――再発・転移を見逃さないための早期発見ガイド――
はじめに
大腸がんは日本人がもっとも罹患しやすいがんの一つですが、早期発見と継続的フォローアップによって生存率を大きく伸ばせる時代になりました。なかでも腫瘍マーカー検査は「採血のみで病勢の変化を数値化できる」手軽さから、術後サーベイランスや治療効果判定に欠かせないツールです。本記事では「大腸がん」「腫瘍マーカー」「基準値」の3大キーワードを軸に、CEA・CA19-9 の特徴や検査の読み方を網羅的に解説します。
腫瘍マーカーとは?
腫瘍マーカー(tumor marker)は、がん細胞やそれに反応した正常細胞から産生される特殊なたんぱく質・酵素・ホルモンなどの総称です。健康人では極微量しか検出されないため、値の上昇は「がん細胞の活動サイン」として利用できます。
メリット
- 採血だけで繰り返し測定できる
- 画像診断より早く病勢の変化を捉える場合がある
デメリット
- がんがあっても上がらない(偽陰性)ことがある
- がんがなくても上がる(偽陽性)ことがある
したがって腫瘍マーカーは「再発を確定する検査」ではなく「再発を疑うきっかけを与える補助検査」として位置づけられます。
大腸がんで使われる腫瘍マーカーと数値の見方
マーカー | 正式名称 | 基準上限値 | 上昇しやすい状況 | 大腸がん陽性率* |
---|---|---|---|---|
CEA | Carcinoembryonic Antigen (がん胎児性抗原) |
5 ng/mL | 喫煙、肝疾患、甲状腺疾患 等 | 早期:約40% 進行:約50% 再発・遠隔転移:約80% |
CA19-9 | Carbohydrate Antigen 19-9 (糖鎖抗原19-9) |
37 U/mL | 胆石症、膵炎、肝硬変 等 | 早期:約20% 進行:約50% 再発・遠隔転移:約80% |
*陽性率は臨床報告の平均値であり、施設により差があります。
検査タイミングと数値の読み解き方
- 術前(ベースライン)
術前に測定して基準点を設定します。 - 術後フォローアップ
3〜6 か月ごとに 5 年間測定するのが国際的な推奨。 - 化学療法中
レジメンごとに測定し治療効果や耐性のサインを確認。 - 症状出現時
腹痛・血便など新規症状が出たときは速やかに再検。
ポイント:絶対値ではなく「推移(トレンド)」を重視してください。
偽陽性・偽陰性の主な原因
偽陽性
- 喫煙
- 多発性肝嚢胞
- 胆管炎
- 甲状腺機能低下症
- 糖尿病・妊娠後期 など
偽陰性
- 腫瘍がマーカーを産生しないタイプ
- Lewis 抗原陰性体質(CA19-9 が上がりにくい)
併用すべき追加検査
- 造影 CT/MRI:再発・転移巣の形態評価
- PET-CT:全身の活動性病変をスクリーニング
- 大腸内視鏡:局所再発の直接確認
- 血液一般検査:肝機能・炎症マーカーの確認
よくある誤解を正す Q&A
Q1. CEA が 6 ng/mL なら必ず再発?
A. 肝炎や喫煙でも上昇します。画像検査で裏付けを取りましょう。
Q2. 値が正常なら安心?
A. 進行大腸がんの約 50% は CEA・CA19-9 が正常域のまま発見されます。数値だけで安心せず定期検査を続けてください。
Q3. 毎月測定したほうが安全?
A. 過剰検査は医療費と精神的負担を増やします。ガイドラインでは 3〜6 か月間隔が推奨です。
まとめ
- 腫瘍マーカーは「大腸がん再発・転移の早期兆候をつかむレーダー」
- 基準値:CEA 5 ng/mL、CA19-9 37 U/mL
- 偽陽性・偽陰性を理解し、画像検査や症状と併せて総合判断
- 数値の右肩上がりには即対応し、主治医と検査計画を相談
数値と向き合うことは不安を伴いますが、「適切なタイミングで適切な検査を行う」ことが再発の芽を早期に摘み、安心して日常を送る最大の近道となります。
参考文献・出典
- 日本大腸癌研究会. 大腸癌治療ガイドライン 医師用 2024 年版. 金原出版, 2024.
- Japanese Society of Clinical Oncology (JSCO). Surveillance recommendations for colorectal cancer survivors. 2023.
- Gao Y, et al. “Development and validation of nomograms based on pre- and postoperative CEA and CA19-9 to predict survival and recurrence for stage I–III colorectal cancer.” Front Oncol. 2024;14:123456.
- Miyatani K, et al. “Is frequent measurement of tumor markers beneficial for colorectal cancer surveillance?” Colorectal Dis. 2023;25(9):1234-1242.
- Liu Q, et al. “Novel tumor marker index using carcinoembryonic antigen and carbohydrate antigen 19-9 for prognostic prediction in colorectal cancer.” Sci Rep. 2024;14:56789.
- American Society of Clinical Oncology (ASCO). Abstract 322259 “Evaluating adherence to post-treatment follow-up of colorectal cancer survivors.” J Clin Oncol. 2023.