サルベージ手術とは何か
サルベージ手術とは、がんを根治する目的で行った放射線あるいは薬物療法などのあとに、病巣が消失しなかったり、いったん消失したものの再燃したりした場合に切除を目的として行う外科治療です。
日本語では「救済手術」と呼ばれ、「最後の一手」の意味合いがある治療法として位置づけられています。
がん診療において最初に手術以外の治療(化学放射線療法など)を選択した患者さんでも、治療がうまくいかなかった場合に手術による根治を目指すのがサルベージ手術の主な目的です。初回治療の際に手術ではなく根治的放射線化学療法を受けられる患者さんの約半数の方で、がんが完全に消えなかったり、一旦がんが消えた後に再発したりする場合があります。
医学的な定義と位置づけ
「サルベージ手術」の医学用語としての定義は、救済手術と訳されている以上の明確なものはないというのが現状です。しかし、現在の臨床現場では、集学的治療を重ねていくなかで、定型的な手術適応からは程遠いが残存病変を切除することでのメリットが期待できる場合に、腫瘍内科医より外科治療を期待されコンサルテーションを受けることもあり、我々呼吸器外科医は、そのような言わば「非定型手術」を広義の「サルベージ手術」として理解していると専門医は説明しています。
広義のサルベージ手術には、以下の3つの分類があります:
1. 治療開始前には根治切除不能であった病変が、薬物療法や放射線療法などの治療奏功により、切除可能病巣となり施行する根治的手術(コンバージョン手術)
2. 薬物療法や放射線療法などの治療後の遺残病巣や、再増大した病巣に対して、残された唯一の治療として施行される根治的手術(狭義のサルベージ手術)
3. 病巣による臓器の圧排・浸潤などによって生じる苦痛緩和や組織切除生検を目的とした姑息的手術
サルベージ手術の適応
食道がんの場合
食道がんでは、化学放射線療法で完全完解が得られた後の再発症例ではR0切除が行えることが多く、手術の危険性も通常の手術と大きく変わらないことから、救済手術の良い適応と考えますとされています。
具体的な適応条件としては:
・食道癌の深達度がT2までの症例
・化学放射線療法で完全完解が得られた後の再発症例
・がんの遺残や再発が食道付近のみに限られている場合
一方で、深達度T3以深の症例、化学放射線療法の効果不良の症例はR0切除の可能性が低く、また在院死亡率が10%を超えるハイリスク手術となりますとされており、慎重な適応判断が必要です。
肺がんの場合
肺がんにおいても、根治的放射線療法・化学放射線療法、定位または粒子線治療、分子標的治療を行った後、局所に病変(がん)が残存している(または疑われる)、または腫瘍が一度消失した後に再度病変が大きくなってきた患者さんに対してサルベージ手術が検討されます。
コンバージョン手術との違い
サルベージ手術と混同されやすい治療法として「コンバージョン手術」があります。両者の明確な区別について理解することが重要です。
コンバージョン手術の定義
コンバージョン(conversion)手術とは、診断時に手術による根治切除が不可能と判断された進行癌に対して化学療法が良く効いて腫瘍が小さくなったり消失したりすることで、根治切除を目指せるようになり手術を行う治療です。
また、近年では薬物療法や放射線治療の発展により、切除不能と診断された腫瘍が縮小することで、根治的な(治るための)外科手術が行える症例も増えています(コンバージョン手術と言います)。
両者の本質的な違い
両者の違いを理解するために、専門家の見解を参考にします。一方,コンバージョン手術とは,薬物療法から外科的切除へといった治療方法の変更に伴う手術と考えられる.そのような場合には,外科手術後に再び薬物療法を行う例も少なくないものと考えられるので,確かに「一時的」治療法の変更(コンバージョン)のほうが適切な用語と考えられる.放射線療法は限りがあるので(追加照射はない),せっかく奏効しても,そのあと放射線は使えない.根治的放射線化学療法後の外科手術は,ほかに根治的治療法がない時点の治療になるわけで,まさしく救済(サルベージ)の言葉がふさわしいと考える。
つまり:
項目 | サルベージ手術 | コンバージョン手術 |
---|---|---|
タイミング | 根治治療後の遺残・再発時 | 薬物療法が奏効し切除可能となった時 |
目的 | 最後の救済手段 | 治療方針の戦略的変更 |
前治療 | 主に放射線化学療法 | 主に薬物療法 |
術後治療 | 限定的 | 薬物療法継続の可能性 |
治療成績と長期予後
食道がんの成績
