HER2が陽性のタイプの乳がんでは、これまで(2012年頃まで)ハーセプチン(トラスツズマブ)が中心的な役割を果たしてきました。
再発したり、進行して手術だけでは対処できないHER2陽性乳がんの場合、まず最初に使われる薬がハーセプチンであり、その次の選択肢となるのがタイケルブ(ラパチニブ)でした。
ハーセプチンとタイケルブは双方ともHER2陽性タイプに効果を示す「分子標的薬」であり、単独での使用ではなく抗がん剤との併用で治療が行われてきましたが、2013年にパージェタ(ペルツズマブ)、2014年にカドサイラが承認されたことで、選択肢が広がってきたというのが現状です。
パージェタとは?
パージェタはハーセプチンと同じ、がん細胞の増殖を助長する「HER2」の働きを阻害することで乳がんの進行を止めようとする薬です。ハーセプチンと同じような作用をしますが、厳密にはHER2の異なる部分を阻害する作用があります。つまり仕組みは同じですが、ブロックする場所は異なるということです。
そのためパージェタとハーセプチンの2つを併用することで、より強力にHER2の働きを阻害し、がんの進行を食い止めることができると考えられており、実際にそのような効果が確認されています。
パージェタ承認前の臨床試験では、
・パージェタ+ハーセプチン+タキソテール(抗がん剤)
と
・にせ薬(プラセボ)+ハーセプチン+タキソテール
のどちらが効果があるか調べる試験が行われました。
その結果、明らかにパージェタを用いたグループに腫瘍抑制効果があることが分かり、承認に至りました。
つまり、従来の標準的な方法だった「ハーセプチン+タキソテール」よりも、これにパージェタを加えた「パージェタ+ハーセプチン+タキソテール」ほうががん抑制効果が優れていると判断された、ということです。
もちろん、薬が加わると副作用も増えることになります。パージェタを加えることで下痢と発疹などの副作用の頻度が増しましたが、いずれも重篤ではなく治療を中止するレベルには至らなかったと報告されています。
カドサイラとは
いっぽう、カドサイラは完全な新薬というわけではなく「ハーセプチン」に抗がん剤を組み合わせた薬です。詳しい解説はこちらの記事でまとめています。
パージェタとカドサイラはどのように使われるのか
日本ではこれらの新薬をふまえたガイドラインは整備されている段階ですが、アメリカではすでにガイドラインが発表されており、日本でもこれを踏襲した内容で使われています。
従来と比べてどのように変わったのかというと、以下の表のようになっています。
一次治療 | 二次治療 | 三次治療 | |
2012年まで | ハーセプチン + タキサン系抗がん剤 |
ハーセプチン + 他の抗がん剤 |
ハーセプチン + 他の抗がん剤 あるいはタイケルブ、ゼロータ |
2013年以降 | パージェタ + ハーセプチン + タキサン系抗がん剤 |
カドサイラ単独 | ハーセプチン + 他の抗がん剤 あるいはタイケルブ、ゼロータ |
現在、さまざまな臨床試験(治験)が進められているため、この数年間でHER2陽性の乳がんの化学療法は細かな変化を続けていく可能性があります。
例えば最近では、これまで試されていなかった「パージェタ+カドサイラ併用」の場合の効果を確認するための試験が行われています。パージェタとカドザイラの併用は使う薬の数が少なく、効果が重複することがないので副作用の面で従来の方法よりもよい結果がでる可能性があります。
今後もHER2陽性の乳がんの化学療法は新たな組み合わせが用いられることが予想されます。
以上、乳がんで使われる分子標的薬についての解説でした。