
こんにちは。がん治療専門アドバイザー、本村ユウジです。
抗がん剤治療を検討されている患者さんやご家族から、ジェムザール(一般名:ゲムシタビン)について質問を受けることが増えています。この薬剤は1999年に日本で承認されて以来、膵がんや肺がんをはじめとする様々ながん種の治療で使用されており、現在でも多くの医療機関で第一選択薬として採用されています。
ジェムザールは代謝拮抗薬という分類に属する抗がん剤で、DNA合成を阻害することでがん細胞の増殖を抑える効果があります。比較的副作用が軽いとされる一方で、治療効果も期待できる薬剤として評価されています。
本記事では、ジェムザールの基本的な特徴から、実際の治療における効果、副作用、投与方法、そして気になる治療費用まで、患者さんが知っておくべき情報を詳しく解説します。
ジェムザール(ゲムシタビン)の基本情報と薬剤特性
ジェムザールの一般名はゲムシタビン塩酸塩で、日本イーライリリー社が製造販売する注射薬です。後発医薬品(ジェネリック医薬品)も複数のメーカーから販売されており、「ゲムシタビン」という名称で流通しています。
投与は点滴静注で行われます。血管外漏出による皮膚障害のリスクは低いとされており、また催吐リスク(吐き気を引き起こす可能性)も低い薬剤です。これらの特徴から、比較的安全に投与できる抗がん剤として位置づけられています。
作用機序と体内での動き
ジェムザールの有効成分であるゲムシタビンは、体内に入ると細胞内で代謝されて活性型のヌクレオチド(ゲムシタビン二リン酸、ゲムシタビン三リン酸)に変換されます。
この活性型ヌクレオチドがDNA合成を直接的・間接的に阻害することで、抗腫瘍効果を発揮します。具体的には、DNA合成に必要な物質とよく似た構造を持っているため、がん細胞の中に取り込まれてDNAに入り込み、細胞分裂を阻害します。また、リボヌクレオチド還元酵素を阻害することで細胞内のデオキシヌクレオチド濃度を低下させ、DNA修復能力も低下させます。
このような複数のメカニズムが相乗的に働くことで、ジェムザールは強力な抗腫瘍効果を示すのです。
投与されたジェムザールの大部分は尿中に排泄されます。主な代謝物はウラシル体で、投与量の10%未満が未変化体として尿中に排泄されることが確認されています。
ジェムザールが使われる主ながんの種類と治療効果
2026年現在、ジェムザールは以下のがん種に対して保険適応が認められています。
| がん種 | 主な治療法 | 治療の位置づけ |
|---|---|---|
| 膵がん | 単剤投与 ゲムシタビン+S-1併用療法 ゲムシタビン+エルロチニブ併用療法 ゲムシタビン+ナブパクリタキセル併用療法 |
進行膵がんの標準的治療として第一選択 |
| 非小細胞肺がん | 単剤投与 ゲムシタビン+シスプラチン併用療法 |
手術不能または再発例に使用 |
| 胆道がん | 単剤投与 ゲムシタビン+シスプラチン併用療法 |
切除不能進行例の標準的治療 |
| 乳がん | 単剤投与 ゲムシタビン+パクリタキセル併用療法 |
手術不能または再発例 |
| 尿路上皮がん(膀胱がん等) | GC療法(ゲムシタビン+シスプラチン) | 進行例や再発例 |
| 卵巣がん | 単剤投与 | がん化学療法後に増悪した場合 |
| 悪性リンパ腫 | 併用療法 | 再発または難治性の場合 |
各がん種における治療効果
膵がんにおいては、従来の5-FU(フルオロウラシル)と比較した臨床試験で、ジェムザール投与群が生存期間と症状緩和効果の両面で優れていることが示されました。特に膵がんでは腫瘍縮小効果そのものはそれほど高くありませんが、痛みなどの症状を緩和する効果が評価されています。症状緩和効果における有効率は約28.6%と報告されています。
非小細胞肺がんにおいては、後期第II相試験での検討が行われており、単剤投与での奏効率や症状改善効果が確認されています。シスプラチンなどプラチナ製剤との併用療法は、非小細胞肺がんの標準治療の一つとなっています。
胆道がんに対する第II相試験では、単剤投与による奏効率と生存期間が評価されており、特にシスプラチンとの併用療法が標準治療の一つとして確立されています。
