がんの治療にかかる費用は、治療そのものにかかるもの(薬物療法にかかる薬代・手術代・放射線療法代など)のほか、検査料、入院料、食事療養費などがあります。
また、細かいところでは入院中の日用品の費用、勤め先や保険会社に提出する診断書の発行代金、通院治療での交通費などがあります。
これらは、治療が長引くとかなりの負担になります。しかも、治療のために仕事を休んだり辞めたりすることで、収入が減ったり、途絶えたりすることも十分に考えられます。
そのため公的な制度やサービスをしっかり利用して、負担を軽減させていくことが大切です。
がんの治療にかかる費用の内訳
・保険診療分
初診料/再診料、入院料、検査料、投薬注射料、手術料など
・保険外診療分
文書料(診断書等)、差額ベッド代、先進医療に関わる治療代など
・その他
通院費、食事代、洋服代、お見舞いのお返しなど
「高額療養費制度」とは
公的制度の代表的なものの1つが「高額療養費制度」です。これは、同じ月に支払った治療費などの自己負担額が一定の基準額を超えたときに、その一部が超過分として払い戻される制度です。対象者は被保険者(保険料を支払っている人)とその扶養家族です。
基準額には自由診療で治療をしたときの医療費や、保険診療での入院料や食事代、差額ベッド代などは含みません。
基準額は被保険者の収入で異なります。70歳未満で一般(月収53万円未満)の場合は、8万100円、月収53万円以上の上位所得者は15万円、住民税非課税世帯である低所得者は3万5400円となります。
支払った自己負担額が基準額に達していなくても、同じ月に同じ世帯で2万1000円以上の医療費を2カ所以上の医療機関や診療科に支払った場合は、合算して申請することができます。
1人で複数の医療機関にかかった場合も同様です。また、同一世帯で1年間に4回以上の支給を受けている場合は、4回目から基準額が下がります。
「高額療養費貸付制度」とは
高額療養費制度のほかに、無利子で給付金の8割から9割程度の貸し付けが受けられる「高額療養費貸付制度」や、国民健康保険にははじめから払い戻しを見越して、医療機関の窓口で自己負担限度額だけを支払えばすむ「高額療養費受領委任払い制度」もあります。
ただし、医療機関によってはこの制度を利用できないこともあるので、事前に受診中の医療機関に問い合わせましょう。
入院に加え通院も現物給付化
高額療養費ははじめに医療費を払っておいて、あとから領収書を提出して申請するのが通常ですが、申請してから実際に支払われるまでには通常2~3カ月かかります。
そこで2007年度以降、70歳末満でもあらかじめ申請しておけば窓口負担を自己負担限度額にとどめることが可能になりました。これを「高額療養費の現物給付化」といいます。
これまで現物給付は入院に関わる費用に限られていましたが、12年4月からは通院治療についても適用されるようになりました。
申請は、加入している健康保険の窓口(国民健康保険は各市区町村役所、職場加入は各健保組合事務所)ででき、事前に「限度額適用認定証」を受けておきます。
70歳以上の場合は、医療機関の窓口で「保険証」と、保険組合(健康保険組合、共済組合など)から交付される「高齢受給者証」を見せれば、自己負担限度額を超える分を窓口で支払う必要はなくなります。
その他の制度
(1)応急小口資金貸付や一部負担金の減額・免除の制度
病気の治療のため、すぐに現金が必要なときに利用できるのが、自治体の「応急小口資金貸付」「医療費の一部負担金の減額・免除(国民健康保険の加入者の場合)」制度です。限度額や返済の仕方は自治体によって異なりますので、市区町村の役所で確認するとよいでしょう。
(2)生活福祉資金
所得の低い世帯、障害者や65歳以上の高齢者のいる世帯なら、病気治療のための資金を、上限170万円を目安に無利子で借りることができます(連帯保証人が必要。いない場合の利子は年1.5%・療養期間が1年を超えない場合の額)。各自治体の社会福祉協議会が窓口になっています。
(3)年金担保融資
厚生年金や国民年金、労働者災害補償保険の年金などを受け取っている人なら、「受給している年金の年額の範囲内」「10万円から250万円の範囲」「1回の返済額の15倍以内」の条件で、まとまった金額を借りることができます。問い合わせ窓口は「独立行政法人福祉医療機構」になります。
(4)傷病手当金
国民健康保険以外の被保険者なら、同一の疾病で療養のために連続3日以上欠勤した場合、4日目以降1年6カ月まで、日当の3分の2を傷病手当金として受け取ることができます。職場の総務などにある「傷病手当金申請書」に会社の証明と医師の意見(就労できない証明)を記入し、社会保険事務所か健康保険組合に提出します。
(5)医療費控除
1年間の医療費が10万円(1世帯あたり)を超える場合は、確定申告をすると所得からの医療費控除(所得税や住民税が差し引かれるなど)が受けられます。ただし、領収書やレシートなどが必要です。また、対象は民間医療保険や高額療養費制度などで補てんされた額を引いた金額になります。
以上、がんの治療費用についての解説でした。