実際の肝臓移植手術では、まず被移植者(患者)に全身麻酔を行い、肝臓を摘出します。ただし、開腹後に肝臓以外にがんの転移が見つかった場合は、そこで手術は中止されます。
生体肝移植
脳死肝移植の場合は、肝臓全体を移植することも考えられます。しかし、国内で一般に行われている生体肝移植の場合、提供者の手術後の回復力を考えると、肝臓を大量に切除することはできません。
そこで、肝臓の右葉または左葉の一部を切除し、その部分を提供してもらうことになります(生体部分肝移植)。成人どうしの生体肝移植では、切除の範囲はおおむね次の4つの選択肢から選ばれます。
1.中肝静脈を含む左葉
2.左尾状葉まで含む左葉
3.右肝静脈を含まない右葉
4.右肝静脈を含む右葉
肝臓は一般に左葉が小さいため、従来は、提供者の左葉を切除することが一般的でした。右葉を切除すると、提供者の身体的負担がそれだけ大きくなるとみられたためです。
しかし、移植経験が増え、移植の安全性が向上した現在では、むしろ右葉を移植に用いることが多くなっています。これによって被移植者は、より大きな肝臓を受けとり、早く回復できる可能性が高くなります。
脳死肝移植
脳死肝移植では通常、被移植者(レシピエント)の肝臓全体を摘出し、そこに、臓器提供者(ドナー)の肝臓全体を移植します。
しかし近年、ドナーが深刻に不足しているという背景があるため、1人のドナーの肝臓を左葉と右葉に分割し、2人の被移植者に移植する方法も考えられ、実施している施設もあります。
肝臓の移植手術には通常10~10数時間かかり、あらゆる臓器移植の中でももっとも難しいとされています。肝臓に新鮮な血液を送り込む肝動脈、腸を通過した血液を肝臓に送り込む門脈、肝臓から血液を送り出す肝静脈、さらに胆汁を通す胆管のすべてを縫い合わせて結合(吻合)しなければならないためです。
また、移植後は肝臓の機能が大きく低下するため、あまり強力な麻酔を使用することができません。そのため、手術後は10日間ほど、かなり強い痛みを感じることがあります。
・移植後の合併症
吻合した肝動脈や門脈などが血栓症を引き起こし、肝動脈閉塞などが生じることがあります。その場合は、血栓を取り除くために再手術を行います。
また、肝管狭窄や胆汁もれが生じたときは、ドレナージで胆汁を排出、もしくは再手術を行います。
手術後の拒絶反応のコントロール(免疫抑制)
あらゆる臓器移植に共通する問題として、移植後の拒絶反応のコントロールがあります。移植された臓器は、たとえ親から子どもへの移植でも、組織適合性抗原(HLA)の型が完全に一致するということはありません。
そのため、まだ免疫系が完全にでき上がっていない幼児ならともかく、成人間の移植では、必ず免疫系が反応します。つまり、被移植者の免疫系が、移植された肝臓を"異物"と受け止めて、それを攻撃するのです。臓器移植では「拒絶反応」といいます。そのため被移植者は、手術後ずっと、拒絶反応を抑えるために免疫抑制剤を使用し続ける必要があります。
肝臓移植に対する特別の免疫抑制剤というものはありません。腎臓移植などの他の臓器移植の後に使用される薬と、基本的には同じものを使用します。
以上、肝臓がんと肝移植についての解説でした。