乳がんにおいては、術後補助療法の後に再発した場合や遠隔転移が認められる場合のセカンドライン(他治療が効かない場合に試す治療法)として使用されます。海外の臨床試験では、パクリタキセルとの併用により良好な治療成績が報告されています。
ジェムザールの投与方法と投与スケジュール
ジェムザールは点滴静注で投与され、投与スケジュールはがん種や患者さんの状態によって異なります。
標準的な投与スケジュール
膵がん、胆道がん、尿路上皮がん、卵巣がん、悪性リンパ腫の場合、通常は以下のスケジュールで投与されます。
ゲムシタビンとして1回1000mg/m²(体表面積あたり)を30分かけて点滴静注します。週1回投与を3週連続し、4週目は休薬します。これを1コースとして投与を繰り返します。患者さんの状態により、投与量を適宜減量することがあります。
非小細胞肺がんの場合、基本的には上記と同じスケジュールですが、シスプラチンと併用する場合は、ゲムシタビンとして1回1250mg/m²を30分かけて点滴静注し、週1回投与を2週連続し、3週目は休薬を1コースとすることもできます。
手術不能または再発乳がんの場合は、ゲムシタビンとして1回1250mg/m²を30分かけて点滴静注し、週1回投与を2週連続し、3週目は休薬します。これを1コースとして投与を繰り返します。
投与時の重要な注意点
投与速度は1回30分かけて点滴静注することが基本です。1回の点滴を60分以上かけて行うと、副作用(特に骨髄抑制)が増強する可能性があるため、投与時間の厳守が重要です。
投与量の調節が必要になる場合として、白血球減少や好中球減少が認められた時があります。血液検査の結果に基づいて、医師が投与量や投与スケジュールを調整します。
腹部への放射線照射を受けている患者さんでは、ジェムザールとの併用に注意が必要です。また、骨髄抑制、間質性肺炎・肺線維症の既往歴または合併症、肝機能障害・アルコール依存症の既往または合併、腎機能障害、高齢者、心筋梗塞の既往がある患者さんでは、慎重に投与を検討する必要があります。
ジェムザールの主な副作用と対処法
ジェムザールは比較的副作用が軽い抗がん剤とされていますが、それでも注意すべき副作用があります。製造販売後の使用成績調査によると、全体の74.9%に何らかの副作用が現れたと報告されています。
減量・休薬が必要となる重大な副作用
骨髄抑制は最も注意すべき副作用です。白血球減少、好中球減少、ヘモグロビン減少、血小板減少などが見られます。臨床試験では、白血球減少が90.9%、好中球減少が72.7%の患者さんに認められました。グレード3以上の重度の骨髄抑制の発現率は、白血球数減少が10.0%、好中球数減少が28.3%、ヘモグロビン減少が17.1%でした。
間質性肺炎も重大な副作用の一つです。呼吸状態、咳、発熱などの臨床症状を十分に観察し、定期的に胸部X線検査を行うことが推奨されています。必要に応じて胸部CT検査、動脈血酸素分圧の測定なども実施されます。
その他注意が必要な副作用
| 副作用 | 発現頻度 | 対処法 |
|---|---|---|
| 悪心・嘔吐 | 90.9%(臨床試験) | 制吐剤の使用、食事の工夫 |
| 食欲不振 | 72.7%(臨床試験) | 少量ずつの食事、好きなものを食べる |
| 肝機能障害 | 63.6%(γ-GTP上昇など) | 定期的な血液検査でモニタリング |
| 発熱 | 3日以内に38℃程度 | 水分補給、長引く場合は医師に相談 |
| 発疹 | 様々 | 症状に応じて保湿剤や外用薬使用 |
| 疲労感 | 点滴後2-3日 | 無理をせず十分に休養 |
日常生活での注意点
ジェムザールの点滴を受けると、3日以内に38℃くらいの熱が出ることがあります。これは薬剤の影響による一時的なものですが、長く続く時は感染症の可能性があるため、早めに医療機関に連絡することが重要です。発熱時は水分補給を心がけましょう。
疲労感は点滴当日から2、3日続く場合があります。疲れたと感じた時は、無理をせずに体を十分休ませることが大切です。また、体を冷やさないように注意しましょう。
下痢が起こった場合は、脱水予防のために水分補給を心がけます。排便後は強くこすらないようにし、肛門周囲を清潔に保つようにしてください。症状がひどい時には、下痢止めの薬を服用することもあります。
