
はじめに
こんにちは。がん治療専門アドバイザー、本村ユウジです。
抗がん剤治療を受ける際、多くの患者さんが「この薬は本当に自分に効くのだろうか」という不安を抱えています。
抗がん剤の効果には個人差があり、ある患者さんには著しく効果を示す薬剤が、別の患者さんにはほとんど効かないということは珍しくありません。
効果が得られない抗がん剤を投与された場合、副作用によるダメージだけを受けることになり、患者さんの体力や生活の質(QOL)に影響を及ぼします。
抗がん剤感受性試験とは、患者さんのがん細胞を用いて、複数の抗がん剤の効果を事前に調べる検査です。この検査により、効く可能性が高い抗がん剤を選択できる可能性があります。
この記事では、抗がん剤感受性試験の仕組み、検査方法、費用、精度、そして検査を受ける際の注意点について詳しく解説します。
抗がん剤感受性試験とは何か
検査の目的と背景
抗がん剤は日々研究開発が進められており、使用できる薬剤の選択肢は増え続けています。しかし、化学療法において抗がん剤の効果には大きな個人差が存在します。
同じ種類のがん、同じ病期であっても、患者さんによって抗がん剤の効き方は異なります。これは、がん細胞の性質や遺伝子変異が患者さんごとに異なるためです。
標準治療では、臨床試験の結果に基づいて最も多くの患者さんに効果が期待できる抗がん剤が選択されます。しかし、標準治療で効果が得られなかった場合や、再発・転移をした場合、次に使用する抗がん剤の選択に迷うことになります。
抗がん剤感受性試験は、患者さんのがん細胞を実際に採取し、複数の抗がん剤に対する反応を試験管内で調べることで、効果が期待できる薬剤を事前に予測しようとする検査です。
抗がん剤感受性試験の基本的な仕組み
抗がん剤感受性試験では、生検や手術で採取したがん組織を用いて、以下のような手順で検査が行われます。
まず、採取したがん組織から腫瘍細胞を分離し、試験管やシャーレなどの容器内で培養します。培養されたがん細胞に、さまざまな種類の抗がん剤を加え、一定期間後にがん細胞がどの程度死滅したかを観察します。
がん細胞の生存率が低い、つまり多くのがん細胞が死滅した抗がん剤ほど「感受性が高い(効果が期待できる)」と判定されます。逆に、がん細胞がほとんど死滅しなかった抗がん剤は「感受性が低い(効果が期待できない)」と判定されます。
この検査結果を参考にして、効果が期待できる抗がん剤を選択することが可能になります。
抗がん剤感受性試験の種類と方法
抗がん剤感受性試験にはいくつかの方法があり、それぞれ特徴が異なります。代表的な検査方法について説明します。
主な検査方法
| 検査方法 | 特徴 | 所要期間 |
|---|---|---|
| CD-DST法(がん細胞死滅効果試験) | がん細胞をコラーゲンゲルの中で三次元培養し、抗がん剤を投与してがん細胞の死滅率を測定する方法。体内に近い環境で評価できる | 約7~10日 |
| コロニー法(ヒューマン・チューマー・コロニー・アッセイ) | がん細胞を寒天培地上でコロニー(集落)として培養し、抗がん剤によるコロニー形成阻害率を測定する方法 | 約2~3週間 |
| ATP法 | 抗がん剤投与後のがん細胞内のATP(エネルギー物質)量を測定することで、細胞の生存率を評価する方法 | 約7日 |
| MTT法 | 生存しているがん細胞の代謝活性を色素の変化で測定する方法 | 約7~10日 |
検査の流れ
抗がん剤感受性試験は、以下のような流れで実施されます。
まず、生検や手術によってがん組織を採取します。検査に必要な組織量は検査方法により異なりますが、一般的には米粒大から小豆大程度の組織が必要です。
採取した組織は専門の検査機関に送られ、そこでがん細胞の分離と培養が行われます。培養が成功した場合、複数の抗がん剤を添加して反応を観察します。
検査結果が出るまでの期間は、検査方法によって異なりますが、概ね1週間から3週間程度です。結果は、各抗がん剤に対する感受性の程度(効果の期待度)として報告されます。
抗がん剤感受性試験の精度と信頼性
判定率と一致率
抗がん剤感受性試験の精度については、これまでに多くの研究報告があります。
