まず、大腸がんの治療としては、「内視鏡治療(手術)」「(開腹)手術」「化学療法」が行われていますが、早期がんであれば基本的に内視鏡治療が選択されます。
大腸がんのステージ(病期)は0期~Ⅳ期です。ただし、Ⅲ期がaとbに分かれているために6段階に分類されています。分類はがんの進達度などから決められます。
大腸の壁は内側から「粘膜」「粘膜下層」「固有筋層」「漿膜下層」「漿膜」の5層になっており、内視鏡治療の適応となるのは「ステージ0期」と「ステージⅠ期」です。(ただし、ステージⅠ期は適応しない場合もある)
内視鏡治療の適応と診断がつくと、次は大腸がんの形状、大きさなどが関係してきます。形状としてはがん化した「ポリープ型」と「陥凹型」があります。
ポリープ型は粘膜面に盛りあがった病変で、キノコのように茎のあるタイプやイボのように盛りあがったタイプなどがあります。一方、陥凹型がんは文字通り凹んだタイプであり、陥凹型がんの方がポリープ型よりも転移に向かうスピードは速いです。
これらを総合的に判断して内視鏡治療の方法を決定することになります。
まとめると、大腸がんの内視鏡治療と判断されるのは、大腸壁の最も内側の粘膜内に留まっている「ステージ(病期)0期」。そして、大腸壁の内側から2層目の粘膜下層に留まっている「ステージⅠ期」のより浅い部分にがんが留まっているケースです。
内視鏡治療の種類
内視鏡治療は現在「ポリペクトミー(内視鏡的ポリープ切除術)」「内視鏡的粘膜切除術(EMR)」「内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)」が行われています。
3つの方法がありますが、がんの形状、大きさによってより適した治療法が選択されます。
まず、ポリペクトミー肛門から内視鏡を挿入し、先端からループ状のワイヤを出してポリープにかけ、ギュッとワイヤを閉めて高周波電流を流して焼き切る方法です。
いっぽう、イボのように盛りあがったタイプのがんや、凹んだタイプの陥凹型がんに対してはEMRが行われます。EMRもポリペクトミーと同じように内視鏡を肛門から挿入します。ただ、そのままではがん部分をワイヤで引っかけることができません。そこで、がんの下に止血剤の入った薬液を内視鏡の先端から針を出して注入し、盛りあがらせます。あとはポリペクトミーと同じ治療です。
ただ、EMRの適応範囲は大きさが2センチ未満と決められています。物理的に2センチまでがEMRで一括切除できる大きさだからです。それ以上になると、2回、3回と分割切除となってしまいますので、病理検査でがんがすべて取り切れたのか診断が難しくなったり、再発のリスクが高くなったりします。
そこで「2センチを超える腫瘍を内視鏡で切り取る」ことを目指してESDが開発されました。ESDはリンパ節への転移のリスクさえなければ、直径が5センチでも、10センチでも15センチでも術者に技量さえあれば一括して切除ができます。これを可能にしたのがESDで使用される何種類かのナイフです。
「フレックスナイフ」、「デュアルナイフ」といわれる特殊なナイフで、これらのナイフを使ってがん部分を剥離するのがESDという治療法の特徴です。
近年、最も注目されているのがこの「内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)」です。2012年4月、先進医療から健康保険の適用となりました。その治療は大腸がん以前に、胃がんでは2006年春、食道がんでは08年春から健康保険適用となっています。
早期胃がんのESDは、口から内視鏡を胃に挿入し、がん病巣の周囲に高周波ナイフでマーキングをします。その後、がん病巣の下に止血薬を配合した薬液を注入し。高周波ナイフでマークングの外側を切開した後、病変部を剥離していく方法です。
同じESDであっても胃がんと大腸がんではやり方が多少異なります。大腸がんのケースでは胃がんのようなマーキングを必要としません。早期の大腸がんの病巣下に止血薬を配合した薬液を注入するのは同じですが、同時に青色色素も加えます。
胃がんでは薬液を注入するとがん部分と正常部分が分かりにくくなってしまうので、マーキングが必要ですが、大腸がん部分は厚みがあり、正常部分はかなり薄く、そこに青色色素が入っているので正常部分が青く認識できるためです。
青く透けた正常部分とがん部分のはざまを剥離します。あまりにがん部分に近づきすぎると、病理診断でがんが十分に取り切れているか、その評価が難しいからです。より正確に組織を診断するためには、正常な部分にナイフを入れるのがポイントです。
このように内視鏡治療で大腸がんの治療を終えられるのと、腹腔鏡手術や開腹手術になるのとでは、体に与えるダメージはかなり違いがあります。ただし、胃のESDとは違い、大腸の壁はうすく、さらに折れ曲がった腸管なので、ESDの操作は難しく、かなり高度な技量が要求されます。
以上、大腸がんの内視鏡手術についての解説でした。