
はじめに
こんにちは。がん専門のアドバイザー、本村ユウジです。
肝臓がんの治療において、マイクロ波凝固療法とラジオ波焼灼療法という2つの熱凝固療法があります。どちらも体を大きく切らずに治療できる方法として、多くの患者さんに選ばれています。
しかし、この2つの治療法にはどのような違いがあるのでしょうか。治療を受ける際に、どちらを選べばよいのか迷われる方も多いと思います。
この記事では、マイクロ波凝固療法とラジオ波焼灼療法の基本的な仕組みから、それぞれの特徴、治療の進め方、費用まで、患者さんが知っておくべき情報を詳しくお伝えします。
熱凝固療法とは何か
熱凝固療法は、肝臓がんに対する局所療法の一つです。腫瘍に直接針を刺し、その先端から発生する熱によってがん細胞を死滅させる治療法です。
開腹手術と比較して体への負担が少なく、肝機能が低下している患者さんや高齢の患者さんでも治療を受けることができます。また、局所麻酔で実施できる場合が多いため、全身麻酔のリスクを避けられる点も特徴です。
肝臓がんは再発しやすいという特徴がありますが、熱凝固療法は繰り返し治療を受けることが可能です。そのため、長期的な治療戦略として有効な選択肢となっています。
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がん専門アドバイザー 本村ユウジ
マイクロ波凝固療法の特徴
マイクロ波凝固療法は、1991年に肝臓がん治療に導入された治療法です。2450メガヘルツ前後の高周波(マイクロ波)を使用して、がん組織を加熱し凝固させます。
電子レンジと同じ原理で、マイクロ波が腫瘍の分子に作用し、分子運動を活発化させることで熱を発生させます。この熱によってがん細胞のたんぱく質が変性し、細胞が死滅します。
従来のマイクロ波凝固療法には焼灼範囲が限られるという課題がありましたが、2017年7月に次世代マイクロ波凝固療法(MWA)が保険収載されました。この新しい機器では、焼灼範囲が改善され、より効果的な治療が可能になっています。
ラジオ波焼灼療法の特徴
ラジオ波焼灼療法は、1995年頃に欧米で開発され、日本では1999年頃から広く使用されるようになった治療法です。2004年4月に保険適用となり、現在では肝臓がん治療の標準的な方法の一つとして位置づけられています。
約450キロヘルツの高周波(ラジオ波)を使用し、電極針を腫瘍に刺して電流を流すことで、電極周囲に熱を発生させます。この熱は約60℃程度ですが、がん細胞は50℃で死滅するため、十分な治療効果が得られます。
日本では年間約38,000件のラジオ波焼灼療法が実施されており、アメリカの14,400件、中国の9,500件と比較しても、世界で最も多く実施されている国となっています。
マイクロ波凝固療法とラジオ波焼灼療法の主な違い
2つの治療法には、重要な違いがいくつかあります。治療を選択する際の参考として、それぞれの特徴を理解しておくことが大切です。
温度上昇の速度と治療時間
マイクロ波凝固療法は、波長が短く周波数が高いため、腫瘍の温度が速く上昇します。そのため、1回の照射時間は1〜2分程度と短時間で済みます。
一方、ラジオ波焼灼療法は温度上昇が緩やかで、1回の焼灼時間は8〜12分程度かかります。これは、ラジオ波の周波数がマイクロ波より低いためです。
凝固範囲の違い
従来のマイクロ波凝固療法では、凝固範囲が直径約2センチと限られていました。しかし、2017年に保険収載された次世代マイクロ波凝固療法では、この範囲が改善されています。
ラジオ波焼灼療法では、ラジオ波がより遠くまで届くため、1回の治療で直径約3センチの範囲を凝固できます。そのため、同じ大きさの腫瘍を治療する場合、治療回数を減らすことが可能です。
血流の影響
ラジオ波焼灼療法では、腫瘍内の血流が豊富な場合、血流によって熱が逃げてしまい、凝固範囲が狭くなることがあります。また、血管が十分に凝固されない場合もあります。
一方、マイクロ波凝固療法は、血流の影響を受けにくいという特徴があります。これは、マイクロ波が分子に直接作用するため、血流による熱の拡散が少ないためです。
2つの治療法の比較表
| 項目 | マイクロ波凝固療法(MWA) | ラジオ波焼灼療法(RFA) |
|---|---|---|
| 周波数 | 2450メガヘルツ前後 | 450キロヘルツ前後 |
| 1回の治療時間 | 1〜2分 | 8〜12分 |
| 凝固範囲(従来) | 直径約2センチ | 直径約3センチ |
| 血流の影響 | 受けにくい | 受けやすい |
| 日本での導入時期 | 1991年 | 1998年 |
