内視鏡技術の進歩で早期の胃がんが発見されやすくなっています。
胃がんの検診を受ける人も、従来のX線検査ではなく内視鏡検査を希望し、選択されるケースが多いため、超早期の場合は、直径5ミリ程度でも発見可能になりました。内視鏡は胃がんの早期発見に大きく貢献しているといえます。
超早期や早期の胃がんの場合にはまったく症状はありません。胃がんが大きくなって進行してくると腹部膨満感、胃もたれ感、上腹部の痛みなどの症状が出てきたり、便に黒い血がまじるようになったりします。そのような状態になると胃の全摘出など負担の大きい手術をせざるをえないため、進む前に発見するのが重要です。
とはいえ、現在の検査の現場では、いきなり内視鏡を使うのではなく、検査を受ける人の体への負担を考え、経鼻内視鏡が用いられます。そこで胃がんが疑われる場合には口から入れる経口内視鏡や拡大内視鏡で、より的確に対応するという流れです。
この鼻から入れる「経鼻内視鏡」は先端が4.9ミリと経口内視鏡の約半分と細いのが特徴です。舌根に触れないので患者の身体的な負担は少ないのです。目視してがんが疑われる場合は、組織を採ってきて病理診断を行うことになります。
さて、次に内視鏡による治療(手術)についてですが、2004年に改訂された日本胃癌学会の「胃がん治療ガイドライン」によると、最も早期の胃がんに対応する内視鏡治療(手術)は、以下の条件をクリアすることで可能となります。
・リンパ節転移のない早期胃がん(胃壁は5層になっているが、その最も内側の粘膜にがんがとどまっている)。
・がんが一括して切除できる大きさ(直径2センチ以下)。
・分化型がんで潰瘍のないがん。
最後のがん細胞の「分化型」とは、がん細胞の並びが元々の胃の粘膜構造を残しているタイプです。一方、「未分化型」は、がん細胞が元々の粘膜構造を残さずにバラバラに散らばっているタイプです。未分化型は早期であってもリンパ節にがんが転移していることがあるので、基本的に内視鏡治療の対象とはなりません。
そのため、内視鏡治療の適応を決定するうえで分化型、未分化型の分類は重要な要素だといえます。しかし、最近では未分化型であっても内視鏡治療を行う場合もあります。がんの大きさなど一定の条件を満たした場合に、リンパ節転移の危険は極めて低いがゼロではないことを患者に説明したうえで、臨床研究として内視鏡治療が行われています。
内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)とは
胃の壁は内側から「粘膜」「粘膜下層」「筋層」「漿膜下層」「漿膜」の5層になっています。
体にキズをつけることなく治療ができる内視鏡治療の適応となるのは、①「リンパ節転移のない早期胃がん」、②「がんが一括して切除できる大きさ」、③「分化型がんで潰瘍のないがん」の3条件をクリアした場合です。
①は胃の層でいうと最も内側の粘膜にがんがとどまっており、②は直径が2センチ以下、③は分かりやすくいうと悪性度の低いがんだということです。
内視鏡治療は1983年に登場した「内視鏡的粘膜切除術(EMR)」がこれまでは広く行われてきました。患者の口から内視鏡を入れ、先端を胃がんの病巣まで持っていきます。
そして、内視鏡の先端から針を出してがん病巣下に止血薬を配合した生理食塩水を注入します。するとがん病巣はプクッと隆起することになります。今度は内視鏡の先端からスネアといわれるループ状のワイヤを出して隆起したがん病巣にかけ、首をしめるようにがん病巣を締めて高周波電流を流して焼き切る、という流れです。
これは開腹手術に比べて格段に体にやさしい治療ですが、弱みがありました。それは、きちっと一度に取り切れずに2回、3回とわけて切除するとがんの取り残しがあり、再発するケースがあったことです。その弱点をカバーする治療として、EMRにとって代わったのが「内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)」であり、2006年から健康保険の適用となりました。
このESDは直径2センチ以上の早期がんを一括して取ることができます。そのため、ESDは広く全国の施設で行われています。ESDはITナイフ、デュアルナイフ、フックナイフなどのESD用ナイフを用いて行われます。ESD方法はまず、患者の口から内視鏡を胃へ入れ、先端から針状高周波メスを出してがんの周囲にマーキングします。がん病巣下に止血薬を配合した生理食塩水を注入し、ITナイフの小球が入る穴をマーキングの外側につくります。
そこから小球を入れるとその先を焼き切ることがありません。そのままマーキングの外側を切開し、再度、止血薬配合の生理食塩水を注入し、粘膜下層を剥離することになります。止血の不十分なところには止血し、粘膜保護剤などを散布して治療は終了となります。
胃がんが胃壁の最も内側の粘膜にとどまっていて分化型がん(悪性度の低いがん)であれば、どれだけ大きくても技術的にはESDで取り切ることができます。
ただし、早期の未分化型がん(悪性度の高い、転移しやすいがん)では2センチ以下、粘膜をわずかに超えた分化型がんでは3センチ以下でも、リンパ節転移の危険は極めて低いけれどもゼロではありません。ここを適応拡大してESDを行っている施設が増えてきていますが、この場合は、臨床研究として内視鏡治療が行われていることを患者に十分説明した上で、行う必要があります。
がんは転移するときにはまずリンパ節に転移することが多いのですが、内視鏡の適応範囲を拡大するとその「リンパ節転移」のリスクが浮上してくるということです。
リンパ節転移のリスクがあるケースにESDで対応した場合、病理検査を徹底して行う必要があります。これは診断的な内視鏡治療になりますが、まずは負担の少ない手術を、と希望する患者が多く、かなり多く行われているようです。
当然、内視鏡治療後の病理診断で、がんがリンパ節に行っている可能性がある、と判断された場合は、内視鏡治療で終了とはなりません。そのときは、開腹手術や腹腔鏡手術に移行することになります。
リンパ節にがんが転移している可能性があると、内視鏡治療の届く範囲ではありません。内視鏡は体にキズをつけず、口から内視鏡を入れて治療を行う治療ですが、がんがその範囲にとどまっている場合の治療法です。リンパ節となると、胃の外側となるので、内視鏡では太刀打ちできない、というわけです。
胃がんにおける内視鏡検査・治療についてのお話をまとめると、胃がんの手術の中で最も体にやさしい治療は「内視鏡治療」であるといえます。これは口から直径1センチ程度の内視鏡を胃に挿入してがん病巣を切除する治療法です。しかし、対象はリンパ節転移のリスクが極めて低いおとなしいタイプのがんで、一括して切除ができる場合に限られる、というわけです。
さて、内視鏡治療を行った後についてですが、治療の2か月後に切除した部分のキズの治りを確認し、それ以降も1年に1回は内視鏡検査を受けることがポイントです。それは、一度胃がんになった人の場合、胃に新たにがんが発生するケースが少なからずあるからです。
加えて、ヘリコバクター・ピロリを保菌していた場合は、胃がんの危険因子となるので、胃がん予防のためには除菌が勧められます。2010年6月から「早期胃がんに対する内視鏡的治療後の除菌」に対しては健康保険が適用となっています。
以上、胃がんの内視鏡手術についての解説でした。