がん治療で行われる通常の放射線治療は、患者の体外から放射線を照射します。
そのため、がんのまわりの正常な組織にも、放射線が照射されてしまいます。いっぽうで、手術中に身体の中に直接放射線を当てる方法が「術中照射」または「開創照射」と呼ばれるものです。
術中照射は、日本で独自に胃がんに対して行ったものが世界初であり、その後世界的に広がりました。現在は、腹部の膵臓がんや直腸がん、膀胱がんなどの治療に用いられています。この照射では一般に、リニアックなどで加速された電子を、X線などに変換せず、そのまま照射します。
術中照射の目的
これは、X線とは違って、電子は体内の限られた深さまでしか到達しないため、それ以上深部にある正常な組織を傷つけることがほとんどないからです。術中照射には、手術を行っている最中にがん病巣部に照射する場合と、がんを切除した後に取り残した可能性のあるがん細胞に対して照射する場合があります。
いずれの場合も、手術をしながらがんとそうでない部分を見極め、がん細胞やがん病巣が残っている可能性のある部分にのみ照射することができます。また、患者の腹壁なども手術具によっていったん除けられているため、その部分も照射を免れます。
ただし、この放射線治療は手術時に行うため、照射の機会は1回に限られます。そこで術中照射では、通常の放射線治療で1回に照射される放射線の量の数倍~10倍(15~20グレイ)という大量の線量を与えます。
なお、術中照射ではふつう、手術中に患者を手術室から放射線照射室まで移送する必要があります。そこで最近、一部の施設では、手術室内に電子線をつくり出す専用のリニアックを設置するようになりました。また現在では、手術室内を移動できる電子加速器も実用化されています。
以上、放射線治療についての解説でした