まず、放射線治療の最大のメリットは、手術にくらべて身体的な負担が少ないことです。
そのため、からだの弱い人や高齢者にも使うことができます。しかも多くの早期がんで、治療効果は手術と同程度だとされています。また、手術できない進行がんに対しても放射線治療を行うことができます。
それに組織や臓器を摘出するわけではありませんので、治療前と同等か、それ以上のQOLの維持を期待できます。さらに放射線治療では、基本的に入院の必要はありませんし、治療費の安さも、無視できないメリットとなっています。
放射線でも高度な機器になれば、治療費もそれなりに高くなりますが、ふつうの放射線なら手術費の3分の1程度の費用ですむのが一般的です。今日では放射線治療は、非常に多くのがん医療の領域で使われるようになりました。
さらに現在では抗がん剤と併用する「化学放射線療法」という分野の研究と医療現場での実施が進んでいます。化学放射線療法の目的は、放射線と抗がん剤の効力をあわせて「相乗効果」をあげることと、どちらかでがんを小さくしておいて、さらに追いうちをかけることにあります。
つまり、放射線と化学療法を併用する方法には
(1)化学療法を先行するケース(導入化学療法)、
(2)放射線を先行するケース(補助化学療法)、
(3)同時に併用するケース、
(4)交互に使用するケースがあります。
両方の治療法を併用すれば、そのぶん副作用も強くなる可能性があります。しかし少なくとも治療効果が手術とおなじなら、問題はメリットとデメリットを比較してみることにあります。
手術負担が大きい食道がんに対する化学放射線療法
たとえば食道がんの手術では、QOLが大きく低下することが知られています。のど、腹部、背中を大きく切り開き、食道を切りとったあとに胃を引っぱりあげて、食道と胃をつなぐ手術になるからです。さらに頸部から腹部までのリンパ節を切除しますので、手術には8時間もかかり、出血量も多くなります。
このような大手術ですから、あとの生活に大きな支障が生じざるをえなません。くわえて再発率も低くはありません。化学療法でがんを小さくしてから手術を受ける方法もありますが、QOLの低下を避けることはできません。
このようなケースにおいて手術を避け、放射線と抗がん剤で対処することが増加しています。
その他のがん
鼻、口、舌、咽頭、喉頭などの頭頸部のがんでも、おなじことがいえます。これらの部分の手術を受けると、顔つきが大きく変わったり、声がでなくなったりします。手術箇所のもとのかたちや働きを回復しようとする「再建手術」がおこなわれますが、もとどおりにするのは困難です。
頭頸部のがんには放射線が効果をあげやすく、咽頭がんや喉頭がんでは、進行度によって化学放射線療法が重要な選択肢になります。化学放射線療法では、一般に「5-FU」と「シスプラチン」という抗がん剤が使われます。
頭頸部のがんでは、これに「ドセタキセル」を併用すると効果があがるといわれます。すい臓がんの治療にも化学放射線療法が使われており、ここでは手術中にX線をあてる「術中照射」にくわえて、抗がん剤の「ジェムザール」を使う方法がとられます。放射線の使い方はさまざまで、ほかに肺がん、子宮頸がんにも使われます。
以上、化学放射線治療についての解説でした。