2023年のがん死亡者数は約38万人、全死因の24.3%を占める
厚生労働省の2023年人口動態統計によると、日本人の死亡原因の第1位はがんです。がんによる死亡者数は38万2,504人(男性22万1,360人、女性16万1,144人)で、全死亡数の24.3%を占めました。
がんによる死亡は心疾患、脳血管疾患を上回り、1981年から死因の第1位を維持し続けています。人口の高齢化や生活習慣の変化が主な要因とされており、がんによる死亡数は医学的にも社会的にも重要な課題となっています。
最新のデータでは、生涯でがんに罹患する確率は男性が63.3%(2人に1人)、女性が50.8%(2人に1人)となっています。また、がんで死亡する確率は男性が24.7%(4人に1人)、女性が17.2%(6人に1人)です。
日本がん死亡者数の部位別順位と推移の特徴
2023年の部位別がん死亡数を見ると、全体的に日本人で最も死亡数が多いがんは肺がんです。肺がんは他のがんと比較して5年生存率が低く、治療が困難な疾患として知られています。
男性の部位別がん死亡数順位(2023年)
順位 | がんの種類 | 特徴 |
---|---|---|
1位 | 肺がん | 約5万3,750人、男性がん死亡の23.9% |
2位 | 大腸がん | 近年増加傾向 |
3位 | 胃がん | ピロリ菌除菌などで減少傾向 |
4位 | 膵臓がん | 早期発見が困難 |
5位 | 肝臓がん | 肝炎ウイルス対策で減少 |
女性の部位別がん死亡数順位(2023年)
順位 | がんの種類 | 特徴 |
---|---|---|
1位 | 大腸がん | 約2万5,195人、女性がん死亡の15.6% |
2位 | 肺がん | 喫煙率減少で男女差が縮小 |
3位 | 膵臓がん | 男女ともに増加傾向 |
4位 | 乳がん | 検診普及で早期発見増加 |
5位 | 胃がん | 減少傾向が続く |
女性では大腸がんによる死亡数が1番多く、次いで肺がん、膵臓がん、乳がん、胃がんの順となっています。男性と比較して、女性は大腸がんの死亡率が高いことが特徴的です。
肺がんが最も多いがん死亡原因である理由
肺がんは日本人で最も命のリスクが高いがんとして位置づけられています。年間で約7万1,000人が肺がんで死亡しており、これは全がん死亡者数の約18.5%に相当します。
肺がんが死亡原因として多い理由は以下の通りです。まず、主な発症要因が喫煙であることが挙げられます。長期間の喫煙歴がある高齢者に多く発症し、症状が現れにくいことから発見時にはすでに進行している場合が多いのです。
また、肺門部にできるがんはエックス線撮影では発見しにくく、早期診断が困難な特徴があります。さらに、肺がんは他の臓器への転移が起こりやすく、治療選択肢が限られることも5年生存率の低さにつながっています。
日本のがん罹患者数も増加している現状
日本では現在、生涯でがんに罹患する確率は男女とも2人に1人とされています。男性は50歳代、女性は30歳代からがんの罹患率が上昇してきます。罹患率とは、人口10万人あたりに1年以内に新しく病気にかかる人の数のことです。
2021年のがん罹患数を見ると、1年間で新たにがんと診断された患者さんは男女合わせて約94万5,000人でした。男性が約53万5,000人、女性が約41万人となっており、男性は女性の約1.3倍の罹患数となっています。
部位別がん罹患数の特徴(2021年データ)
男性では前立腺がんが最も多く、約8万7,756例で男性のがん罹患全体の16.4%を占めています。次いで大腸がん、肺がん、胃がん、肝臓がんの順で罹患しています。
女性では乳がんが最も多く、約9万1,531例で女性のがん罹患全体の22.3%を占めています。次いで大腸がん、肺がん、胃がん、子宮がん(全体)の順で罹患しています。
注目すべき傾向として、男女ともに膵臓がんが増加している一方で、肝臓がんは減少傾向にあることが報告されています。これは、B型・C型肝炎ウイルスの治療法の進歩や感染予防対策の効果が現れているものと考えられます。
年齢調整死亡率で見る真のがん死亡推移
がんの死亡者数は増加していますが、これには日本の急速な高齢化が影響しています。がんは年齢とともに発症率が上昇するため、高齢者人口の増加により見かけ上の死亡者数が増えているのです。
高齢化の影響を除去した「年齢調整死亡率」を見ると、実際のがん死亡率の動向が明確になります。年齢調整死亡率とは、年齢構成が基準人口(1985年日本人モデル人口)と同じだった場合に実現されたであろう死亡率のことです。
年齢調整死亡率の推移を見ると、がんの死亡率は1990年代半ばをピークに減少傾向にあります。これは、がん検診の普及による早期発見、治療技術の向上、分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬などの新しい治療法の導入効果を反映しています。
部位別年齢調整死亡率の動向
部位別に見ると、胃がんと肝臓がんは明確な減少傾向を示しています。胃がんの減少は、ヘリコバクター・ピロリ(ピロリ菌)の除菌治療の普及や、塩分摂取量の減少などの生活習慣の改善が寄与しています。
肝臓がんの減少は、B型・C型肝炎ウイルスに対する治療薬の開発と普及、輸血用血液のスクリーニング強化などの感染予防対策の効果です。