便秘が長期になると、食欲不振や吐き気の原因にもなります。水分を十分に取り、排便を我慢せずに十分に時間をかけて排便したり、毎日同じ時間帯にトイレに座ってみるとよいでしょう。体調がよければ適度な運動(散歩など)も効果的です。連日排便がない場合は、下剤を用いることもあります。
投与中に生じる血管確保部位の周囲の痛みや不快感、発赤などは、注射部位反応や血管外漏出の徴候である可能性があるため、すぐに医療スタッフに伝えることが大切です。
ジェムザールの保険適応と治療費用
ジェムザールによる治療は、すべて健康保険が適用されます。患者さんの自己負担は、加入している保険の種類や年齢によって異なりますが、一般的には1割から3割です。
薬価と1コースあたりの費用
2025年12月時点での薬価は、ジェムザール注射用1g(先発品)で3,744円です。後発医薬品(ジェネリック医薬品)を選択すると、さらに費用を抑えることができます。
1コースの治療費は、投与量や投与回数によって異なりますが、3割の自己負担の場合、1コースで約5万円程度が目安となります。ただし、これは薬剤費のみの概算であり、実際には診察料、検査料、点滴の手技料などが加わります。
高額療養費制度の活用
抗がん剤治療では医療費が高額になることが多いため、高額療養費制度を活用することができます。この制度は、1か月(月の1日から末日)に医療機関や薬局の窓口で支払った額が一定の金額を超えた場合に、その超えた金額が支給される制度です。
自己負担の上限額は、年齢や所得に応じて定められています。例えば、年収が約500万円の方の場合、月の自己負担上限額は約8万円程度です(70歳未満の場合)。
事前に「限度額適用認定証」の手続きを行うことで、医療機関の窓口での支払額そのものを、初めから自己負担の上限額までとすることができます。また、オンライン資格確認システムを導入している医療機関では、健康保険証またはマイナンバーカードで本人確認ができれば、事前の申請手続きや限度額適用認定証の提示なしで、自動的に医療機関での支払額を自己負担の上限額までとすることができます。
2024年10月からの医薬品自己負担の仕組み変更
2024年10月から、後発医薬品(ジェネリック医薬品)がある薬で、先発医薬品の処方を希望される場合は、特別の料金が加算されることになりました。これは選定療養という制度で、先発医薬品と後発医薬品の薬価の差額の4分の1相当を、特別の料金として自己負担することになります。
ただし、医療上、先発医薬品の処方が必要と認められる場合や、流通の問題等により医療機関や薬局に後発医薬品の在庫がない場合には、特別の料金を支払う必要はありません。現在、先発医薬品を服用されている方で、引き続き先発医薬品が医療上必要かどうかは処方する医師が判断しますので、主治医にご相談ください。
ジェムザール投与を受ける際の心構え
ジェムザールによる治療は、がん細胞だけでなく正常な細胞にも作用するため、副作用が現れることがあります。しかし、治療は体の状態をみながら、効果と副作用のバランスを考えて進められます。
副作用には自覚症状があるものと、検査を受けなければ気づかないような自覚症状がないものがあります。体の異常を感じたらすぐに医療スタッフに相談することが大切です。
多くの患者さんでは、第1コースの投与で忍容性(副作用に耐えられるか)に問題がなければ、第2コース以降は外来での投与も可能です。実際の臨床試験でも、第1コースのみで試験を中止または終了した患者さんを除き、全例で入院から外来へ移行することができたという報告があります。
定期的な血液検査や画像検査を受けながら、医師と相談して治療を進めていくことが重要です。
参考文献・出典情報
1. 医療用医薬品:ジェムザール - KEGG MEDICUS
2. ジェムザール注射用1gの基本情報 - 日経メディカル処方薬事典
3. ジェムザール(ゲムシタビン) - がん情報サイト「オンコロ」
4. ゲムシタビンによる治療 - 国立がん研究センター中央病院
5. ジェムザールが適応となるがんの種類と治療効果・副作用一覧 - がんメディ
6. ゲムシタビン(ジェムザール)の特徴と副作用 - がんサポート
7. ゲムシタビン塩酸塩(ジェムザール) - 神戸きしだクリニック
8. 臨床成績 - Abraxane Information

