を用意しておく場合は、あらかじめ主治医に相談すると安心です。
また、発熱のために受診した後も、発熱が続いて体がつらい、飲み物さえ飲むことが難しい場合などは我慢せず、医療機関に相談してください。
発熱は体からの重要なサインです。適切に対応することで、重症化を防ぎ、がん治療を安全に継続することができます。
参考文献・出典
- 国立がん研究センター がん情報サービス「発熱」
https://ganjoho.jp/public/support/condition/fever/index.html - 小野薬品工業株式会社「がんに伴う発熱への対策」
https://p.ono-oncology.jp/care/symptom/05_fever/01.html - 日本臨床腫瘍学会「発熱性好中球減少症(FN)診療ガイドライン改訂第3版」南江堂、2025年
https://www.nankodo.co.jp/g/g9784524233762/ - 日本癌治療学会「G-CSF適正使用ガイドライン」
http://www.jsco-cpg.jp/g-csf/guideline/ - HOKUTO「発熱性好中球減少症(FN)ガイドライン」
https://hokuto.app/erManual/uEqKC1OsY2rJxNlSirx1 - 亀田総合病院 感染症内科「亀田感染症ガイドライン:発熱性好中球減少症」
https://www.kameda.com/pr/infectious_disease/post_87.html - ClinicalSup「腫瘍熱 症状、診断・治療方針まで」
https://clinicalsup.jp/jpoc/contentpage.aspx?diseaseid=2226 - All Medical Web「臨終期(看取り期)の「発熱」に対するケア」2025年3月
https://www.almediaweb.jp/expert/feature/2503/index05.html - ファイザー株式会社「肺がんの放射線療法と副作用」2025年4月更新
https://www.ganclass.jp/kind/lung/therapy/therapy03 - 社会福祉法人 聖隷福祉事業団「放射線治療の副作用と対策」SURVIVORSHIP.JP
https://survivorship.jp/cancer-radiotherapy/measures/02/02/04/index.html