がん研有明病院の報告では、サルベージ食道切除で壁深達度の比較的浅いもの(ypT0-2)、完全切除(R0切除)が施行された症例では長期生存が期待できることを報告しています。特に、化学放射線療法で完全完解が得られた後の再発症例ではR0切除が行えることが多く、手術の危険性も通常の手術と大きく変わらないことが示されています。
同院では1988年から2020年までに95例の救済手術の経験を有していますという豊富な症例数を持ち、その成績向上に寄与しています。
施設による差
四国がんセンターでは、過去9年で18人の患者さんがサルベージ手術を受けて病変を摘出しましたと報告されており、専門施設での実施が重要であることがわかります。
リスクと合併症
高い合併症率
サルベージ手術の最も重要な特徴は、通常の手術と比較して合併症率が高いことです。高線量による根治的放射線化学療法後は、照射部位に放射線の影響が強く残り、手術後の合併症の発生率が高く、リスクの高い手術であることが知られています。
このため、サルベージ手術を希望される場合は、リスクが高いことを十分ご理解いただく必要がありますと専門医は説明しています。
死亡率について
特に食道がんの場合、深達度T3以深の症例、化学放射線療法の効果不良の症例はR0切除の可能性が低く、また在院死亡率が10%を超えるハイリスク手術となりますという報告があり、適応を慎重に検討する必要があります。
実施可能な医療機関
サルベージ手術は技術的に困難な手術であるため、経験豊富な専門施設での実施が推奨されます。
主要な実施施設
・がん研有明病院:1988年から2020年まで95例の実績
・京都大学消化管外科:胸腔鏡を用いた手術を基本術式として実施
・東北大学先進外科学分野:2001年から先駆的に実施
・四国がんセンター:過去9年で18例の実績
・大阪大学:年間100例を超える食道がん手術実績と専門医5名が在籍
施設選択の重要性
癌が取り切れないと考えられる場合や、患者さんの体力を考慮して危険すぎると考えられる場合には、手術をおすすめしないと判断することもありますという慎重な判断ができる施設を選ぶことが重要です。
最新の技術的進歩
低侵襲手術の導入
近年では、サルベージ手術においても低侵襲手術の技術が導入されています。このような症例に対しては鏡視下手術も選択肢となり得ますという報告があり、患者さんの負担軽減が図られています。
集学的治療との組み合わせ
サルベージ手術は単独で行われるものではなく、集学的治療の一環として位置づけられます。局所進行癌に対して様々な治療法を組み合わせる集学的治療にも取り組んでおり、根治切除可能と判断すれば積極的な手術を行っていますという姿勢で治療にあたる施設が増えています。
患者さんとご家族への情報
十分な説明と理解
サルベージ手術を検討する際には、十分な説明と理解が必要です。長期生存の可能性と手術のリスクについて十分な説明の上で手術の適応を判断いたしますというプロセスを経ることが重要です。
セカンドオピニオンの活用
複雑で高リスクな手術であるため、セカンドオピニオンの活用も重要な選択肢となります。特に他院で治療中の患者さんでも、専門施設での相談により新たな治療選択肢が見つかる可能性があります。
今後の展望
症例蓄積による成績向上
現在、これまでに世界では20-30例の報告がありましたが、100例を超える大規模な検討はなされていませんという状況にあり、症例の蓄積による治療成績の向上が期待されています。
適応基準の明確化
今後は、より多くの症例データの蓄積により、適応基準の明確化や成績向上が期待されます。また、低侵襲手術技術の発展により、患者さんの負担軽減も進むと考えられます。
まとめ
サルベージ手術は、根治的な化学放射線療法後の遺残・再発に対する重要な治療選択肢です。コンバージョン手術とは異なり、「最後の救済手段」としての位置づけを持ち、高い技術と経験を要する治療法です。
適応については、がんの進行度、患者さんの全身状態、前治療の効果などを総合的に判断する必要があり、専門施設での慎重な検討が不可欠です。
参考文献・出典情報
2. 東北大学先進外科学分野 - 根治的化学放射線療法とサルベージ手術
3. 医学・医療の電子コンテンツ配信サービス - サルベージ・コンバージョン手術特集
4. Japanese Journal of Lung Cancer - サルベージ手術の定義と分類
6. 神戸大学医学部附属病院肝胆膵外科 - コンバージョン治療
7. 日経メディカル - 膵癌コンバージョン手術の最新研究(ASCO GI 2025)
9. 国立がん研究センター中央病院 - ステージ4・再発がんの治療