早期の肝臓がんが発見された場合、最も多い疑問点が「手術とラジオ波焼灼療法(RFA)のどちらを選ぶべきか」というものです。2025年現在、新世代マイクロ波焼灼術(MWA)や複合免疫療法といった新しい治療選択肢も加わり、治療の選択肢は多様化しています。
本記事では、早期肝臓がんの治療法について、最新の医学的知見に基づいて分かりやすく解説します。
早期肝臓がんの現在の治療状況
比較的早期の段階の肝臓がんで、手術が可能な場合、多くの患者さんが治療選択に迷われます。現在の日本では、「手術」「ラジオ波焼灼療法(RFA)」「新世代マイクロ波焼灼術(MWA)」が主要な局所治療として位置づけられています。
2025年の最新データによると、肝機能良好で3cm以内、3個以内の初発肝細胞がん症例に対するRFAの3年無再発生存率は47.7%と報告されています。
手術療法の特徴と適応
手術は全身麻酔をして患者さんの腹部を切開し、肝臓を切除する方法です。そのため、患者さんの体に与える負担は大きいといえます。しかし、手術には重要な利点があります。
手術では、がん腫瘍が正しく切除されているかを確認でき、腫瘍の周囲の組織も切り取るので、いわゆる「取り残し」があまり発生しません。この点で、手術は根治性において優れているといえます。
現在の手術適応について、ガイドライン上では、肝細胞がん3個までが肝切除の適応とされています。また、切除後に残る肝臓の機能がよければ、3個以上でも切除する場合もあり、大きさは10cm以上でも切除は可能です。
手術の進歩と安全性の向上
画像診断の進歩により、肝臓内の血管の走行などの詳しい状況がよく分かるようになって、より確実な手術ができる外科医が増えました。これにより、徐々に手術時の合併症も減少してきています。
現在は、造影剤を使用したCT画像を3Dに再構築し、肝臓がんの位置や血管との関係を考慮したシミュレーションを行い、適切な術式の選択や残る肝臓の機能を予測し、安全で確実な手術を行いますという状況にあります。
ラジオ波焼灼療法(RFA)の特徴と限界
RFAは患者さんの腹部に局所麻酔をし、超音波画像を見て、がんの位置を確認しながら、直径1.5ミリ程度の電極針を皮膚から直接肝臓がん部分に刺す方法です。がんの中心部に針が入ったところで、450キロヘルツ前後の高周波で患部を焼灼します。
RFAは1999年に臨床応用され、2004年に健康保険が適用されました。体への負担が少なく、繰り返し治療が可能という利点があります。
RFAの適応と限界
現在のRFAの適応は、Child-Pugh分類がAまたはBで、がんの大きさが3cm以下、かつ、3個以下の場合とされています。
2004年に健康保険が適用された頃には、現在の適応以上に多くの肝臓がんの患者さんにRFAが選択されたこともありました。肝臓内科医の中には、肝臓がんは"すべてラジオ波で治る"という医師もいたほどです。
しかし、現在はRFAの適応範囲と治療効果の限界がしっかりと把握できるようになってきており、無理にRFAを行うことなく手術が選択されるケースが増えてきています。RFAの専門医は、3センチを超える大きながん、血管に近いところにあるがんは適応外と判断して、手術に切り替えるようになっています。
新世代マイクロ波焼灼術(MWA)の登場と有効性
2025年現在、最も注目されている新しい治療法が新世代マイクロ波焼灼術(MWA)です。2017年7月に保険適用となり、RFAに代わる新しい局所療法として期待されています。
MWAは、2450メガヘルツ前後の高周波を使って熱を発生させがんを焼き切る治療法で、電子レンジと同じ原理を利用しています。
MWAの技術的優位性
新世代MWAでは、以下の3つの新しい技術が取り入れられています:
1. アンテナの形状を改良することにより、アンテナの先端から正確な球形の電磁場を発生させる(Field control)
2. アンテナの内部に冷却水を循環させることにより、アンテナの安定した性能を保つ(Thermal control)
3. 治療中の環境変化にも関わらず、一定の波長のマイクロ波を発振し続ける(Wavelength control)
これらの技術により、RFAと比較して大きい焼灼範囲が得られることや、少ない穿刺回数、短い焼灼時間で広範囲の治療が行えるようになりました。
MWAの臨床成績
2024年12月に発表された重要な研究成果として、肝細胞がん治療においてマイクロ波焼灼療法(MWA)と従来のラジオ波焼灼療法(RFA)の有効性を比較するランダム化比較試験(RCT)を実施しMWAの有効性を実証されました。
この研究により、治療後2年間の局所再発率(LTP)を比べると、MWAの方が再発が少なくなっていることが明らかになっています。
複合免疫療法による新しい治療戦略
2025年現在、切除不能な肝臓がんに対する新しい治療として、テセントリク(アテゾリズマブ)とアバスチン(ベバシズマブ)の複合免疫療法が注目されています。
