
こんにちは。がん治療専門アドバイザー、本村ユウジです。
前立腺がんは進行すると高い確率で骨に転移します。骨転移は前立腺がん患者さんの約70~90%に認められ、特に去勢抵抗性前立腺がん(ホルモン療法が効かなくなった状態)では85~90%もの患者さんに骨転移が見られます。
骨転移が起こると、痛みや骨折、脊髄圧迫による麻痺などの問題が生じる可能性があります。これらの症状は生活の質(QOL)を下げるだけでなく、寝たきりになると免疫力の低下や感染症のリスクが高まり、結果的に生存期間にも影響を及ぼします。
そのため、骨転移が確認された場合には、がん自体の治療と並行して、骨転移の進行を抑える治療が重要になります。現在、日本では骨転移に対して主に3つの薬剤が使用されています。
それが「ゾメタ(ゾレドロン酸)」「ランマーク(デノスマブ)」「ゾーフィゴ(塩化ラジウム223)」です。
前立腺がんの骨転移の特徴とメカニズム
骨は常に生まれ変わっています。古い骨を壊す「破骨細胞」と、新しい骨を作る「骨芽細胞」がバランスよく働くことで、健康な骨が保たれています。このプロセスは「骨リモデリング」と呼ばれています。
ところが、がん細胞が骨に転移すると、このバランスが崩れます。がん細胞はRANKL(ランクル)というタンパク質の分泌を促進します。RANKLは破骨細胞を活性化させて骨を溶かす働きを強めます。その結果、骨はどんどんもろくなっていきます。
興味深いことに、前立腺がんの骨転移には造骨性(骨を作る)の特徴があります。がん細胞が骨を作る細胞の増殖因子を出すため、骨が硬くなる傾向があり、他のがんと比べて骨折を起こしにくいとされています。しかし、ホルモン療法を長期間続けると骨粗しょう症になりやすく、骨折のリスクはゼロではありません。
前立腺がんの骨転移は、骨盤、脊椎、大腿骨、肋骨などに多く見られます。脊椎の骨転移が進むと圧迫骨折を起こし、神経を損傷して車椅子生活になることもあります。このため、骨転移では寝たきりにならないことが治療の重要な目標となります。
骨転移の治療開始時期と目的
骨転移が確認された場合、まだホルモン療法を受けていない患者さんには、最初にホルモン療法が開始されます。すでにホルモン療法を行っている患者さんには、骨転移の進行を抑える薬剤が追加されます。
骨転移治療の主な目的は以下の3つです。
- 骨折や脊髄圧迫などの骨関連事象(SRE)の発生を遅らせる
- 骨転移による痛みを軽減する
- 生活の質(QOL)を維持し、可能な限り通常の生活を送れるようにする
現在では、ホルモン療法を開始する時点から骨を守る治療を併用することが推奨されています。ホルモン療法自体が骨密度を低下させるため、早期からの骨ケアが重要です。
ゾメタ(ゾレドロン酸)の特徴と効果
ゾメタは「ビスホスホネート製剤」に分類される薬剤です。破骨細胞に取り込まれて、破骨細胞の働きを抑制することで骨の破壊を防ぎます。
ゾメタは2004年から日本で使用されており、前立腺がんの骨転移治療において長い実績があります。健康保険が適用され、骨転移に対して広く使われています。
ゾメタの投与方法
ゾメタは点滴による静脈投与で、15分以上かけて投与します。投与間隔は通常4週間に1回です。外来で投与できますが、点滴のため30分程度ベッドで安静にする必要があります。
ゾメタの効果
ゾメタは骨の破壊を抑えることで、骨関連事象(骨折、痛み、脊髄圧迫など)の発生を遅らせる効果があります。従来のビスホスホネート製剤と比べて、骨を丈夫にする効果が約1000倍強いという特徴があります。
ゾメタの副作用
主な副作用として以下が報告されています。
- 腎機能障害:長期投与により腎臓の働きが低下することがあります。定期的に腎機能検査を行う必要があります。重度の腎機能障害がある患者さんには使用できません。
- 低カルシウム血症:血液中のカルシウム濃度が下がることがあります。手足のしびれ、筋肉の脱力感、けいれんなどの症状が現れます。予防のため、カルシウムとビタミンDの補充が推奨されます。
- 顎骨壊死:まれですが、あごの骨が壊死することがあります。虫歯治療や抜歯がきっかけで起こることがあるため、投与前には歯科検診が必要です。
- 発熱、骨痛などの急性期反応
ランマーク(デノスマブ)の特徴と効果
ランマークは2012年に日本で承認された比較的新しい薬剤です。ゾメタと同様に破骨細胞の働きを抑えますが、作用メカニズムが異なります。
ランマークは「抗RANKL抗体製剤」に分類されます。前述のRANKL(破骨細胞を活性化するタンパク質)に直接結合してその働きをブロックし、破骨細胞の形成を抑制します。
ランマークの投与方法
