ビタミンAは大きく分けて2つの働きを持っています。
1つはものを見るという視覚作用に関係しています。もう1つは正常な発育と生殖機能の維持、外部からの病原菌などの侵入を阻止する免疫機能の維持や上皮細胞の正常化を行う機能です。
ビタミンAが不足してくると、まず眼の機能に異常が出てきます。
視覚とビタミンA
物を見る視力には2種類あります。1つは薄明視といって、夜や薄暗いところでも物を見る能力です。
明るい場所から急に暗い場内に入ると、しばらくの間何も見えない、という状態になります。何分間か経つうちに少しずつ周りの物が見えるようになります。
このように、急に暗いところに入って物を見るのに慣れていくことを、暗順応といいます。ビタミンAが不足したり、欠乏してくるとこの暗順応が低下してきて、いつまで経っても周りがよく見えなくなります。
また、自動車のライトを付けても光が届く範囲がとても狭く感じられます。薄明視とはこのように弱い光でも物が見られる能力のことで、色彩は感じずに、明るさだけを感じ取る能力ともいえます。
この薄明視とは、ロドプシンというビタミンAとタンパク質が一緒になって複合体を作っている成分が網膜にあって働いているので、物を見分けることが出来るのです。
物を見る時にはもう1つ、天然色で見る能力があります。写真をモノクロではなくカラーで撮れば、風景や人物を見た時と殆ど同じ色が出ています。我々の眼も同じようにカラーで景色を眺めているわけです。
しかし、カラーの方は暗くなると色があまりはっきりしなくなります。ですから、色彩を感じる能力にはある程度の明るさが必要になります。
この色を見る能力も薄明視と同じようにビタミンAとタンパク質の複合体が感じているのです。ただし、こちらの方は光の三原色を分けて見る必要があるので、3種類の色素タンパク質が必要になります。
しかし、同じ網膜でも光の三原色を見るところと、薄暗い光を見る場所は全く違っていて、その機構も違っています。
同じビタミンAが、 1つは薄暗い光を、もう1つは光の三原色を似たような機構で見ていることは、なかなか興味深いことです。この物を見るというビタミンAの作用は、レチノールといわれる化合物にしかありません。
このレチノールは植物にはなく、動物だけに存在しています。似たものがバクテリアにもありますが、多分植物は物を見る必要がないので、眼のような器官が出来なかったのでしょう。
このビタミンAが不足してくると、最初に現れるのが、眼と視覚の異常です。まず、薄明視が弱り、暗いところに入った時に必要な暗順応が失われます。
もっと欠乏が進むと、眼が乾燥してきたり、眼やその周りに変なものが出来できたりします。そして、さらに不足すると、遂には失明してしまいます。最近はコンピュータを使ったり、テレビを長時間見たり、車を運転したり、色々な所で眼を酷使しているので、普段から不足しないように十分取っておくことが大切です。
幸いにビタミンAは、余分に取ると肝臓に蓄えておくことができます。逆にいえば、急に病気にかかったり、高熱が出たりした時には、普段よりたくさんのビタミンAが消費されるため、ビタミンAが不足していると眼に異常を来すことがあります。
戦前には多くの子供が、高熱が続いた結果、失明した事例は多いのですが、これには戦前の日本人がビタミンA不足であったことも、大きく影響しているといわれています。
ビタミンAの全身に対する作用
ビタミンAは視覚の他に全身に働く機能ももっています。この機能は極めて大切で、私たちの体を作っている組織のうち「上皮細胞」といわれる細胞が正常になるのに必要です。
皮膚もそうですが、口から肛門までとか、口から肺のように外部につながっている組織を作っている細胞が上皮細胞といわれます。広い意味で、肝臓や腎臓も外部につながっているので、この仲間に入ります。これらの細胞が正常に発育し、正常に機能していくために、ビタミンAは欠かせないビタミンです。
もし、ビタミンAが不足すると、口から肺のようにいつも外部の空気と接触しているところや、皮膚のように外部にさらされているところでは、病原菌に冒されやすくなり、免疫機能が低下したり、色々な病気にかかりやすくなります。
そして、子供でこのような現象が進むと、死亡率の上昇に結びついていきます。もちろん、大人でも同じように進みますが、子供の方がもっと抵抗力が弱いので、影響を受けやすです。
つまりビタミンAは、体全部の細胞が正常に働くのに、大切な役割を担っていることになります。同じような働きに生殖機能の維持があります。
ビタミンAの多い食べ物
人間はビタミンAを蓄える所が肝臓だけですが、夏の土用の頃に夏ばて防ぎに食べられるウナギは少し変わっていて、肝臓以外にも体中の筋肉にビタミンAを貯めておく事ができます。そのためウナギの蒲焼は肝以外のところを食べても、100グラムに5000単位もビタミンAが含まれています。
この5000単位というビタミンAの量は、成人男子2日分以上のビタミンAの所要量に相当します(所要量とは、それだけ取れば欠乏症が起きる可能性が全くないという量のこと)。
そのため、昔は普段の食事では不足していたビタミンAの補充に、夏ばての回復にウナギが宣伝されたと思われます。
他の魚でビタミンAが肉の部分に多いのは、ギンダラ6300単位、ハモ2000単位、アナゴ1700単位といったところです。夏の京都の祇園祭にハモは欠かせないお料理ですが、暑い盛りに山車を引いて町中を歩いた後の疲労回復に、ビタミンAは大切な栄養ということを昔の人はわかっていたのかも知れません。
他の魚、鳥、獣などの肉にはビタミンAはあまり含まれませんが、それでも魚はやや多い方です。また、どの動物の肝臓にもたくさんのビタミンAが含まれています。
もう1つのビタミンAの供給源は色の濃い緑黄色野菜です。特に緑色の葉っぱには、光のエネルギーを使って、デンプンや糖分を作る葉緑体があります。この中には、緑色のクロロフィル(葉緑素という)と一緒に、カロチンという橙黄色や橙赤色をした色素がたくさん入っています。
このカロチンの大部分は、化学的にはβ-カロチンと呼ばれるもので、ちょうどビタミンAが2つくっついた形をしています。このβ-カロチンは料理の時に油に溶けていると、小腸で良く吸収されて、真ん中で切れて1つだけビタミンAを作ります。
そして、ビタミンAとして体で働いてくれます。ですから、色の濃い野菜もビタミンAの良い供給源ということになります。
ただ、ビタミンAとβ-カロチンが違う点は、ビタミンAは100%近く体に吸収されるのに対し、β-カロチンはよく油に溶けていないと利用できない欠点があります。平均では30%位の利用率といわれますが、生のニンジンのような硬い野菜をそのまま食ぺた時にはO%に近く、油に溶かすと90%以上にもなります。料理法で大きく変わることが特徴です。
また、β-カロチンはビタミンとしてだけでなく、抗酸化作用をもつ物質として注目されています。がんやいくつかの成人病の予防に、他のビタミンと一緒にβ-カロチンも効果があることが疫学的に証明されています。その意味でも、緑黄色野菜を食べるのは大切なことだといえます。
がんと闘うには、人間の体のことや栄養素についてもある程度理解しておくことが大切です。
何をすべきか、正しい判断をするためには正しい知識が必要です。