| 保険適用 | あり(2017年に次世代機器) | あり(2004年) |
最新の研究結果
2025年1月に発表された東京医科大学などの多施設共同ランダム化比較試験では、次世代マイクロ波焼灼療法とラジオ波焼灼療法の有効性が比較されました。
この研究により、マイクロ波焼灼療法がラジオ波焼灼療法と比較して、少ない穿刺回数で、短い焼灼時間で広範囲の治療が行えることが実証されています。
現在、治療の主流はラジオ波焼灼療法ですが、今後は次世代マイクロ波焼灼療法の使用が増えていく可能性があります。
治療の実施方法
マイクロ波凝固療法とラジオ波焼灼療法には、3つの実施方法があります。腫瘍の位置、大きさ、患者さんの状態によって、最適な方法が選択されます。
経皮的手法
経皮的手法は、3つの方法の中で最も体への負担が少ない方法です。局所麻酔を使用し、体の外から針を刺して治療を行います。
超音波画像を見ながら治療を進めるため、直接体内を観察することはできません。そのため、針を刺す位置の精度が非常に重要になります。
腫瘍が他の臓器や主要な血管、胆管の近くにある場合、または腫瘍が肝臓の表面や横隔膜のすぐ下にあり超音波で正確な位置を把握しにくい場合は、経皮的手法では行わないことがあります。
また、3センチ以上の腫瘍を確実に凝固させることは難しいため、このような場合は他の方法を選択します。
腹腔鏡下の治療
腹腔鏡下の治療は、全身麻酔で行います。腹部にいくつかの小さな穴を開け、そこから腹腔鏡スコープ、超音波プローブ、電極針などを挿入して治療を行います。
体内を画像で見ながら治療できるため、肝臓表面の腫瘍や、微妙な位置にある腫瘍でも治療が可能です。また、3センチ以上5センチ以下の大きな腫瘍も、1回の治療で凝固させることができます。
治療中は、腹腔内に二酸化炭素などの気体を入れて腹をふくらませる気腹法や、腹壁を針金などで支えるつり下げ法を使用します。
腫瘍が胆嚢に近い場合など、必要に応じて胆嚢を摘出してから治療を行うこともできます。ただし、腹腔鏡は視野が限られるため、開腹手術ほどの安全性は確保できません。
開腹による手法
開腹による手法は、3つの方法の中で最も体への負担が大きい方法です。全身麻酔下で治療を行うため、全身状態が良好でない患者さんは受けることができません。
しかし、肉眼で直接体内を観察しながら治療できるため、精密な技術や複雑な処置が必要な場合は、確実性や安全性の面から開腹が適しています。
過去に手術経験のある患者さんでは、体内の組織や臓器が互いに癒着していることがあります。このような場合、開腹して治療を行わないと、大出血を起こす危険があります。
治療方法の比較表
| 方法 | 麻酔 | 特徴 | 適応 |
|---|---|---|---|
| 経皮的手法 | 局所麻酔 | 体への負担が最も少ない | 3センチ以下の腫瘍、位置が適している場合 |
| 腹腔鏡下 | 全身麻酔 | 画像を見ながら治療可能 | 肝臓表面の腫瘍、3〜5センチの腫瘍 |
| 開腹 | 全身麻酔 | 直視下で確実な治療が可能 | 複雑な位置、癒着がある場合 |
治療の適応条件
熱凝固療法を受けられる条件は、ガイドラインで推奨されています。一般的な適応条件は以下の通りです。
肝細胞がんの場合
- 肝切除が不能、または外科切除を希望しない
- 腫瘍の大きさが3センチ以内、個数が3個以下
- 肝臓の障害の程度がChild-Pugh分類でAまたはB
- コントロール不能な腹水がない
- 門脈腫瘍栓や肝外転移がない
- 血小板数5万/μL以上、PT活性50パーセント以上
- 全身状態が良好
ただし、治療が有効と考えられる場合は、3センチ以上、3個以上でも治療を行う場合があります。
転移性肝がんの場合
転移性肝がんに対しても、熱凝固療法は積極的に行われています。特に大腸がん肝転移では、手術が困難な場合や、患者さんが手術を希望しない場合に選択されることがあります。
転移性肝がんの場合、原発性肝がんよりも生物学的悪性度が高いため、次世代マイクロ波凝固療法の適用が期待されています。
治療効果と生存率
ラジオ波焼灼療法の治療効果については、多くの施設で良好な成績が報告されています。
東京大学病院消化器内科では、10,000例以上の治療実績があり、初回治療としてラジオ波焼灼療法を行った患者さん1,170人の5年生存率は約60パーセントという結果が報告されています。
また、治療後の局所再発率は5年間で3.2パーセントと低く、高い根治性を持っていることが示されています。
他の施設でも、ラジオ波焼灼療法を含む経皮的局所療法を受けた患者さんの生存率は、1年87パーセント、3年65パーセント、5年51パーセントと報告されており、外科切除と匹敵する成績が得られています。
