
膀胱がんの尿路変向手術について
こんにちは。がん治療専門アドバイザー、本村ユウジです。
膀胱がんで筋層浸潤がんと診断された場合、膀胱全摘除術が標準治療となります。膀胱を摘出すると尿を貯める機能が失われるため、尿を体外に排出する新しい経路を作る手術が必要になります。これを尿路変向手術(尿路変更術)といいます。
尿路変向手術にはいくつかの方法があり、それぞれに特徴があります。手術後は変更した尿路を生涯使用することになるため、がんの位置や全身の状態、生活状況などを考慮して慎重に選択する必要があります。
この記事では、膀胱がんの尿路変向手術について、手術方法の種類、それぞれのメリットとデメリット、入院期間、治療費用について詳しく解説します。
尿路変向手術が必要になる理由
筋層浸潤膀胱がんに対しては膀胱全摘除術を行うのが標準的な治療です。膀胱全摘除術では、男性の場合は膀胱、前立腺、精嚢、尿管の一部と骨盤内のリンパ節を摘出します。女性の場合は、膀胱、子宮、腟の一部、尿管の一部、尿道を摘出し、骨盤内のリンパ節を摘出します。
膀胱を失うことで尿を一時的に貯めておく機能がなくなるため、腎臓で作られた尿を体外に排出する新しい経路を作らなければなりません。この手術が尿路変向手術です。
現在、国内で最も多く行われているのは回腸導管造設術です。尿路変向手術は大きく分けて、非禁制型(尿失禁型)と禁制型の2つに分類されます。
尿路変向手術の主な種類と特徴
尿路変向手術には主に3つの方法があります。それぞれの特徴を理解したうえで、医師と相談しながら自分に適した方法を選択することが重要です。
1. 尿管皮膚瘻(にょうかんひふろう)
尿管皮膚瘻は、尿管の断端をそのまま腹部の表面へ通し、ストーマ(人工的な排泄口)を作成して尿を体外に排出する方法です。ストーマにはパウチと呼ばれる集尿袋を装着し、採尿することになります。
この方法には二連銃式、交差式、両側式などがあり、ストーマの作成法も複数の方法があります。最近では内視鏡を使って行われることが多く、体へのダメージが少なくなっています。
尿管皮膚瘻のメリット
尿管皮膚瘻は手術内容が比較的単純であるため、手術時間が短く、患者さんの体への負担が最も少ない方法です。そのため、以下のような患者さんに選択されることが多いです。
・高齢の患者さん
・心機能低下などの重度の合併症がある患者さん
・腹部手術や放射線治療の既往がある患者さん
・腎臓の1つが機能していない患者さん
・腸管に疾患があるなど腸管が利用できない患者さん
尿管皮膚瘻のデメリット
体の表面にストーマが作成されるため、外観上の変化は避けられません。また、尿管を直接腹壁に吻合するため、腎盂腎炎などの細菌感染を引き起こしやすいという欠点があります。
さらに、尿管狭窄などにより、尿管ステントと呼ばれる人工の管を留置せざるをえない症例も少なくありません。その場合は定期的な交換が必要となります。
2. 回腸導管(かいちょうどうかん)
回腸導管は、小腸の一部(回腸)を切り離して尿の通り道として使用する方法です。回腸の15〜20cm程度を遊離し、そこに尿管をつなぎます。反対側をお腹の表面へ通してストーマを作成し、腸の蠕動運動を利用して尿を体外へ排出します。
この方法は1950年から行われており、歴史があり治療成績も比較的安定しているため、現在最も多くの症例で行われています。
回腸導管のメリット
回腸導管は適応範囲が広く、膀胱全摘が可能なほぼすべての患者さんで選択できる術式です。回腸はストーマの作成が容易で、尿管皮膚瘻と異なり目標がはっきりしているため、パウチも取り付けやすいという利点があります。
また、尿管狭窄がほとんど起こらないため、カテーテルを長期に留置することはほとんどありません。手術手技も確立されており、多くの医療機関で実施可能です。
回腸導管のデメリット
尿管皮膚瘻と同様、ストーマを作成するため外観上の変化があります。腎盂腎炎などの細菌感染を引き起こしやすい点も同じです。また、尿が常に流れている状態であるため、尿の匂いが取れにくいという欠点があります。