ランマークは皮下注射で投与されます。上腕、大腿、腹部などに注射し、投与間隔は4週間に1回です。点滴のゾメタと比べて、投与が簡便で患者さんの負担が少ないという利点があります。
ランマークの効果
臨床試験では、ランマークはゾメタと比較して骨関連事象の発生を遅らせる効果が認められています。骨転移を有する前立腺がん患者さんを対象とした比較試験では、骨関連事象が発生するまでの期間が、ランマークで20か月、ゾレドロン酸で17か月でした。ランマークの方が約3か月長く骨関連事象の発生を遅らせることができました。
また、ランマークには腎機能への影響が少ないという利点があります。ゾメタは重度の腎機能障害がある患者さんには使用できませんが、ランマークは腎機能障害のある患者さんにも使用制限はありません。
ランマークの副作用
| 副作用 | 頻度 | 症状と対策 |
|---|---|---|
| 低カルシウム血症 | 5.6~12.8% | 手足のしびれ、筋肉の脱力感、けいれん、不整脈など。ゾメタよりも発生頻度が高いため、投与開始後は頻回に血液検査が必要。重篤な場合は死亡例も報告されているため、カルシウム(1日500mg以上)とビタミンD(400IU以上)の経口補充が必須です。 |
| 顎骨壊死 | まれ | 歯肉の痛み、腫れ、炎症、歯のぐらつき、あごのしびれなど。虫歯治療や抜歯がきっかけで起こることがあるため、投与前と投与後も定期的に歯科受診が必要です。 |
| 関節痛 | 4.3% | 鎮痛剤で対応 |
| 疲労 | 3.7% | 適度な休息と栄養管理 |
| 悪心、下痢 | 2~3% | 消化器症状への対症療法 |
ゾーフィゴ(塩化ラジウム223)の特徴と効果
ゾーフィゴは2016年3月に日本で承認された、世界初のアルファ線を用いた放射性医薬品です。従来の骨転移治療薬とは全く異なるアプローチで治療効果を発揮します。
ラジウム223はカルシウムと似た性質を持っており(周期律表で同じアルカリ土類金属に属する)、骨の成分であるカルシウムと同じように骨に集まりやすい性質があります。注射で体内に送られると、骨代謝が活発になっている骨転移巣に選択的に集積し、そこから放出されるアルファ線ががん細胞のDNAを直接切断して増殖を抑えます。
ゾーフィゴの適応
ゾーフィゴは骨転移のある去勢抵抗性前立腺がん(ホルモン療法が効かなくなった前立腺がん)に使用されます。ただし、内臓転移がある場合は使用できません。骨転移のみの患者さんが対象となります。
ゾーフィゴの投与方法
ゾーフィゴは静脈注射で投与されます。体重1kgあたり55kBqを1分程度かけて緩徐に静脈内投与します。4週間間隔で最大6回まで投与できます。
ゾーフィゴの効果
ゾーフィゴの最も注目すべき点は、生存期間の延長効果が認められていることです。
ALSYMPCA試験(国際共同第III相臨床試験)では、骨転移のある去勢抵抗性前立腺がん患者さんを対象に、ゾーフィゴの効果が検証されました。その結果、全生存期間の中央値は、ゾーフィゴ群で14.9か月、プラセボ(偽薬)群で11.3か月でした。ゾーフィゴは生存期間を約3.6か月延長させることが示されました。
また、骨転移による痛みや骨折などの症状が発現するまでの期間も延長されることが確認されています。ヨーロッパのガイドラインでは、骨転移を有する去勢抵抗性前立腺がんに対する第一選択薬として推奨されています。
ゾーフィゴの副作用
主な副作用として以下が報告されています。
- 骨髄抑制:貧血(19~30.6%)、血小板減少(7~12.2%)、好中球減少、白血球減少、リンパ球減少などが起こることがあります。定期的な血液検査が必要です。
- 消化器症状:悪心、嘔吐、下痢、食欲減退(5~10%)
- 骨痛:投与後に一時的に骨の痛みが強くなることがありますが、しばらく経つと落ち着きます。
- 疲労
アルファ線は体内で100マイクロメートル(0.1ミリメートル)未満しか進まないため、周辺の正常組織へのダメージは比較的少ないとされています。ゾメタやランマークと比べて、副作用は比較的軽度であることが多いです。
3つの薬剤の比較と使い分け
| 薬剤名 | ゾメタ (ゾレドロン酸) |
ランマーク (デノスマブ) |
ゾーフィゴ (塩化ラジウム223) |
|---|---|---|---|
| 分類 | ビスホスホネート製剤 | 抗RANKL抗体製剤 | 放射性医薬品 |
| 投与方法 | 点滴静注(15分以上) 4週間に1回 |
皮下注射 4週間に1回 |
静脈注射(1分程度) 4週間に1回 最大6回 |
| 主な効果 | 骨関連事象の抑制 痛みの軽減 |
骨関連事象の抑制 痛みの軽減 (ゾメタより効果高い) |
生存期間の延長 骨関連事象の抑制 痛みの軽減 |