合併症とリスク
熱凝固療法は比較的安全な治療法ですが、合併症が起きることがあります。東京大学病院の報告では、重篤な合併症の発生率は2.7パーセント(11,087例中297例)となっています。
主な合併症には以下のようなものがあります。
- 腹腔内・胸腔内出血
- 消化管穿孔
- 胆嚢損傷
- 胆汁性腹膜炎
- 肝梗塞
- 肺・横隔膜損傷
- 心臓損傷
- 腹膜および皮膚熱傷
合併症が起こると、回復まで数ヶ月の入院を要する場合もあります。また、治療後30日以内の死亡例も報告されていますが、その割合は非常に低く(0.07パーセント〜0.08パーセント)なっています。
人工腹水法などの工夫
腫瘍が肝臓の辺縁にある場合や、胃や腸などの他の臓器に近い位置にある場合、熱が隣の臓器に及んで損傷を起こす可能性があります。
このような場合、肝臓と隣の臓器の間に生理食塩水を注入する「人工腹水法」や「人工胸水法」を用いることがあります。
順天堂大学の報告では、ラジオ波焼灼療法・マイクロ波凝固療法を行う症例の約40パーセントで人工腹水法が実施されており、安全性を高めるための重要な技術となっています。
また、最近では画像技術の進歩により、Multimodality fusion imagingや造影エコーを用いることで、超音波で病変が不明瞭な場合でも治療が可能になっています。
治療費用と保険適用
熱凝固療法の治療費は、保険適用となっており、高額療養費制度を利用することができます。
ラジオ波焼灼療法の場合、治療費の総額(3割負担)は平均して15万〜20万円程度です。高額療養費制度を利用すると、収入によりますが、一般家庭で1ヶ月の医療費の上限が4万〜20万円程度になります。
初年度の自己負担額は約15万円、2年目以降は定期検査のみの場合、年間約6万円程度となります。
ただし、肝臓がんは再発しやすいため、再発するたびに治療費が発生することを考慮しておく必要があります。実際に、ラジオ波焼灼療法を2回、3回と繰り返し受ける患者さんも少なくありません。
マイクロ波凝固療法も同様に保険適用となっており、治療費はラジオ波焼灼療法とほぼ同程度です。
| 費用項目 | 金額(目安) |
|---|---|
| 治療費総額(3割負担) | 15万〜20万円 |
| 高額療養費制度利用後(初年度) | 約15万円 |
| 2年目以降(定期検査のみ) | 年間約6万円 |
| 入院期間 | 1週間前後 |
治療選択のポイント
マイクロ波凝固療法とラジオ波焼灼療法のどちらを選ぶかは、腫瘍の大きさ、位置、個数、患者さんの肝機能、全身状態などを総合的に判断して決定されます。
一般的に、以下のような場合に各治療法が選択されることがあります。
マイクロ波凝固療法が適している場合
- 血流が豊富な腫瘍
- 短時間で治療を終えたい場合
- 転移性肝がんで生物学的悪性度が高い場合
ラジオ波焼灼療法が適している場合
- 3センチ以下の腫瘍
- より広い凝固範囲を確保したい場合
- 多くの施設で実績があり、標準的な治療を希望する場合
ただし、2017年に次世代マイクロ波凝固療法が保険収載されて以降、マイクロ波凝固療法の適応範囲が広がっており、今後は治療の選択肢が変わっていく可能性があります。
定期検査の重要性
熱凝固療法を受けた後も、定期的な検査が非常に重要です。
多くの患者さんはB型肝炎、C型肝炎、アルコール性肝炎などの肝臓の障害を患っており、一度治療を行っても、肝臓内の別の場所にがんが再発(異所再発)することが頻繁にあります。
そのため、治療後も毎月定期検査を行い、できるだけ早く再発を発見することが重要です。再発が見つかった場合は、再び患者さんの状態に合った治療を繰り返すことになります。
まとめ
マイクロ波凝固療法とラジオ波焼灼療法は、どちらも肝臓がん治療において重要な役割を果たしています。
マイクロ波凝固療法は短時間で治療が終わり、血流の影響を受けにくいという特徴があります。2017年に次世代機器が保険収載され、従来の課題であった焼灼範囲の問題が改善されています。
ラジオ波焼灼療法は、日本で最も多く実施されている治療法で、多くの施設で良好な治療成績が報告されています。1回の治療で直径3センチの範囲を凝固できるという利点があります。
どちらの治療法を選ぶかは、腫瘍の状態、患者さんの全身状態、施設の設備や経験などを総合的に考慮して決定されます。
治療を受ける際は、担当医とよく相談し、それぞれの治療法の特徴やリスクを理解した上で、自分に最適な方法を選択することが大切です。