手術後の再発については、PSA0.2が一つの目安
前立腺がんの手術を受けた場合、がんが完全に取り除かれていて根治的な手術ができたといえる状況であれば、手術後数カ月以内にPSA値は0.1ng/ml以下になります。これがなかなか下がり切らず、0.2ng/ml未満まで下がらない場合は、手術は受けたものの「残存しているがんがあるかもしれない」と考えられます。
また、いったんは0.1ng/ml以下に下がったものの、再び上昇し、連続して0.2ng/mlを超えた場合は「再発した」と判定されます。ただ、前立腺がんでは「再発」といっても、いったん完治した状態から新たに前立腺がんが発生したということではありません。
手術前にすでに前立腺の外に微小ながん細胞があったにもかかわらず、それを見つけられずに、根治を目指す治療を行った。その後、取り切れなかった小さながんの細胞が成長し、手術後にはっきりと姿を現してきた、と考えるほうが自然だといえます。
ただし、このように術後のPSA値の上昇が確認される以前に、手術で切除した切り口(断端)を調べたときに、がん細胞が確認される場合(断端陽性)もあります。
このとき、術後すぐに放射線による追加治療を行うのと、PSA値の数値が上昇してくるのを確認してから行うのとで、どちらがその後の治療効果が高いのかについては、まだ結論は出ていません。
手術後の再発には、放射線治療かホルモン療法を行う
手術後に行う追加の治療は、放射線治療の外照射かホルモン療法のいずれかを行います。多くの病院では手術直後というより、PSA値のはっきりした再上昇を確認したあとに、まず放射線治療を行い、それでも効果が得られなかった場合にホルモン療法に移ることが多いといえます。
この段階でも、放射線治療の目標は根治であるといえます。放射線治療を追加することで、確認できるがんをすべて死滅させることができるかもしれない、という可能性をもって行います。
この放射線治療を行った後に、またPSA値が上がってきたという場合は、根治は難しいと考えてホルモン療法に移ることになります。ホルモン療法はがんの進行を抑えることを目的とした治療です。
このように最初の治療から続く治療の流れを考えると、スタートが手術であれば、次に放射線治療を行うことができ、そのあとにさらにホルモン療法を行うこともありえます。しかし、最初に放射線治療を行い、十分な効果が得られなかった場合、それから手術という選択肢はできません。放射線治療後に再発した場合の選択肢は、ホルモン療法しかないという点が重要です。
手術と放射線治療はどちらも根治的な治療法ですが、再発後の治療法の選択には違いが出てきます。最初に治療法を選ぶ際には、このことも念頭に置いておく必要があります。
放射線を照射した臓器を手術はできない
放射線治療後に再発した場合に手術を行えないのは、次のような理由によるものです。
がんの治療のために放射線を用いた場合、前立腺内のがん細胞が死ぬだけでなく、そこにある正常な細胞も影響を受けます。
そのため前立腺を全摘出しようとしても、隣接する直腸の壁に穴をあけたり血管が裂けたりして、たいへん合併症の危険性が高くなるのです。
アメリカでは密封小線源療法(ブラキセラピー)を行った場合に、取り切れなかったがんを手術で摘出する試みが行われ始めていますが、その成績は不明です。また、手術後に再発した前立腺がんをさらに手術で取り除くというのも、やはり不可能です。
再発した微小ながんは、PSA値の上昇としては現れますが、CTはもちろんMRI(核磁気共鳴画像診断)でもほとんど映りません。このため、がんの位置を特定することができず、開腹しても肉眼では確認できないので、手術はできないのです。
以上、前立腺がんの再発に関する解説でした。