腸管を利用した手術であるため、手術操作がやや難しく、手術のダメージもやや大きいといえます。合併症は重篤なものは少ないものの、その発生頻度は決して低くありません。晩期合併症も多岐にわたるため、長期の経過観察が必要です。
3. 腸管利用新膀胱(自排尿型新膀胱造設術)
腸管利用新膀胱は、腸管を使って袋状の新しい膀胱を作成し、本来の尿道に吻合する方法です。結腸が利用されることもありますが、多くは回腸を利用して作成されます。
新膀胱造設術のメリット
新膀胱造設術の最大のメリットは、ほぼ正常に近い排尿が得られることです。お腹にストーマを作る必要がないため、外観上の変化を避けることができます。尿道から排尿できるため、トイレでの排尿が可能です。
また、残存尿道のがんの再発率は5%以下であり、ほかの尿路変向術に比べて少ないとされています。そのため、尿道再発のリスク軽減の可能性が示唆されています。
新膀胱造設術のデメリットと注意点
新膀胱自体には収縮力がないため、尿意がなくなります。排尿時は腹圧をかけて尿を出す必要があり、術後の排尿訓練が必要です。時間を決めて定期的に排尿する生活習慣が求められます。
尿禁制については、昼間は良好で90%以上の禁制が得られるものの、夜間では尿失禁の割合が増加します。特に手術直後は尿失禁が起こりやすく、夜間に起きて排尿するなど、こまめな排尿が必要です。
また、長期経過では排尿困難も出現することがあります。男性では約10%、女性ではそれ以上の症例で、尿閉または残尿多量のため、自己導尿を併用せざるをえなくなります。
新膀胱造設術の適応条件
以下の条件を満たす必要があります。
・尿道に疾患や再発のリスクがないこと
・男性では前立腺部尿道にがんがないこと
・女性では膀胱頸部にがんがないこと
・腎機能が保たれていること
・排尿方法について正しい理解があること
尿道再発のリスクが高い場合や、腎機能が低下している患者さんでは慎重に選択しなければなりません。
尿路変向手術の選択基準
| 手術方法 | 手術の複雑さ | 体への負担 | 適応範囲 | ストーマ | 排尿方法 |
|---|---|---|---|---|---|
| 尿管皮膚瘻 | 最も単純 | 最も少ない | 限定的 | あり | パウチ装着 |
| 回腸導管 | 中程度 | 中程度 | 最も広い | あり | パウチ装着 |
| 新膀胱造設 | 最も複雑 | 最も大きい | 条件あり | なし | 尿道から自排尿 |
入院期間について
膀胱全摘除術と尿路変向手術の入院期間は、手術方法や患者さんの回復状況によって異なります。
ロボット支援下膀胱全摘除術の場合
2018年4月から保険診療として認可されたロボット支援下膀胱全摘除術(RARC)では、開腹手術に比べて出血量が少なく、傷の痛みも少ないため、回復が早い傾向にあります。
入院期間の目安は以下のとおりです。
・ロボット支援手術:約11日〜2週間程度
・回腸導管造設の場合:3週間程度
・新膀胱造設の場合:4週間程度
手術翌日から歩行が可能で、術後2〜3日目から食事を再開します。術後経過が順調であれば、2週間以降で全身状態に問題がなければ退院できます。
開腹手術の場合
従来の開腹手術では、ロボット支援手術に比べてやや入院期間が長くなる傾向があります。手術後の回復には個人差があり、腸管の動きによって食事開始時期も変動します。
治療費用について
膀胱がんの手術費用は、術式により大きく異なります。
手術費用の目安(3割負担の場合)
・経尿道的膀胱腫瘍切除術(TUR-BT):約15万円前後
・ロボット支援下膀胱全摘除術:約45万円
・尿路変向術をともなう開腹膀胱全摘術:約80万円
これらは医療費のみの金額で、食事代や個室代などの自費分は含まれていません。実際の支払額は、高額療養費制度を利用することで大幅に軽減できます。
高額療養費制度の活用
膀胱がんの治療では高額な医療費が発生しますが、高額療養費制度を利用することで自己負担を軽減できます。
高額療養費制度とは