一方で、大腸がんの死亡率の減少は緩やかであり、特に女性での死亡数増加が課題となっています。膵臓がんについては、早期診断の困難さから死亡率の改善が限定的な状況が続いています。
がん生存率の向上と治療技術の進歩
医療技術の進歩により、がんの5年相対生存率は継続的に改善しています。最新のデータでは、がん全体の5年相対生存率は約68.4%となっており、前年集計より0.5ポイント上昇しました。
部位別の5年相対生存率を見ると、前立腺がんが100%、乳がん(女性)が93.7%、甲状腺がんが92.4%と高い生存率を示しています。これらのがんは早期発見技術の向上と効果的な治療法の確立により、良好な予後が期待できるようになりました。
治療技術の主な進歩
2000年代以降、がん治療は飛躍的な進歩を遂げています。分子標的治療薬の開発により、がん細胞に特有の標的分子を狙い撃ちする治療が可能になりました。さらに、免疫チェックポイント阻害薬の登場により、患者さん自身の免疫力を活用してがんと闘う治療選択肢が広がりました。
放射線治療の分野では、強度変調放射線治療(IMRT)や粒子線治療など、正常組織への影響を最小限に抑えながらがん組織に集中的に照射する技術が実用化されています。
手術においても、内視鏡手術やロボット手術の普及により、患者さんの身体的負担を軽減しながら高精度な治療が可能になっています。
がんゲノム医療と個別化治療の時代
近年注目されているのが、がんゲノム医療の進展です。遺伝子パネル検査により、患者さんのがんで起きている遺伝子異常を特定し、その遺伝子異常に対応した分子標的薬による治療を行うアプローチが実用化されています。
日本では2019年にがんゲノム医療が保険適用となり、その後実施件数は毎年増加しています。個々の患者さんのがんの特性に応じた個別化治療により、より効果的な治療選択が可能になっています。
また、武装化抗体(抗体薬物複合体:ADC)の技術向上により、抗体と抗がん物質を結合させたリンカーの性能が改良され、がん細胞に効率的に薬剤を届ける治療法も実用化されています。
高齢化社会におけるがん対策の重要性
がん細胞は長い年月をかけて増殖するため、高齢化社会になるにつれてがんに罹患する人が増加します。特に働き盛りを終えた以降の世代では、細胞の遺伝子に突然変異が積み重なりやすく、がん化を抑制する免疫細胞の働きも衰えてくるため、注意が必要です。
現在、がん患者さんの約3人に1人は就労世代(20~69歳)に属しており、社会経済活動への影響も大きな課題となっています。特に女性は働き盛りでのがん罹患率が高く、乳がんをはじめとする女性特有のがんへの対策が重要です。
今後のがん対策の方向性
がん死亡率の更なる改善には、以下の取り組みが重要とされています。まず、がん検診受診率の向上による早期発見の推進です。多くのがんは早期に発見できれば根治が期待できるため、定期的な検診の重要性が高まっています。
次に、難治性がんに対する新しい治療法の開発です。膵臓がん、胆のう・胆管がん、脳腫瘍などの難治性がんに対しては、従来の治療法では十分な効果が得られないため、新たなアプローチの研究開発が急務となっています。
さらに、がん患者さんの社会復帰支援と生活の質(QOL)の向上も重要な課題です。治療技術の進歩により生存期間は延長していますが、治療後の社会復帰や就労支援の充実が求められています。
予防可能ながんリスク要因への対策
がんの発症要因として、喫煙、過度の飲酒、不適切な食生活、運動不足、肥満などの生活習慣要因が重要な役割を果たしています。これらは個人の努力により改善可能な要因です。
特に喫煙は肺がんをはじめとする多くのがんのリスク要因として確立されており、禁煙による予防効果は明確に示されています。また、ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチンによる子宮頸がん予防、B型肝炎ワクチンによる肝臓がん予防など、感染症対策による予防も可能です。
食生活では、塩分や加工肉の摂取を控え、野菜や果物を十分に摂取することでがんリスクの軽減が期待できます。定期的な運動習慣の維持も、大腸がんや乳がんなどのリスク低下に有効とされています。
国際比較から見る日本のがん死亡率の位置
国際的に見ると、日本のがん年齢調整死亡率は必ずしも高いとは言えません。米国、英国、カナダ、オーストラリアなどの先進国と比較して、全がんの死亡率は中程度に位置しています。
ただし、部位別に見ると、胃がんと大腸がんの死亡率は国際的に高い水準にあります。特に大腸がんは死亡率の減少が緩やかで、食生活の欧米化や生活習慣の変化が影響していると考えられています。
一方、肺がんの死亡率は男性では減少傾向にありますが、女性では横ばいから微増傾向を示しており、女性の喫煙率や受動喫煙の影響が懸念されています。
現在、がんは3人に1人が亡くなる疾患ですが、医療技術の進歩と予防対策の推進により、今後もがん死亡率の改善が期待されています。
個人レベルでは生活習慣の改善と定期的な検診受診、社会レベルでは医療体制の充実と研究開発の推進が、がんによる死亡率低下の鍵となるでしょう。
参考文献・出典情報
ウーマンズラボ「がんの統計2025公表、男女別・部位別の罹患数と死亡数」
大阪国際がんセンター「がんは増えている?減っている?①:年齢調整とは?」