検査が成功し、判定結果が得られる確率(判定率)は、報告によって差がありますが、概ね70%から90%程度とされています。採取したがん組織が少ない場合や、がん細胞の培養が困難な場合は判定できないこともあります。
判定結果と実際の治療効果の一致率については、「感受性あり」と判定された抗がん剤が実際に効果を示す確率は、報告により60%から90%程度とされています。
一方、「感受性なし」と判定された抗がん剤が実際に効かない確率(陰性的中率)は、比較的高く、80%から95%程度との報告があります。
試験の限界と注意点
抗がん剤感受性試験には、いくつかの限界があることを理解しておく必要があります。
まず、試験管内での結果が、必ずしも体内での効果を正確に反映するとは限りません。体内では血流、免疫系、周囲の正常組織などの影響があり、試験管内とは異なる環境です。
また、採取したがん細胞のすべてを培養できるわけではなく、培養しやすい細胞だけが増殖する可能性があります。このため、検査結果が腫瘍全体の性質を代表していない場合もあります。
さらに、抗がん剤の中には、体内で代謝されて初めて効果を発揮するもの(プロドラッグ)があります。こうした薬剤の効果は、試験管内では正確に評価できない可能性があります。
抗がん剤感受性試験の費用と保険適用
2026年時点での保険適用状況
2026年1月現在、抗がん剤感受性試験は一部の特殊な検査を除き、基本的には保険適用外(自費診療)となっています。
保険診療として認められていない理由は、この検査が治療成績の向上に明確に貢献するという十分なエビデンス(科学的根拠)がまだ確立されていないためです。
ただし、医療技術の進歩や臨床研究の進展により、将来的には保険適用される可能性もあります。最新の情報については、担当医や医療機関に確認することをお勧めします。
検査費用の目安
抗がん剤感受性試験の費用は、検査を実施する医療機関や検査方法によって異なります。
| 項目 | 費用の目安 |
|---|---|
| 基本的な感受性試験(数種類の抗がん剤) | 5万円~15万円 |
| 詳細な感受性試験(10種類以上の抗がん剤) | 15万円~30万円 |
| 組織採取費用(生検が必要な場合) | 別途必要(保険適用の場合もあり) |
検査費用に含まれる内容は、医療機関によって異なります。組織採取の費用が別途必要な場合や、結果説明のための診察料が加算される場合もあります。
検査を受ける前に、総額の費用を確認しておくことが重要です。
費用対効果の考え方
抗がん剤感受性試験は高額な検査ですが、効果が期待できない抗がん剤を避けることで、無駄な治療費や副作用のリスクを減らせる可能性があります。
ただし、検査結果が必ずしも治療効果を保証するものではないことを理解したうえで、担当医とよく相談して受けるかどうかを判断することが大切です。
抗がん剤感受性試験を受けられる状況
検査を受けることが推奨される場合
抗がん剤感受性試験は、すべての患者さんに推奨されるわけではありません。以下のような状況で、検査を受けることが検討されます。
標準治療で十分な効果が得られず、次の治療法を選択する必要がある場合が最も代表的です。標準治療が効かなかった場合、次に使用する抗がん剤の選択肢が複数あり、どれを選ぶべきか判断が難しい状況では、感受性試験が参考になります。
また、再発や転移が見つかり、複数の治療選択肢がある場合も検討されます。再発がんは初回治療時とは異なる性質を持つことがあり、感受性試験によって効果的な薬剤を探ることが考えられます。
希少がんや特殊な病型で、標準治療が確立されていない場合にも、感受性試験が治療選択の参考になる可能性があります。
検査を受けることが難しい場合
以下のような状況では、抗がん剤感受性試験を受けることが難しい、または推奨されない場合があります。
十分な量のがん組織が採取できない場合は、検査を実施できません。生検で得られる組織が少量の場合や、がんの部位によっては組織採取が困難な場合があります。
また、すでに標準的で効果的な治療法が確立されており、その治療を受けることができる状況では、あえて感受性試験を行う必要性は低いと考えられます。
患者さんの全身状態が悪く、検査や治療を行うことが困難な場合も、検査は推奨されません。
抗がん剤感受性試験を受ける際の注意点
担当医とよく相談すること
抗がん剤感受性試験を受けるかどうかは、担当医とよく相談して決めることが重要です。