高額療養費制度は、医療費の自己負担額が一定額(自己負担限度額)を超えた場合に、超えた金額が払い戻される制度です。公的医療保険に加入している方なら、どなたでも利用できます。
自己負担限度額は、年齢(70歳以上か未満か)や所得によって異なります。また、直近12ヵ月間に3回以上高額療養費が支給されている場合は、4回目から多数回該当が適用され、自己負担限度額がさらに引き下げられます。
限度額適用認定証の活用
高額な入院治療を行うことが事前にわかっている場合は、「限度額適用認定証」を入手しておくことをお勧めします。医療機関にこの認定証を提示すると、窓口での支払いを自己負担限度額までに抑えることができ、一時的に高額な医療費を立て替える必要がなくなります。
2026年8月からの制度変更について
2026年8月から高額療養費制度の見直しが予定されています。主な変更点は以下のとおりです。
・各所得区分の自己負担限度額が引き上げられる
・所得区分が細分化される(2027年8月にさらに細分化)
・新たに年間上限額が設けられる
低所得者への配慮として、住民税非課税世帯の引き上げ率は抑えられ、年収200万円未満の多数回該当の負担上限は引き下げられる予定です。
尿路変向術後の生活について
ストーマを造設した場合
回腸導管や尿管皮膚瘻を選択した場合、お腹にストーマ(人工的な排泄口)ができます。ストーマには常時パウチ(採尿袋)を装着します。
現代のストーマ装具には防臭加工が施されているため、トイレで尿を捨てるとき以外は臭うことはほとんどありません。ケアの方法を身につければ、外出や入浴などの日常生活も支障なく行えます。
公共施設やショッピングセンターなどでは、オストメイト(ストーマを持っている人)対応のトイレの設置が進んでいます。ストーマのケアに不安がある場合は、訪問看護などのサポートを受けることもできます。
新膀胱を造設した場合
新膀胱を造設した場合、尿道から排尿できるため、外観上の変化はありません。ただし、尿意がないため、時間を決めて定期的に排尿する習慣が必要です。
昼間は90%以上の確率で尿失禁を防げますが、夜間は尿失禁のリスクが高まります。就寝後1〜2回排尿することで、夜間の尿禁制を保つことができます。
合併症と長期経過観察
尿路変向手術後は、以下のような合併症に注意が必要です。
回腸導管・尿管皮膚瘻の場合
・尿路感染症(腎盂腎炎)
・尿管狭窄
・ストーマの周囲の皮膚トラブル
・腸閉塞
新膀胱の場合
・水腎症
・高クロール性代謝性アシドーシス
・膀胱結石形成
・尿失禁
・排尿困難
重篤な合併症は少ないものの、長期的な経過観察が必要です。定期的に医療機関を受診し、血液検査、CT検査、尿細胞診、超音波検査などを受けることが重要です。
手術方法の選択において大切なこと
尿路変向手術の結果は、生涯付き合っていかなければならない尿の排泄方法です。外観上のイメージではストーマを作らない新膀胱に利点がありますが、尿失禁や尿閉など排尿コントロールがうまくいかないことにより、かえって生活の質が下がるという報告もあります。
患者さんにとっては、自分が受けた尿路変向術がすべてになります。選択においては以下の点を考慮することが重要です。
・がんの位置と進行度
・全身状態と合併症の有無
・年齢と予想される余命
・本人の希望と価値観
・家族のサポート体制
・術後の生活スタイル
医師から十分なインフォームド・コンセント(情報の開示と説明)を受け、その後の生活をイメージしたうえで、慎重に選択することが大切です。
まとめ
膀胱がんで膀胱全摘除術を受ける場合、尿路変向手術は避けて通れない選択です。尿管皮膚瘻、回腸導管、新膀胱造設術という主な3つの方法があり、それぞれにメリットとデメリットがあります。
手術方法の選択は、医学的な適応条件だけでなく、患者さん自身の価値観や生活スタイルも重要な要素となります。医師とよく相談し、自分にとって最適な方法を選択してください。
また、治療費用については高額療養費制度を活用することで、経済的な負担を軽減できます。2026年8月から制度の一部が変更される予定ですので、最新の情報を確認しながら、計画的に治療を進めましょう。