2020年9月に厚生労働省より切除不能な肝細胞がんに対する適応追加の承認を取得し、がん免疫療法として初めて肝細胞がんに対する有効性を示した治療となりました。
複合免疫療法の治療成績
IMbrave150試験の結果では、テセントリクとアバスチンの併用療法は、ソラフェニブ単剤と比較し、死亡リスクを42%、病勢進行または死亡リスクを41%減少させました。
さらに画期的な研究として、近畿大学の工藤正俊教授らの研究チームが、切除不能な中期進行肝がん患者を治癒に導く新規治療法を世界で初めて開発し、患者の35%を治癒に導くことができると報告されています。
肝機能による治療選択の重要性
肝臓がんの治療選択において、肝機能は極めて重要な要素です。かつては肝機能が多少悪くても手術が行われており、手術は成功しても肝不全で患者さんが死亡するケースが少なからずありました。
現在では、肝機能の評価にChild-Pugh分類が用いられ、Child-Pugh分類がAまたはBで、がんが肝臓内にとどまっている場合の治療は、肝切除、ラジオ波焼灼療法(RFA)、肝動脈化学塞栓療法(TACE)が中心となっています。
Child-Pugh分類Cの場合は、肝移植を選択することもありますが、一般的には治療選択肢が限られてきます。
各治療法の比較と選択基準
治療法 | 適応 | 利点 | 欠点 |
---|---|---|---|
手術 | 3個以内(肝機能良好であれば3個以上も可) | 根治性が高い、取り残しが少ない | 体への負担が大きい、肝機能制限 |
RFA | 3cm以下、3個以下 | 体への負担が少ない、繰り返し治療可能 | 手術に比べ再発率がやや高い |
MWA | RFAと同様だが、より大きな病変にも対応 | 短時間治療、広範囲焼灼、局所再発率低い | 比較的新しい治療法、長期成績は検証中 |
治療選択における医師の役割
このような背景が現代医療にはあるので、手術にするのか、RFAにするのか、MWAにするのか、あるいは他の選択肢があるのか?あらゆる選択肢を提示し、それぞれのメリットやデメリットを分かりやすく解説し、患者さんにとってベストの方法を推薦してくれることが期待されます。
特に重要なのは、腫瘍の大きさや個数だけでなく、肝臓の予備能も最適な治療を選択する上で大きな判断材料となることです。また、患者さんの年齢や基礎疾患も大きな判断材料となるため、治療選択には高度に専門的な判断を要します。
最新の治療成績と生存率
2025年現在の最新データによると、肝臓がん全体の5年生存率は以下の通りです:
全ステージを合わせた5年生存率は、ネット・サバイバルで45.7%(実測生存率40.8%)となっています。ステージごとの5年生存率は、I期が63.3%、II期46.1%、III期16.6%、IV期が4.8%と進行するにつれ低下します。
早期発見・早期治療の重要性がこれらの数字からも明らかです。
最新治療法の適応患者
新世代MWAは、局所療法に適した腫瘍の中でも、比較的大きい腫瘍に対して最も高い治療効果が得られる可能性があります。
複合免疫療法については、当初切除不能であった肝細胞がんにおけるテセントリク+アバスチン併用療法後の手術の実行可能性が示されており、切除率は48%(24例)という成績が報告されています。
治療選択のポイント
患者さんが治療法を選択する際に考慮すべきポイントは以下の通りです:
1. がんの大きさ・個数・位置
2. 肝機能の状態(Child-Pugh分類)
3. 年齢・全身状態
4. 再発リスクと根治性のバランス
5. 治療に伴う合併症リスク
6. 生活の質(QOL)への影響
今後の展望
2025年の現在、肝臓がん治療は目覚ましい進歩を遂げています。新世代MWAの普及により、今後、ラジオ波焼灼術(RFA)に代わって、新世代のマイクロ波焼灼術(MWA)がより使用されるようになってくると予想されます。
また、複合免疫療法の発展により、従来は治療困難とされていた進行がんに対しても新しい治療選択肢が生まれています。
重要なことは、これらの治療選択肢が増えることで、より個別化された治療が可能になってきていることです。
参考文献・出典情報
1. 国立がん研究センター がん情報サービス「肝臓がん(肝細胞がん) 治療」
4. 慶應義塾大学病院「肝臓がんの最新治療~新世代マイクロ波アブレーション、複合免疫療法、分子標的薬~」
5. 東京医科大学「肝がん治療におけるマイクロ波焼灼療法の有用性を証明」
6. 近畿大学「世界初!切除不能な中期肝がんに対する新たな治療法を開発」
7. 中外製薬「テセントリクおよびアバスチン、切除不能な肝細胞がんに対する初めてのがん免疫療法として承認を取得」
8. オンコロジー「切除不能肝細胞がんにおけるテセントリク+アバスチン併用療法および外科的切除を用いた集学的治療の検討」