卵巣がんにかかる人は、この50年で8倍以上になりました。現在は毎年、約8000人あまりが新たに卵巣がんと診断されています。婦人科がんのなかでは最も抗がん剤が効くがんといわれており、手術と薬物療法を組み合わせた治療が基本です。
手術+化学療法が主体 ドキシルが発売中断
卵巣がんは他のがんと比べて抗がん剤が効きやすい特徴があるため、手術に術後化学療法(手術後に薬を使う治療法)を組み合わせる方法が一般的に行われています。
新薬については、ゲムシタビンやノギテカン(海外ではトポテカンの名称)などが健康保険の適応拡大となったいっぽうで、2009年に承認されたドキソルビシンの改良版であるリポソーマルドキソルビシンが、現在は製造が行われておらず、発売が中断されています。
できる限り手術を行う+術後化学療法が一般的
卵巣がんは子宮頸がんや子宮体がんなど、ほかの婦人科がんと違い、手術により組織を採取し、がんの診断を行い、進行度や悪性度を決定します。卵巣がんの場合、手術は治療方法を決定するための検査の要素も含みます。
手術は、両側の卵巣・卵管と子宮、大網(胃から垂れ下がっている脂肪組織で卵巣がんが転移しやすい)をまとめて切除する「基本術式」が行われるのが一般的です。肉眼的に腹腔内に腫瘍が残っていない場合は、リンパ節転移を確認するために、大動脈の周辺から骨盤にいたる所属リンパ節を切除するのが標準です。
腫瘍がまわりの臓器に広がっていても、可能な限り腫瘍のある場所を切除します。これを「腫瘍減量術」といいます。このほうが、手術後の成績がよいことが分かっているからです。ただし、この腫瘍減量術はおなかの中の臓器や組織を大きく切除するので、患者さんの体への負担が重くなります。
腫瘍ががんだった場合、手術からの回復が遅いと、それだけ術後化学療法のタイミングが遅れてしまうので、腫瘍の大きさと全身状態などを相対的にみて、治療していくことになります。
薬物療法は、手術後に判明した進行度や悪性度(グレード)から実施するかどうかを決めていきます。Ⅰa期やⅠb期で、かつ分化度がグレード1の悪性度が低いがんであれば手術だけですみ、あとは経過観察となります。
Ⅰc期~Ⅲ期、あるいはⅠa期でもグレードが2、3の明細胞腺がんでは、手術の後に化学療法が行われます。
Ⅳ期でも、できる限りがんを切除しますが、事前の画像診断などで手術が困難だと想定されるときは、手術前に化学療法(卵巣がんの場合は、「NAC」という)を行います。これで腫瘍が小さくなれば、手術をすることが可能になります。他の臓器への癒着(組織同士がくっつくこと)が軽くなり、手術がしやすくなることもあります。
再発が見つかった場合も、可能であれば手術でがんを取り除きます。これを「二次腫瘍減量術」といいます。
卵巣がんの病期と標準治療
・Ⅰ期
がんが卵巣だけにとどまっている
Ⅰa期
がんが発生した片方の卵巣にとどまっている
標準治療:手術(場合によっては術後化学療法)
Ⅰb期
がんがもう片方の卵巣にも広がっている
標準治療:手術(場合によっては術後化学療法)
Ⅰc期
がんが卵巣の被膜を破っていたり、腹水中にがん細胞が認められる
標準治療:手術+術後化学療法
・Ⅱ期
がんが子宮や卵管など骨盤内臓器に広がっている
標準治療:手術+術後化学療法
・Ⅲ期
がんが腹腔内やリンパ節に転移している
標準治療:手術+術後化学療法
・Ⅳ期
がんが遠隔転移しているか、胸水中にがん細胞が認められる
標準治療:手術+術後化学療法、手術不能例には化学療法(場合によっては術前化学療法)
以上、卵巣がんの治療法についての解説でした。