| 適応 | 骨転移のある前立腺がん | 骨転移のある前立腺がん | 骨転移のある去勢抵抗性前立腺がん (内臓転移がないこと) |
| 腎機能障害 | 重度の腎機能障害では使用不可 | 使用制限なし | 腎機能への影響少ない |
| 低カルシウム血症 | 3.5% | 5.6~12.8% (ゾメタより高頻度) |
記載なし |
| 顎骨壊死 | まれ | まれ | 報告なし |
治療選択のポイント
どの薬剤を選択するかは、患者さんの状態、がんの進行度、腎機能、これまでの治療歴などを総合的に判断して決定されます。
ゾメタが選ばれるケース
- 骨転移が確認された早期の段階
- 腎機能が比較的良好な患者さん
- 長期間の使用実績があるため安心して使用したい場合
ランマークが選ばれるケース
- 腎機能障害がある患者さん
- 点滴よりも皮下注射が望ましい患者さん
- ゾメタよりも高い効果を期待する場合
ゾーフィゴが選ばれるケース
- 去勢抵抗性前立腺がんで、内臓転移がない患者さん
- 生存期間の延長を目指したい場合
- 他の治療との併用を検討する場合
併用療法と集学的治療の重要性
前立腺がんの骨転移治療では、これらの薬剤を単独で使用するのではなく、がん自体の治療(ホルモン療法、化学療法など)と組み合わせることが重要です。
また、痛みが強い場合には、放射線治療の外部照射、鎮痛薬(非ステロイド性消炎鎮痛薬、オピオイド鎮痛薬など)を併用します。骨折のリスクが高い場合や、すでに骨折が起きている場合には、整形外科的な手術も検討されます。
このように、泌尿器科医、放射線科医、整形外科医、口腔外科医などが連携したチーム医療が行われています。
新しい治療薬の開発状況
2025年9月には、PSMA陽性転移性去勢抵抗性前立腺がんに対する日本初の標的放射性リガンド療法として「プルヴィクト」が承認されました。また、2026年度には国内でのRLT(放射性リガンド療法)製造施設の稼働が予定されており、より多くの患者さんに安定した供給が期待されています。
骨転移治療の分野では、今後も新しい治療法の開発が進められています。骨転移の遺伝子発現に基づいた薬剤の開発も進行中であり、将来的には前立腺がんの骨転移を予防・治療できる可能性があると考えられています。
患者さんが知っておくべき注意点
歯科治療について
ゾメタやランマークを使用する際は、顎骨壊死のリスクがあるため、投与前に歯科検診を受け、必要な治療を済ませておくことが重要です。投与開始後も定期的に歯科受診を続けてください。抜歯などの侵襲的な歯科処置が必要な場合は、主治医と歯科医師に必ず相談してください。
カルシウムとビタミンDの補充
低カルシウム血症を予防するため、カルシウム(1日500~600mg以上)とビタミンD(400IU以上)の補充が必要です。主治医の指示に従って、サプリメントを服用してください。
定期的な検査
血液検査(カルシウム値、腎機能、骨代謝マーカーなど)を定期的に受けることが重要です。副作用の早期発見と適切な対応のために必要です。
骨粗しょう症対策
ホルモン療法を受けている患者さんは、骨密度が低下しやすいため、適度な運動(散歩など)、バランスの良い食事(カルシウム、タンパク質、ビタミンDを含む)を心がけてください。
まとめとして
前立腺がんの骨転移治療には、現在3つの主要な選択肢があります。ゾメタとランマークは骨の破壊を抑えて骨関連事象の発生を遅らせ、ゾーフィゴは生存期間の延長効果も期待できます。
どの薬剤を選択するかは、患者さん一人ひとりの状態によって異なります。主治医とよく相談し、それぞれの薬剤の特徴、効果、副作用を理解した上で、最適な治療を選択しましょう。
骨転移があっても、適切な治療により痛みを軽減し、骨折を予防し、活動的な生活を維持することは可能です。寝たきりにならないことが生存期間を延ばすためにも重要です。
参考文献・出典情報
- 国立がん研究センター がん情報サービス - 前立腺がん 治療
- 慶應義塾大学医学部 - 前立腺がんに多い骨転移の治療
- がん研有明病院 - 前立腺がん
- 順天堂大学医学部附属順天堂医院 泌尿器科 - 前立腺がんの薬物療法
- 東北大学病院 放射線治療科 - 去勢抵抗性前立腺がん骨転移治療薬
- 医薬品医療機器総合機構 - ランマーク皮下注120mg 添付文書
- 医薬品医療機器総合機構 - ゾーフィゴ静注 添付文書
- たねいち泌尿器科クリニック - 骨転移のある前立腺がんの治療(ゾーフィゴ)
- ノバルティス ファーマ - PSMA陽性転移性去勢抵抗性前立腺がんの治療における標的放射性リガンド療法
- 日本乳癌学会 - 乳癌診療ガイドライン2022年版 骨修飾薬