検査の意義、限界、費用、そして検査結果をどのように治療に活かすかについて、十分な説明を受けてください。担当医が検査を推奨しない場合は、その理由を聞き、理解することが大切です。
また、感受性試験を実施している医療機関は限られています。担当医から紹介を受けるか、自分で検査機関を探す必要があります。
検査結果の解釈について
抗がん剤感受性試験の結果は、あくまで治療選択の参考情報の一つです。結果が「感受性あり」と出ても、必ずその抗がん剤が効くわけではありません。
逆に、「感受性なし」と出ても、実際には効果がある場合もあり得ます。検査結果は絶対的なものではなく、担当医の臨床判断、患者さんの全身状態、他の検査結果などを総合的に考慮して治療方針を決定することになります。
時間的な制約
検査結果が出るまでには1週間から3週間程度の時間がかかります。病状が急速に進行している場合や、すぐに治療を開始する必要がある場合は、検査結果を待つことが適切でないこともあります。
検査を受けるかどうかの判断には、時間的な余裕があるかどうかも考慮する必要があります。
がんゲノム医療との違い
遺伝子検査との関係
近年、がん医療の分野では、がん遺伝子パネル検査などのゲノム医療が注目されています。これらの検査は、がん細胞の遺伝子変異を調べて、その変異に対応する分子標的薬を選択することを目的としています。
抗がん剤感受性試験とがん遺伝子パネル検査は、どちらも個別化医療を実現するための検査ですが、アプローチが異なります。
遺伝子検査は、がん細胞の遺伝子情報から「この遺伝子変異があれば、この薬が効く可能性が高い」という理論的な予測に基づいて薬剤を選択します。
一方、抗がん剤感受性試験は、実際に患者さんのがん細胞を使って薬剤の効果を直接確認する実験的なアプローチです。
それぞれの長所と短所
| 検査方法 | 長所 | 短所 |
|---|---|---|
| 抗がん剤感受性試験 | 実際のがん細胞を使って薬剤の効果を直接確認できる。殺細胞性抗がん剤の評価に有用 | 試験管内と体内での結果が異なる可能性がある。判定に時間がかかる。保険適用外 |
| がん遺伝子パネル検査 | 多数の遺伝子を一度に調べられる。保険適用されている。分子標的薬の選択に有用 | 該当する治療薬が見つからない場合もある。殺細胞性抗がん剤の評価には向かない |
両者は相補的な関係にあり、状況に応じて使い分けられます。遺伝子検査で分子標的薬の適応を調べ、同時に感受性試験で従来型の抗がん剤の効果を予測するという組み合わせも考えられます。
抗がん剤感受性試験の今後の展望
技術の進歩
抗がん剤感受性試験の技術は年々進歩しています。
最近では、患者さんから採取したがん細胞を用いて、体内の腫瘍環境により近い三次元培養システムを構築する研究が進んでいます。これにより、より正確に体内での薬剤効果を予測できる可能性があります。
また、オルガノイド(ミニ臓器)技術を用いた感受性試験の研究も進められています。この方法では、がん組織の構造をより忠実に再現でき、検査精度の向上が期待されています。
個別化医療への貢献
今後、抗がん剤感受性試験、がん遺伝子検査、画像診断、患者さんの体質に関する情報などを統合的に活用することで、より精度の高い個別化医療が実現すると期待されています。
ただし、こうした検査が標準医療として確立し、保険適用されるためには、大規模な臨床試験によって有効性が証明される必要があります。
まとめ
抗がん剤感受性試験は、患者さんのがん細胞を用いて抗がん剤の効果を事前に調べる検査です。
検査の精度については、「効かない」と判定された薬剤が実際に効かない確率は比較的高いとされていますが、「効く」と判定された薬剤が確実に効果を示すとは限りません。
2026年現在、この検査は基本的に保険適用外であり、費用は5万円から30万円程度です。
検査を受けるかどうかは、担当医とよく相談し、検査の意義と限界を理解したうえで判断することが重要です。標準治療が効かなかった場合や、再発・転移時の治療選択において、この検査が参考情報の一つとなる可能性があります。
ただし、検査結果は絶対的なものではなく、臨床判断、患者さんの状態、他の検査結果などを総合的に考慮して治療方針を決定することになります。

