がん専門のアドバイザー、本村です。
当記事では膵臓がん膵頭十二指腸切除の場合に起きる合併症について解説します。
膵頭部にできた膵臓がんを切除するための「膵頭十二指腸切除術」は複数の臓器を切除するもので、腹部手術の中では最も大きな手術といえます。
このため、からだには大きな負担がかかります。また、切除後にはまったく異なった臓器同士(膵臓と小腸、胆管と小腸)をつなげなければなりません。
主にこの2つの理由により、膵頭十二指腸切除術後には細かいものまで含めると、40~50%ぐらいに何らかの合併症が発生します。特に重要な合併症は次のとおりです。
1.膵・空腸吻合部の縫合不全
切離した膵臓、胆管、十二指腸(あるいは胃)を再建した際に、"つなぎ目"が漏れてしまうことがあります。これを「縫合不全」といいます。
特に膵臓と空腸のつなぎ目は治りが悪い傾向にあり、10~35%程度に膵液や腸液の漏れが生ずることがあります。
膵液には脂肪やたんぱく質を分解する作用があるため、"つなぎ目"の近くの血管壁を障害し、出血の原因となることがあります。こうした事態を予防するために、手術中にドレーンという排管をおなかに入れておき、縫合不全が生じた場合には、漏れた膵液や腸液が体外に排出されるようにしてあります。
また、このドレーンを利用して縫合不全部をベッドサイドで洗浄することもあります。このドレーンが有効であれば、時間はかかるかもしれませんが、膵空腸吻合部の縫合不全あるいは膵瘻はだんだんと治癒していきます。
しかし、ドレーンが有効でなければ(縫合不全部から漏れ出る膵液や腸液が体外にうまく排出されない)、膵液や腸液が原因となって膿瘍(膿のたまり)ができたり、吻合部近くの血管から出血したりする可能性がありますので、再手術によって新たなドレーンを留置したり、CTや超音波検査でみたりしながら、体外から穿刺して膿を出すチューブを留置しなければなりせん。
膵頭十二指腸切除術では、この膵空腸吻合部の縫合不全が起こるか否かで入院期間も大きく異なってきます。
2.胆管空腸吻合部の縫合不全
胆管空腸吻合部の縫合不全が発生した場合は、胆汁が腹腔内に漏れ出てしまいます。胆管空腸吻合部のドレーンが漏出した胆汁をうまく排出できれば、そのまま自然治癒が期待できます。
しかし、ドレーンが効かない部分に漏出した胆汁がたまってしまうと膿瘍になったりしますので、再手術や超音波・CTガイド下によって新たなドレーンを留置しなければなりません。
3.腹腔内膿瘍
膵空腸吻合部や胆管空腸吻合部、そのほかの吻合部の縫合不全などにより、腹腔内の手術部位やその近くに膿瘍ができることがあります。これが腹腔内膿瘍です。
これらの縫合不全がなくとも膿瘍ができることもあります。手術時に留置したドレーンで膿が体外に排出されなければ、再手術や超音波・CTガイド下によって新たなドレーンを留置する必要が出てきます。
4.腹腔内出血
膵頭十二指腸切除術では、リンパ節郭清のために、上腹部の主要な太い血管がむき出しの状態になります。また、太い動脈や静脈の切離断端もむき出しになります。
膵空腸吻合部の縫合不全や、腹腔内膿瘍などが発生すると、これらの血管や血管断端が傷害され、腹腔内出血をきたすことがあります。膵頭十二指腸切除術では、この腹腔内出血が2~8%に発生するとされています。
また、腹腔内出血をきたした場合の致死率は、報告文献により大きく異なりますが、14~60%とされ、生死にかかわる極めて重篤な合併症です。
腹腔内出血が起こった場合は、股の付け根の動脈からカテーテルを挿入し、出血部位まで進め、傷害された血管を塞栓物質で詰める「経動脈的塞栓術」を行います。
5.胃排泄遅延
膵頭十二指腸切除の後には胃の動きの回復が遅れ、胃液や食べ物が長い時間胃の中にとどまったままになることがあります。この状態が胃排泄遅延で、軽いものまで含めると約20%に発生するとされます。
最終的には自然に治癒しますが、胃の動きが回復するまで食事はとれず、胃液を抜くための細いチューブを鼻から胃の中まで挿入し、これを留置しておく必要があります。
以上、膵臓がんの手術についての解説でした。