がんと告知されると、ほとんどの患者さんは頭の中が真っ白になり、その後の医師の話を覚えていないといいます。
告知されたときだけでなく、再発したとき、薬が効かなくなったときなど、そのたびに患者さんは大きな精神的ショックを受けます。
病気に関連したことだけではなく、失職やそれにともなう収入減、家族や子どもの世話ができないつらさなども、精神的な苦痛の原因となります。
そうした精神的苦痛が長引くと、治療意欲が失われるなどして、がん治療に支障が出たり、QOL(生活の質)が低下したりします。世話をする家族の負担も大きくなりますし、入院期間が長引いたりすることも問題です。
さらに精神的ショックが長引くと、うつ病などを発症してしまうこともあり、そうなると精神科的な治療が必要になります。
近年は、こうした「心の痛み」のケアも重視されるようになってきました。がん医療における心の医学を扱う学問領域はサイコオンコロジー(精神腫瘍学)といわれ、1970年代に米国で始まりました。
日本でも86年に日本サイコオンコロジー学会の前身となる組織が創設されました。がん研有明病院にも「腫瘍精神科」があり、原則として担当医の依頼に応じて診療を進めています。ただし、こうした「心の痛み」を診る科がある施設は、全国的に見るとまだ十分とはいえないのが現状です。
まずはま治医に相談を 必要なら専門家の治療を
精神的ショックが大きく、心のケアが必要なときはまず、主治医や看護師に自分の症状を伝えてみましょう。必要に応じて、がんに関連した心のケアを専門とする臨床心理士、心の問題を専門に扱う看護師、医療ソーシャルワーカーなどを紹介してくれるはずです。
相談には、本人、家族とも健康保険が適用されます。臨床心理士や医療ソーシャルワーカーなどに、自分の苦しい気持ちを聞いてもらうだけでも、気持ちが軽くなる患者さんも多いといいます。
ストレスへの具体的な対処法
精神的な苦痛やストレスを少しでも減らすためには、がんと付き合う対処法を自分なりに見つけていくことも大事です。
・正しい情報を集める
情報の不足やあいまいさで不安になることも多いものです。逆に情報が多すぎて何を信じていいか分からないということにも陥りがちです。
・薬を上手に利用
落ち込んだ気分や不安・緊張感が強いとき、それらをやわらげる薬もあります。がんの薬物療法中でも症状に応じて睡眠導入剤や抗不安薬、抗うつ薬を処方してもらえます。医師に相談してみましょう。
不安やうつ症状が解消されることで、治療への意欲が湧いてくることもあります。1度、薬を使いはじめるとやめられなくなるのではと心配する患者さんもいますが、一般的なうつ病の患者さんよりもやめられる率は高いとされます。
家族にも大きな負担 家族へのケアも必要
がんは患者さんの心を苦しめるだけでなく、家族の心にも患者さんと同じくらい、もしくはそれ以上の精神的負担をかけるとされます。がんが「家族の病」といわれるゆえんです。
したがって最近は、家族にも心のケアが必要と考えられるようになってきました。不安が募ってイライラする、眠れない、あるいは1日中気分が落ち込んだ状態が2週間以上続くようなら、家族も心の専門家に相談したほうがよいでしょう。
・家族から患者さんへの接し方
「がんになった家族にどう接していいかわからない」という悩みをもつ人も多いようです。大事なことは、「家族も一緒にがんに向き合っている」という気持ちをもつことです。その姿勢を見せることで、患者さんも安心します。
また、「患者の分も家事や仕事をこなさないといけない」「患者の前では不安な顔をできない」などと、頑張りすぎている家族もいます。そういう場合は1人で悩まず、相談できる相手をもつなどして、自分自身の心のケアにも気を配りましょう。
以上、メンタルケアについての解説でした。